菜月スバルに直死の魔眼とか色々組み込んでみた。   作:繭原杏(繭原安理)

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狂気?

 さて、これからどうしよう?

 選択肢は多い。大まかに分けて、「サテラを助ける」と「助けない」の二つだ。

 ぶっちゃけ二度も死ぬような目にあったんだから、もう関わりたくないのだが……

 

 こんな物語のような展開で、そんなことをしたらどうなるだろうか?

 俺の人生を物語に例えるなら、きっと今は第一章なのだ。

 主人公は間違いなく俺。だって突然異世界に来た異世界人とか、主人公でしかないだろ?

 そんな主人公がみっともなく事件から逃げ出せばどうなるか?

 「それでも事件に巻き込まれる」か、「永遠に元の世界に戻る術を失うか」。

 最悪その時点でデッドエンドという可能性もある。

 そんな可能性があるのなら、嫌々でも元の世界に戻れる可能性と極僅かな生存の可能性に賭けて、台本に沿うように行動した方が良い。

 

 で、この場合の台本なのだが……筋書きはなんだろう?

 

 「一番最初に出会った美女がヒロイン」という定型に当て嵌めれば、俺のヒロインはあのサテラっていう子だ。

 主人公はヒロインを守るものだから、きっと『徽章』を取り戻せばいいのだ。

 その後、エルザが追ってきたりなんなりして、第三勢力の存在が公開される。きっとそういう筋書きだ。

 ならそれに沿うようにすればいい。大丈夫。あのフェルト一人なら、なんとか俺でも勝てるだろう。

 大体主人公は、成長フラグを立てるために中盤でライバルキャラに負ける以外は、不敗なのだ。正しい筋書きをなぞれば、当たり前のように勝てるはずだ。それが運命で、だからこそその筋書きを外れた俺は、()()()()()()()()()()()、負けたのだ。

 でも「死に戻り(リテイク)」のお陰で戻って来れた。

 

 道は見えた。

 まず、「フェルトが盗品蔵に着く前に『徽章』を奪還」、「サテラとここを離れる」の二つ。

 

 そうと決まれば早速行動だ。

 どんなふうにサテラと会おうっかなぁ~! やっぱハードボイルドな感じが良いよなぁ!

 そうだ! 先に『徽章』取り返して、「やぁ、サテラだね。君が欲しいのはコレだろう? あげるよ、ほら」とかそんな感じに渋く決めてみよう!

 

 じゃあまずは、フェルトの辿るルートを調べないとな。この週は捨て回と思っとくか。

 

 あー、そういや、戻るためにはまた死なないといけないのかなぁ?

 一撃で死ねる分、エルザの方が良いか? いや、この目で自殺するという手も……

 

 

 

 ……あれ?

 なんか線の色、()()()()()ね?

 

 ま、いっか。

 

 これで自殺して魂まで死んだら嫌だし、やっぱエルザに殺されるかぁ……いやだなぁ……

 

 

 

 

 

 

 そして夕暮れ。

 俺は今、盗品蔵の前に居る。

 一週目と同じように、蔵の扉は少しだけ開いていて、違うのは隣にサテラがいないこと。

 あの後、結局フェルトの辿るルートは分からなかった。

 なのでゴロツキに襲われるあの路地裏で、フェルトを待つことにした。

 できることもなくなったし、自殺しに来ようとエルザがいる筈の此処へ。

 案の定、居た。

 

 「あら、どちらさま?」

 

 「んー、そうだねぇ……自殺志願者だったりしてぇ? なんつって、はっはっは!」

 

 「あらあら、自殺志願者なら私が死なせてあげてもいいわよ? その代わり、殺し方はこっちで決めるけど」

 

 「へー。そうだ! なぁ、死ぬ前にそのオッパイ揉ませててくんねぇ!?」

 

 「ふふふ……ダ・メ。じゃ、さようなら」

 

 「え?……ぐはっ!」

 

 我ながらふざけた会話だったなぁ。

 今回は一週目ほど痛くはなかった。恐らく、無抵抗だったから奇麗に切れたのだろう。

 腹から体中の熱が流れ出ていく。思考する余裕があるだけましだが。

 

 「あら、ふふふ……いい色……素敵な腸ねぇ……」

 

 そんな声を遠くに聞いて、流れ出る分の熱もなくなった頃。

 

 世界は唐突に黒く染まった。

 

 

 

 へ?

 何だこれ?

 

 死の線すら見えないような黒一色で染まった空間の中、何かの人影を見つける。

 

 誰だ?

 

 辛うじて見えるのは……銀糸?

 いや、()()だ。月光を織ったような、そんな儚さの混じった静かな銀色。

 

 君は……誰なんだ?

