菜月スバルに直死の魔眼とか色々組み込んでみた。   作:繭原杏(繭原安理)

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わー(呆然)


王都へ

 碌に舗装されていない道を走り、車体が細かく振動する。

 スプリングは存在するのか、現代の技術では考えられないほど劣悪な車内で、俺は目を覚ました。

 いや、目を覚ました、というのは的確ではなかった。正確には、寝ようとして寝られなかった、というのが正しい。

 仕方なく窓枠に頬杖を突き、風景を楽しむことにする。

 

 新緑を水面の様に波が駆ける。少しだけ乗り出したから、俺もその風を感じることができた。

 地平線の彼方まで平野で、点々と木が生えるぐらいの草原。暫く見ていれば代わり映えのしない景色に飽きを感じてくるだろう。

 と、いうか。美しい景色の中にも死の線が走りまくっていて台無しだ。

 

 頬杖をついていると、振動が直に頬骨に伝わってくる。自身の手で自分を叩いているようだ。頬杖を止め、窓枠に身を預けると、顔が完全に外に出た。

 後ろを振り返ると、出てきた森しか見えない。奥にあるだろう村は、完全に木々に隠されている。

 目を凝らせば見えない気がしないではないが、現実的に無理だとわかるので、それはあくまで「そういう気がする」だけなのだろう。

 反対側、つまり進路方向に目を向けると、耐久性が怖い木のタイヤと、車体に遮られてチラリとしか見えない()()()()()()()()()()の足が見えた。鈍く光る鱗に覆われ、子供の胴ほどもあるだろう足が忙しなく動いている。

 

 間違いなく馬ではなく、故にこの乗り物の名前は「馬車」ではない。

 

 竜車。

 

 ()の牽引する()

 

 どうにもこの世界ではこれがメジャーなのか、それとも馬という生物が存在しないのか。遠出ともなればこれに乗るのが普通らしい。もしくは徒歩だ。

 嘆かわしい。最強の幻想種と呼ばれる竜種が、まさか家畜の様に扱われているとは……。

 うん、きっとこれはあれだ。爬虫類だ。竜ではない。きっとそうだ。噂に聞くようなやばい感じもしないし、確実に俺らの言う竜種ではない。

 じゃないと夢が壊れてしまう。竜というのはもっとこう……圧倒的で、理不尽かつ不条理な災害の化身、みたいな感じなんだ。こんな馬の代用品みたいな感じでは、絶対に、無い。

 

 でも格好良いのは確かである。乗る前に少し見させてもらったが、もう、凄い格好いい。

 例えば、鱗だ。金属みたいにヌラり、と光を反射する鱗。これはきっと、矢も刃も通らない。そんな鎧のような鱗。

 そして爬虫類独特の瞼の無い瞳。ぎょろぎょろと動いて、そんで首向けられて睨まれたときには、もう……っ!

 ああ、やっぱ爬虫類もいいなぁ……! もふもふもいいけど、男ならやっぱ恐竜だよ!

 

 ああ、かっけぇー!

 

 「……はぁ、なぁーに言ってんだか」

 

 誰にも聞こえないように呟く。

 苦笑が零れる。苦笑いしかできない。

 滑稽だ。嘲笑にすら値しない。喜劇でももう少し上品だぞ。

 

 「()()()()()()()()()くせに、何言ってんだか」

 

 あのヌラヌラした鱗が気持ち悪かった。ゴキブリのようで、生理的嫌悪が絶えない。

 温度の無い、感情の読めない目が苦手だった。理解できないから、遠ざけようとした。

 それは怪異に対しても言えることで、でも怪異は遠ざけられない。だから対処法を学んで、その存在を理解しようとした。その結果が、「怪異喰らい」のあだ名で、菜月昴だったはずなのだ。

 

 大体、七夜であったときに落ちこぼれと蔑まれたのも、七夜の血が怪異に対して騒がないで、その上更に怪異に対して怯えるからだったのだ。実力は並み程あったくせに、そのせいで父さんは技を全て見せてくれなくなった。

 

 それがどうだ。この世界に来てからの数日……体感じゃあ、もう一か月超えそうな時間で、そんな僅かな時間でこんなに変化してる。

 ここ数日が濃密だった? いいや、怪異から逃げ回る方がもっと濃密だ。

 恋をしたから? はっ、最後の方ではレムに心変わりしてたくせに、恋なんて抜かすのか。

 

 じゃあ、何故か。考えるまでもない。俺の体は、思考は、改造されてるんだ。染められてきてる。

 やったのはあの魔術師だろう。死体ならどうしてもいいと思ったのか。令呪まで奪っていって……初めは傀儡マスターとして聖杯戦争に参加させるためだと思った。俺も、まだ会わなくてはいけないやつがいたから、それで納得した。

 でも、あれはおかしい。レムが死ぬのは、明らかにおかしい。

 

 俺を傀儡にしたいなら、完全に精神を染め上げるまで違和感を抱かせてはならない筈だ。もとより、精神に作用する魔術は扱いが難しい。違和感を抱かれれば干渉が難しくなる。それを押してもレムを殺すなんて……俺に、何かさせたいという意思が見え透いている。

 エミリアに好意を現したところで、エミリアは死ななかった。じゃあ、目的はエミリアとくっつけるためか?

