菜月スバルに直死の魔眼とか色々組み込んでみた。 作:繭原杏(繭原安理)
失踪するときは作品の設定置いてきますんで、お好きにどうぞ。
あ、でもこれどこまで書いたら終わるんだろ……
「さて、と」
悩んでいても仕方がないので、俺は「盗品蔵」に来た。
やっと役に立つぜ……と、決められたリズムでノックする。
すると、内側から男の声が問いかけてくる。
「大ネズミに」
ここで俺の思考が高速回転する。
この答えは「毒団子」、だ。
だが、本当にそれでいいのか? こちらは無理を通しに来た。ならばこの返しも「普通じゃない」返しで相手のペースを崩すべきでは?と。
崩れたペースにつけ込み、主導権を握る。それがこの「盗品蔵」での戦い方なんじゃないのか?
ならここで普通に返すというのは、むしろ下策中の下策なのではないのかっ!
まぁ、ぐちゃぐちゃ言ってるけど要は「揶揄ったら面白そー」ということだ。
その為の正当な理由付けっ! でっち上げっ!
そこまで考えてから、口を開く。
「ホウ酸団子ってどこで売ってんの? 毒」
「スケルトンに」
「意外と掘るのって労力いるよな。落とし穴」
「……我らが貴きドラゴン様に」
「ファンタジー世界だから実際いるんだろうけど、マジ直接対面したらなんにもできないこと請け合い。でもロマンだから会いたいのも事実。そんな曖昧な自分の心に嘘をつくこともできなくて、ところがそんな自分がやっぱり嫌いじゃない。クソったれな気分」
「余計な枕詞つけんと合言葉も言えんのか! 余計に腹立たしいわ!」
バーンと、強く扉が開かれる。
出てきたのは巨躯の男。麻の服を着て、その、頭が寂しい。
「おいおい爺さん。そんなに強く開けたら壊れちまうぜ?」
「ふん、このくらい自分で直せるわ」
「えっ、マジで? 大工仕事できんの!?」
すっげぇ、でっかい人って手先が不器用なイメージがあったのに……ついでに理性が薄いイメージ。なんでだろ?
「馬鹿にしとんのか。ここを使う荒くれ者がお上品に開けるわけなかろう」
「それもそうだな」
納得。
「それに何の用じゃ? 今日は人払いしなきゃならんから入れんぞ。入れんぞ! ざまー見さらせ!」
どや顔でそう言うロム爺さんとやら。肉体年齢と精神年齢が釣り合ってないなぁ……この程度で切れるなんて。
「まーまー、そこを何とか。俺は『徽章』ってのが欲しくてさぁ」
「それは今日フェルトが盗んでくる予定の……貴様、何処でそれを知った?」
急に怖い顔つきになる。そりゃあそうか、情報漏洩なんかあっちゃあ信用に関わるもんな。
「さて、何処だと思う?……うぐっ!」
「御託は良い、とっとと言え」
胸ぐらを掴まれ、盗品蔵の中に引きずり込まれる。中に仕切りは無く、正に倉庫って感じの内装だった。そこらに剣やら樽やら服やら石やらが転がっている。おそらく全部盗品だろう。
「盗品が気になるか」
そう問いかけてきた。
「あー、まぁ、そりゃね? 面白そうだし……」
ギン!と振り返って睨まれる。おお、怖い。思わずちびりかけたぜ。
なんか壁の方に行ってごそごそしだしたかと思えば、何故かでっかい棍棒を担いできた。
その先で俺を指して、こう言う。
「何処の差し金だ。言え」
……えー、ぴ、ピンチ?
二回目の戦闘相手はおっさんかぁ……まぁ、みる限りじゃあさっきのエルザよりはましそうだけど……俺に勝てるのか?どう見てもゴロツキ三人組より強そうだけど……
魔術回路を励起させる。イメージするのは冷たい短剣。それを思いっきり心臓に突き刺すイメージ。
すっと頭が冷える。先程まで脳内に存在していた、恐怖や困惑が消えていく。
身体強化術式、起動っと。
そう意識すると、体中に力が漲る感覚がする。
一旦バックステップして、構えを取る。
――――――なんで俺はこんなにも好戦的になってるんだ?
そんな疑問がよぎるが、答えは簡単だった。
やらないとやられる。それだけ。
この男は、先程までにチンピラ三人と比べ物にならないほどには強く、そして相手にはこちらを殺す意思がある。
その上で、こっちには対抗手段があるんだから行使する他ないだろう。俺がもう少し弱かったら説得でも試すんだろうがなぁ。成功する気がしない。
「ふん」
鼻を鳴らして、棍棒を構える。
それを見て、俺は真正面から突っ込んで行く。
上から棍棒を振り下ろされるが、それを予想していた俺は頭をかち割られる前に横に飛んでいた。
下がりきった腕。その隙間を縫うように鳩尾に一発お見舞いする。
そのまま通り抜けようとするが、急に嫌な予感がして、転がるように全力で前に飛ぶ。
後ろで空気を切る音がする。あんなに早く立ち直るとか……だてにスラムで暮らしてねぇってことか。
振り返ると、まるで効いていないように平気な面して立っている。
ふむ……
どうすればいいんだろうか?
