菜月スバルに直死の魔眼とか色々組み込んでみた。 作:繭原杏(繭原安理)
この小説はあくまで、「執筆時点までで不明な点を妄想で補った」作品です。
ラインハルトの設定は、ほぼ大半がオリジナル設定で補完されています。
ラインハルトが魔法使えたり。
うん。
……それ以外のオリジナル設定も、多すぎるほどにあるけど。
騎士道、というものは一見して枷のように思える。
何故ならば、それを遵守するためには多くの行動――取り分け、戦闘において卑怯卑劣とののしられるような行為を禁じなくてはならないからだ。
人の持てる最大の武器は知恵で在り、それを最高効率で活用できるのが闇討ちや不意打ちなどの――所謂、「卑怯卑劣」と呼ばれる行動なのだ。
自らの最大の武器を封じたために、騎士は未だに犯罪を根絶できていない。貧民街に隠れ潜む罪人を、取り押さえられないのだ。
手段を選ばないのであれば、簡単な話だ。ダブルスパイを仕立て上げるのでも、貧民街を丸ごと焼き払っても、或いは人相書き通りの人物を片端から殺してしまえばいい。犯罪者も人である以上、寝静まっている彼らに奇襲をかけてもいい。
それをしないのは、民衆を守る騎士が彼らに剣を向けない保証――つまり、汚いことをしないことでその地位と権力を確立するため。
ソレが、表向きの理由。
そも、騎士になるのに実力は必要なく、彼らは軍隊であるために訓練によってのみ評価される。
故に才能のあるなしは関係なく、連携のできる人材、質の揃った人材こそが、騎士団の必要とするものだ。
勿論、実力が同じだからって一人一人が子供のような実力では話にならない。ある程度の個人戦力も、また必要なのだ。
残念なことに、多くの人は余り器用ではない。もっと言うならば、複数の技術を同時に習得することができないのだ。
もし剣の振り方を覚えようとするならば、それに専念する。下手に盾の構え方やみょうちきりんな技。そういった余計なものを紛れ込ませれば、凡人はどれも中途半端にしか習得できない。
だから、騎士として必要な技能――剣の振り方、盾の握り方、鎧を着こんだ状態での動き方、隊列、集団行動を順々に教え込む。
不意打ち、奇襲、そういった
これが、本当の理由。
そしてもう一つ。
ラインハルトは個として突出しすぎた存在だ。
その戦力は国を相手にしても勝るだろう程の脅威で、だからこそ彼が剣を振るう場面は制限される。
『剣聖の加護』。
彼の一族が代々受け継ぐ、「剣聖たる力」。
けれども、ラインハルトの超人性の在処はそこには無かい。
それらはまさに、世界に偏愛されているような――そもそもが違う生き物のような。
そう。
彼はまさに、神懸っていた――神のようだった。
何故、彼だけがそこまで強い?
何故彼だけが、そんな特別を許されている?
答えは簡単だ。
彼が「そうあれ」と望まれて生み出されたからだ。
誰に?
――神に。
……話を戻そう。
ラインハルトにとって、騎士道とは全くもって意味のない――表向きの枷としての役割しか持たない。
何故ならば、彼は既に異常に強く、突出して特別で、だからこそ足並みをそろえる必要もない。
そんな彼が騎士道なんてものを掲げるのかといえば。彼が、それを枷とするためだった。
彼自身を、縛るためである。
彼は強すぎる。神に例えられるだろう程、彼は特別だ。
だからこそその力を縛って、足並みを揃えなくてはならない。人とは脆く弱く愚かで――そのくせ、尊厳だけは有り余る愚か者なのだから。
パン屋の少女、問屋の少年が夢見る大豪邸。
貴族街の一角に聳え立つその館の庭の一つで――花が咲き誇る庭の片隅に。
一人の少女が着地する。窓から飛び降りて、脱出する。
「……また、ですか。フェルト様」
「……ああそうだよ。また逃げ出そうとして、呆気なく捕まったのはアタシだよ」
そして、呆気なく自らの騎士を名乗る赤毛の剣聖に見つかった。
フェルト、通算27回目の逃走失敗である。
「ったくよー、なんでそんなにかくれんぼが上手いかねー」
「かくれんぼのつもりでしたら、もう少し手加減はしましたが」
「おいおい、じゃあ手加減してくれよ」
「本気で脱走しようとしてましたので。どうか、お許しください」
赤毛の青年と、金髪の少女。
年の離れた兄妹――血の繋がらない兄妹にも見える彼、彼女は、けれど家族ではない。
騎士と主。
ソレが青年の意識する関係だ。
騎士と盗賊。
コレが少女の意識する関係だ。
少女は盗賊である。このなりでも、裏では少し名の馳せた盗賊だったりするのだ。
身軽で、器用で、あらゆる盗みを請け負う盗賊様。もちろん、彼女も依頼は選ぶ。自身の力量にそぐわない力量を受けて、その両手を揃えるどころか跳ね飛ばされるようなことは勘弁してほしいからだ。
だが、ある日のことだ。積まれた大金と対象の無防備さにくらっと来た彼女は、自身を守ってきた危機感を麻痺させながらある依頼を受けた。
それは、とある宝石の嵌めこまれた紋章の強奪。
フェルトは知り得ぬことだったが、それは『徽章』と呼ばれ、珍しい、貴重どころの価値では済まない品だった。
