頭ふっわふわな短編集   作:サラダ豆乳パン

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設定

あだ名:シャドー

概要:主人公(シャドー)はキョンの幼馴染み兼同級生の男子高校生。ハルヒとのスポーツ勝負で勝敗は着かなかったが、ハルヒに気に入られ、彼女の勧誘を受けてSOS団に入団する。

一人称:俺

容姿:髪は黒の短髪。顔はキョンと同じ普通な感じ。

身長:キョンより十cmほど低い。

性格:自由気ままなマイペース

家族構成:父、母(普通の一家でよく一緒に出掛けたり、時には喧嘩もするが、後で互いに仲直りしたりと普通の生活を送る関係)

能力:キョンと同様に普通の人間で学業の成績は普通(悪い訳ではない)だけど、運動神経と身体能力はSOS団団長・涼宮ハルヒと互角とかなり優れている。



主人公のお名前はリクエストされた方のを借りております。



涼宮ハルヒ(鶴屋ルート)

一日目

 

 聞きなれた携帯のバイブ音が聞こえる。

 

 ぼやぼやなままの頭はある選択肢を浮かべた。

 

無視する

 

 

 上手いこと動こうとしない体と同じように頭が鈍い。

 

 鈍いままの頭は二つのことくらいしか考えられないままだ。

 

休息をとる

起きることにする

目をこする

 

 

 

 目をこする。

 

 ショボショボなんてレベルじゃないショボっくれてしまっている目をこする。上目蓋と下目蓋が糊付けされているようなショボったれ具合。生まれたてホヤホヤの赤ちゃん並みな目の開けづらさ。こんなの幼馴染と高校受験終わりの打ち上げ以来だ。お菓子とジュースとゲーム。もうこれだけで大盛り上がりだった。受かる判定はどっちの親も知っていたんだけど、万が一でさっきの三つ禁止令を出されていたからそりゃもうパーリータイムだよ。

 

 猫の欠伸五回分ぐらいの時間ずっと顔を洗った結果、お目目が開きました。こすりすぎて目蓋とその周辺がとてつもなくヒリヒリするけど無視っておこう。

 

 あれは、現実だったはずだ。絶対さっきの顔文字とのことは夢なんかじゃない。夢であってほしいが、現在進行形で現実的に非科学的現象に見舞わされている。

 

 とりあえず起きよう。そんで、探さなきゃ。一人だけじゃなくて、みんなを。

 

 うちの幼馴染とハルヒが集めた我らがSOS団、その顧問の鶴屋先輩、頼りになっちゃう喜緑先輩、話クドイ系友人の佐々木、大事で大切な妹ちゃん。誰一人として見落としてなるもんか。

 

 団長に任命された特攻隊長というご名職を名折れにしちゃ、団長にシバき回されちゃうからね。

 

 それなり装備を装着して、外へ。

 

__  SKIP START____.

 

 

 部屋の向こうは見慣れた学校。

 色合いも物の配置も、なんというか北高の空気感ってやつでさえ見慣れ過ぎた奴だ。廊下の一部分にある謎のへこみや、窓の近くにある誰かがはっ付けたシール、消火器近くに忘れ物のだと思われるカバー無しの置き傘。窓から差し込む太陽の光、それに照らされた学校のあちこちに妙なシンパシー、そのシンパシーついでに軽妙な安心感と軽度の徒労感。

 全部全部、いつもの北高、という意識しか沸いてこない。その全部になんだこれは、と思うのに、それに更になんだこれは、でまたまたさらにそいつに、なんだこれは、な思考永久ループな俺。

 

 テストは体育以外暗記で点とっている俺に考察力だか推察力だか、どっかのバリツ使いみたいな能力なんてのはまともにあるわけがない。知恵熱で脳みそがプリンになる前に頭を振る。右見て左見て、右見て。見渡しても何もかもいつもの北高感。

 

 だけど、誰もいない。

 

 誰一人いない。

 

 平日なら当たり前にいるたくさんの北高の人たちも、休日でも部活人や先生とか、たまに業者さんとか。五十メートルも掛からずに誰かしらを目にするはずなのに。

 なのに、誰もいない。一学年に九クラスもある北高に、誰もいない、なんてことあるわけないのに。

 

 恐怖感だけなのか。それに伴う興奮状態からか、足が動いていた。 視線はまっすぐ前に固定されてしまっている。

 教室の窓や学校の外への窓を覗くことも、やたら躊躇われた。誰かいないのが怖くて。誰もいないのが恐ろしくて。その怖さと恐ろしさの意味を理解したくなくて。

 

 競歩並みの速度で足が動いている。あと一つの教室を通り過ぎてしまえば、階段だ。このままだと壁に激突か階段から落ちてのクラッシュだろう。

 

 意味を理解しきる前にクラッシュの方がいいかもしれない。

 

 足音。

 自分のものしか聞こえない。それしか耳に入ってこない。バスドラムをぶち壊せるほどうるさい足音。その一つだけしか、聞こえてこない。

 

 暗記力しか取り柄のない頭が、その所為で空回っていく。誰かいないということはつまり。誰もいないということはつまり。

 

 つまり。

 

 誰も──────。

 

 

「シャドーくん?」

 

 

朝比奈先輩?

→鶴屋先輩

 

 

 

「鶴屋先輩」

 

 

その声が誰かなんて特定できていない。声の高低差で女の子かもしれないと思っただけだ。

 だからこその、願望だったんだろう。俺以外にもいる、そんな誰か。そうあってほしいのがその人でいてほしいのだと。

 誰にでも気さくで明るくて楽しんでくれる女の子にいてほしいんだと。そんな願望。赤ちゃんの産声みたいな本能だけでの願望だ。誰か誰かと泣いて叫ぶ赤ちゃんのように、だれかだれかと願って望んだ、こぼれ出た俺の何か。

 

 

「あ~よかった!! シャドーくんもいるんだね!!」

 

 

 急いで来てくれている。でも、そこに軽やかさというか優雅さというのがいつものように付随していた。いつも元気満々な先輩お嬢さんであるが、正真正銘のお嬢様でもあるから当たり前だ。

 だとしても、今の鶴屋先輩は多種多様な御花を詰めたバスケットを抱えながら、という童話の一挿絵という感じではない。そのいつまでも大事にしたいと抱えていたのを放ってまで駆け寄ってきているようだった。

 

 そんなこちらがアウアウワウワウと、落ち着かなく心配にさせる先輩少女は階段を駆け下りてくれた。無事でよかったという落ち着いた表情と、心配していたという落ち着かなかった表情で。鶴屋先輩のそんな様子がお嬢さんでお姉さんで、俺はとてつもない安心感を抱いた。

 

 

「はは…っ、よかった……」

 

 

 涙声ではないけれど、自分でも情けなさすぎる弱虫な声が吐き出ていた。

 

 

「…シャドーくん?」 

 

 

 一階分だけの階段なのにちょっと息切れしている鶴屋先輩。ついつい御同輩に感じてしまうほど気安く感じる少女先輩。ほんのり俺の方が背が高いハズの身長、誰に吹かれなくても勝手に活発に稼働する風車のようで。そんなのだから、気安く近寄りたくなる、気軽に会いたくなる、気負うことなどない人間関係なんてのをしたくなるお方で在らせられる。今も、そう強く思っている。

 

 そのような気安く気軽なお方で、気負うことなく接せられるお方だからこそ、手早くお返事をせねばならぬ。

 

 

→鶴屋先輩で良かった

よかった、本当に

朝比奈先輩もいますよね?

 

 

 

「あ…っとー」

 

 少し気まずそうなお顔をされている。あまり見慣れないお顔だった。正直、鶴屋先輩にそういうお顔をされて欲しくない。誰よりも気まずくて居心地が悪くなるから。そんな不快感を払拭したくて、安心を得たくてまた声を出そうとする。

 

「鶴屋さ~んっ!!」

 

「朝比奈先輩ッ!?」

 

 

 その前に、階上からぽわっとしたお嬢さんのお声が降ってくる。その声を聞くことに北高の男子がどれほど切望しているだろうか。気が抜けるお声だ。だが、悪い意味では決してない。大半というか八割以上は気が抜けすぎて鼻の下も伸びることになる、北高のアイドル様のお声である。俺のいつも以上に腑抜け顔になるさ。幼馴染からしたら普段と大差ないとかどつかれるけども。

 

「ん~と…で、他の子はどこだい?」

 

「あ~っ、とぉ……」

 

 

 困った。そう、困ったんだ。俺たち三人の安全は一応確認できた。他はまだ不明、それが懸念の一つ。あとは、鶴屋先輩は埒外にいて頂かなくてはいけないってこと。お家側はがっちり絡んでいるけど、次期御当主で在られる鶴屋先輩嬢には何も言われてないし、ノータッチにしとけという念を押されている。それなのに、このような事態に巻き込んでしまった。そもそも我らが団長様ご自身も、不思議探索やらなんやらSOS団の部活動と言えるらしいものに、鶴屋先輩を誘うことも交えようともしていないんだ。

 

 つまり、先になんとかして誤魔化さなくてはならない。

 

 そこで一生懸命降りてきて息を整えている途中のお人。そう我らがアイドル朝比奈先輩に視線を送っておく。よく分かってなさそうだけど、結構察しは良いお方だ。ノリにノッて下さるはずだ。たぶん、乗り上げることはないはずだろうから。

 

 

「ややや、ちょっぴり強引な展開ですいません」

 

 

 と、如何にも慌ててますの態を見せつけて近寄って小声伝達。鶴屋先輩を騙す上に、他にも観客がいるという態のアピール。小走り+無駄にわちゃっとした手の動き、そしてわっざとらしい焦り顔。まさに悪い意味での大根役者、そのもの。役者なれずな動きで誤解してもらうんだ。

 

 

「うん? どういうことかな?」

 

「鶴屋さん、アレです、アレっ!」

 

「あれ?」

 

 

 鶴屋先輩が朝比奈先輩に注目する。ナイスアドリブです、朝比奈先輩。そのまま手をわちゃわちゃ忙しそうにして、時間を稼いでおられる。

 

 

「”コレ”系です」

 

 

 俺は両手の人差し指と親指で長方形を作る。朝比奈先輩も慌てながらも同じように。そして俺と鏡合わせのように、”カメラ”を模した長方形を上下左右に動かした。

 

 

「あ~……そ~いうか~んじなの?」

 

「そうです。そ~んなか~んじなんですよ。なんで、いい感じに。OKすか?」

 

 

 ミニシアターの方は潰れる宣言はされてしまっている。それでも、自作映画の上映ってのはどこでもできるもんだ。場所は限られるし、お金もまたもやかかる。だけど、自作映画の上映は基本的に自由だ。だからこその、次予告としての映像を撮ってます、というフリ。鶴屋先輩も今作でナレーションみたいなのや、給仕役みたいなのをやっていただいているので、これで押通る。肖像権てきなのも押し通れるはずだ。

 

あるわけないカメラやマイクなんてのを気にしないようにしつつノッてくださった。朝比奈先輩はクル○ガ的な視線を弱めてくださる。

 

 

「そっか~。たっしかにそんなののにも丸つけました、あたしも。あー、うっかり、うっかり~」

 

 

 少し大げさな感じの優雅なターンを決める鶴屋先輩。バレエのアレだ。演目は白鳥の湖ぐらいしか知らないけど、優雅さが俺でもよくわかる。演技っぽくない演技だ。ノッてノッてをして下さる鶴屋先輩に感謝感謝だ。

 

 さぁっ、と。鶴屋先輩と一緒に朝比奈先輩の方に振り返る。いきなり俺たち二人の視線を独り占めにした朝比奈先輩は、案の定ハテナマークとビックリマークを飛び跳ねさせた困惑顔に。いい画です、朝比奈先輩。

 

 

「それでは、行きましょう先輩方!!」

 

「行っくぞ~、みくる!! あたしたちの仲間の下へ~っ!!」

 

「へぇぇええええっ!?」

 

 

 鶴屋先輩に腕を取られ一気に階下へ降りていく朝比奈先輩。鶴屋先輩は奔放すぎるようで朝比奈先輩が転んだりしないよう気を付けて、朝比奈先輩も鶴屋先輩が怪我しないように気を付けて、仲良く何処かへ集合しに。それに遅れないように、且つ、少しだけ先に俺も駆け下りていく。

 

 朝比奈先輩が困りながらも俺を見る。それに口パクでごめんなさい、と頭を軽く下げて謝っておく。

 

 申し訳ないんですけど、俺のよく分からなさに振り回されてください、朝比奈先輩。なんとかなります、たぶん。

 

 最後の三段を飛び降りた

 

sKIP sTaRT

 

 

.

