菜月スバルに直死の魔眼とか色々組み込んでみた。   作:繭原杏(繭原安理)

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名乗れないのは、名前が無いからだ。
名前が無けりゃ、名乗れないからな。


アーサー・ペンドラゴン

 ラインハルトの体が泥の檻に包まれ、それが勢いよく中心に向かって凝縮する。生半可な鎧ごと挽肉にしてしまいそうな勢いだ。中に居るものは如何なる抵抗をもってしても無駄。圧縮され、肉団子になる他ない。

 だが、その檻はラインハルトを圧し潰す前に弾け飛んだ。中から現れた時、彼は黄金の剣を手に持っていた。それを見て■■■は呟いた。

 

 「まぁ、あの程度でやられるわけもねぇか。……にしても、こりゃあ」

 

 ラインハルトの目の内に僅かに恐怖の色を見た。それは生存を望むが故の恐怖で在り、つまりは自身の殺害権の影響から脱しつつある――霊長から外れつつあることを表していた。

 体が置き換わっていっているのか、それとも、影響を受けて変質していっているのか。今のラインハルトは僅かであるが人の要素を欠けていた。このままであれば問題ないが、そうもいかないだろう。数日もすれば、この世界の明らかな異物になり得てしまう。■■■では実力的に殺せない相手になってしまう。

 そして、そのきっかけは。

 

 「カリスマ、ねぇ」

 

 カリスマ:B。

 ラインハルトの肉体を依り代とするサーヴァントの保有スキルだ。

 それは王としての威光で在り、友軍を鼓舞する存在感。味方を滾らせ、敵に恐れを与える存在の圧。戦場においては精神を安定させ、恐怖を緩和し、時には死兵すら作り上げる。

 恐らく、彼のサーヴァントはそのスキルで以てラインハルトの精神に影響を及ぼしたのだろう。本命は呼吸による魔力生成――竜の心臓の起動だ。

 竜の心臓もまた、サーヴァントの影響によって活性化した機関だ。そこから流れ出る魔力は血液を介して全身に運ばれるが、この時、血液は極僅かに魔力に影響を受けて人ならざるものに変質する。

 人ではなくなるのだ。

 

 「ああ、面倒なこった。大人しくやられてくれりゃあいいのによォ」

 

 「それはできない相談だね。僕は、此処で君と戦わなければいけないようだ。それが如何に無意味であろうともね」

 

 「チッ」

 

 不意打ちのように放たれた一線から、剣戟は再開した。

 それを捌きながら、趨勢が傾き始めた戦場で■■■は思考を巡らす。

 どうやって、この男を殺すかを。

 

 まず第一に、竜の心臓による魔力の生産もあり魔力切れは狙えない。時間切れはこちらの負けの為、早いうちに決着をつけなければならない。とはいえ、一時間に時間の話ではない。じっくり攻略法を考えよう。

 問題なのは、もうすでに令呪が通用しないこと。魔力のパスを完全に切られているからか、令呪の対象に指定できないのだ。

 では現界の要石は何かといえば、それはラインハルトの肉体である。それは本来あり得ない現象で、抑止力の修正を受けない固有結界の内だからこそ起きた偶然だ。

 ■■■は知らぬことだが、それは何れ行われる「デミ・サーヴァント実験」――その成功体に似ていた。

 

 「いや、意図してやったのか」

 

 人の悪意を誰よりも知る■■■は、当然のように人について熟知していた。その積み上げた負の遺産により、この場の流れが誰かの描いたものだというものを察する。

 流石に舞台までは予想外だったのだろう――この世界が生じることを予想できていれば、もう少し相性の良いサーヴァントを召喚できたはずだ――が、この流れ自体は思い通り。つまり掌の上で踊らされているということであり、弄ばれているということ。

 

 「ヒヒッ、上ォ等。せいぜい無様に踊り明かしてやろォじゃねぇかッ!」

 

 袈裟切りの一撃を全力で弾き、体勢を崩させる。隙ができた!

 目を凝らして、死の線を見る。その体には幾条もの黒い線が走っているが、それをなぞるにはラインハルトの動きは巧みに過ぎた。だが、今ならいける。

 

 「そォらっ! 懐がガラ空きですよォっと!」

 

 全身に走る死の線、その一本の狙って振るった左腕は、だが宙で態勢を整えたラインハルトによって切り飛ばされた。

 追撃は飛んでこなかった。腕を切り飛ばされたと言っても、この身は泥人形。そこらの泥から幾らでも欠損を補えるため、ラインハルトが着地した時には、状況はまったくのイーブンに戻っていた。

 

 「チィッ――! すこしゃ、素直に斬られてくれてもいいんじゃないですかねぇ、王様?」

 