 まさか、エミリアが自分以外に振り向いて欲しくなくて……なんて。それは無いか。

 俺がそこまで好かれる理由もない。

 

 「ああ、ほんとに」

 

 死に戻り、変質した精神、明らかに強化された肉体、誂えた様な攻略法。

 心が染められることは、脳をいじくられることが、本当に恐ろしかったはずなのに。

 

 「何がしたいのかねぇ」

 

 もう、それすらも怖くない。

 

 

 

 世界は、黒に覆われている。

 

 当然だ。

 あれだけ「死」に触れ続ければ、このくらいは当然だ。

 おかしいのは、俺の脳。俺の脳に、こんな状態に耐えれる能力は無い。そもそも、人間の肉体では不可能だ。

 比較対象が無いからわからないが、もしここに来る前の俺の魔眼のランクが……そうだな、高く見積もって黄金

辺りだとしよう。

 

 今は……きっと「宝石」ぐらいはあるだろう。神話の中に登場して可笑しくない、英雄に並べる異常な能力。

 

 先生が言うところ、俺の魔眼は本来の意味の魔眼ではなく、むしろ超能力とでもいうべきものらしい。

 ゲームしながら言うセリフではないが、それゆえに酷く脳裏に染みついている。

 

 『お前の目は……いや、これは良いか。簡単に言おう。今はまだ幽かに線が見えるだけのようだが……もし、それがくっきり見えるようになれば、それがお前の死期だと思え』

 

 ああ、先生。

 俺はあと何回、死ねばいいんですかね。

 

 「――ル、スバル?」

 

 「……ん、ああ、何だい、エミリアたん」

 

 慌てて笑顔を笑顔を顔に張り付け、エミリアと応答する。

 改めてみてもエミリアは美しい。一目惚れするのも当然だ。具体的に言うなら、俺はあのかわいい後輩よりもこっちが好みなのだろう。

 でも、それが性格まで変えるほどの出会いなのだろうか。

 そうとは思えない。

 だけどいまさら態度を変えるのも腑に落ちず、こうして初めの頃の演技をする。

 

 「あのね、もうすぐ王都に着くから、そろそろ荷物を――」

 

 ああ、そうか。

 君はもう、こんな笑顔の可笑しさにも、気付かなくなったんだね。

 

 

 

 

 

 

 荷物、と言っても俺のものはそう多くない。

 まずレジ袋。未だに捨てられないのは、これが万一高く売れるかもしれないという妄想から。

 その中身のスナックは、車内で分け合って食べた。カップ麺は屋敷の中で夜食をした際に食べた。

 ゴミは捨ててない。どこに捨てればいいというのだ。

 後は……お守りと、最近付け忘れていたペンダント。もうこの際、このペンダントはつけなくてもいいだろう。最初の一日もつけてたくせに、何の加護も貰えた例がなかった。凄い豪華だが、たぶん換金はできない。した瞬間に死ぬ気がする。

 

 後はジャージと、館でもらった執事服。以上。

 

 「そういえばスバル、スバルってよく散歩してたけど……どこ行ってたの?」

 

 「あ? あ、ああ、いや、村の中だよ。ほら、俺って健康志向で子供好きだからさ?」

 

 一瞬、嫌なものを思い出してしまった。

 今回事件を治めた方法では、エルザの協力が必要だった。その際、エルザに「腸を見せる」約束をした。

 約束を破ることもできず……ほら俺、約束破るときは盛大に清々しく、って決めてるからさ?

 ま、最終的に腸を見せることになったのだ。

 

 とはいっても腹を裂かれたわけではない。それだけは必死で止めた。

 

 ならどうしたのかといえば、()()で解決したのである。

 

 置換魔術、という魔術がある。

 これは「あるもの」と「あるもの」を()()()()()魔術なのだが、実は俺はこれを中途半端にしか扱えない。

 中途半端というのも言い過ぎか。歪にしか扱えない、というべきだろう。

 

 置換魔術の対象。これは普通、ある程度自由に選べる。「リンゴの位置」と「ナイフの位置」とか、「銃弾の運動エネルギー」と「車の運動エネルギー」とか。

 おれはそれが限定されて、「体の内と外」でしか置き換えられない。

 