 

 

 お昼となった。

 

 今、俺的にはハズレまみれの商品たちをサンタクロースの如く携えている。とてもいい感じな当たりもあるが一、二個ぐらい。

 

 この不快な現象中で更にこのような仕打ち。あな憎し。

 

休息

→うろつく

 

・・

 

 

 あな憎しで、不貞寝などしても何も変わりはしない。

 

 昔の人が言ってたよ、禍を転じてゴールドラッシュって。お金に群がるのは古来からだけど、日本の徳川埋蔵金も同じだよね。どこかのコピーライターがテレビで頑張ってますって番組やってたけど、テレビにそういう映像出すってことはもう埋蔵されてないってことじゃないか。全部掘りつくしたよってことじゃないか。まだ残ってるならテレビで使う前に国が全力でやるよね、違法売買困るし。

 別局の探検隊シリーズも凄まじいファンタジーだったらしいし。あれらを純粋に信じている人って今もいるんだろうか。プロレスをプロレスって割り切れない人みたいにいるんだろうか。みちのくドライバーⅡとか本気でやったら頸椎損傷じゃすまないもの。キン○マンが漫画の世界であるように、プロレスはプロレスって世界を理解しないとね。ファンタジーなのを楽しめる大人に俺も成長しないといけないなぁ。

 

 なんて考えながら校内をうろつくと、見かけたのは二人の先輩少女様だ。

 

 

「おー、シャドーくんじゃないかっ。こんにちわ!」

 

「こんにちわ」

 

 

 お二人が揃うだけで全力で周囲が華やぐ。全く姦しい感じではないのに、花が咲き誇っているのかと勘違いするぐらいに。そのお花様方へご迷惑してはいけない落ち着いてお返事を返しておいた。ミントテロなどしてはいけない。

 

 

「あはは…やっぱり持ってるんですね、シャドーくん」

 

 

 朝比奈先輩がサンタ袋に視線を動かして苦笑された。文字通りにがくてくるしくて笑うしかないんだ。反対に鶴屋先輩は楽しそうに笑っておられる。快活というその文字通りにニッカリとだ。

 

 

「当たり、あるにょろね、シャドーくん?」

 

 

 流石、鶴屋先輩だ。生粋のお嬢様で在らせられるがゆえにご慧眼で在らせられる。俺の当たりは、ある。朝比奈先輩や幼馴染たちからすれば大外れでしかないのが、とても切ないが。

 

 

「ありますよ、鶴屋先輩。とってもよろしい感じな、当たり、が」

 

「ほーほー……、よかったねぇ…」

 

 

 どこかの黒い組織の現場みたいな雰囲気を作ってしまった。蘭はいつコ○ン=○一に気づくんだろう。というか、小一になったからって異性と一緒にお風呂はギルティ。インフィニティギルティ。殺人ラブコメだからって許されちゃいけないよ。許さんぞ。

 

 なんて思考を読み取られたのか知らないが、鶴屋先輩は俺のサンタ袋から目を離し朝比奈先輩へ体ごと向き直る。つられて俺も朝比奈先輩に視線を動かした。

 

 悪だくみが浮かんだ。きっと、俺と一緒のをだ。

 

「み~くっるっ」

 

「えっ? いやです。いやですったらいやですよ」

 

「朝比奈先輩~」

 

「いやですよ。い、や、で、す」

 

 

 にじり寄ることもない俺達から自身を抱きしめ後ずさる朝比奈先輩。

 

 

「いやー、みくる。ロシアンルーレットって逆に考えれば"当たり"を当てることにこそ意味があるじゃないかいっ?」

 

「その"当たり"ってあたしからすれば大ハズレですもん」

 

「ひっどいな~、朝比奈先輩。俺の食べ物全部大ハズレなんですか?」

 

「基本的に大ハズレばっかりじゃないですかっ!?」

 

 

 前に暇つぶしで古泉に集計してもらったが、大ハズレ五、ハズレ三、普通一割と少し。奇跡二分五厘という不名誉を頂いた。奇跡の確率、一割を割ってるのが不思議だ。価値的には幼馴染が百万○ンバブエドル未満とほざいたので、幼馴染のお母さまにテストの点数を告げ口しといた。

 

 その後の幼馴染の顛末を思い出して肩を震わせてしまった。それでサンタ袋からガサゴトと音を立てると、朝比奈先輩が過剰に過敏に反応される。ひゃーっと悲鳴を出されてしまった。

 

 思わず。

 

→プレゼントする

プレゼントしない

 

 

(゜゜)

 

 

「大ハズレじゃないことを祈ってレッツチャレンジ!!」

 

 いい感じに手ごろな台があったので”当たり”を含めてたのを並べていく。個人的には是非”当たり”を引いて頂きたい。そういう気持ちもあるが、俺も”当たり”を楽しみたいので”ハズレ”を選んで欲しいというものもあった。

 

「あ、○ンピースで見たことあるのだ」

 

「○イモンのとそっくりだね~」

 

 鶴屋先輩にも知られているジャンプ看板漫画は流石だ。○イモンのと違うのは本当に中身があることだ。”当たり”マークはサンタ袋の中で外してしまったため、俺にもどれがどれだか分からない。

 

「鍵も凝ってるんですよ、ほら」

 

「わーっ!! ○ーブレードっぽいのだ!!」

 

「うちにある蔵のカギっぽいのもあるにょろね~。古い見た目も本物っぽいじゃないかっ」

 

 じゃらじゃらと鍵も並べる。このゴロゴロとあるのは、カード式でもダイヤル式でもない宝箱たちなんだ。鶴屋先輩が手に取っているのは孫の手みたいな鍵。時代劇とは違って本来の江戸では、この孫の手みたいな鍵を使わないといけないような扉があったらしい。扉を破っても内扉があるっていう二重扉が当たり前だったとか。そりゃ襖や障子なんかでセキュリティ万全なんていかないもんだからね。

 

「どれにします? レディーファーストしますよ」

 

「ふふん、シャドーくん。これは勝負なんだよ、いざ尋常にってね!!」

 

「あたしはどれにしようかなー」

 

 鶴屋先輩は勇ましかった。舞踏会で扇子の代わりにサーベルと携えた女騎士のようだった。ノリがよくて本当に素敵だと思う。持つべきものは楽しくなって下さる方々なんだから。そして、朝比奈先輩が一番乗り気でおられる。一番嫌がっていたのに、とても可愛らしいことだ。朝比奈先輩的に琴線に触れたデザインのものでもあったんだろうか。

 

「んじゃ、俺はコレ」

 

「それじゃ、あたしはこれにします」

 

「あたしの女の勘にお任せしっよ~じゃないかっ」

 

「なら、シャドーくんは野生の勘なんですかね?」

 

「俺って獣カテゴリーなんですか?」

 

「後ろからきてたボール見ずに取ったりしますから」

 

「硬式のボールは危ないから次はちゃんと避けるんだよ、シャドーくん」

 

「はい、分かりました」

 

 先輩少女方からちょっぴり厳しめの目を頂きつつ、俺たちはそれぞれの宝箱に鍵をさす。全力で開ける俺、軽快に開ける鶴屋先輩、慎重に開封する朝比奈先輩。

 

 カチャリ…と誰もがワクワクする音が三つちゃんと聞こえた。全部財宝である。”当たり”だろうが”ハズレ”だろうが、間違いなく宝物が入っているんだ。

 

 結果。

 

 俺は当たりを引けなかった。

 

skIp STRAt

 

 俺的には早い時間の夕飯タイム。

 長門の帰還を合図にみんなでワイワイご飯を食っている。鶴屋先輩や妹ちゃんには、スポンサーからの要望を聞きに行ったりしていたと言うことにしてある。そこら辺のごまかしは喜緑先輩と古泉、たまに俺でとっ散らかしといた。

 その所為だろう、俺の前にはあるよく分からないご飯が並べられている。二人が変な感じのものでの食いっぷりが良かったそうです、と言ってしまったため妹ちゃんが、その、楽しくなってしまったようで……。

 無限ガシャポンみたいなことをした結果がこれらだ。

 スターゲイジーパイなんて生ぬるいことしてんじゃねぇと言うのかマグロの目玉を始め。横たわるのではなく直立するロブスター。日清の方でない謎肉。亀ゼリーなどなど。食べ物は前衛型芸術にしちゃダメだと教わらなかったんだろうかなな連中。○ミさんはテレビが求めてるからノーカン。

 

 食べるんですか。君らは食べてくれるんですか。俺だけが食べるとかそういうわけじゃあないよね?

