菜月スバルに直死の魔眼とか色々組み込んでみた。   作:繭原杏(繭原安理)

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先週は失礼しました。先々週も失礼しましたが。
ワクチンの副作用で寝てたんです……っ。
予約投稿失敗したのは……うん、私のミスです。すみません。
以後気を付けるので許してください。なん(ry(何でもするとは(ry )


毒を喰らわば皿まで

 クールー病。食人によって齎される病であり、脳を犯す。これは、食人という行為の禁忌性をより知らしめる病であり、或いは自身を食われた死者の呪いかもしれない。

 共食いは自然界でもありふれた行為だが、自然界に生きていない人間には禁じられているということか。

 では、もう一つ考えてみる。

 

 人を食べるのが駄目ならば、では、()()()()()()どうなるのだろうか。

 

 

 

 「う、ォええええ……」

 

 ロイ・アルファルドはぴちゃぴちゃと泥のようなものを吐き出していた。それは■■■がその形を忘れたために泥に戻った、■■■の片足だった。

 

 知識としては知っていた。予測としては聞いていた。その危険性を理解した上で、尚食欲が恐怖を上回った。

 アルファルドは走馬燈を見た。ぐちゃぐちゃに混ざり合った記憶は、どれ自我自分の本当の人生なのか分からないぐらいに混じり、どろどろのスムージーとなっていた。

 雑味、珍味、甘味、苦味、酸味、臭味、大味美味滋味の粗食。食べても食べても、胃の底に孔食が起きたかのように欠食の感覚が抜けない。

 本来食べて血肉に変えるべき分を下回っているというクレームは、食べても食べても満たされない暴食の飢餓感だ。

 

 いつ生まれたのか。つい数日前の気もするし、数百年も昔のような気もする。

 どこで生まれたのか。ここの近辺か、遥か遠方か、田舎か都会か、森か平原か湖か。

 誰が生んだのか、どんな様相で生んだのか。助産婦の顔も親の名前も覚えていない。いや、覚えているそれが、自分の本来の記憶だと確信できない。

 

 一体僕らは何なのだろう。

 俺らは何処から来たのか。

 行先は知らないが、末路は漠然と察していた。この世に無限が無いならば、きっと最後は飢えて死ぬのだと。薄々気づいてはいた。

 暴飲暴食を繰り返す理由は、その終わりから目を逸らす為だったのだろうか。そう考えて、自分が弱気になっていることを自覚する。

 

 へっ、と口すら動かない体で自嘲する。どうでもいい。過去も未来も、どうでもいい。

 今が良ければそれでいいのだ、過去も未来も、どうせ等しく不確かなのだから。なら唯一確かな今だけを楽しめばいい。

 

 それは、一種破滅的な思考だった。

 今が良ければ未来なんてどうでもいい。

 自分が良ければ他人なんてどうでもいい。

 腹を満たせるなら、他人が植えていようと問題ない。

 

 千年、とんで万年分の人生の記憶。その蓄積は胃もたれするのには軽すぎて、吐き出すのには少なすぎて、垂れ流すには貧しすぎる記憶だった。

 

 満たされない、満たされない。まだ飢えている、と。

 そう叫んだ記憶が……あるような気がした。

 

 

 

 ぴくぴくと痙攣しながら、アルファルドは地を這う。自身の吐き出した泥に手を触れ、「え、みや……ぁ」と食事を続けた。

 その「食」への執念は、もはや見事と言ってもいい領域だった。可食を超えて、もはやを臓腑を蝕む毒とすら言えてしまう泥を食らう姿は、正に『悪食』そのものであった。確かに今現在の世界で最も質量が多いのは、この泥であったことだろう。

 

 だが、その執念も空しく、アルファルドは触れた先から泥に侵されて黒化していく。捕食者である自身が捕食されている恐怖を塗り潰すように、アルファルドは意図的に思考を『飢え』のみで満たし、食事を勧めていく。

 

 「菜、月……ッ!」

 

 最後の食事を終えた彼は満足げに目を閉じ、最後にポロポロと崩れ落ちていく体を抱いて眠りにつく。

 

 ――あぁ……。

 

 炭化し、炭に変じていく唇が今際の際に震える。

 