 

 何かに包まれ、徐々にその銀髪の持ち主に近づいて行く。

 そして、その顔が見えるほどの距離に差し掛かり――――――

 

 

 

 

 

 

 「――――――おい、兄ちゃん。リンガはいるか?」

 

 ループした。

 

 「いや、生憎今は一文無しなんでね」

 

 「ちっ、なんだ。冷やかしはやめてくれ。しっしっ」

 

 「おいおい冷てーなぁ」

 

 やれやれと首を振りつつ、適当な路地裏に入る。

 そこは紛れもなく、一週目でスバルがゴロツキと遭遇した路地裏であり、また、これからフェルトが通ると確定しているルートであった。

 

 さて、それじゃあ。

 身体強化術式、発動。

 コンビニ袋をその場に置き、三人に詰め寄る。

 

 「よう、兄ちゃん。随分良いモぐはっ!」

 

 「あ、兄貴! てめっがっ!」

 

 「やりやがっ! ごふっ!」

 

 路地裏の奥から現れてきたゴロツキに素早く三連撃。

 顎に良いのを打ち込んだから、暫くは立てない筈だが……

 

 「てめぇ……やりやがったな……」

 

 ナイフも鉈も持ってない、正真正銘の無手の男が立ち上がる。

 殴られ慣れていたのか、それとも意地か。

 いや、どちらにしろ鬱陶しいなぁ。

 

 「よくも兄貴達をぉぉぉ!!」

 

 そのまま襲ってきたから左拳で顎、右拳で腹を同時に打ち抜く。

 

 「はぁ、しぶといなぁ」

 

 念の為に、転がったそいつに追撃する。顎を軽く蹴る。

 

 「う、ぐぅ……」

 

 完全に意識が落ちたのか、ピクリともしなくなった。

 案外簡単だったなと感じつつ、ふと疑問に思う。

 何故最初っからこうしなかったのかと。

 最初――――――一週目の時点でも、これくらいはできただろうに。

 なんでだろうか?

 首を傾げ、しかし答えは出ず。

 まあいいやと、考えを放棄した。

 どうせ関係の無いことなのだから。

 考えるだけ、無駄だろう。

 

 「お、おお? なんかやばい現場だなぁ……この道使うの失敗したかなぁ……?」

 

 その時、後ろから幼い少女の声が聞こえる。

 

 「来たか」

 

 もうすぐこのループが終わることに抑えきれない高揚感が浮かび、つい笑みを浮かべてしまう。

 

 「あ、あー、わ、私はそいつらと関係ねーぞ? ってやば! もうこんな近くに来てんのかよ!? 悪い! そこ通してくれ!」

 

 後ずさりしたフェルトが、表通りの方で何かを見つけたのだろうか。恐らくサテラが追ってきたのを見つけたのだろう。仕方ない風にこっちにかけてくる――――――ので足を払った。

 

 「うわっ!……ととぉっ!?」

 

 空中で受け身の体勢をとったので、起き上がりの直後にその上に伸し掛かって動きを止める。

 

 「さぁて、これでもう動けねぇよなぁ?」

 

 ニィッ、と口角が吊り上がる。

 逆光で口元しか見えないフェルトには、スバルが悪魔にしか見えなかった。

 

 

 

 動きは止めた。一応騒げないように口塞いで……あ、此処からじゃあ表通りから見られて騒がれそうだな。良くわからんが知られない方が良いだろ。取り敢えずあのゴロツキが出てきた方に消えとこう。

 

 ……よし。フェルトはなんか少し暴れてたが、今はだいぶ落ち着いている。涙目で睨みつけてるのがなんか可愛い。

 後は『徽章』を取り返すだけ……としても、何処にあるんだ?

 考えられるのは服の中か、このポーチの中。

 まず服の中を探して……あ、そういや俺、『徽章』って何か知らんわ。

 

 ……どうしよ?

 

 まぁ、「章」っていうくらいだし、なんか紋章とか刻んであるんだろ。それっぽいの探すか。

 

 出てきたのは……何これ? 丸いボール……もしかして煙玉? いやまさか。あと鍵開け道具みたいなのと……ホイッスル? なんだこれ。石ころやら鉄屑やら……何に使うんだ?

 ポーチの中かと思って探ろうとしたとき、急に危機感を覚えて左に飛ぶ。

 

 するとさっきまで俺がいたところを氷の塊が通り抜けていった。うっへ、先端とがってらぁ……

 このタイミングで、さらに「氷」というキーワード。間違いない。

 振り返れば、そこにサテラがいた。

 笑って徽章を取り返したことを言おうとしたら、その前にこう言われた。

 

 「――――――そこまでよ、悪党」

 

 怒気に満ちたサテラが居た。

 

 ……?

 一度状況を整理しよう。

 えーと。まず俺は徽章を探す為に、フェルトを組み敷いていて……?

 あれ?

 

 まさか性犯罪者だと思われてる?

 

 あー、そりゃそうか。だってあっちは俺のこと知らねぇもんな。仕方ない仕方ない。

 

 ……弁明、出来るかな?

 

 「最っ低ね。無理やり女の子を襲おうとするなんて」

 

 その言葉と同時に、足元に牽制の為の氷柱が突き刺さる。

 

 あ、これ無理だ。もう好感度最低まで下がってる。

 諦めるか。

 

 そう決めると、スバルは足元の氷柱を掴み上げる。

 先端は思っていた通りに鋭く、人の肌など容易く突き破るであろうことが分かった。

 触れている手から堪え様のない冷気が立ち上っていて、触っている部分は既に氷柱にくっ付いてしまったのではないかと思うほどに動かし辛い。

 でも、問題はない。

 

 「……? 何を――――――っ!」

 

 氷柱の尖った先を喉に向け、制止される前に思いっきり突く!