 

「ねぇ、古泉君、──君」

 

 生贄(とも)達に呼びかける。

 

「口直しちゃんとあるから」

 

「お茶もたくさん用意してますから」

 

 生贄になってくれず、二匹はそう嘯いた。ちゃんと備えてくれるのは分かっているけど、今は御供(道連れ)になって欲しかったよ。あとで○ンハンでくっそ邪魔してやるからな。

 

 

「シャドーくん」

 

「なにかな、妹ちゃん」

 

「コレ、オススメ!!」

 

 なんて素敵な匂いだろう。食欲を間欠泉のように溢れ出させるもん達だ。

 炊き立てのお米の、日本人の魂をくすぐるあの香。脂身と肉がよく焼かれた、原始から続く心を焦がすあの香。ドレッシングになんか負けたりしない野菜の、農耕民族の血も躍るあの香。ジュースにするなど勿体ないという果物の、戦国時代でも目すら潤してきたあの香。

 

 美味しそうだ。旨そうだ。待て出来ないほど喰らいつくしてしまいたい。よしも聞かずに食い散らかしてしまいたい。

 

 この胸焼けしかしないビジュアルじゃなければ。

 

 米。

 ジャパン製のものだろう。インディカ米のようなか細くはなく、ぷっくりふっくらとした一粒一粒だ。精白されているようなので白米という部類でいいだろう。

 丼でごわす。 茶碗一杯などではなく、丼にいっぱいでごわす。しかも、真緑。

 丼の容器に合わせてお米さんが染まっちゃったんだろうか。人工芝よりすごい緑。

 

 肉。

 何処産だかしらない。生産者の顔見せられても、この肉の安全性微塵も理解できない。牛だか豚だか鶏だかも分からないんだ。

 塊肉。肉塊だ。嬉しくならないといけない。こんな緑じゃなければね。添えられたパセリに擬態したかったのかな。エボシドリと同じ色だぁ……。

 

 野菜。

 パプリカっぽいのもいる。トマトっぽいのもいる。だが、景色に変化などない。ドレッシングは当たり前に緑だ。野菜たちも一面緑だ。

 みんな緑色だからボクもっっじゃないんだよ。アーミーメンになってしまったのかな、この野菜共も。

 

 果物。

 緑。全部緑。皮だろうが果肉部分だろうが、全部緑。昔こんな色の電車のプラレール持ってたなぁ、もう捨てたけど。それと全く一緒の色になってんじゃないよ。

 

 胸がざわつく。背中が嫌に冷たい。半袖だからか両腕の鳥肌が止まらない。首筋が訳もなく痒くなっている。

 

 妹ちゃんの左右の女神に懇願する。せめてヘルプを。せめてせめてで、コンペリングなデマンドを聞いて下さいませ。

 

「頑張ってくださいね、シャドーくん」

 

「男を見せるときにょろよっ、シャドーくん!!」

 

 なんて素敵なものがあるんだろう。前にも見た、そして今も見ている。

 

 先輩少女様方は無慈悲な女神さまで在られた。可愛い微笑みと可愛らしいウインクだ。それで美少女パワーが凄くて本当に神々しく思える。一瞬でも気が惑えば容赦なく女神の雷とかやられそうなほどに神々しいんだ。

 女神は現実にいる。この無情なる現実もある。逃げたい、この現実から。しかし、女神の慈悲は限りがあり、無情なこの今も有限だ。

 

 やはり、この現実から逃避など、許されない。

 

逃亡

→挑戦

逃亡

 

 

 

(-"-)

 

 

 

 男は誰でもハジケリストだ。ハジケリストが出てたアニメだってそんなOP曲だったんだから。男は度胸、なんだでもやってみるもんさ。

 

 目の前にあるもの全部が、視覚で感じる時点で何もかもクライマックスだけども。プロローグもなしに最終回なんだけども。なんでだよ、ソードマスター○マトも連載の後打ち切りでアレだったじゃん。一話切りやめてよ。

 

 まず。

 

 まずは、だ。緑を片そう。

 

 お相撲さんの如く豪快に丼を手に抱える。白米に緑を着色したらしいものが中身だ。ママ○モン的な臭いがしないだけマシか。そう思うことも出来ないほどすごく緑だけども。ゆかり的な癖のある匂いもなく、鰹節的な磯系の匂いもない。怖い。

 

 ムッシャラァっと喰らう。

 

 半分ほど丼を片し、肉塊へ。さっきはただの塊だったはずだが、食べやすい感じに切り分けられていた。視線を向けると鶴屋先輩のようだ。切り分けたナイフを丁寧に片しておられた。しかし、誰も手を付けていない。一部分も減っておらず、総重量は変わっていない。中身はそれなりに肉色をしている。が、ソースだかなんだかが染み込みすぎているのか。熱が入った証の茶色が妙に緑色もしておる。ずっと怖い。

 

 バクバクと喰らう。

 

 八割ほど肉を喰らうと、サラダ(真の姿)へ。食べやすいように小皿分けされている。おそらく鶴屋先輩がやってくださったのだろう。朝比奈先輩も手伝ったんだろう。案の定誰の手もついていない。一口ぐらい食ってくれよ。あちらこちらが緑緑緑。どうなっとるんだ。ここは○鷹の森なんですかね。普通に怖い。

 

 ジャクジャク喰らう。

 

 野菜を含め、米も、肉もすべて片した。最後のは、そう果実。フルーツ。色取り取りであるはずなのに、相変わらずグリーングリーン。ここで緑広がらなくていい。こんな局所に緑いてもカーボンニュートラルにならん。俺が過呼吸になって逆に悪化するぞ、色々と。もう全部怖い。

 

 もっしゃりと喰らった。

 

 すべて片した。

 

 緑はもういないんだ。もう何も怖くない。

 

 拍手してもいいぜ。歓声あげてくれてもいいぜ。胴上げしてもいいんだぜ。胴上げの時、ちゃんと掴んでくれよな。天井で勝利にキスなんてしたくないんだから。

 

 勝鬨をあげようじゃないか。俺はチャレンジャーからスーパーヒーローになったんだから。○ーマン四号的な的なヒーローさ。中年スー○ーマン左江内で他の○ーマン達よりも大人っぽいのカッコいいよね。その様を真似て、それではと、行儀よく座っていた椅子から立ち上がろうとした。あ、という悲鳴に近いか細い声を聞いた。男どもの声なのにやたらか細い女々しい声だった。

 

 それに笑いかけてやった。なにを不安になるのかと。

 

 が、しかし。

 

 笑っている場合ではなかった。今不安になるんだ。

 

「次はね~」

 

 並ぶ。グリーンが、並ぶ。机に緑様が浮かんでいる。一人用の机ではない。今使っている食堂の机は多人数用。横に長い長方形型だ。俺の肩幅は半径四十弱ぐらいだが、その四倍ものの広さが緑で生い茂っている。

 

 鶴屋先輩に縋った。明るい笑顔で、俺用にいい感じに分けてくれている。感謝しないといけないが、お辛い。

 朝比奈先輩にも縋った。楽しいという笑顔で、俺専用にいい感じに分けて下さる。感謝感激しないといけないが、とてもお辛い。

 佐々木は、笑っているだけでとてつもなくムカつく。あとで○味ビーンズのマズ味の嗾けてやる。

 

「頑張ってね、シャドーくん」

 

 そうした鶴屋先輩のお優しいお声掛けに、もうずっと色々と泣きそうだった。

 

sLhP STsZt

 

 

 

……>\(^o^)/

 

 

 

 自分にお悔やみ申し上げたい状態だ。それでも、どうにか夜を過ごしている。胃の方は大丈夫だが、マインドブレイクしかけていた。

 

 味が分からなかった。最初の緑四天王からしても味が分からなかったが、その後の緑ラッシュもよく分からない状態だったんだ。○ルナレフじゃなくて宇宙空間に放り出されたカー○状態だったんだ。緑は目にいいって言うけどさ。あの時ほど目に良くない色でしかないじゃないかっと思ったね。今なら青信号ほど止まっちまうぜ。渡れるかよ、怖いんだよ、緑がよぉ。KCの若手社長もも緑が怖いから茶色に変色したんだよな、絶対に。

 

 そんな感じで軽く横になっていたら、すでにゴールデンタイムに突入している。夕食が六時で、食べ終わったのがその一時間後ぐらい。俺だけさっさと自室に引きこもっていたら、もうこんな時間。

 別に不貞寝とかでなく、色々と落ち着けるためだ。携帯片手にもう少し秘蔵の胃薬を漁っていただけだ。

 

 歯磨きなんて夜のケアも終えて、後は寝るだけ。ちょうどいい感じの眠気も来ている。そしてなによりゴールデンタイム中なんだ、今が。そう今こそ眠りにつき、第二第三なんて言わずオリジナルな俺が身長的な意味でパワーアップできるんだ。

 

 うつらうつらとする頭とお目目。それを妨害するかのように手が振動する。いや、自分で振動しているわけじゃなく手の中にあるやつからだ。

 携帯である。前の機種は画面が回転するのが面白くて遊んでいてすぐ壊した。その所為で流行り型とは程遠いデザインの携帯さんである。メアド交換する時ほとんどの人がおじさん携帯だーと小ばかにするほどだ。色なんてシルバー、黒、白ぐらいしかない。うちのお父さんの携帯の方が若いんだ。肩掛けお電話世代より古びたデザイン所持は逆に新しいのでは?

 

 そんなことを思いつつお相手確認だ。

 妹ちゃんなら相手にしないと拗ねられてしまう。喜緑先輩や長門は重要なお話なのでお相手しなければならない。佐々木、面倒なので適当に応対しないといけぬ。幼馴染は電話するからなし、古泉も同じく。

 

 あとは朝比奈先輩か、鶴屋先輩かだ。

 前者の確立の方が高い。同じSOS団の団員同士だからだ。あの北高のアイドルで在らせられる朝比奈先輩のお相手なら苦労などと思わない。北高男子なら臓器全部売っぱらってでも欲しい権利なんだから。

 

 なんだけど、意外なことに相手は鶴屋先輩のようだ。

 

 それなりにメールをしたりする仲だが、基本的に学校で話している方が時間も回数も多い。メールは稀だった。

 鶴屋先輩はハルヒのSOS団の顧問様であるが、そのSOS団の活動に参加するわけではない。運動部の熱血根性論信者系先生のように部員全員と明日へ向かってダッシュ!! をするわけじゃない。

 鶴屋先輩の主な活動といえば、顧問という名義だけの存在なんだ。団長様自体が、不思議探索に鶴屋先輩を参加させることもない。それに倣ったわけでもないけど、俺も鶴屋先輩の接点はほとんどない。朝比奈先輩が入団しなければ本当にゼロな関係だったろう。北高のアイドルのお友達ってリアルお嬢様なんだぜ、という情報しか得られず、北高の三年間はそれだけで終わったはずだ。

 

 袖振り合うも多生の縁なんだなぁ、としみじみしつつ内容を読む。

 

 無茶ぶりについての謝罪と、体調を気遣ってくださるお優しさ、”当たり”についてのお話だった。

 

 やはり教養の高い方だ。メール文は砕けているものだけど、話の流れが綺麗だった。意味も分かりやすく読みやすい。現代文の模試のやつらに見習わせたいほどだ。本当に見習ってほしいもんだ。自分の知ってる言語なのに目が滑るしかないんだもん。外国語の翻訳も微妙なら、自国の言葉も不自由な国なのかな日本って。電車男に倣ってバス男って題名に変えたりとかね。ナポレオン・ダイナマイトってタイトルから、バスってどう考え付いたんだろう。ちゃんと怒られてね。

 

 お返事メールを送らねば。いや、ここでメールだけで感謝の言葉は失礼かな。面と向かって感謝の言葉を言わないと失礼か。

 

 携帯は次のメールを受信していない。明日、自分の口で言えばいいかな。

 

→メールする 

メールしない

 

 メールだと言えど来たからには即お返事せねば失礼だろう。

 お父さんが新社会人の時そういう関係でこっぴどく叱られたんだよ、と酔いつぶれながら話してくれた。昭和世代だからか、部下を顔が腫れるまでボコボコにするのが美談扱いだ。鉄は熱いうちに打てとは言うけど、人をボコボコに打つのはただの暴力じゃないのかな。

 

 それらとは違い、鶴屋先輩は口より先に手が出るタイプではない。

 話し合える相手なら対話をしようとするお方だ。朝比奈先輩関係でそういう系のお話を聞いたことがある。テレビに出るアイドルにもそうだが、どこでも変な妄想を押し付けてくる輩がいるんだ。

 

 アイドルはトイレしないは、本当におかわいいレベル。もうちょっと浅ましいレベルだと、おねだり上手だと。大分愚かしくなると、媚売りだけで生きてる。排泄物未満ランクだと、誰彼構わず使ってもらっている。

 

 そういうのが、大変悲しいことに北高にもいたんだ。しかも、男女問わず。女の子はともかく、男でもいたのはとても侮蔑を感じざるを得ない。陰湿なことに面ではただの純粋なアイドルファンだったようだから救えぬ。千手観音もその手で張り手しまくるだろうぐらいに救えぬ輩だ。そういう奴らの相手をして下さったのが、あの鶴屋先輩である。