 例を挙げるとすれば、「体内の血液」を「外気」と入れ替えたり、だ。輸血とかの際には役立つが、それ以外で役に立つこともほぼない。

 更に言えば、これは他人に使用することができないから、先にあげた例を他人に向けてやって殺すこともできない。

 

 まさか、こんな時に役立つとは……

 輸血針の代用品と化した魔術の転用法を思いついたとき、俺は思わず自分で自分を「うっしゃ俺天才! マジ天才じゃねてか天才だろ大天才!」とほめたたえてしまっても、仕方のないことだ。

 

 目の前で俺の腸に直接頬擦りし、「血が無いのが残念ね……」とか言いながらマフラーのように巻き、口づけされたり舐めたくられたり……うん、エロいけど気持ち悪かった。

 何か触られている間中、ずっと下腹部の辺りがきゅってして、お腹がゴロゴロ鳴りそうだった。

 もう二度としたくない。でも、交渉材料としては極めて優秀なんだよな。

 

 「あー、うん。散歩散歩」

 

 実際、普通に散歩してもいた。餓鬼たちに手品披露してちやほやされるのは実に気分が良かった。

 というかちやほやされて上機嫌にならないとグロッキーになりそうだった。

 

 暫く散歩の最中にあったことをエミリアに話していると、やがて馬車……じゃなくて竜車が止まった。

 どうやら、王都での逗留地に着いたようだ。

 

 「おおー、ここが王都での宿か。でけぇな」

 

 「そうだろう? まぁ、私も中々偉いからねぇ。これくらいの部屋は用意してもらえるんだーぁよ」

 

 宿、というより客室。

 高級ホテルといった感じの部屋に、装飾とか華美さをつけ加えた、豪華な客室。

 恐らく王都でも有数の設備だろうと思えるのは当然のこと。

 

 何せここ、()()()だし。

 

 

 

 「んー。ロズっち、マジで偉かったんだなぁ……いや、俺今しみじみと驚いてるよ」

 

 「スバルくんスバルくん、『しみじみ』は驚く際に使うものじゃないですよ」

 

 「あっ、そうだな。じゃー、『じわじわ』?」

 

 「いーぃたいことは伝わってきたから、それで構わなぁいよ。んふふ」

 

 「笑い声きもっ」

 

 割り振られた部屋は一人一部屋。随分と余裕のある割り振りである。流石王城、といったところだろうか。

 馬鹿みたいに広い――それこそ、ロズワールの屋敷で貰った部屋よりも広い部屋に僅かな荷物を置いて、さて。

 

 「これからどーすっかな……」

 

 今回、王都に来た目的はエミリアの事情が関係する。

 いつぞや語られた徽章に纏わる「王選」という儀式。その開幕式的な感じなものが執り行われると聞いて、この王都に王選候補者が集められている。

 他の奴の顔は知らないが、共通して女性だと聞いた。

 何だろうか。この国は女王政だったりするのだろうか……と思ったが、その選出には聊かの波乱があったらしい。

 別に身分とか血筋ではなく、「女性」であるからということでだ。

 

 けれどもこの国、王権神授説を唱えているのか、クーデターは無かった。

 古参の議員たちは、渋々ながらその候補者の選出を受け入れたらしい。

 

 ところでこの国、何信仰してんだろう。確か竜だっけ? さっきその竜に馬車引かせてた気がするんだけど。

 

 ……ふむ、分からん。

 じゃあ、とりあえず情報収集でもしてみますか。

 図書館や、自由に蔵書が閲覧できるところを探して、色々調べてみよう。

 どうせ暇なんだしな。

 

 そう、暇なのだ。

 エミリアが儀式の打ち合わせに行って、レムはロズワールがラムと一緒に引き連れてどっか行ったし。俺は、今は一人なのだ。

 流石に呼ばれもしない儀式に参加するつもりもない。かといって、なんか大事そうな仕事に行く感じのロズワールについて行っても邪魔だろうし。

 暇つぶし、するしかない。

 

 ここ最近働きっぱなしだったし、未だに訳の分からないことがあるし……。

 これはもう、ストレス解消だ。ゲームも漫画もないなら体を動かそう。散歩だ。

 目的無くブラブラするのではなく、図書館やそんな感じな物を探そう。

 うん、そうしよう。今しよう。すぐしよう。

 思い立ったが吉日、明日やろうはバカ野郎、である。

 

 

 

 王城の門を抜けると、一気に人口密度が倍増した大通りに出る。

 久々に人の熱気に当たり、かすかに満足感を得る。

 

 竜車の中で体も固まってたことだし……と背伸びをして、気合を入れるために叫ぶ。

 

 「んじゃ、ということで……菜月(スバル)、しゅっぱーつ!」

 

 おー、と一人拳を振り上げ。

 元気よく声を出してみたが、門番に変人を見る目で見られただけだった。

 ノリが悪いな。全く。

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