 ――おなか、……ぁ。

 

 泥と炭が混ざり合う。黒同士のそれは案外混ざらず、泥中に所々浮かぶ炭の破片が浮かんでいる。

 この暴食らによる鬼ごっこの最初の脱落者は、鬼側であるアルファルドだった。

 

 

 

 

 

 

 「はー……っ! はー……っ!」

 

 荒く息を吐く人影が、壁伝いに地下道を進む。目指す先は漠然としているのに、道を探すために目すら開けられない有様。それが、現状だ。

 

 目を開けられない理由。それは■■■自身の瞳に合った。見た存在全ての「死」を看取る魔眼は戦いの中で進化していき、今では所持者の脳を火薬に変えているような錯覚を起こさせるほどに変質していた。物事の終わりとはつまり、それに関連する全ての事象の集約だ。

 情報の濁流から意識を背け、朦朧とした眠気を堪えながら足を進める。それでもなお、処理しきれない情報は脳味噌を削るように流れ、熱を奪う様に腹が軽くなっていく。何度か行った遊園地のジェットコースター。あの落下間に似ていた。

 

 前へ、前へ。

 

 そう言えば。

 

 自分は、何故逃げているのだろう――。

 

 何が怖くて逃げているのか。恐怖が周りに回って、一蹴して感じなくなったのか。

 確か、『食べられる』のが怖いから、だったはずだ。ああ、そうだ。『■■』を食べられて、『()()』と『■』だけ残っていて……。ああ、もう一つも残ってないのか。

 

 目を瞑って、自分に関連する記憶を掘り返す。レムという少女……を、殺した。エミリアという少女が、好きだった。エルザという女に縁があり、ラインハルトという男と交友があり、ロズワールちう男とは……どういった関係だといえばいいのだろうか。その傍仕えであるラムへは、あまりいい感情が無いようだった。

 実感が持てないのは、本当に過去を食われたからなのだろうか。自分が非常な人間で、友とも他人に興味がなかっただけなんじゃないだろうか。思い返す度に記憶は摩耗して、終には何かを考えることすら疎ましくなる程眠くなってきた。

 

 もう、痛みとかは感じない。そういうのを感じる器官が麻痺しているのかもしれない。

 触れている壁の感触が無い。前に進んでいる実感がない、あまりに不確かで、もう寝ているんじゃないかと勘違いしてしまう。

 今どこにいるのか。何処から来て、何処へ行くのか。自分がどういう人物で、どういう人が生んで、どうやって生きてきたのか。まるで、思い出せない。

 

 「ぅ、ぁぁ……」

 

 確か、声はこうやって出すはずだ。けれど、どんな言葉を発せばいいのか分からない。このまま黙り続けているのも苦しいから、とりあえずは呻き続けよう。

 

 「ぁ、ぁ」

 

 いっそ痛みや重さから解き放たれて自由になったのだと言わんばかりに、心の何処かは涼し気に高揚していた。空っ風が吹き抜ける空洞の様に、何処までも胸がすく思い。前に進むために大事なものを打ち砕く達成感とは、こういう感じなのだろうか。

 

 前に進む。進んでいるのか。足を動かす。動いているのか。息を吸う。吸えているのか。手で体を支えている。支えられているのか。

 目隠し所の話では無く、羊水に浮いているような、あたたかくて、なにもかんがえられなくなるような、ねむくて、あくびがでるような、めんどうくさくて、ねてしまうような――

 

 「――がッ」

 

 強かに顔を打ち付けた、らしい。確信が持てないのか痛覚が無いからで、けれど顔は何か固いものに打ち付けた衝撃と、倒れ伏すとき独特の慣性を感じていた。脳を揺さぶられるようなそれは、丸ヱ顎にフックを受けたかのような感覚だ。

 つまりは、気絶一歩手前、ノックダウン寸前。しかし、その変化が■■■に覚醒へ繋がる蜘蛛の糸となった。

 

 「かいだん、かな……?」

 

 手で辺りをまさぐると、段差のようなものに触れた。それが階段であると思った瞬間、■■■は自分が何をするために歩いていたのかを思い出した。

 

 「そうだ……昇ら、なきゃ」

 