 

 話ができるやつにはそれなりな温情を。話が少ししか出来ない奴には少し仕置きを。話も出来ねぇのには、処罰。

 

 まず、話してみてからのご判断である。初手暴力ではない。この二十一世紀は世紀末ではない。モヒカンが跋扈していないし、お札は尻を拭く以上の価値はある。一部では本当にケツ紙以下だけども。

 

 お嬢様としての教育からか、どういうふうに相手するのか、のご判断のためだろう。その時に明確にするのはやらかしている理由ではなく、誰と話しているのかだ。明確に、誰を敵にしているのかを教えてやるのだ。主導権を握る、というよりも、首に刃物を突き付ける。

 前者は行動制限はあるが動ける。後者はもう生殺与奪間近だ。今後の北高での生活に関して、生き地獄がいいか火あぶりかを選ばせるようなもんだ。

 

 その後は簡単だ。

 

 誰と話しているか、ということが分かる馬鹿なの、分からないの、どうでもいいやつの、この三種に分ける。分かる馬鹿は、温情としてしばらく肩身が狭くなるだけ。ある程度過ごしていれば比較的自由になれる。分からないのは、仕置きだ。おめぇの席ねぇからっ!! なんてしないが、皆が余所余所しくなる。北高にいる限りずっと腫物扱い。

 

 本当にどうしようもねぇのは後日、自主的に転校などの手続きをしたようだ。鶴屋先輩はご自身の家の力を使っていない。お話しただけだ。色んな人にお話をしただけ。ご自身の家の関係者以外の方とのお話合いだけだ。学校でも、お家でも、どこにいたって針の筵になったらそうなるよね。

 

 話している相手が、あの鶴屋家のと気づく前に。朝比奈先輩のご友人であることに気づくべきだった。友達がいじめられてるのをほくそ笑む、なんて性悪お嬢様ではない。かといって、お友達をペットのように愛でるだけの、頭花畑お嬢様でもない。

 

 普通の友達だった。

 朝比奈先輩が楽しそうにしていれば同じように。悲しんでいたり困っていたりしたら何とかしようとしてくれる。それを、朝比奈先輩側からも遠慮なくやれる関係。素晴らしき友情だ。女の子の友情は本当に綺麗だな。きっと、俺達みたくゲームからのリアル乱闘なんて絶対にしないんだろうなぁ。

 

 そうやって思い耽っていたらもうあれから五分以上経っていた。まずい。急いでお返事せねば。

 

 年賀状もちゃんと書かない男だが、誠心誠意感謝をお伝えせねば。

 

skIp StŮts

 

 

 

 

 

二日目

 

./././././(';')?

 

 

 

 

 朝だ。

 

 カーテン越しに暖かそうな陽光が、朝を教えてくれる。徐々に覚醒していく頭が、今朝というものを理解していく。何の変わり映えもしない朝が来たのだと理解する。

 昨日の異変時であるのにいつもの学校であったように、今日の俺の部屋もいつもと同じだった。昨夜充電器に差したままの携帯の位置なんてのも一ナノも変わっていない。

 

 昨日頑張った俺の胃は絶好調だ。

 変にムカムカとしないし、重たい感じもしない。胃から口までに不快な圧迫感なんてのもない。胃薬様のおかげである。流石秘伝だ。

 どこかのゲームの秘伝マシン要員はやっぱり大事なんだなと確信する。マサキんちら辺でセーブして、再起動時にマシン要員いなくて泣く泣く初めからになったあの頃よ。トキワシティの爺さんの無限ループでもやったなぁ。俺もなんであんなにコラッタと捕えまくってたのか謎だ。努力値なんて存在なんにも知らなかったのにね

 

 ゲームボーイの重量感も思い出しながら着替える。感謝を伝えるのなら、キチンとした服にしないといけない。髪の毛は、猫毛だから軽くなんかつけといて整えよう。いつの間にかぐちゃぐちゃになったのを隅に置いといて、いい感じにコーデしとく。

 肩幅と筋肉がそれなりにあるから、ちょっと面倒くさい。肩幅に合わせると腹回りが合わないし、服の大きさと俺の背丈的に太ももの半分ぐらいまでの長さになったりする。体操着忘れて幼馴染のを借りたときの、あの屈辱は決して忘れない。女友達にもかわいい~とからかわれたあの屈辱は決して忘れんぞ。

 

 とりあえず、しっかりとした服装にはなった。本物のお嬢様からしたら、及第点すらいかないのかもしれないけどさ。最後に寝ぐせや変なしわとかもないのを確認して部屋から出た。

 

 部屋から出て向かうのは食堂だ。

 当たり前だけど、いきなり男が女の子の部屋へ出向くのはいけないことなんだ。少女漫画のデライケメンも創作の世界だから許される。現実でやったら百年に一度のイケメンだろうと通報されるもんだ。特に親しき仲にも礼儀あり。たとえ交際しているからといってもアウトなものはアウト。

 親子関係でももちろんアウト。これは男女逆でも言えることだ。うちのお母さんみたく勝手にお部屋クリーニングしてくるのはもちろんアウト中のアウトだ。俺のじゃないけどお秘蔵ブックをわざわざきちんと並べておいたのは絶対に許さない。

 

 ともかく、食堂に行けば必ず会える。体調がすぐれなかったりしなければのお話だけども。

 

「あっ!!」

 

 元気な少女のお声がすぐ近くで聞こえる。きっとその兄も近くにいて、同じく男団員もいて、他の女の子たちも一緒にいるってことだ。降りている途中の階段から上を見上げる。案の定、喜緑先輩と長門を除いて勢ぞろいだ。

 

「おはよー、シャドーくんっ!!」

 

「おはよう、危ないから飛び降りないでね」

 

 察しのいいお兄さんに捕まえられている妹ちゃんに挨拶を返す。頑張っている兄と念のためその補助をしている古泉にも軽く手をあげて挨拶しとく。

 

 そして、他のお嬢様方にも挨拶をしなければいけない。

 

 

 

→「おはようございます、鶴屋先輩」 

 

 

 

、、

 

 

「…んんっ、おっはよう、シャドーくんっ!!」

 

 元気にご挨拶して下さる鶴屋先輩。やっぱりいい。声が明るいのがとってもいい。朝からコチラも元気になれるいい挨拶だ。

 いっつもだるい授業の号令も鶴屋先輩のお声だったら、ちゃんと勉強できるだろう。気合いが入るお声だ。応援団のような、とはまた違ういいお声。あれはバズーカのような攻撃力特化のものだ。お前も殺る、俺も殺るみたいな感じ。決死隊。

 

 鶴屋先輩のは、アシストって感じ。大乱闘的な方ではなく、ご助力というのだ。背中を押してくれるっていうのかな。流石はお嬢様だ。どんな感じなら人が自ら動こうとするのか、そういう扱いに長けておられる。

 

 そのおかげで俺は調子に乗ったんだ。

 

「朝から鶴屋先輩の素敵なお声が聞けてとっても嬉しいです。毎朝とは言わず、毎秒ご挨拶してしまいそうになるほど本当に素敵ですね」

 

「ん? シャドー、僕たちはハブなのかな。それとも、あえての、無視かな? ははは、これはこれは……今後のお付き合いを考えなくてはならないね。そう思いませんか、朝比奈さん」

 

「そうですねー。私たちは置いておいて、っていうのはとても頂けません。教育的指導も考えないといけないかもです」

 

 なんだか怖いことになっているので、調子を下げた。

 

「おはようございます、朝比奈先輩。佐々木も、おはよう。いい天気でございますね。こんなにいいお天気なんだからダイヤモンドリングも見られるかもしれませんねー、へへへ」

 

「僕は金環日食の方が好きだから、今日はそんなにいい日にならなそうだね」

 

「あたしはブルームーンの方が好きなんですよね。日食も月食も本当に真っ暗になるのが怖いですから」

 

 バッドコミュニケーションだ。あなた達のそういう情報知らないよ。俺は適当に口から出ただけだもの。

 

「ははっ、たっしかにその二つもいいよね。金環日食なんて人間が見ることができる最大の金の指輪。海外だと金の指輪をしているってことは結婚しているって認知だものね。女の子はそういう目に見えるものが大好きだもん。まったく佐々木ちゃんってば乙女だね~」

 

「あへぇっ!?」

 

 面白い。二重の意味で。佐々木からすればただの美術的とか天文学的にとかの理由だろうが。佐々木も女子(おなご)なんだな。

 

「キョンくん。月って青くなるの?」

 

「あぁ? お前幼稚園生の頃に月のこと青く塗ってたろ。知らないで塗ったのか?」

 

「青色ってキレーだよ?」

 

「そういう意味じゃなくてだな」

 

「ブルームーンには言い伝えがあるんですよ、キョンくん。ブルームーンの明かりの下で出会った男女は恋に落ち、恋人たちは永遠に結ばれるって言うね」

 

「ときメ○じゃんか」

 

「むしろ○ーンライト伝説的かと」

 

「あたしせつなちゃんがすきー」

 

 と言うのを背景にするまでもなく、目の前の会話に集中していた。鶴屋先輩の愛のあるイジリが炸裂しているからだ。

 

「ブルームーンが好きだなんて、みくるは本っ当に可愛いよね~。あれって好きな人と一緒に見ると幸せになるっていう【奇跡の満月】だもんね。ブルームーンに恋のお願いをすると叶うってのもあったし、ジャズやザ・マーセルズもカバーしたブルームーンもみくるは好きだったよね。あれも素敵だよね。寂しそうなラブソングであり、あの大恐慌時代が生んだ人恋しさに寄り添ってくれるような癒しソング。そしてなによりも、人生の応援歌だもの。あたしも好きだよ、ブルームーン。みくるはラブソング的な意味での好きが強かったっけ?」

 

「つ、鶴屋さんッ、しーっ!! しーっです、しーっして下さい!! シャドーくんたちの前ですからぁっ!!」

 

「んー? あたしはただ曲がいいとかのお話をしているだけさ。お口チャックするところなんてどこにもないじゃないか」

 

「いや、そうですけど…。ほらっ、男の子の前で、その、ラブソングが好きというのは……」

 

「ブルームーンが好きってだけじゃないか、みくる」

 

「あ、はい、好きです、けども」

 

「ラブな意味でさ?」

 

「あ~~っ!! もうっ、やだ~~~っつ!!」

 

 鶴屋先輩は強かった。圧倒的強者だった。天下無双でござる。流石生粋のお嬢様であらせられる方だ。扱いが、操縦が、上手すぎる。やっぱり○ータイプ、○ータイプなのか?

