菜月スバルに直死の魔眼とか色々組み込んでみた。 作:繭原杏(繭原安理)
暫く書き貯めしますので、次回も更新できるかは分かりません。
一応、プロットだけはできてますが。
遅くとも再来週までに次話を上げます。
「そこまでよ、悪党ど、も……仲間割れ?」
もはや見慣れたサテラの登場シーン。
毎度毎度ご苦労だと思うが、死に戻りの記憶を持っているのは俺だけなので、本人からすれば初めてなのだろう。
そもそも死に戻り、前週の記憶を持っていてもこうしてフェルトを追いに来ただろうが。『徽章』とやらがそんなに大事ならば。
「増援か!?」
「兄貴! でも女ですぜ!」
「構わず丸ごとやっちまいましょう!」
ゴロツキ三人組がそう言う。
確かにサテラは女の子だ。とてもかわいい女の子だ。
比類なき可愛さを持つ美少女だが、それでもそんじょそこらの女子みたくキャーキャー悲鳴上げるだけのような女子ではない。戦闘も熟せる
勝ち確だなこれと思いつつ、この後の言いくるめのセリフを考える。
「……まぁいいわ。それよりアレを返してくれないかしら? アレは本当に大事な物なの。無くなると困るわ」
「知るか! 嬢ちゃんは仲間じゃないようだが、此処に迷い込んできたのが運の尽きだなぁ!」
「そうだぜ! 三人纏めてボコボコにしてやらぁ!」
「へっへっへ。女二人か、高く売れそうだぜ」
思考に沈むスバルの周りで、事態が進展してゆく。
今週はどうやら、サテラの威光は効かなかったみたいだ。まぁ、どうでもいいことだが。
どうせ結果は変わらない。
無警戒に進み寄る三人に、サテラは躊躇いなく氷弾を放つ。
「ごばっ」
「ぐべっ」
「がはっ」
顔、胸、腹をそれぞれ撃ち抜かれた三人は意識を手放し、前のめりに地面に崩れ落ちる。
ドサリ、と重い物が落ちる音が三つ重なり、それなりに大きい音として響いた。
その音に気付いた表通りの人々が、サテラを指してしきりに何かを言う。
ただ、その顔はしかめっ面であり、場違いな物を見る目であり、凡そ心地いいよ言えるような雰囲気ではなかった。
彼女は、いや、彼女の家は何か圧政でも敷いたのだろうか?何故にもこんなに嫌われているんだ?
そんな疑問を放っておいて、まずサテラに礼を言うべきだろう。
彼女は既に表通りの視線に気づいて居て、居心地が悪そうにしている。
逃げ場が無くなったと判断しているフェルトは、サテラが引き渡しを要求した『徽章』とかいうのを受け渡している。渋々と、本当に残念そうだ。項垂れている姿からは、先ほどまでの快活さは感じられない。手に入る筈だった大金を逃したからだろうか? まぁ、そのまま帰ったら
いや、仲介人も仕事も一つとは限らないか。そう考えつつ、『徽章』を取り戻していることに安堵しているサテラに声をかける。
「いや~助かったよ! ありがとう、
つい名前を出してしまったが、まあ良いだろう。きっと有名人なのだろうし、その名前ある程度知られているはずだ。知られていなくとも、「名前を知っている」事実が深読みさせて、お近づきに成れるかもしれない。どっちに転んでも損は無いな。
ざわめきが強くなった気がした。
サテラは俯いている。何だろう?何を考えているのだろうか。
何故名前を知っているのか?それとも感謝への羞恥心?だとしたら初々しいな。
軽くニヤッとして、反応を伺う。
いや違うんだ、想像してみてくれ。お礼を言われて、照れ臭く赤面する美少女の姿。
可愛いだろ?心の底から何かが萌え出てくるだろ?
つまりそういうことだ。だから俺は変態じゃない。
「……」
小さい声で、何か呟いたようだ。
照れ隠しかな?なんだろう?
聞こえなかったので、聞いてみる。
「っ……嫌がらせなの!? 私の名前は
え?
エミ、リア?
誰だ其れは。サテラ? サテラがエミリア?