それと知らず依頼を受けて、ロクに下調べもせず……つまり、「パパっと終わらせて豪華な飯を食おう」なんて考えた時点で、盗賊として死んでいた。
彼女が生きながらえているのは、たった一つの幸運。
「王選候補者」という、
それは、それまでの狼藉、罪を帳消しにできる、せざるを得ないほどの鬼札で。だからこそ彼女はその清算をすることになる。
それは覚悟していた。していた、のだが……
「なんだよあのフリフリは。てかアタシ貧民街育ちだし? 難しいこと言われても理解できねーっての」
……まぁ、そういうわけである。
要するに貴族特有のピカピカした服装や、詰め込み教育にうんざりしただけであった。
一応彼女の名誉の為に言っておくと、別に彼女は宣言通りに頭が悪いわけではない。
最低限の文字は読めるし、計算もできる。頭の周りもいい。そうでなければ、詐欺師も住む貧民街では大成できなかったからだ。
その事を見抜いていたラインハルトは、淡々と返した。
「分かりました。華美な服装は好まないと、復職係のメイドに伝えておきます。それと、家庭教師の方にも教える段階を一段下げてもらうように伝えましょう。もう脱走は慎んでくださいませんか?」
「あーはいはい、分かった分かった。しませんしません」
誰が聞いても、「ほとぼりが冷めたらまた脱走する」という意思の透けて聞こえる返答だった。
そのほとぼりが冷めるまでとは一日か、半日か、はたまた一時間か……。
いずれにせよ、懲りずに脱走するのだろう先の事を考えたラインハルトは、次の逃走経路に辺りを付けた。
いつの間にか――と言っても、ラインハルトは自身の視界の外でこそこそと逃げるフェルトを感知していたのだが――いなくなったフェルトは、屋敷の中を探索して逃走経路を探っていた。
その途中、ある一室から人の会話を漏れ聞いた。
「はぁ、全くフェルト様ときたら、授業のたンびにぐちぐちぐちぐちあーだのこーだの。おかげで予定の半分も進んどりませんわ」
あンの糞爺……授業の度にどこそこあれこれ脱線しやがるくせに。お前の言えたことか。
「そうか……差しあたっては賢人会の方々に見られても問題ないくらいの立ち振る舞いを優先して教えてくれ」
お。相手はラインハルトか……。
今なら逃げ出せるか?
いや待て。「賢人会」? それって確か……ロム爺の言ってた「王様の次に偉い人たち」の事だよな……?
まてまてまてまて。
もしかしてアタシ、とんだ大事に巻き込まれてんのか?
――なんて考えていることを「読心の加護」で知りながら、ラインハルトは教育係との会話を続ける。
今、部屋の外で会話を盗み聞きしている自らの主に分かりやすいよう、それとなく現状を分からせるキーワードをちりばめて、説明する。
この老齢の教育係がそれに気づいている様子は無い。だが、怪しまれてはいなかった。
彼は今、昔の教え子にして優秀な生徒だったラインハルトとの雑談を、心から楽しんでいた。
自身のその享楽が、利用されてるとも知らず。
ラインハルトは、自身の内から笑いが込み上げてくるのを感じた。
気づけばそれは顔に出ていた。教育係はそれを「喜び」によるものだと思った。
深く刻まれた笑みは、顔の外に飛び出してしまいそうな感情を孕んで。それに気づいたラインハルトは、自身の頬を揉んで表情を平素の
そして、用を思い出したことを告げて部屋を出た。
フェルトは、もう遠くへ逃げていた。
――たまにはいいだろう。
そう思ったラインハルトは、彼女の脱走を見逃し、ついでに自身の本来の用を果たすために王城へ向かった。
王城では、人目につかないように「隠密の加護」を使用した。
これから行く場所は公には存在しないとされている場所であり、また、公には存在しないとされるものが存在しているからだ。
目的地は、今はもう使われていない書庫。埃被って苔生すほどに放置された、城の一室。
一応は王城の設備なのだから、本来は使われていなくとも使用人に掃除させるべきだ。それがなされていないのは、そう命じられているから。
「様々な研究成果の漏洩を防ぐ為」とお題目を打ってはいるが、その実、使用人だろうとそこに入れたくないだけの理由がある。
入り口は塞がれている――誰にも見つからないよう、隠されている。
そこの入り方を知っているのは、自分を除いて数人。賢人会の方々と、あの宮廷魔法使い――いや、
そんなところに呼ばれて、一体何をするのか。
聞かされてはいないが、推測はできた。
恐らく、自身が生み出された目的を遂げる為、なのだろう。
そしてそれはこのタイミングでなければいけないこと。
扉を開ける。階段を下りる。
本来、地下など無い部屋の下へ潜り、光も押し潰れるほど底の方へ。
一段、二段……百段、千段。どれほど降りたのか。そもそも、此処には何段あるのか。
数えようと思ったことは無いし。やろうとしても面倒極まりないこと請け合いだろう。ここでは、加護の使用ができないのだから。
「――」
目的の部屋に着き、口を開こうとして気付く。
声が出ない。いや、これは――音が聞こえなくなっている、のか?