 

「そういう鶴屋先輩はダイヤモンドリングってお好きですか?」

 

 素朴な疑問を投げた。別に好きでも何でもない、というのがこの流れであって欲しくないというのが、一つあったから。一応の確認作業である。

 

「……えへっ」

 

 愛らしいスマイルでの返答だった。愛らしいんでワンモア欲しい。おかげさまで俺は調子に乗った。

 

「俺はアレ好きですよ。あんまりにも綺麗だから誰かに捧げたいーと思うくらいに好きです」

 

 いい感じの返答を期待する。バラエティ映画の撮影中という体も初日にやっているし、鶴屋先輩ならウケるものを見せて下さるはずだ。このメンツでは薄い関係であるが、仲良しの自信がある。有名な漫才コンビの正司敏江・玲児のどつき漫才も、伝統芸能の方の萬歳なんてのも鶴屋先輩となら二人とも全力で楽しみながらやれる。

 

 そういう体当たりができる人。それを加減して跳ね除けてくれる人。そして、ずっと仲良くしてくれる人。

 

「ふふ、そうだね、あたしも誰かにああいうの捧げて欲しいかな」

 

 愛らしいものだ。とてつもなく、愛らしい。本当にお嬢様らしく愛らしかった。

 普段の大口を開けて笑うのも素敵で愛らしく思う。あんなに大きく口を開けてるのに、がさつで下品さとか女っ気のなさとかはないのが素敵だった。

 普通に口を閉じて笑うときも、女性の卑しさとか女性らしい陰湿さはない。それも間違いなく素敵だ。女性だからというフィルターなく、愛らしいと思うものだった。かといって小動物的なものでもなく、蔑んでの意味など全くない。鶴屋先輩だから、愛らしいのだ。

 

 それが、またよくわからないのが、今だ。

 

「っとかなんとか、思ったりしっちゃったりなんかする時もあ~るんじゃないかなっ」

 

 愛らしいものを見せて下さる。いつものような太陽サンサンっていう明るく元気なの。鶴屋先輩らしいお顔だ。

 先ほどの、女性的過ぎるからのものではなく、鶴屋先輩の素敵さが溢れんばかりのものだ。それならば、いつものような調子で返しておかないといけない。

 萬歳も漫才も男女のアレソレは見苦しくってしょうがないもんだ。みんなを笑わせるものに、余計なものを混入してはならない。如何に面白いかを見せつけるものだ。如何にその為人を気にさせてはならないものだ。

 

 いつもなら自然に出来るものが、なにもまた出来なかった。俺は呆けたようにしていただけだ。

 

 ずっと、ドえらいヘンテコリンなことがまた起こっている。

 

 この瞬間から、鶴屋先輩へまた何かが始まったんだから。

 

 

 

→SKIP STaRT

 

 

 

 

 朝礼的な感じで喜緑さんのお話を聞いた。

 

 良い感じに過ごしてくださいのことだ。これは妹ちゃんと鶴屋先輩宛てだ。俺達には普通にいつも通りに過ごしていて大丈夫です、なんとかしますから。とあとでお伝えもされる。頼りきりで申し訳ない。俺も俺でいっぱいいっぱいでいる。その様から、頑張る方がいいですよと見送られて終わった。

 

 朝食は完了した。詳細は省く。朝のアレから味がよく分からないんだ。妹ちゃんの無限ガシャポンでの一品に、いつもみたいに興奮と脂汗をかけるはずだった。実際、恐怖的なもので色々あったんだろうけども。朝のアレの衝撃が凄かったから俺自身での印象は薄っぺらいものだ。

 

 アレはショッキングというわけじゃない。かといってインパクトとも言い切れない。

 野球で例えるなら自打球をしてしまった、ボクシングでいうならスリップダウンをしてしまった、という感じが多分あっていると思う。要するに自爆。命中百で、実質の威力が二倍にもなるあの技だ。しかし、その威力も全部自分に来るのが今の俺仕様。瀕死の上に死体蹴りされた状態だ。そりゃ味がどうたらこうたらなんて分かるわきゃないよね。

 

 そんな瀕死中の俺は、こうしてお昼に入る後少しでも苦しい。喉元から胸周辺が今も摩り続けるぐらい重苦しい。かなり今も重苦しいんだ。その上、食用じゃないのにバランを食べてたりしていたようだ。

 なにをやっているのだ。

 

 ここが本来の学校でなくて助かった。

 

 いつもの学校なら昼ごはん前に数学なんて拷問の何物でもない。どこかの有名人が数学は暗記ゲーと法螺を言っていた。実際大まかに見ればそうなんだと思う。証明問題とかそういものらしいし。あの有名な東大も教科書に載っているそのまんまを出題したとかなんとかの噂を聞いたことがあるし。

 それでも、だ。数字の羅列を見ると頭痛を起こす人間はいる。文字の羅列でも同じだ。点Pなんて奴はぐるぐるに拘束して監禁されて二度と動くなと呪うこともあったし、確率の問題で自分が書いたものすら何を記していたのか分からなくなることは毎回毎回起こる。

 

 だけど、全部答えがある。算数のように先に書いておく数字が違うから、答えがあっててもバツとかいうこともない。計算式のもので答えを書くだけならば、式が間違っていても答えがあっていたら正答にしてくれる。記述式ならば、途中から間違えてしまってもその前が合っていれば加点してくれることもある。

 

 数学とは正しさを求めることができる学問だ、とテレビでどこかの教授っぽい人が言っていた。フェルマーの最終定理の本ので、この問題の美しさは小学生でもわかるように述べられたパズルのように理解が簡単だから、とかもある。

 

 確かに、分からないが分かるになるのは面白いことだ、快感だ。でもそれは、ある程度分かってから、なのが前提だろう。なにが分からないのかすら分からないなら、苦痛で苦行で拷問でしかない。

 数学の証明問題のように、何を証明すればいいのか、ということが既に分かっていればいい。ゴールが決まっていて、そこまでの道程も知っているのならとっても簡単だ。その道程も数パターンはあろうが決まっているもので、差異は然程なく加点も減点も分かりやすい。

 

 けれども、この現実社会は算数を求めてくる。各々の気分で正答したりされたりする。みんなそれぞれの心の配分次第で加点減点するものだ。非情にもどかしい世界だ、二十一世紀さんは。

 

 誰かの好意に±。誰かの含意に±。誰かの本意に±。

 三六五日二四時間月月火水木金金寝る間も惜しまず、過敏に注意過信な傾倒過剰な雑言、南無阿弥陀仏。

 

 でも、過激仏教徒でもない俺は、日差しを避けて壁に寄りかかる。まったくよー、人間ってのは大変だ。そりゃ一揆や革命してないとやってられんね。

 そう思っていると尻ポケットが振動した。妹ちゃんからでもなんか来たのかもしれない。妹ちゃんは察知能力が凄いから、なんか知られたのかも。友達のエスパー君よりもよっぽどエスパーだ。マインドリーダーというかエアーリーダーというか、エアコンディショナーみたいなところがあるからなぁ。

 

 携帯をパカリと開ける。案の定受信しているとアイコンが主張していた。キーを操作し開封する。親しき中にも礼儀あり、女の子は待ってられないもの。機嫌を損ねられたら困る。

 

 やばい、もう困った。

 

 メールの人は、鶴屋先輩だったんだから。

 

 

MOde off

 

 

 念のために胃薬あげるから、保健室においで

 

 そういう内容だった。やはり先見の識がある方だ。帝王学とかで習得できるスキルなんだろうか。

 

 とりあえず。

 

 

 

 保健室に向かう 

→返信する 

 

 

}}}

 

 

 お父さんが会社で一番最初にやる仕事はメール確認と言っていた。

 その確認の確認とか、さらにそれの確認とか確認いつまでどこまでするのかキリがないくらいやらねばならないらしい。字を書き間違えたならわかるけど、特にひどくもない字で癇癪を起されて破談になったこともあるらしい。昭和全盛期人間の沸点どうなってるの。

 

 返信も大事である。一日遅れてなど論外、首を吊れとどやされるレベル。一時間遅れも論外、首切れと怒鳴りまくるレベル。十分遅れで返信などは指詰めろと睨まれるレベル。と、しみじみお酒飲みながら言っていた。恐ろしい時代の人間だ。二十一世紀の人間が、こんな堅気じゃないのしかいないなんて恐ろしい。そりゃあ、青狸の世界ではロボットに子守りまで任せられるようになるさ。大人になっても赤ちゃんみたいな癇癪で社会を作るってすごいよ。

 

 当然だが、鶴屋先輩はそういうお方ではない。一日遅れ程度の返信なら、忙しいところ悪かったねとか添えつつ謝罪の機会をくれるだろう。一時間遅れだったなら、急がなくてもいいよと初めに置いて寛大な大人をしてくれるだろう。十分遅れなどならば、急かしちゃってごめんねを可愛らしい絵文字付きで終わりに占めてくれるだろう。

 

 それでも先輩様で、女子高生様で、お嬢様なんだ。

 

 こんな俺でも自然と敬える先輩様だ。朝比奈先輩とセットでいることが多いが、交友関係は北高で括っても幅広い方。俺が新入生の時でも鶴屋先輩の悪評なんて一つも聞いたことがないくらい、尊敬すべき先輩様である。

 当たり前だが女子高生様でもある。北高の女子制服がよくお似合いだ。邪な意味ではなく、女子高生っていいよねと思えるらしさがある。○ガジン系の女子高生感とは違う、サイダーのようなスッキリ爽やかで俺のモラルを守らせてくれるものだ。

 正真正銘のやんごとなきお嬢様であらせられる。普段の快活なお話しぶりや、朝比奈先輩に対する俺たち向けのご褒美な行動で見えにくいが、所作が間違いなくお嬢様感がある。手一つでも、指一本だけでも、鶴屋先輩に傾注させることが可能だ。ただの呼吸一回、話し始めの口調、それだけで鶴屋先輩を無視できなくさせるなど容易いことだ。人としての格がどれほどなのか頭で考えなくても覚えこませてくるお方である。

 

 その方の御前で無礼はならぬだろう。指を詰めながら首を切りつつ吊り上げるなんて高難易度にはならない。A piece of cakeなことになる。鶴屋先輩に無礼はTake the cakeだ。な~んてお阿呆なんでしょう、このうすらボケ太郎は、となる。介錯抜きの腹切りをせねばならない。

 

 とにかく、せっかくこのようにメールをいただいたのだ。とりあえず突撃隣のなんちゃらせず、まず一つ置いてから冷静に的確にお薬を頂きに上がろう。

 

 

 

とりあえず一言だけ送るか

→二、三文ぐらい送ろうかな 

 

 

.