そしてサテラ、いやエミリアは俺を押しのけ表通りに戻ろうとし――――――注がれる視線に気づいて一目散に逃げだした。
それからどれくらい呆然としていただろうか。
気づけば日は既に落ち、俺は詰所に居た。
路地裏とは言え、表通りに近いところで諍いを起こしたからだろうか。誰かが呼んだ衛兵がその場に駆け付け、それを契機にざわついてた人達も離れて行った。
荷物とかは押収され、今はジャージのみでこの対談室のようなところに居る。
「それで、お前は何処から来たんだ?」
ここは異世界。当然、俺の籍も入国履歴もあるわけがない。
ゴロツキ達は何度もここでお世話になったのか、流れるように衛兵に牢屋に入れられた。
だが、俺は別だった。
身分証明も無い、「王都」に入った記録も無い。居る筈の無い存在し得ない異物。
すわ諜報員かと勘繰られたものの、黒髪というのは割と珍しいみたいで、こんなに目立ちそうなやつが諜報員をやれるわけがないと判断された。
それでも、街門以外からこの王都に出入りされたら責任問題なので、その方法を聞き出そうと色々聞いてきた。当然、そんなものは無いのだが。
代わる代わる数時間。名前から趣味嗜好、来歴やら身分やら……色々聞かれた。何でも言いから取りあえず質問に答えさせて、口を軽くするつもりだろうか
誰にも知られずに王都に入る方法が未だに分からないのか、こんな時間になっても聞いてくる。
俺も無い方法をしゃべることはできす、素直に「気づいたらここに居た」と言ったが、今まで前例がないのか、それとも前例が少なすぎるのか。誰も信じなかった。
サテラの本当の名前が「エミリア」だということに呆然としていたのだろう。俺はつい魔術師だということを漏らし、その少し後に変な手枷を付けられた。石のような、武骨で重たい手枷を。片手だけに。
鎖は無い。何処かに固定されても無い。
別にこれを付けていても魔術回路は励起できたので、危険は無い。いざとなれば振り回して鈍器にできるし、そうでなくともこんな場合はどこかに鎖でも使って固定するのではないのだろうか。重しとしてもさして効果は無いだろうし、もしかしてここを出ると爆発でもするのだろうか?
何人目だろうか、今俺の目の前にいる男は溜息をついて退席した。このままだと拷問にでも掛けられそうだが、生憎俺も知らない方法を答えることは出来ないので、徒労に終わるだろう。
不思議と痛みに対する恐怖は無かった。あるのは只管に続く虚無感。
あの子に嘘を付かれたのがそんなに悲しいのだろうか。訳の分からない虚しさに、俺はあり得るであろう危機から逃亡する気も失せていた。
退室した衛兵。その後暫くして次の衛兵が入ってきた。
燃え盛る炎のような赤髪に深い水底を思わせる碧眼のイケメン。けっ。普段なら軽口で罵っただろう男だが、そんな気力も湧かないぐらいに、俺は疲れていた。
「やあ、君が謎の異邦人かい?」
「……ああ、そういわれてるみたいだな。俺としては、目が覚めたらここにいた、って感じなんだがね」
「ははは、それじゃあここの説明からするべきだね。っとその前に、僕の名前はラインハルト。君は?」
「菜月、スバル」
「スバルか、で、異邦人のスバル君。まずここの説明をしよう」
ああ、ほんとにイケメンだな。
俺の話を真に受けてはいないが、冗談として乗っている。
相手をいい気にさせて会話をさせる、リア充のスキルってやつか。
羨ましいもんだ。
「ここは【ルグニカ親竜王国】の首都の詰所だ。君は間者の疑いを掛けられて此処に放り込まれてるわけだね。まあ、最低限の寝所とご飯を保証されたと思えばいい」
「ルグニカ……? いや、まあ国籍もなんもない変人見つけりゃ、そりゃ怪しむわな」
「まあ、それだけじゃないんだけれどね」
「それだけじゃない?」
「知ってるだろう? 『王選』の事ぐらいは」
「おうせん? いや、知らねぇな」
「そ、そっかぁ……割と有名な事だと思ってたんだけれど……」
「悪いな、こちとらついさっきまで引き籠ってた正真正銘の穀潰しだぜ?」