「ふんっ! くっ、いい加減!当たれっ!」
「や、だねっ! てめーこそ、とっととくたばりやがれ!」
大ぶりな攻撃を躱して、急所に攻撃。
それを繰り返してきたが……一向にくたばらない。というか効いている気がしない。筋肉の鎧に邪魔されているのだろうか。それとも打点がズレてるのか。まさか内臓まで鍛えられてます、とかいうのは勘弁な?
一回、回避も何もかもかなぐり捨てて全力で鳩尾をぶん殴ったが、少し動きを止められただけで、すぐに動き出した。
直後の横殴りは何とか回避できたが、殴られ慣れているのだろうか、このままでは駄目だ。
金的は流石に殴りたくない。蹴ろうにも回避してからだと、どうにも前傾姿勢になりがちで蹴りにくい。
顔面はそもそも届かないし……なんか武器があったらなぁ。
俺もそうだが、相手も息が上がっている。どっちの攻撃も有効打にならず、結局は体力勝負となる。
ムキムキな見た目と反するように、相手には体力が無い。その筋肉は見せかけか? ずっと引きこもっていたら体力が落ちるぜぇ? あ、それは俺か。
はぁはぁと息が荒れ、互いに睨み合う。
再び突っ込もうかと思ったその時、横から音がする。
「おーい、ロム爺ー!」
この声は、先ほどの盗賊少女の! しめた! ここで直接……そういや何しに来たんだっけ? ああ、そうだ交渉だ。
「来るな!」
まぁそりゃあそう叫びますよね! クッソ!
歯噛みして扉越しに慌てている少女――――――フェルトの困惑している声を聴きつつ、目の前のロム爺を睨む。
「俺はただ交渉しに来ただけなんだけれどなぁ……」
「ふん、信じられるか。言っておくが、もう貴様は生かして返さん」
今この状況で均衡を保ってんのに、あっちに一人着いたらどうする? 願わくば、フェルトが足手まといであることだが……路地裏で見たあの健脚を思い返すに、下手したらこの爺さんより強いよなぁ。
「大丈夫か!?ロム爺!」
扉を開けて、先ほど見た少女が入ってくる。この状況を見て俺が敵だと判断したのだろう。腰からナイフを抜いて、俺に躍りかかる。速い!
「おわっ! 危ねぇな!?」
「知るか! 何をしに来た!」
「お前の持ってる『徽章』が欲しいんだよ!」
「それで爺さんを狙ったのか! 卑怯者!」
「あっちから襲い掛かってきたんだ! こっちの目的は交渉だぞ!?」
「ふざけるな! 交渉を目的とした奴が、こんな手荒くするか!」
「ぐっ……」
ナイフを避け続け、対話をする。
確かに俺が最初っから「交渉」のみを手札として来ていたのであれば、さっき「迎撃」という手段は取らなかっただろう。なのにこの手を選んだのは、俺が「相手は盗人なんだし、最悪奪うか」という考えがあったからだろう。
失敗した。失敗した。失敗した!
後悔の念が頭の中をぐるぐると駆け回り、判断を鈍らす。
「っ!」
ナイフが掠り、つい動きが止まる。
しまった。幾ら動けても、実戦経験なんてない俺が「危害を加えられて恐怖を覚えない」ような精神構造をしているわけがない。当然の如くこの恐怖もすぐに脳内麻薬に溺れていったが……この隙はこの戦いの明暗を分けた。
「がっ!」
後頭部から衝撃。突き抜けるように鼻から振動が駆け抜け、脳が揺られて足元が覚束なくなる。
じわりじわりと後頭部が痛み出し、それでようやくもう一人の存在を失念していたことに気づいた。
あの爺さん。俺がフェルトと話し始めた時にはもう視界にはいなかった。
続けてもう一度同じところに一撃を加えられ、衝撃に従って倒れてしまう。
土が剥き出しの床にドサリと倒れ、その際に強かに鼻を打つ。込み上がる鼻血を思わず吸い込んでしまい、咽る。地上に居ながらにして、水中で溺れかけた時のあの鼻の奥がツーンとした感じを味わう。
四つん這いになりながらなんとか起きようとする。くらくらする世界の中、ぼんやりとそう考えるが、更に追撃が下る。
ゴッ。
痛い。
ゴッ。
あ、
ゴッ。
痛みが、
ゴッ。
うすれて。
ゴッ!
グシャッ!