 

「えっと…」

 

 長々打ち込むのは指が辛い。予測変換機能があるとはいえ、それも完璧に予測してくれるわけじゃない。すま、まで打ってからの予測変換でスヌー○ーとなったことがあるんだ。本当はスマッシュってやりたかったのに、そうなったので流石の古泉も困ってしまっていた。そりゃあ誰だってテニスの話しているのに、いきなりコンタクトレンズ愛用のナルシーな犬が出てきたら困惑するに決まっている。その後は電話に代わりテニヌではスイングで空間を削れるのかどうかで盛り上がって、お母さんにシバかれたんだけどさ。

 

 ちょっと長すぎると困るものだ。エスカレーターの終わりでそのまま一息ついちゃう人とか、ゲーセンのとあるコーナー占拠とかさ。ちょっと別のとこで一息入れておいてほしい。あまりにも簡素も困るもんだ。トイレの後水ちょいで終わらす人とか、白い服だからスケスケてしまっているセンシティブなお人とか。もうちょっと段階を踏んでいただきたいものである。

 

「まず感謝で、あとは…どんなのを送ればいいのさ?」

 

 参考例一:佐々木、論外。参考例二:妹ちゃん、違うでしょ。参考例三:朝比奈先輩、勝手が違う。参考例四:長門、別物。参考例五:喜緑先輩、別種なので。参考例六:女友達ズ、取り扱いが違います。

 

 鶴屋先輩とはそれなりなお付き合いだ。基本はうちの団長様の保護者、ではなくSOS団名誉顧問として、朝比奈先輩の親友として、知人以上の関係ではあるはずだ。こうしてメールもたまにしたり、学校で部活時以外でも見かけたら挨拶し合って雑談するぐらいの関係である。声をかければ気軽に付き合える気安い仲だと言える。生粋の名高いお嬢様様になんて厚かましいのだと思うが、鶴屋先輩が本当に慈悲が深い方だからこそ、こんなこと言えるんだ。

 

 お金持ちという人にはたくさんの人が集まる。金という概念が出来てから、人間はお金の臭いを覚えたからだ。時代劇でもVシネマでも、海外ドラマでも、歴史から見ても、お金は人を踊らせるものだ。だから、お金持ちさんは性格悪くならざるを得ない。どこかの二枚舌どころか百枚舌の国のような処世術で生涯生きていくしかない。右手で握手、左手にナイフだ。

 

 そういうのがパンピーな俺でも鶴屋先輩から嗅ぎ取れない。社交界デビューもしてないねんねだからとか関係なく、普通に女子高生で普通に先輩少女をされているからだ。所作は間違いなくお嬢様していて一つ一つお綺麗であるが、口調は砕けており瀟洒なものではない。振る舞いも庭師に草花の調子を問う楚々としたものではなく、自分も土を弄って花壇を作る小町娘さんのようなものだ。

 

 可愛らしくお綺麗で素敵な先輩少女様。お近づきになれて恐悦至極、というよりよかったなぁという言葉がしっくりくる。

 

 それがそうなるのは朝比奈先輩の方だ。高嶺のお花様であるのだ、相応しい言葉だろう。鶴屋先輩のお家の方々には大変無礼だろうが、よかったなぁと言ってしまう。アイドル様はアイドルなのでお近づきなんて恐れ多い。鶴屋先輩は、なんか変な意味じゃなく近くにいたいという感じだ。男だ女だとか関係なく、友達という関係になれる。きっと俺と同級生だったなら、鶴屋先輩に告白なんてしていたぐらいに魅力的なんだもの。先輩様でよかったんだ。

 

 とにかく、なんとか打ち込んで送信する。三回ほど見直したけど、特に謎変換も誤字もなかった。その場に留まって送信しているという画面を見る。

 この携帯さんは加齢臭がしそうな見た目通り、ちょっと動きがのっそりなんだ。送信中も受信中も六回に一回ぐらいはできませんでした、という表示が起きる。電波的にな問題もあるが機体差が主な原因だろう。どこかの赤い人でもこの性能の違いには口をつぐんじまうんじゃないかな。

 

 一分経ったが完了してくれていない。あと十秒経ってもダメなら中止にして送り直そう。深呼吸の間に済んで欲しかったが、やはりダメみたいだ。中止にして再送信する。画面は新しい送信中を表示した。眺めていると、画面が変化する。

 

《送信完了》

 

 今日の携帯さんはそこそこ好調のようだ。一回失敗すると失敗から何も学ばず、失敗を更に三回ぐらいするのがこの携帯さんである。ちゃんと系列店で買ったのにあんまりだ。新機種をおねだりしたいが、また壊したのか、と恒例の正座で説教を喰らいそうなので我慢しよう。

 

 ちょっとばかしへっぽこさんな携帯を尻ポケットにしまって保健室へ駆け出した。

 

 お待たせは無礼千万の首切りなのだ。

 

→SKIP STRAT 

 

...

 

 

 トントントン、と三回ノックをしておく。テレビで二回ノックはマナー違反だと高名なのだとされるマナー講師様がおっしゃっていたからだ。お父さんの会社でも恒例になっているものたちもあったので間違いじゃないだろう。判子まで頭を下げないといけないの大変だなぁ。

 

「どうぞ」

 

 常駐サンドベージュの毛布にくるまれて睡眠中の団長様以外のお声が返ってくる。先ほどメールをして下さった鶴屋先輩で間違いない。

 

「失礼します」

 

 と、高校受験以降使っていない面接作法を頑張る。扉を開けたから閉めて、もう一度同じようにお声掛け。その後に己が何某かの紹介をして一礼、だったと思う。

 

 結果は、オイル切れどころかかじってしまっているようになった。一夜漬けの力ってのは半日以上もってくれないのだ。

 

「うん、六七点!!」

 

 ちょいまずめの批評であった。こないだの数学のテストと同じ点数だった。

 

「元気良いとこも花丸さんだけど、所作がビート板でちゃんばらしちゃうチミっ子ちゃん感がありすぎるね~」

 

 そう言いながら、用意して下さったお薬を渡して下さる。

 

「この二種類は眠くなりにくいやつ。この箱のやつは食前に飲んでね。粉薬の方は寝る三十分前。どれも一日全種類使わず、一日一種類だけ飲むんだよ。ま~、お若いんだからお薬に頼り過ぎはお控えなすってよね~」

 

「なるべく前向きに検討いたします」

 

「面接のお勉強に付き合わせてあげようじゃないか、シャドーくん」

 

「ここだとあんな感じでも受かったんですけど」

 

「面接ってのはねー、受験の時のも会社のやつのも、また色々な別のとかたくさん作法があるんだよね。うちんとこでそれはないわーってのが面倒くさいんだよ」

 

「お国柄ってのです?」

 

「日本人も皆一括りで日本人って言えないのさ。長野県民さんのことを信州人って呼んでくれないとムッとする人多いよー、みたいなね」

 

「御座候(名義多数)みたいな?」

 

「それは色々大変になるからお口チャックしとこう」

 

「イエッサー」

 

 発音も頑張りましょう、と先生のように言いながらお薬たちを袋に入れて下さる。あれ、ビニール製のじゃない。

 

「鶴屋先輩、ビニールでいいです。いや、俺コイツに詰めちゃいますから袋いいですよ」

 

 二十二紀製青狸が持つポケット並みとは言わないが、このサコッシュもこれぐらいのお薬ぐらい容易く収納できる。流石に、わざわざ袋まで見繕っていただくのは申し訳なさ過ぎた。

 

「いいのいいの」

 

 一般家庭出身の俺でも分かる嫌味のない上品な袋に入れて下さる。その仕草までも上品だ。うちのお母さんのように野菜詰め放題で羅刹パワーを振るう女傑っぷりはない。

 

 鶴屋先輩にはそんなものは欠片も匂いもしないし、どこにも感じない。なのに、よく分からないものが前と同じように香った。

 

 ただ袋に入れるという単純な動きが、カスパーの描いた『朝日に向かって立つ女』のような空気を作る。

 

 袋に入れるなんて動き、この世に生きる人間全員は一度以上はする動きだ

。何の変哲もない日常動作の一つだ。幼稚園生でもこなれる動き、腰が地面にくっついちゃいそうなご老人でも難なくやれる行動。多少手指が不自由だとしても時間をかければ誰でもできるもの。

 

 それをやろうとするだけで誰もが歓声を上げない。見慣れたものだから。それをやっているだけで誰もが感涙することはない。そこに悲劇も喜劇もないんだから。それをやり終えたからといって誰もが虜になってしまうなんてことない。そこに誰も知らない魅力的な違和感などあるわけないんだから。

 

 この十七と少しの人生でもあくびが出そうになるくらいに見知った動きの一つだ。それにいちいち感嘆の息を漏らすものでもないくせに、今ずっと困っている。困惑している。混乱というよりも困惑しているんだ。色々があってぐちゃぐちゃしているというよりも、たった一つのことでよく分からなくなっているからだと思う。

 

 感動しているというわけじゃない。魅了されてしまっているとも違う。ただ、ちょっと。ただ結構ちょっと、同じように緊張してるんだと思う。

 

 見慣れた日常の一つ。あくびするぐらい見飽きているのに、あくびどころか呼吸一つ儘ならない。

 

 『朝日に向かって立つ女』は、朝日の方に女は顔を向けて俺達鑑賞側には背を向けている。

 彼女は朝日に向かってどのような顔をしているのか。朝を待ちわびている童女のようなものか、朝が来てしまったという少女のか。朝を迎えた自分に思いを馳せる女性のものだろうか。カラーバリエーションの少ないその一枚では明確なものは出てこないだろう。服装はロングドレスだが朝焼けの所為で模様も色も何もはっきりしない。他の草木も花が咲いているのか、そもそも枯れているのかどうかさえ。

 その絵画に名のある芸術評論家でもない俺が感じられるのは、たった一つだけだった。

 

 今のように、たった一つだけ。

 

「無茶なんてしちゃダメ。分かった?」

 

 前みたいに、鶴屋先輩に緊張してしまっているんだ。

 

 

。。。。

 

 

 案の定、夕食でも腹と胃はやられた。

 

 ○ルネコの爆弾○に出くわした、あの腿の裏にまで汗をかくほどのものだったんだ。誘爆とかひでぇよ、通路で挟むとかひでぇんだよ。YボタンとかAとBボタン押し続けても事態は好転するわけがない。指輪もハラペコと売れるだけのしかないし、金縛りの巻物使ったって何の意味もない。聖域の巻物は無効化されるし、自爆したら経験値手に入らないひどいやつだ。大○玉もひどいやつなんだ。なんとか命からがら爆弾○を超えた先の階で、同じ部屋にいる、ってひどすぎるよね。そりゃ○ルネコもやけ食いして更に肥満になるさ。

 

 か弱い俺の臓腑も胃薬が無ければ、本当に棺桶の住人になっていただろう。じいさんもセクシーギャルになれるらしいドラ○エなら酒場システムでどうにかなりそうだけど、外道すぎるよね。そこらのセクシーギャルがこの世でなによりも恐ろしいものになるんだから。勇者とは、なんぞや。

 

 お昼はピザとは名ばかりのなにか。お夕飯はラーメンになりたかったナニカ。それだったんだ。詳しくはもう思い出したくない。美味しかったけど。美味しかったけども。

 確かにピザが食べたかった。確かにラーメンも食べたかった。だけど。だけどさ。あえて自分なりの和を取り入れましたとか、あえて自己流のエスニックを加えましたとかはあらかじめ言っておいて欲しかった。

 大事な一口めで違和感を感じるのってね、悲しいことなの。二口めで、あぁ美味い美味いにはなるけど、ファーストインパクトがダメだとずっと悲しいの。

 

 でも、美味しかった。食べれてよかった。大量じゃなければ、それで終われたんだけどさ。夕食からもう三時間以上経過しているけど、ストマックから下の臓器が相変わらず重めな感じだ。お口や体の方は歯磨きとかシャワーとかですっきりしている分、精神的にもより重めに感じてしまう。

 

 念のため今日最後の胃薬をキめておこうかな。鶴屋先輩に頂いたお薬を見繕う。ご飯中は無我夢中で、その後のくたばりの最中では緊張し忘れていた。奮闘している最中も色々アシストして下さった気がする。気つけにもなった苦汁とか、甘さ無しのフルーティーなお水とか。

 うちのお母さんもテレビに影響されてなんでもかんでもインスタントコーヒーをぶち込んでいた時期があったな。みそ汁や麦茶にまで入れてた。加減すれば美味しかったけども。流石に紅茶とは相容れなかった。英国と米国は別物だからね。

 

 …そうさ、妹ちゃんがそういう感じでまたはしゃいでしまったんだ。一口目の加減で良かったのにその加減を二倍三倍で振りかけてくるんだ。敵に囲まれている。四面楚歌、袋のネズミ、雪隠詰め。勝てるわけがないよね。