 

 柔らかい肉を突き破る感覚と共にブシュっと血が漏れ、痛みによる痙攣が呼吸を止める。

 

 「はっはっ、はぁ――――――」

 

 喘いでも肺の中に空気は取り込まれない。ヒューヒューと漏れている。

 氷柱が抜けていた。気道を貫通していたのだろうか?

 訳が分からないという風に立ち竦むサテラに、微笑みかける。

 

 次こそは、完璧に進める。

 

 その決意を胸に、世界は再び巻き戻る。

 

 

 

 暗い。

 夜闇より深く、海水の様に纏わりついてくる。

 息はできない。でも苦しくはない。

 不思議と、此処に来ると安心する。

 俺は、此処に何を見出しているのだろうか?

 

 また銀髪だ。

 あの銀髪は月光のようで、黒一面のこの空間において唯一つ黒くないものだった。

 

 ……いや、それだけではない。

 口元が見える。

 サクランボのような、瑞々しい唇が。

 

 君は、誰なんだ?

 

 

 

 「――――――おい、兄ちゃん。リンガはいるか?」

 

 リテイクだ。

 

 「悪いおっちゃん! ちょっと用事思い出したわ!」

 

 そう言って、路地裏に駆け込む。

 先程の体験から、ある程度の体裁を取り繕う必要があることが分かった。

 取り合えず、出合い頭に襲うのは無しか。

 

 なら、これならどうだ?

 

  「よう、兄ちゃん。随分良いモン持ってんじゃねーか。一寸金分けてくれぇか?なぁに、有り金全部でいいぜ?」

 

 「ああ、言っとくが断るなんて言ったら……分かるよな?」

 

 「安心しろよ、ちょーっとばかし恵むだけだろう?へへ、そんだけだよ。俺たち友達だろ?」

 

 路地裏の奥からゴロツキ三人が湧いてきた。

 前回はさっさと倒してしまったが、此処は別の選択をする。

 

 「ま、まぁまぁ落ち着こうぜ? 兄弟。俺たちの中じゃねぇか、まずもう少し距離を取ってだな」

 

 「いやいや何言ってんだ、俺たちの間に距離なんていらねぇだろ?」

 

 そう言って後退りして、一週目を再現したその時だった。

 影が四人の間を駆けていく。

 

 「な、なんだぁ!?」

 

 「た、助けか!?」

 

 スバルはそう叫び、援軍である可能性を匂わせる。

 影はゴロツキとスバルの中間で立ち止まり、それでようやく姿が分かる。

 

 少女だ。

 十二、三になるかどうか。いや、ここらの貧しさからすると、栄養が足りない十四くらいかもしれない。

 細身で、背が低く、とても身軽そうな金髪の少女。

 フェルトである。

 

 フェルトが頬を掻き、口を開く。

 スバルはそれを遮るように、こう叫んだ。

 

 「姉貴! フェルトの姉貴じゃないですか!? 助けに来てくれたんですか!? やったぜざまーみろ!! あんたらなんかフェルトの姉貴の足元にも及ばないんだからな!?」

 

 煽った。

 煽ったとしか言いようのないセリフで、さらっと無関係の第三者(フェルト)を巻き込むスバル。

 ここでフェルトが話を合わせれば足止めができ、合わせなくてもあのゴロツキが逃がさないだろう。

 万一本当にフェルトがゴロツキを倒してしまったのなら、また別のことを引き合いに出して引き留めればいい。

 負けそうなら加勢すればいいし、欠点は無い。中々良い一手だとスバルは自画自賛する。

 

 「え、ええ!? いや、あたしはこの兄ちゃんの事なんか知らな……」

 

 「何言ってんですか姉貴! 同じ釜の飯食った仲じゃないですか姉貴! あんな奴らちゃちゃっとやっちゃってくださいよ姉貴!」

 

 「五月蠅い!……って、あー。駄目だこりゃ」

 

 完全にフェルトも敵と見做したゴロツキの目を見て、フェルトは諦めたようにそう言った。

 あの健脚なら逃げきれるかもしれない。しかし壁を蹴ろうとしたのなら腰でもつかんで引きずり落とす。

 奥の方に進むにはゴロツキが邪魔だし、俺ならあの速さでもなんとか止められる。筈だ。

 

 ただ問題は、この状況の説明をどうするかってことなんだよなぁ……

 

 サテラの来た時の事を考え、スバルは頭を抱えたくなった。

 

 

 

 いや、考えるべきはそこじゃないでしょ。

 どこかからそんな声がした、気がした。

 




さて、「通りすがりの少女をゴロツキの生贄に捧げるスバル」は如何でしたでしょうか?


 《濃くなった線》

 「■■の■■」は■に触れた■■の持ち主の■■が変質した物。
 ならば更に■に触れ続ければ、その分だけ■への■■が深まるのは必然である。
 尚、■■への■■■も高くなっていく。
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