 「断る。君の剣はどうにも妙だ。手数を削ぐことも、命を刈ろうともしていない一撃に、僕の直感が反応する。『それだけは避けろ』とね」

 

 「はっ、まるで獣だな」

 

 「だがその様子だと、強ち間違った判断では無いようだね」

 

 返答は右の短剣の投擲で返す。一歩踏み込み、足もとに落ちたままのもう片方の短剣も、拾いざまに投げつける。

 不意を打ったつもりだが、それらは当然のように防がれた。それどころか、短剣を拾うために下げた首を断つように、その剣を大上段に振り上げて踏み込んできた。

 

 「これで死ぬとは思えないが――時間稼ぎに位にはなってほしいものだ」

 

 「けっ、地獄に落ちやがれ。セイバー」

 

 「此処がその地獄なんだろう? マスター」

 

 そして、首が飛んだ。

 

 

 

 ――俺ではなく、ラインハルトの首が。

 

 跳ね飛ばされて宙を舞う間、意識の残った頭は減速する時間の中で思考を巡らした。

 何故首を飛ばされたのか。それについてを。

 

 「別に、質量で攻めるのだけが手段ってわけでもねぇ。これにはお得意の勘も働かなかったってわけみたいだなぁ」

 

 ラインハルトの首を断ったのは、泥でできた鞭――いや、それは寧ろワイヤーとでも呼ぶべき代物だった。

 ソレはラインハルトの首を両腕ごと断ち、上半身を下げていた■■■を素通りして形を崩し、泥へと還った。ぴちゃりと露出した足場を濡らす前に、ラインハルトの意識は途切れた。

 

 「ああ、ああ。目が覚めたらこんな訳の分かんねぇところに居て、挙句の果てに何でこんなんと対峙せにゃならんのかねぇ」

 

 ぶつくさ言いながら短剣を拾い、さて、これからどうするかと考える。

 

 「んー、とりあえず、泥が覆う範囲を見て回るか。こんな有様だけど、観光にシチュエーションは然程関係ねぇし……なぁ」

 

 この先の行動に悩んでいた■■■は、違和感を感じて後ろを振り向いた。

 そこにあった光景に呆れ慄き、ため息交じりに感嘆の声を漏らす。

 

 「一度殺したくらいじゃあ終わらねってのもまぁ、予想はしてたが……いや、首飛ばされたんなら生き物としてとて死んどけって話ではあるけどよぉ……。ハ、()()()()()()

 

 そこには、五体無傷のラインハルトが、ついでの如くエーテルを垂れ流して立っていた。

 

 「道理で素直に首を飛ばされたわけだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()よなぁ。……なぁ、お前の方が俺より人間やめてねぇか?」

 

 はて、彼の王に首を飛ばされて尚生き永らえる伝承などあっただろうか。

 そう考え始めたところで、また別の可能性が脳裏をよぎる。

 

 「――『不死鳥の加護』」

 

 それを口にしたのは、ラインハルトだった。

 

 「ああ、そうかい。そういやさっきの残党どもも、そんな名前の珍妙な加護を持ってた記憶があったな」

 

 記憶がある。それは文字通り、殺した相手の意奥があるのだ。

 周囲を覆う泥は人々を死に至らしめた災害。しかし、その本質は殺害では無く浸食。原初の泥の如く、触れた者の命を犯し、記憶を貪り、魂を溶かす。其れこそがこの泥の性能にして真髄だ。

 その中の無数の記憶から、『不死鳥の加護』というものについて検索を掛けてみる。その結果得られた情報と、目の前の男の真の厄介さに気が付き、■■■は額に手を当て、天を仰いだ。

 

 「あーあ、やってらんねぇー。無限の残機を持つ相手を殺すとか、どんな無理ゲーですかこんちくしょうが」

 

 「無限ではないさ。たった3546殺せば、僕は死ぬ」

 

 「はっ。そいつぁ、思ったより楽そうですねぇ、ええ?」

 

 顔に当てた手の隙間から、ちらりとラインハルトの顔を見た。

 そこには薄らと笑みが浮かんであり、それに見て■■■は悪寒が駆けあがるのを感じた。

 

 ラインハルトは――いや、男は手に持つ剣を一薙ぎ振るい、中段に構え直す。

 そして、まるで勝利を宣言するように堂々と、英雄のように雄々しく、名乗りを上げた。

 

 

 

 「これまでの数合で君の気性は知れたよ。遅ればせながら、名乗らせてもらおう。僕はセイバーのサーヴァントで召喚されたアーサー・ペンドラゴン。選定の剣は既に朽ちれど、なれば代わりに僕が君を見定めよう」

 

 「は、もう勝ったつもりか。いいぜ、乗ってやるよ。――七夜の末裔、当代の衛宮。それで……それ、で」

 