 

 胃薬を早くキめちまおう。眠くなる成分が入っているのをキめちまおう。と思ったが、それは今日使ったのとは別種類だった。他の薬とかでも同日に同効果のお薬は一種以上使わないでってあるしなぁ。カビとかの菌用だけど混ぜたらアカンよって洗剤のデカデカ注意項目もあるしなぁ。

 

「飲んじゃうとダメだよなぁ」

 

 カクテルってのはお薬関連でも使われる言葉だったと思う。海外ドラマでよく見るヴァンダイク髭のバーテンダーが謎のメモ用紙と一緒に出すお酒の通り、二種以上を混ぜ混ぜするなら別にお酒以外でも使えるらしい。

 カクテルの語源はテキーラ娘が、じゃなくてメキシコ王の娘がどうたら、コーラなんたらっていう木の名前がどうたらとかあった。雄鶏の尻尾説も有名だ。羽だけならギラン・バレー症候群にはならないのかな。メキシコ王の娘はイギリス説、木の名前はアメリカ説っていうって幼馴染が言ってたような気がした。

 どちらも永遠に我が強い連中だな。紅茶にもコーヒーにもシナモンが飽和状態になったもの飲みまくれば争いは消えるかな。チャイには入っててほしいけどアップルパイには入れて欲しくない派だよ、俺は。

 

 そう考えながら本日最後のお薬を飲み込んだ。鶴屋先輩のお教え通りボルヴィッ○なただのお水で飲んだ。グレープジュースとか柑橘系でお薬服用ダメ絶対ってテレビでもやってたから、二度とやらないよ。自分への異常現象を身に染みて感じると人は真っ先に生き足掻こうとするんだよね。己の身でしみじみと思い知ったよ。お父さんとお母さんをもうあんなに二度とボロボロ泣かせちゃいけないよね。

 

 飲み終えて数分そのままボーっとしていた。服用後三十分は横になるなと説明所に書いてあるから仕方ない。よくやるオンラインゲームなど出来るわけがないし、内臓が瀕死なのに筋トレなどしたらお部屋が酸っぱく(かぐわ)しくなる。

 

 なら、お勉強?

 

 よくわからないなあ、高校生なのになんで勉強しないといけないの。源氏物語が経理のお仕事に密接に関わるわきゃないし、平方根が裁判の判決に重要になるなんてあるわけない。おサルさんがシェイクスピアを書き上げるのを待つよりAIとかでシェイクスピアを書かせた方がいい。ゴーイングメ、じゃなくてテセウスの船的な議題なら、誰がどう言おうがテセウスなのかどうかは俺が決めることにするよで終わればいいんだしね。

 今は頭を頑張る時ではないのさ。消化能力に縋る時だ。内臓に頑張ってもらわないといけないんだ。お腹が忙しいから脳みそはまた後で頑張って欲しい。

 

 とはいえ、くっそお暇である。

 

 使うわけじゃなく携帯さんをパカパカする。やりすぎると割とミスるマジシャンMr.マ○ックにように大変なことになるから、十秒に一パカする程度だ。俺の前機体は画面が回転するのが面白くてやりすぎた。購入して二週間で分離した。線はかろうじて繋がっていたけどダメになったのは確かだ。しこたま父母両方に怒られた。そのようなことがあった所為でカラーリングもデザインもおじさんすぎるものだ、こいつは。アラフォーのお父さんよりおじさん臭いものだ。お父さんは店員さんに乗せられた所為で女子高生っぽいのを使用している。お母さんは普通のだ。ストラップあたりが凄まじいけど、普通。

 

 そんな携帯から加齢臭がすると友達にからかわれる俺のが振動した。受信か着信だろう。手の振りでパカ、もやれないので静かに相手を確認した。

 

 加齢臭しそうなのを、あえてのセンスでいいんじゃないかな、とただ一人だけ慰めてくれた鶴屋先輩からだ。

 

 

→SkiP STaRt

 

 

 

 ゴールデンタイムだけど自習室に足を延ばしている。そこにいる鶴屋先輩ともう一人への差し入れのために宅配サービスも兼ねているんだ。

 

 それにしてもと、歩きながら周りを見る。

 

 相変わらずの学校だった。俺の家にある花柄のアレやソレが、三六十度見渡しても見当たるわけがない。

 うちの花柄のも、それを引っ剥がせばフローリング。今見えるこの床も同じようなもんだ。壁もそうだろう。うちは富豪ではないので、壁は全部漆喰ではない。この北高の校舎もそうだ。窓も贅沢していない。防犯用の加工してあるものの、カーショールームに使うような高透過ガラスを使うわけがない。今見える北高の窓も同じだ。

 

 俺の家のも、北高の校舎のも、普通な作りだろう。旧校舎もあるが、基本的な作りは変わりやしない。耐震構造とか耐熱のアレコレ、間取り。人が不自由を感じない作りをしている。

 何処か傾斜がつきすぎていてもない、どちらも。日当たりや風通しにも不備がないんだ、どちらも。普通に生きていける場所だ、どっちも。

 獣のように、とりあえず洞穴があったらいいではない。人間的に過不足なく生きていける場所なんだ。

 

 普通に過ごせる場所だ。

 

 朝起きておはようと言える人がいる場所。ご飯を食べるとき一緒に食べてくれる人がいる場所。さよならしても、また明日会える人がいる場所。

 

 それは、こんな状況でも変わらないはずだ。

 

 今日も挨拶してくれる誰かがいた。今日も一緒に食べてくれる誰かがいた。昨日のように、今日も会えた人たちがいた。

 

 きっと、明日も同じだ。そう決まっているはずだ。二日経って、しかも今現在は二日目の夜。もう少しすれば日付も変わる。

 

 歩きなれたこの校舎も、過ごし慣れたこれまでの日々も、親しみ慣れた友人たちも。

 明日も変わらずいてくれるだろう。おはようを言い合える。ご飯を一緒に食べ合える。寝る前におやすみを交わし合える。

 

 ちょっとした修学旅行と割り切ってしまえばいいのかもしれない。よくある普通の高校生活の一つだ。

 

 それは、こんな状況でも変わらないはずだ。

 

 今日も挨拶してくれる誰かがいた、それは紛れもない俺が知ってる親しい誰かだ。

 今日も一緒に食べてくれる誰かがいたじゃないか、それは間違いなく俺が知っている親しみ深い誰か。

 昨日のように、今日も会えた人たちがいただろう。あまり知らない誰かではなく、既視感を感じるもののよく分からない誰かなんて一人としていなかった。

 

 それは明日も同じはずなんだ。二日経って、しかも今現在は二日目の夜。もう少しすれば日付も変わる。

 

 さっきのコールも何も変じゃない。電話相手が得体のしれない別の誰かってことはない。この北高は偽物でしかないけれど、今ここにいる誰も彼も俺が親しみ慣れた人たちだ。この十七年も経つ人生で仲良くなれた人たちなんだ。両手を繋ぎ合って大きな大きな輪を作れるほどに、とても仲のいい人たちと出会っている。

 

 秋の少し乾いた寒さを忘れさせてくれる、ミルクココアのように落ち着くものだ。それに、誰であろうともう邪魔などされたくない。

 

 潰さないと、壊させないと、大事に大事に今度こそと抱え込んで歩いた。

 

 

 

[","}?

 

 

 三回ノックの後、デリバリーしに来た俺は自習室に入室する。

 

「こんばんは~失礼致しま~す、デリバリーから来たものです~」

 

「こんばんは。消防署の方からじゃないんだ、シャドーくん」

 

「それ詐欺のやつじゃないですか。これも別にミラクルケミカルなんてのでもないですよ」

 

「小麦粉かもしれないものとか、片栗粉と別にそっくりさんではないものとか持ってたら、流石に自首してもらうよ」

 

「通報じゃなくて有難いです。でも、そうする予定もOTOMODACHIを語るくそたわけもおりませんよ、俺」

 

「ふふ、いい交友関係築けているみたいだね、シャドーくんは」

 

「そりゃあもうとっても仲良しな関係出来てますよ。こうして俺と駄弁ってくださる素敵な北高三年生の鶴屋先輩が、今ここに一緒にいてくれるんですから」

 

「ははは、こやつめ」

 

 アホみたいな会話をしながらデリバリー業を俺は全うする。珍しく寡黙な佐々木も仲良しな鶴屋先輩もお手伝いしてくれた。

 自習室はもっとお勉強臭い空間だと思ったが、今はそんなことなかった。物理的にはシャー芯とかなんかの用紙とかのオイルとか筆記用具が持つあの臭い。精神的には、学ぶ気のない粗忽ものは腹を切れっという凄まじいプレッシャーだ。換気なりファ○リーズでもしていたんだろう、女の子の匂いしかしなかった。

 

「わざわざ差し入れなんてしてもらって悪いね。ありがとう、シャドーくん」

 

 素朴だがいい感じのランチョンマットの上に並べる。食器も紙製だけどちょっとお高め指向のだ。なんかセットで付いてきたものだ。どことなくリンディスファーンの福音書のようなデザイン。流石にアレぐらい凝り過ぎているものではないけども。

 

「俺がしたくてやったのでお気になさらず。お夕飯の時も色々助けて下さったので、ほんの少しだけでも恩返しさせてください」

 

 ここに来る途中に尻ポケットの携帯が振動したのに気づけて良かった。そうしなければ佐々木の分はなく、スーパー呪文句タイムで頭が痺れてしまうとこだった。俺は自分の反射速度に助かり、鶴屋先輩のお気遣い精神には感服する。お優しくて本当に素敵だ。

 

「その恩返しの恩返しで、また恩返しって無限ループになっちゃうじゃないか」

 

「素敵な無限ループじゃないですか? 大人の恩押し付け合い合戦なんてこと俺達じゃなるわけないですし」

 

「そうだね~。見栄張り合い、見栄張返しとか私とシャドーくんには無縁かな」

 

「ですよ。俺の見栄のしょぼさ舐めないで下さいね。この今は静寂な佐々木が腹を抱えて笑うレベルなんですから」

 

 実際やって、実際にそうやられた過去がある。別に恨みとかなんでもなく、笑い話の一つだ。

 

「へ~…、どんなのあった、佐々木ちゃん?」

 

「うぇっ!?」 

 

 ここに来て初めて聞いた佐々木の声は、面白かった。腹を抱えるほどではないけど、噴き出すぐらいには面白い声だった。佐々木団のあの女の子が聞いたら、耳を疑うだけでなく自分の頭を心配するようになりそうなほどに面白い声を出したんだ。録音しとけばよかった。

 

「聞いてたでしょ? シャドーくんの洒落たので君がお腹を出して抱腹絶倒したって」

 

「お腹出してませんっ!!」

 

「君も思春期真っ直中ガールなのに公然でお腹を出しちゃうなんて、すごいよね。ここで真面目なのも知ったけど、実は大分奔放な女の子なのかな、君って?」

 

「私は誰彼構わずお腹出すわけじゃありませんし、そういう…奔放とかではなく、色々と緩い人間ではありませんよ」

 

「ふふふ。だって、シャドーくん?」

 

「なして、そこで俺を…?」

 

 そして静まらなくなった口先は矛のようにして俺に向いた。

 