どこにでもある様な大きな木材にその頭を砕かれ、脳漿と血と、骨の破片と脳汁が混ざり合い、土に染み込む。
ものの僅か数分で物言わぬ屍となった菜月スバルは、その後その身包みを剥がれ、きっとその身は適切に処理されるであろう。
此処は貧民街。その骨は砕かれて肥料に、内臓は胡散臭い薬師の手に、そしてその肉は……
豚か、そこらの貧乏人か。
まあ、少なくとも。
尊厳ある扱いはされ無いだろう。
「――――――おい、兄ちゃん。リンガはいるか?」
――――――気づけば、また始まりの時に巻き戻っていた。
不自由から自由へ。一瞬にして転換した体に、しかし精神は追いつかない。
「頭を守りたい」という意思が、力の入らない体のせいで成し得なかったのに、急にその命令に体が反応した事に違和感を感じてしまう。
手を動かそうとして動かせることに、何よりかち割られていた筈の頭蓋が傷一つなくなっていることに混乱する。
「おい、兄ちゃん……どうした?いきなり頭抱えて」
屋台の主人がそう語りかけてくる。その言葉に我に返り、「いや、なんか立ち眩みしたみたいだ」と言って道の脇に退く。路地裏には行かない。
そこは突き出した屋根のお陰で日影ができて居た。後頭部が無事なことを確認しつつ、先ほどまでの記憶を振り返る。
何が起こった? あれほど殴られて、まだ生きている? 意識は朦朧としていながらも、頭がかち割られるような感触は覚えている。あのような悍ましい感覚が、幻覚や白昼夢であるはずがない。
確定だ。俺は死んだ。それも
それが何故か蘇り、あまつさえ時間すら巻き戻っている。
恐らくトリガーは死亡。俺が死んだとき、この時間に戻る。
「
他の仮説が無い以上、今はこれが真実としか考えられない。
馬鹿げてる。そう思う。
でも、今俺の身に起こってる異常を説明できるのは、この説しかなかった。
「ていうことはなんだ。俺を助けてくれたあの子も生きていて、これからあの殺人鬼に殺されるってか?」
最初の周の記憶を掘り返す。
あの時漂ってきた血の匂いからすると、誰かが殺されていたんだろう。それはあのくそ爺か、それともフェルトという少女か、あるいはまったく別の第三者か。
あえて今の時点で持っている情報で推測するのなら……そうだな。
さっきの周、二周目では
そして、「それは今日フェルトが盗んでくる予定の……貴様、何処でそれを知った?」というセリフ。
ここから導き出される仮説は、「依頼人との待ち合わせの時間に訪れた」こと。そして、「フェルトによる“徽章盗難”は誰かの依頼であり、尚且つ周知されていない」ということだ。
直接盗品蔵に向かう前に何処かで休憩なりなんなりして、それから依頼主の来る時間に合わせて盗品蔵に来たんだろう。だからあそこまで足の速い少女より先に、俺は盗品蔵に着いた。
多分だが、あまり時間に正確でないだろう異世界の住人だ。誤差は三十分として、その依頼人は俺の頭がかち割られた後に来たのだろう。
それで、その「依頼人に『徽章』を渡した」。これは確定で良い。何故なら依頼人に渡した後、態々あの蔵に留まる理由が無いからだ。いや、その理由が見当たらないだけだが……そういうことにしておこう。
それ以降、俺の把握している情報を合わせれば「エルザ到来」の時刻に盗品蔵に居たのはあのくそ爺だけだ。
あの女の腕前なら殺すのにさほど時間を必要としないだろう。というより相性が悪すぎる。棍棒振り上げている間に腹を掻っ捌かれているのが目に見える。
恐らくあの蔵の中で死んでいたのはあの爺だけだとして……次に考えるべきは動機だ。
何故エルザは「盗品蔵」に行き、そこであのくそ爺を殺した?
腸の色を見てみたかった?……あり得る。
だが、「目的があった」と考える方がよりしっくりくる。
例えば、「エルザは第三勢力の雇った刺客であり、『徽章』を奪うために盗品蔵に訪れた」。しかし、「目的の物はそこには無く、証拠隠滅でそこにいた男を殺し、蔵を出た」のではないか?
そう考えれば筋は通る。
この事件の全貌はこうなんだろう。
中心となるのは『徽章』というもの。これはとても価値あるもので、きっと人を殺してでも求める価値の有る物。そして、
フェルトが外部の存在だという根拠は、あの爺が「名前を知っていたこと」と、「親しげにしていたこと」だ。
そこから親交があることが分かり、尚且つ長い付き合いがあったと推測できる。
フェルトはきっと、あのスラムで活動している雇われ盗賊だ。それで今回、「徽章盗難」を依頼された。
うん、そこから流れはこうだ。
「その徽章の持ち主、サテラはこの街に来て『徽章』を敵対組織Aに盗まれる」、そして「その『徽章』は無事に敵対組織Aの手に渡り」、「敵対組織Bの回し者であるエルザはそれを奪うことに失敗した」。
うんうん、さっすが俺!マジ冴えてやがんぜ!
さて。
問題は「これからどうするか」、なんだよなぁ……
『身体強化術式』
スバルの使える数少ない魔術の一つ。
参考にされた術式からすると、全く出来てない習得率。
しかし、現時点でもスバルの身体能力を倍増するだけの効果はある。
元の能力が低すぎるだけだが。