菜月スバルに直死の魔眼とか色々組み込んでみた。 作:繭原杏(繭原安理)
な、何が起こったというのだ……?(震え声)
お気に入り、しおり、誤字報告、並びに評価ありがとうございます。
ありがとう、ございますっ!
【感情補正】
「異世界」のものは、スバル君に対して総じて寛容である。
しかし、それは本来の彼らではない。彼らはそうなるように、怒りといぅたふの感情を抑制されている。
――それも、極めて限定的に。
だが、その抑制を振り切るほどに怒りを与えたならば?
その場合は、豹変と言っていいほどの情動の変化が起こるだろう。
パレードが始まった。
予告などは無く、だからこそ
集う五陣営は、この国の未来を担う一人を選出する。つまり、未来の自分らの生活を彼女らに預けるのだ。それを理解しているのかいないのか。単純な人気だけでかき集められた者も、
いや、サクラなど無くとも支持を掻き集められるだろう。それほどのカリスマが彼女らにはあり、それほどのカリスマが無ければ王にはなり得ない。
故にその熱気に偽りはない。その歓声に不純は無い。
――だから。
だからこそ、躊躇う。
こんな中ラインハルトに会いに飛び出るのは、あまりに空気が読めていないのではないか。
――菜月健一なら、飛び込むか?
分からない。
でも、きっと、飛び込まない。
じゃあ、今は待とう。城の中で、期を待とう。
何時頃が良いだろう。確か、前周の経験からして……だいぶ、拘束時間は長いはず。
その後の行方も知らないし……じゃあ、乱入するか? この場よりも人目は少ない。
心の中の父さんも、GOサインを出した。そんな気がするので、俺は心を決めた。
喜劇が始まる。
銀髪のハーフエルフ。精霊使いであり、最も不遇でありながら王の選定の場に立つ。目的は故郷の救済。魔女を思わせ、不吉と蔑まれる少女、エミリア。
薄紫の少女。異国の貧民街生まれでありながら大商会の主となり、果ては一国の主とならんほどの地位を手に入れたシンデレラ。アナスタシア・ホーシン。
カルステン公爵家の当主にして次世代の在り方を掲げる、清く正しい軍服の少女。『風見の加護』を持ち、単体の戦力としても優れているクルシュ・カルステン。
豊満な体を持つ豪奢な少女。暴君と見間違う振る舞いは、生まれからして王の器を示す。豪運に恵まれ、この中で最も王としての姿が完成している。8度の婚姻を繰り返し、その何れもが早々に死亡してしまう『血染めの花嫁』、プリシラ・バーリエル。
そして最後。シンデレラストーリーの体現であり、アナスタシアと同じ貧民街の出でありながら発見されたのは直近。「この国をぶっ壊す」と型破りな宣言をしたダークホースのフェルト。
以上の五名が『王選』に選ばれた候補。この中のただ一人。ただ一人が、王となる。
初めての顔合わせとなるこの場は、選挙では付き物の「所信表明」というやつの為の場だ。
彼女らのそれぞれが王として導くこの国の未来を語り、互いを互いの超えるべき敵として認める。それは決闘を迎えた騎士達の執る礼を幻視する厳格さがあった。
歴史にも残るだろう、誇りある一合――
「お、もう始まってる」
――そこに、異物が割り込む。
厚顔無恥、恥知らずどころかまともな精神の持ち主なら自身の羞恥の熱で数年分の廃棄物焼却ができるだろう。いやそもそもこの場に居る王候補、その付き添いの騎士、配下、賢人会のご歴々の圧力は空気を鉛に変えたが如き威圧がある。
まともな精神の持ち主でなくとも、物の道理を知らぬ赤子であろうと、それには何かしらの反応を返すだろう。
ならば、この場の空気を気にせず視線を彷徨わせる彼は――豪胆というべきか、イカレ野郎というべきか。空気が読めない、などという話ではない。人の心が分からない、という程度でも生ぬるい。
自分を中心に世界が回っていると考える類の、一種の暴君の素質。自身と似通った気質を、プリシラは彼から嗅ぎ出す。
だが、
彼は為政者の器ではない。この場のだれもが、確信する。
祭儀中の場に無断で踏み込む。
ああ、何と蛮勇な事か。カリスマがあれば勇ましくも肯定的に捉えられるだろう。
だが、だが……カリスマが無いのであれば、それは犯罪ともいえる失態。この場は次の王を決める場であり、部外者の立ち入りは禁止されている。
ふてぶてしく見まわした視線が、一人の――百面相をする少女のところで止まる。
エミリア陣営に何か用か。進む男はエミリア陣営の為に配置された豪奢な椅子の横に立つ。
「悪ぃ、ちょっと遅れたわ」