「シャドー……。君の見栄は当初から少し面白いものだ。愉快と言えるものだよ。まるでピエロのように道化じみた愉快さがある。あぁ、だがピエロのようなと言えど、それは悪感情からで喩えているわけではない。君の見栄では、どのように捉えられているのかなんて知らないがね。君のプライドにかけてちゃんと言葉通り受け止めてくれると、僕は信じている。それに、より直接的に喩えたが道化じみた、というのも別に君に対て憎悪とか蔑視しているからなんてのはないさ。君の見栄では、どうやって捉えられるのかなど知る由もないが。見識を確かに備えた君ならば、よく理解してくれるはずだ。そうだろう、シャドー? 僕は信頼しているんだ。君の見栄っ張りを、よく。とても、よく。よくよく知っている僕自身をね」

 

 どうしようもなく疑ってるじゃないか。ピエロとか道化とか、ものすごく扱き下ろしてると思うけど。ピエロだってサーカス場の裏でタバコ吹かしていたりする。道頓堀に投げ込まそうになった道化師だってさ、時々コスチュームチェンジするぐらいに洒落者なんだぞ。サーカスのは昔はちょっと見てはいけなくて切なくて苦しくてになったけども。ピエロも道化師も泣いたり笑ったりするんだぞ。俺も泣くし笑うんだぞ、佐々木。

 

 信頼関係が異物な感じになりそうなので言い返しておこうか。

 

これからの信頼関係のために言い返す

これからの信頼を得るために言い表す

 

 

 

_<_

 

 

 こんなこと言いだすってことは佐々木的に何かあったんだろう。面倒くさいが、ここでちゃんと言っとかねば後で更に面倒くさくなるはずだ。昔コンビニのおにぎりの中身を先に取り出されたこととかあったしな。

 同じようなことが起きるだろう。こんなのに見栄っ張りをかましたら更に面倒くさくなるのは目に見えた。見栄をしまってちゃんと意思表示しといたほうが絶対にいい。

 

「ま、佐々木がそう言うならそうなんだろ。俺はお前の信頼通りの見栄張り人間だ」

 

 とりあえず肯定しておこう。佐々木がどのような意図を持っているのか。そこには半分もいかないが、何やら俺に対してマイナスなものがあるってことだ。そのマイナスな感情を、まず肯定しておこう。

 

「ふぅん、そうかい」

 

 佐々木は俺のデリバリー品に手を付けず、自分で用意しただろうペットボトルに口をつけた。またもや面倒くさくなっている。ここらへんで面倒くささを消化していかないと、ものすごく後が面倒くさくなる。対処法を間違えてはいけない。この佐々木だって一応女子高生様なんだから。

 

「塾の時にコンビニで買いすぎちゃったことあったよな。俺と幼馴染と佐々木分のをたくさん買っちゃったアレ」

 

「頻度が多すぎてどれのアレだか分からないな」

 

 佐々木が言うように買いすぎしたことはたくさんあった。塾側は表向きルールとしてコンビニといった食料店は利用禁止だったが、俺たち以外も当然利用しているのを黙認するのが鉄則だった。塾の先生たちもこっそりと、タバコや%表示がある未成年が買ってはいけないもののためにそこを利用していたし。

 

「おにぎりだよ、おにぎり。しゃけとか明太子とかの定番も、ツナマヨ、マヨコーンっていう新たな世代系なのとか。豪勢にうなぎ、カニ、いくらとかたくさん買ったじゃん」

 

 季節を問わず売られている定番から季節限定品を大体網羅したことがあった。流石に沖縄限定とかのは買えないし、塾の近くのコンビニ一軒だけでだ。その近場にも個人経営のお弁当屋さんとか総菜屋さんなんかもあったが、塾に行っているときは利用していなかった。ここ最近その近くを通ったが、何件かは中華屋になったり同じようなコンビニにジョブチェンジしていたのは、少し寂しいものだ。

 

「あぁ、そうだね。そのたくさんのをおにぎり+にしようとアレコレも買ったなぁ。君も君の幼馴染も正気を疑うような物を買ってくれたよね。知育菓子にはおにぎりを使うなんてことないってのにね」

 

「そういう佐々木もアレだろ。牛乳寒天とかプリンとかどう使うんだコイツ、って思ったよ俺ら」

 

「口直しに決まっているじゃないか。プリンに醤油で雲丹味なんてありえないんだからさ」

 

 そんなに学力を求められない学校に決めていたとはいえ、成績が終わっていたら入学拒否されるものだ。

 どちらの親も、どこかの百五十一種以上も普通にいるゲームのように目があったら勉強しろとチクチク言ってきていた。そのストレス発散の一つがおにぎり加工だ。

 そこで佐々木は口直しを買っていたが、しれっと劇物を混ぜ込んで俺達に食わせたことは何度もある。俺たちもやった。ナンプラーは数滴足らすだけでいいのだ。小さじ一杯程度でもおにぎりでは激臭だったのさ。

 

「とんでもないことをしてくれたが、ちゃんと食べきったのはとても偉いと思うよ。食べ物で遊んだから全部マイナスになってしまうけどね」

 

「佐々木も頑張って半分は食べてたよな。口直し全部一人占めになったけども」

 

「ふふ、このおかげで僕は胃腸薬ソムリエになったからね。薬学部に興味を持つほど詳しくなったよ。でも、君たちの所為であのCMとかラッパのマークを見ると少し胃が重たくなってしまうようになったが」

 

「俺達も一時期○ッチンなあいつ恐怖症になったぞ。醤油が利いていても雲丹味にはならないと思い知ったね。ネット不信者にもなった」

 

 佐々木のように俺達も妙な後遺症を背負った。具体的に言えばそのコンビニで流れていた曲を聞くと胸元がじわじわと重たくなる。一時期からあ○君の存在を無意識に抹消してしまうほどのものがあった。

 

「それにしても。よくあれを食べたね、シャドーは。あれらを食べきるなら炭化した鶏卵だったものを食べた方が億倍マシだというのにさ」

 

「お残しは地の果てだろうと許しまへんでぇ……!? の家系だからね。お米一粒に百姓様の魂十億あるんだから。大事に食べんと」

 

「それは…とても、魑魅魍魎すぎないか?」

 

「八百万に神様いらっしゃるんだから百姓さんもそれぐらいいるんだよ。欠片でも残したらお前の顔を鍬とかで耕しに来るからちゃんと食べなさいって教えられたの」

 

「百姓ってなんだ...?」

 

 ペットボトルを置いて手持無沙汰のような手にフォークを渡す。普通に食べてくれた。そのおかげで異臭を嗅いだ後の猫みたいな顔から、母猫に埋もれながら甘える子猫みたいな顔になっていた。おいしそうで何よりですよ。

 

「戦国時代とかであったじゃん、色んな一揆が。一向一揆とあと……………なんだっけ。なんも覚えてねぇや。鶴屋先輩ヘルプお願いします」

 

「シャドーくんはあとで一緒にお勉強するからね。室町時代の徳政一揆から明治時代の東海大一揆も全部覚えてもらうよ」

 

「六個ぐらいですよね、いけます」

 

「残念、江戸時代だけでも二十以上あるから覚悟するんだよ。いいね?」

 

「いけないわ、助けて」

 

「世界史はカタカナだらけで覚えづらいって止めたのは君だよ、シャドー」

 

「カノッサの屈辱とか禿頭王とか最後の騎士とかのネーミングは惹かれるけど、カタカナだらけはきついよ」

 

 レンブランド作の【黄金の兜の男】しかり子供の日でよく見る兜だったり、歴史はロマンに溢れ今も枯れていく気配などない。そのロマンに焦がれるのは男なら普通だと思う。

 

 何処かの狩りゲーのように男キャラ使うなら頭装備は基本ダサい仕様なものよりも、カッコいいものが好きだ。テレビ越しにしか見たことないけどゲーム由来のファンタジーマシマシ装備よりも、実際に使用されていたのはロマン溢れすぎていて両親にコアラの如くしがみつきながら強請ったもんだ。

 

 だが、同番組で見たものがそれを変えた。

 

 西洋だと一五世紀あたりはミュータントに憧れてしまったのか特異すぎるもので、日本だと江戸時代に使われていたらしいさかなクンさんをリスペクトしてそうな【黒漆塗鯱形兜】を見てそんな強欲が消え失せた。戦場でコスプレ大会もしてたんか、昔の人は。

 

「日本の試験自体は覚えゲーだけど、実力にしたいならちゃんと勉強してしっかり覚えこもうね、シャドーくん」

 

「この世が辛い」

 

「まぁまぁ、頑張ったら美味しいものでも食べに行こうよ」

 

「はい……」

 

 暗記は得意だ。一夜漬けマンな俺は暗記が得意だ。

 

 でも、その暗記したものはテストが終わったら一割残っていたら奇跡な暗記力。英語の小テストなんか基本満点だが、実際の試験になったらボロクソ。

 その程度なので、ここにデリバリーしてきたものの洒落た感じの英文も瞬きを禁止されても目に焼き付くことはない。けど、佐々木が美味しそうに食べている姿は今もよく覚えられる。塾時代からなんも変わってなくて安心感があった。それもよく覚えていたものだ。

 

 鶴屋先輩のこのお顔も覚えられる。目薬を差したみたいに、目の全部に染み渡るように。目の保養と心の栄養となるだろう。目の毛細血管や周りの筋肉へ、少し萎んでいたりちょこっと凹んでいたりした心にも、この上ない力になる。

 

 素敵なものを見て心地よさを知って、得難い美しさを覚える。なんて素晴らしいことだろう。

 

 ただ夕空を見てなんてことないはずなのに、それだけで全てが美しいと感じる人がいる。ただ子供が追いかけっこをしているのを見かけただけで、全てが良いものに思える人もいる。一目見ただけで全てを愛してしまうそんな難儀な人間は、意外と多いものだ。その人はきっと生きづらいだろう。その愛しいものがほんの一つでも動けば取り乱してしょうがないはずだから。

 

 まぁ、俺はそうじゃない。

 

 鶴屋先輩のこのしょうがないなぁって顔を覚えるのは容易いことだ。美しいものを、素敵な人を知って覚えるなんてお茶の子さいさいだ。

 

 細められた楕円形、そこにある二つも星が入っているような綺麗な目。口元。片手で隠している所為で片方の、しかもほんの少ししか見えない。それでも、その口元がちっちゃく持ち上がっているのは見える。おかげで頬も同じくちっちゃめに上に膨らんでいた。

 

 微笑んでいる鶴屋先輩。ただ綺麗で、ただ美しくて、ただ素敵なものだ。

 

 また覚えるものだ。目にしたらまた忘れられないものだ。

 

 そうなのに。

 

 俺は前と同じように目を逸らしていた。

 

 顔を背けるほど根気は残されてなかったから苦肉の策。鶴屋先輩からそらしたその目は佐々木に行くでもなく、頑張っていた人たちの成果に行くわけもない。変わり映えもしない面白くもなんもない自習室の壁に逃避させといた。その行為は恥ずかしいからとか申し訳ないからというものじゃない。

 

 とにかく、今は色々と無理になったんだ。

 

 くすくす笑われた。デリバリー品に夢中になっている誰かさんではない。きっとあのまま、どうにも素敵なまま笑っているんだろう。

 

 あー、もー…なぁ……。俺の覚えなくていいこの緊張感がなければ全部受け入れられたのにさ。

 

 

 

......(^ム^)

 

 

 




三日目以降はlink:37》......(^ム^)《/link》です

どれぐらいのヒロイン数がいい

  • 一人
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