 思考を妨げられる。それは何者かの妨害だのではなく、自身によるものだ。

 この先を言ってはいけない、と。言ってしまえば、何かが終わってしまうと。その核心と共に、名乗ろうとしていた名前を忘却の中へ放った。

 

 「どうしたんだい?」

 

 「――いや、何でもねぇ。七夜の末裔、当代の衛宮。正義の味方様のなれの果てさ。まぁ、仲良くやろうや」

 

 「ふぅん。いや、まぁ。君がそれでいいなら、いいのだけれどね」

 

 見透かしたような目で、アーサーは言った。

 

 「随分余裕じゃねぇか」

 

 その目が気に喰わなくて、胸がざわついて、だから噛みつくように言ってやる。

 そして、胸のざわつきが膨らみ。

 

 「余裕さ。もう、君の動きは見切ったからね」

 

 自信満々に返されたその言葉に、不安を抱いた。

 

 「あぁ? ()()()()、だとォ?」

 

 「そうさ。思えば、君の攻め手は多彩を装って、実は7つしかない。だろう?」

 

 「……はっ、どうかね」

 

 図星であった。

 七夜の暗殺術は、それこそ多岐に渡る。暗器や短剣の扱いは勿論、布や鈍器、体術、果てには糸などでの殺し迄研究し研究し、研究されてきた。だが、■■■が受け継げたのはその中の僅か少し。見よう見まねで習得した■■■には、本来の七夜の鮮やかな暗殺技法は備わっていないし、出来もしない。

 今まで繰り出せていた技は全て、幼少期に身に沁み込ませたものだ。まるでコントローラーでキャラを動かすように、「そうしたい」と思えば自然と技を出せる。だが、出来るのはそれまで。技の改変は不可能だし、よしんば試したところで無駄が増えるだけだ。

 

 死を見る目に、不死身性、そして周囲の地形を完全に己の者にしているという――一見有利な構図の状態。

 その実情は、■■■の劣勢を表していた。

 

 まず第一に時間制限。ラインハルトの人間部分が消え去る前に殺さなければ、■■■にはアーサー相手に打つ手がなく詰んでしまう。故に、どうしても攻め手に回らざるを得ず、カウンター技などはどうしても制限されてしまう。

 そして不死身性。これは分かりやすく、相手も不死身であるならば土俵は同じということだ。

 次に地形の有利。ああ、一見有利に見えるだろう。

 だが。

 

 「恐らく君は、奇襲にのみ特化した――暗殺者のような戦い方なんだろう。だからこそ、こんな遮蔽物の一つもない場所では、君の技は脅威でなくなる」

 

 そう、そういうことだ。

 七夜の暗殺術は、あくまで()()術。

 黄理や志貴などという例外はあれど、基本は最初の一撃で仕留めなければいけない。先頭にもつれ込めば、混血相手では勝ち目がないと。

 故に手段を特定されない為に多様な選択肢を持ち、暗殺に挑む。死の線をなぞるにもこの技量に頼る必要がある以上、技が通用しないのであれば■■■側の勝率は限りなく低くなっていく。

 

 「それがどうした。遮蔽物が無いなら、生やせばいいだろうが」

 

 そういって周囲の泥を林立する木々の如く盛り上げ、柱を立てる。

 それらは直後にアーサーの薙ぎ払いの風圧、正確にはそこに混じった魔力によって吹き飛ばされ、泥へと戻った。

 

 「脆いね。この程度で、君の足場とはなり得ないだろうさ」

 

 「……まぁな」

 

 観念した様子で、■■■は認めた。

 七夜の暗殺技法には三次元的な動きを可能にする足運びが多々あるが、その何れもが少なくとも標準的な木を足場に想定している。其れにも劣る泥の柱は足場として成り立たず、三次元的な奇襲など夢のまた夢である。

 

 さて、ではどう殺すのか。

 簡単な話だ。七夜の暗殺術でダメなら、他のものを使えばいい。

 

 「泥」である。

 

 「そォらよっと。なら、これはどうだい?」

 

 「っ! これは、……ッ!」

 

 泥でできた注連縄サイズの触手を四方八方から振り回されるアーサーは、自身の勘と経験を頼りにそれらを交わし続ける。

 泥に触れてはならず、職種は足場にするには心もとない。切り飛ばそうものなら飛沫が散り、通り過ぎた者は別の触手とぶつかり、融合しながら 泥飛沫を撒き散らす。

 

 止まることなく動き続け、よけ続ける。

 次第に動きは洗練されていき、半ば無意識でも避けられるようになるまで、さほど時間は掛からなかった。

 

 「――大したものではないね」

 

 「化け物が……ッ!」

 

 臍を噛む■■■に、余裕の笑みを向けるアーサー。

 

 ラインハルトの危機から戦端を開いた殺し合いは、此処で形勢が完全に逆転した。

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