誰もがその一挙一動に目を配る。場の関心を引き、かき乱し、空気を掌握するという意味ならば、正にこの瞬間だけ彼は勝者だ。
重い雰囲気に気付かないわけでもあるまいに、軽い調子でそう抜かしたのは、■。
フェルトの発見と同日にこの世界へ訪れた、魔術使いである。
放り出された。
解せぬ……とはとても言えないだろう。
うん。どうやら思ってた以上に重要な式典みたいだった。誤算だな。
■を放り出すために動いたのは、一人の騎士だった。如何にも、といった風体の美丈夫。
主と同じ髪色の、主より濃い紫髪の騎士。
名を、ユリウス。ユリウス・ユークリウス。
呆気にとられた場の中で、誰よりも早く再起動して場を収めた功労者だ。
言葉も出ない……いや、何を言っていいのかもわからないほどに重たく、気まずい静寂に満ちた室内から、アナスタシアに断って■を摘まみ出し、何か馬鹿なことをしでかさないように――もう既にしてしまっているし、これ以上の馬鹿などユリウスには想像もつかないが――見張っている。
そのお陰だ。訳の分からない、流石の賢人会でも対処がしきれない珍事態を「見なかった」ことにして、式典は再起動した、筈だ。
残念ながら、今この場では確かめようもないが。
「――おいおい、無視ですかー? 畜生、物思いにふける姿も様になってるなぁ、イケメン様よぉ」
今現在。
ユリウスは冒涜罪と処せるような馬鹿な行為をしでかした■を連れて、いつも自身が使う修練場まで来てた。無意識の行動である。
脇に抱えた少年への対処法は見つからぬまま、ただ白紙の思考で通いなれた修練場まで来て。
さぁ、どうしよう。
予想外の事態に対処する柔軟性は、誰にも求められる。王であればなおさら。それを支える騎士も同じ。
だが――歴史ある賢人会でも対処法が浮かばない事態に解決法を出せるほど、ユリウスは人生経験を積んでなかった。
「おーい、きーてますかー?」
どうしよう。
どうしようか。
「あーもー、なんだよその紫髪はよー、近所のおばちゃんのパーマぐらいでしか見たことねーぞ」
……こういう時、どうすればいいんだ?
「は、ははは、はははははは」
「お、なんだ。なんだ急に」
笑った。笑い出した。
何故か心の底から笑顔が込み上げてくる。嬉しいわけでもない。笑いたいわけでもない。
何故か、笑顔になって、乾いた笑いを漏らしているのだ。
ユリウスの人生で初めて、何も考えずに笑えた。
それだけでも幸せだと――
――思えるわけがないっ!
「何をしているんだ君は馬鹿か馬鹿なのか馬鹿なんだなっ!? 大体君は死にたいのかそうなんだな、何処の誰で誰なんだかは知らないけど人として――いや、民衆として最低限の常識というものを身に着けるぐらいはできるだろう!? 先も一人貧民街の老爺が捕まったらしいがこの国はこんなのばっかだったのか!? 何だ何だよ何なんだっ!」
爆発した。
それはもう見事に、炸裂した。
「お、おお……」
■はもう少し、反省した方が良いと思う。
ユリウスという男について少し語ろう。
彼は騎士として生まれ、騎士として生き、一時期は『最優の騎士』などと持て囃されたくらいの男だ。
戦力ではラインハルトに及ばずながら、『誘精の加護』を持ち、六種の精霊と契約を交わして
交わして、
あれはそう、何時の事だったか。
唐突にラインハルトが魔法を使い始め、唯一ラインハルトよりも優れていると思った部分は完全に叩き潰された。挙句の果てに、何故か彼本人との決闘が組まれ、その最中でラインハルトが『誘精の加護』の上位版を使用したことによって契約精霊が寝取ら――んん゛っ! 繋がりが薄れてしまったりしたことにより、ユリウスのプライドは見るも無残に砕け散った。
それからというもの、抜け殻のようになったユリウスは開き直りに近い諦めをもって騎士に立ち直った。
けれども鬱屈した感情は溜まり、『最優の騎士』の称号はもはや皮肉を超えた侮蔑となってストレスが溜まりに溜まり、溶岩のようにドロドロと臓腑を焼いた。
最近、いっそ国ごと滅んでしまえばいいのに、と思った頻度が一日に二度に収まった。
これは改善の兆候か、それとも蠟燭が消え去る間際に一瞬だけ大きく燃え上がるのと同じ原理か。
そんなシリアスは、吹き飛んでしまったが。
「――大体だね、ラインハルトもラインハルトで――」
この説教は、どれほど続いたのだろう。
虚ろな目をしてきた■は、そんな益体もないことに思考を巡らせながら、ユリウスの説教を聞き流していた。
ん? いや、説教というよりもう愚痴とかしてきているな。