 匍匐前進で階段を上がろうとするのは、段差が肋骨と擦れるときの痛みとか、腹部を圧迫される息苦しさとの戦いになる。更に言うなら、どう考えても立って歩いたほうが早くて疲れにくい。

 それをしないということは、それができないくらいに意識が遠いからで、途中で夢の世界に入ってしまっても、それはしょうがないというものだった。

 

 計二十四段の、地下と城内を結ぶ階段。その中腹で■■■は安らかな寝息を立てた。

 

 

 

 これで、今現在地下で動き回っているのは、動き回れているのは、正真正銘唯一人。パテンカイトスのみとなった。彼にとっては幸運なことに、■■■にとっては不運なことに、彼が■■■に追い付くのはそう遅い話では無く、そして難しい話でもなかった。血痕を追いかければ、何れ辿り着くのだから。

 

 だから彼が足を止めるのは、それ相応に大きな理由があった。地下道に点在する泥の飛沫。ある一点で大きな水溜まりサイズのそれを発見したパテンカイトスは、その中に粉々になった炭を見つける。

 

 「ん……あー……え? まさか、おいおいおい……」

 

 驚愕に襲われているような顔で、その炭を見つめる。

 

 「アルファ、ルド……か?」

 

 呆然とした表情で、その炭の生前の名前を口にする。今までも何度も死を見てきたが、此処まで生存が絶望的な死体は見たことが無く、そして存在するとも思えなかったからだ。

 むしろ元々人体であったということさえ疑わしい。それでも、それがアルファルドだと分かったのは……兄弟の縁、というものか。

 

 なんとなく、それに感づいてはいた。自分の半身を喪失したような虚しさを嗅ぎ取っていた。だけれども有り余る食欲にあかせて地下を練り歩いていたパテンカイトスは、その空しさすら食欲で満たしてしまった。予感程強く感じることもなく、ただ虫のささやきの様に、思い返してようやく気付けるような弱さで感じたのだ。

 

 「そうか……」

 

 その場に片膝を突き、泥を避け、死骸に触れて目を伏せる。食欲に脳を犯された『暴食』でも、死を悼むことがあるというのか。

 

 「……食えそうにないな」

 

 違った。ただ自分以外の捕食者の食べ残し、或いは食いかけを漁ろうとしていただけだった。市外から掘り出せたのは、僅かな断片のみ。金平糖代わりにもなりはしないその記憶(ごちそう)に、より一層空腹を刺激され、気が立つ。

 

 「ああっ、くそっ!」

 

 死骸を蹴ろうとすれば、泥に足を突っ込むこととなる。それを嫌ったパテンカイトスは、所々のひび割れから転げ落ちた瓦礫を蹴飛ばした。それは他の物よりも一際大きく、大きさは赤ん坊の頭ほどもあった。

 蹴飛ばされたそれは勢いよく飛び、壁にぶつかって粉々に砕ける。その破砕音すら眼中になく、八つ当たりで周囲の壁を蹴飛ばす。

 

 此処が地下で在り、崩落の危険性がある。故に壁を蹴り壊すような愚行はしない。力を制御して蹴飛ばす壁は固く、ストレス発散のつもりが、むしろストレスが募っていく。

 

 「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛――――――……ふぅ」

 

 やがて物理的な暴力を止め、喉を潰すように叫び出した。暴力から叫びへの意向はパテンカイトスすら意識しないほどに自然で、冷静になってから「これじゃあまるで『憤怒』だな」と少し自制した。少しだけ。

 

 「チッ。まあ、いいや」

 

 この分の怒りは、食事(ほしょく)で解消すればいい。

 だから、パテンカイトスは再び歩き出した。

 

 

 

 




――聞いた、知った。見た、伝えられた。
『――』

――聞こえた、知らされた。見えた、伝わった。
『――、――。……――』

――ああ、それは何て食いでのある獲物なのだろう。そんなに無尽蔵なら、無限なら――



――――俺らの餓えも、満たしてくれるだろう。



【■■■】
・特徴:武器を飲み込みます 死の線をなぞってきます
・好きなもの:ちちおや 強い感情を抱けるあいて マヨネーズ
・きらいなもの:自分の居たこん跡がなくなること
・口ぐせ:ない
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