まるで口を布が覆って――いや、泡、水の膜が塞いでいるような感じだ。
「あら、ごめんなさいね」
聞き覚えの無い女性の声の後、ラインハルトは泡で口を塞がれるような感覚が消失したのを感じた。
「失礼。夫人、貴女は?」
「あら、私? 私の名は――」
――そして時間は進む。薄暗い暗室から、広々とした聖堂へ。
此処は、王都唯一の教会。目的は、此処にいる聖女ウルスラ。
普段懺悔室に居るという彼女の生態を聞いていたから、事前にそこに人が訪れない時間帯を選んだ。
思った通り、懺悔室の前には人が並んでいない。受付の神官に一声かけ、懺悔室に入る。
「失礼、ウルスラ様。少し時間をいただけませんか」
丁寧なノック。当然、三回だ。
中から返された不服そうな声を聴いて、軽く笑う。
それを押し隠しながら懺悔室の奥への扉を開き、殺風景な石室へ入った。
部屋の中央には一人、幼い少女が神官服を纏って重い皮張りの本を抱えて、立っていた。
彼女は無言で用事を話す様に促す。そのつっけんどんな態度が、自分の特別性に対する嫉妬だと知っていたラインハルトは、苦笑を浮かべた。
「聞きたいことが一つ。伝えることが一つ。どちらから聞きたいですか?」
「じゃ、伝えることからにしてください」
即答。
考える振りもなく、ウルスラと呼ばれる少女は選択した。
ラインハルトも、それを見越したように言葉を続ける。
「では……私は、本来の役割に着きました。以上です。続いては私から聞きたいことなのです、が……」
「どうしました?」
口ごもるラインハルトを見て、ウルスラと呼ばれる少女は怪訝そうに直視した。
どうも今日は様子がおかしいと、その時初めて彼女は気付いた。
彼は何を訪ねるのだろうか。様々な予想を巡らせ、待ち受ける。
だが。
「――本当に、《《参加」》しなくてもよろしいのですか?」
予想外、ではある。
当たり前すぎて出てくるわけがないと思っていた疑問に、その真意を探りながらもただ一つの答えを返す。
「勿論です。貴方は貴方の役目があり、役割もちゃんと手に入れた。でしょう?」
「しかし……」
そこで漸く、彼女はラインハルトの抱く感情が不安や後ろめたさや、そういったありふれた、まともな感情だと気づく。
気づいて――笑った。
腹を抱えて、しかしお淑やかに。嗤う。
「――は、ははは。ははははは!」
「……何が可笑しいのです」
「いえ。いえいえいえ。こちらの事情です。しかしまぁ、まさかそんな問いが来るとは。呆気に取られてしまいましたよ。ええ」
その反応に、不快感を抱く。だが、隠そうと努め、しかしそれまでもが見破られる。
「そうですね。ええ、そうですか。貴方の授けられた役割は、随分と優しいようですね。羨ましい……妬ましい」
ぼそりと付け足された言葉に気付かないふりをし、そして用事もないことだし踵を返した。
喉に引っかかった小骨を取り払うための来訪は、代わりに胸中に水で薄めた泥を詰め込んだ。
背後の微かな笑い声を背中に、ラインハルトは自身の邸宅に戻る。
そうやってラインハルトが部屋を出て、初めてウルスラと呼ばれる少女は気付いた。
その腰に下げられている「龍剣レイド」の、神々しい燐光に。
「――ふ。ふふふ」
少女は唯、それを見つめる。
扉が閉ざされるまで――閉ざされても尚。
壁向こうのその背中を負う様に、顔を向けてその壁の先を望む。
フェルトの教育は難航した。だが、無事に人前に出せる程度には仕上がり、また、王選関係者の式典には間に合った。
流石はアストレア家お抱えの教師、と言ったところか。
余裕をもって――本人の要望も受け入れた上での正装を仕立て、王城で催される式典へ向かう。
――ああ、スバルか。
王城に入る際に人が集まるのは予想通りで、もしかしたら程度にその中に彼がいる可能性も考えていた。
けれど、彼は城に居るだろうという思いが強く、だから予想外といった感情を抱いたのは否めない。
その感情を飲み込み、
ラインハルト。
彼は剣聖であり、最強である。
そして、その精神は唯人であった。
これからどうするべきか。
原因を探ろうにも手掛かりが一切ないし、もう少し情報集めてから死ぬべきだったか。
ま、過ぎたことに悩んでも仕方がない。とりあえずは、戦力をかき集めよう。武力で何とか解決できないか、試してみる。
それには俺一人じゃ手が足りない。ラインハルトに頼んだら引き受けてくれるだろうか。
「スバルくん。どうでしょうか、お味は」
「ああ、いつも通り美味しいぜ。レム」
いつも通りの朝。いつも通りの食卓。
平和だ。
■は背伸びして、欠伸を吐いた。