「おい、聞いてるのか? ……いや、これ以上は唯の愚痴か」
だいぶ前から愚痴になってた気がしないでもない。
「はぁ……まぁいい。それで、君、あー」
「あー! 自己紹介を忘れてたな。『俺の名前は菜月昴。右も左もわからない上に天衣無縫の無一文! ヨロシク!』」
言葉の途中でテンションを上げて、身振り手振りを加えながらユリウスに自己紹介をする。
これでいいと思うんだが、何故かユリウスは顔を顰めた。なんだ。騎士は他人の自己紹介に嫌悪感を覚える習性でもあるのか。
「……私の名前は、ユリウス・ユークリウスだ……これはさっき言ったかもしれないな。 右も左も分からない、とはいえど最低限の常識は弁えたまえ。そも、無一文の君はどのような伝手で王城に忍び込んだんだね?」
「んー、あー、俺はロズワールんところで働いてて」
「ほう、雇い主を呼び捨てか……まぁ、それができる程度には親しいと思っておこう」
へぇ、イケメンだと思ってたら、なかなか話が分かるじゃねーか。
ラインハルトみたいだな。
「それで?」
「ん?」
続きを促すユリウスのセリフに、俺は疑問符で返す。
「それで、君はどのような目的であそこに乱入したんだ、と聞いている。私も騎士である以上、守るべきものの悩みぐらいは聞かなければならないだろう。さぁ、君がなぜああ血迷ったのか。聞かせてくれ」
……血迷ったって、ひでぇな。
普通の事だろ? 悩み事――頼みがあったのは事実だが、そこまで言われるようなことしたか? RPGなら定番だと思うんだけどな、謁見室に殴り込み~とか、王様と面会~とか。
それが少し規模が増えただけじゃん。変な奴だな。
まぁ、良いか。
「いやさ、あと何日かで王都が滅びるってだけの話だ。ラインハルトに頼めればいいんだけどな」
ループの事は隠した方が良い……だろうか。
下手にメタ発言して変に思われてもしゃーないし、未来予知とでもしとくか。
「それで、その情報に信憑性は?」
ああ、やっぱ来たか。
現時点で「王都に魔物が襲撃してきます」なんて、俺以外考えてすらいないだろうしな。
「残念ながら何も。けどま、このままじゃあ、確実に王都が滅びるってことだけは確かだぜ?」
今周滅びても、次の周でやり直せばいいんだから。
何なら今回は情報収集に徹すればいい。この後、ラインハルトがどこ行くかとか、何処でならラインハルトと遭遇できそうだ、とか。
「戯言だね。この王都が、突然滅びるわけもないだろう」
「いや、滅びるぞ」
断言する。
この目で見てきたことだ。確信するまでもなく真実だと断言できる。
この「当然だろ」って感じの言葉に気圧されたのか、ユリウスはまっすぐに俺の目を見てきた。
さっきまではもうちょい緩かったのに、へぇ、やるときはやるんだるな。
けど、きっと無意味だ。
俺は知っている。騎士だけじゃ間に合わないし、力不足だ。
だから、次の誘いも一考の余地なく断った。
「じゃあ、その情報を聞かせてくれ。私も騎士だ。その突拍子もない事態に備えるくらいはして見せよう」
「「」」
「いやいいよ。騎士じゃ弱すぎるし、遅い。数もたんねぇよ。ラインハルトに頼めないんなら、今回は諦めるさ」
あっさりと。
あっさり、断った。
俺にしてみれば当然のことだ。
「
だってそうだろ?
たった数体の魔獣に、詰所の騎士がほぼ半壊状態だったんだし。
いや、軍とかじゃ半分減ったら全滅扱いだっけ? よく覚えてないけど、だったら全滅してた扱いでいいだろ。
「……なよ」
にしてもあんときラインハルトはどこ行ってたんだ? もう少し早く魔獣を刈ってれば……ああ、そうか。今回はエミリアを守ることに専念してみよう。
「ふざけるなよ」
「ん? 何がだ?」
「
あー、ユリウス切れてんなぁ。
そんなに怒るようなことか? 事実だろうに。
あっ、そうか。魔獣がどんだけ強いのか分かんないからか。
「いや、事実だろ? 騎士じゃ――」
「――黙れ。それ以上の侮辱は赦さないと言ったはずだ」
剣を抜きざま、ユリウスは俺にそれを突きつけ、俺はバックステップでそれを避ける。
「っは」
怒り心頭、といった感じか?
でも、さっきよりはこう、自然な感じだ。
いいじゃねぇか。起こってた方が格好良いぜ? ニ枚目さん。
「決闘だ。君に、騎士というものを教えてやる。先ほどの侮辱の罪は償ってもらうぞ」
「手加減は苦手なんだけどなぁ」
「……ッ!」
殺さないで行けるか?
試してみるか。
狂人は常に自身が正気であると確信している。
――『俺の名前は菜月昴。右も左もわからない上に天衣無縫の無一文! ヨロシク!』