「自分で言っちゃうんだ……」
自虐ネタが効いたのか、随分と顔が引きつっている。
それにしても割とちょろいのか? さっきから俺の言葉を信じてるような感じしてるが……いや、そんな演技なのか? まあ、会話が続けば何れボロを出すだろうってことかな?優しい尋問だな。それとも強引な方法は許可がいるのか。
「えーっと、ルグニカの王が病気で身罷れたのは知っているよね?」
「いいや?」
「物知らずにも程が無いかい?」
「そもそもルグニカって国も知らなかったけどな」
「……君は随分と不思議だね」
「自覚してる。あ、記憶喪失ではない、と思うぞ。一応記憶はあるからな」
「うん、ほんとに何があったんだい?」
「聞いたところで信じやしねーよ。で、続きは?」
「あ、ああ、王が身罷れたて王子を即位させようとしたんだけれどね、王族の皆様方が次々に病死してね。調査の結果、特定の血族にのみかかる流行病だったらしくてね、で、その後継を探す為に行われているのが『王選』だよ」
「へー、大変そうだな。特定の血族にしかかからないって、遺伝病か何かか?」
「さあ? それだと過去に起こった記録が無いのはおかしいだろう? この国も一応、結構歴史があるんだからさ」
近親相姦を繰り返した結果の遺伝病ならこれまで一度も記録が無いのはおかしく、元から遺伝に根差す病なら前例が無いのはおかしい。つまり、『前例がない』というのが問題なんだな。
いや、そんなことはどうでもいいのか。
「ところで、君はどこから来たんだい? その不思議な材質の服もそうだけど……そんな服は見たことない。君から押収したこの
ミーティア? ミサイルの事か? いや、兵器? 馬姫様の事……では流石に無いだろうし……でも俺の世界の意味と同じという保証もない。本来なら隕石を意味する英単語の筈だが……何を指してるんだ? そんな物騒な物持ってないぞ?
そう不思議に思って、ラインハルトが懐から取り出したそれを見る。
「携帯?」
「へぇ、ケータイ、というのか。これも不思議な材質だね。鉄のようでいて温かみがあり、それでいて硬い。全く、君の持つ他の持ち物も変な物ばかりだ。どう使うんだい?」
「ああ、これは……」
ケータイを受け取り、ラインハルトを写真でとる。
パシャリ。フラッシュが焚かれ、光源がランプしかないこの部屋を光で染め上げる。
眩しかったのか、ラインハルトは少し目を瞑っている。それに構わず、俺は画面を操作する。
二つ折りのガラパゴス式。直観的な操作ができ、スマホのように色々遊べるわけじゃないが、そこそこ機能は充実している。
暫く見ないうちに随分ボロボロになっていた。ここまで傷、あっただろうか?
「いきなり何を……これは?」
撮った写真を見せてやる。
「こんな感じの事ができる。ここの黒い丸、カメラで写した風景を切り取って保存することができるんだ」
「中々に便利だね。こんなに鮮明な絵は見たことが無い」
「まあ、中々使いどころは無いけどな。本来は思い出の場面を写し取るもんだけど」
「それはロマンチックだ」
話が逸れていく。
ただ、今の俺にはそれが心地よかった。
【石のような、武骨で重たい手枷】
魔導士の犯罪者用の手枷。
動きを縛るほど重くは無いが、あると動きづらい。しかし鍛えていれば意に介さない程度。
マナの流れを阻害する石材を切り出したもので、これを付けていると魔法を使い難くなる。
また、発動する魔法の効果を減衰させることができる。
無論、外部のマナを扱う精霊術師には効果が無い上、スバルのような『魔術』の行使にも影響を及ぼさない。同じ「魔法」という名前とは言え、彼の宝石翁が使うような魔法も阻害できない。そんな言葉遊びは通じない。
更にマナのごり押しである程度影響を無視できる。並大抵の労力ではないが。
ついでに言えば、
だが、「安価な割に、並みの魔法使いなら大抵の魔法は封じられる」と人気。
平均的な魔法使いがこれを付ければ、少なくとも殺傷に至るほどの魔法は使えなくなる。
各国に普及している。