<改訂版>【悲報】引きこもりのワイ、里から追い出される。誰か助けて。【所持金0】   作:胡椒こしょこしょ

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これで一旦この小説は完結です。
ちゃんとケジメを付けなきゃなと思いました。


桂、ヒキニートやめるってよ

「兄貴、元気ぃ~?」

 

一人の少女がある座敷牢の前に立っている。

すると、座敷牢の中。

一人の人影が鉄格子の前に近づく。

 

「....元気なわけないだろ。ふざけんなよ、パソコン持ってこい。」

 

灰色のパジャマを身に纏い、疲労困憊の様子で少女に命令する彼。

彼の名は孝太郎。

監察任務を終えて、観察処分されている青年だ。

 

監察任務を終えて、なぜか武蔵野と共に里に帰郷した彼は帰った先で処分を言い渡されたのだ。

理由は作戦内容の流出と、街一つが火事騒動になったことだ。

とうとう、アサギ達がPCを見たことで彼の行いがバレたのであった。

 

彼からしてみても、作戦内容を漏らしたりしたことはまずかった。

それは納得だ。

だが、街を焼け野原ひろしにしたのは自分ではない。

しかも自分が呼びかけたものでもないのだ。

あの後帰りながら聞いた話では俺のレスからひょんなことで俺の危機を知って、近くで魔族が徒党を組んでいる事が分かり、魔族嫌民と面白がった馬鹿どもが動いてこうなっている。

俺は悪くねぇ!俺は悪くねぇ!!

 

しかしそのような主張が通じるはずもなく、彼には謹慎処分が言い渡されたのだ。

しかも実際に里の安置所のような所で。

座敷牢とかあるって初めて知ったぞ俺。

やっぱ日本の集落だけあって闇が深いなぁ。

もう里から抜け出したいよ。

 

「でも聞いたよ?真面目に反省文書いてるんでしょ?兄貴変わったね。前はしないといけないことなんか何もしないダメ人間だったじゃん。」

 

妹、香子は笑いながら孝太郎に言ってくる。

しかし彼はげんなりとした顔で返事した。

 

「逃げ場がなくて娯楽がないようじゃこれしかやることがないんだよ。分かるかお前に?四六時中反省文書かされている俺の気持ちが。」

 

孝太郎が言うと、香子は嘲笑するように笑う。

 

「えっ~~、私兄貴みたいにちゃらんぽらんじゃないからわかんな~~い!」

 

「クソガキが.....これも全部掲示板の馬鹿どもが悪いんだ......」

 

妹を睨むと彼はぶつぶつと文句を言いだす。

しかし行く前と比べるとなんだかんだ落ち着いた気がする。

憑き物が落ちたかのようだ。

そのことから、香子は兄貴も一皮剥けたのだと嬉しいような、寂しいような気持ちになる。

 

「というか知ってる?兄貴の件から掲示板での任務流出などが問題になったらしくて、対魔忍の組織で続々とインターネットが禁止になったんだって。その忍じぇい?っていうサイトも閉鎖されたらしいよ。」

 

「ま、マジかよ.....俺が軟禁生活を送っている間にそんな.......。そうだ!ナドラはどうした!?俺がここに入る前に話したキリだが。」

 

彼は思い出したかのように言う。

彼にとっては任務自体を遂行出来たのは彼女のおかげだ。

彼女の支えがなければ今頃俺は裏切ってたあの女にやられていただろう。

確か、あの女は回収されて、調教の影響から脱する為に吉沢とかと一緒に療養、ある程度まともになったら処分を受ける手筈だとアサギ先生に教えてもらったが、今はどうしているのだろうか?

 

まぁナドラはそのことを抜きにしても彼にとっては特別な女性だ。

何て言ったって意識のある状態での初めての相手。

同意の上での初体験の相手だからだ。

そりゃ武蔵野はおろか、後輩や不知火とも違う立ち位置の女性になっても不思議ではない。

 

「ナドラさんは今は私と一緒の部屋で暮らしているよ。...あれ?呉姫さんのことは聞かないの?」

 

「は?聞くわけないだろあんな危険物。今もここに来ないか冷や冷やしてるんじゃボケ。てかなんで呉姫さんってそんな呼びかたしてるんだよ。」

 

少なくとも俺の家に急に押し掛けてきた時はヤバい人扱いだった気がする。

すると、彼女は苦笑いをする。

 

「ブレないね、兄貴は。いや、最初はお父さんもそんな感じだったんだけどなんか泣きながら境遇話されて、ずっと兄貴に救われた云々聞かされたらお父さん泣いちゃって....今ウチで花嫁修業してるよ!良かったね兄貴、お嫁さんが出来たよ。」

 

「は?....お前、それマジで言ってんのか?」

 

孝太郎は信じられないと言った顔で妹を見つめる。

まるで別世界の話を聞いているかのような顔。

実際に、孝太郎の目の前はナドラはまだしも武蔵野が今自分の家で過ごしていると思うと、目の前が暗くなる。

なぜそんな真似を....前なんか猿みたいに家にブッパーしてくるくらいだったのに.......

 

そう思っていると、孝太郎の頭に電流走る。

俺に救われた.....もしやアイツ、俺に過去を話したらパパになると俺が言ってしまったことで重い過去を話せば同情してくれると考えて!?

そうだとしたら、なんて姑息な女だ!!!

 

「アイツ、俺がなんか言ってたって言ったか?」

 

そう言うと妹は答える。

 

「え、確かパパになるって言ったんでしょ?凄いね、兄貴。相手年上だよ?ちょっと引いたよ。」

 

「それは実は奴の真っ赤な嘘で.....」

 

すぐさま発言を翻そうとする。

そもそもその発言はそうすることでしか奴が止まらなさそうだったから言った言葉である。

本気で言ったわけがない。

あの時、あんな状況じゃなければ....。

今からならまだ取り戻せる!

もし奴の発言を嘘だと言えば、きっと父は今度こそソイツを家から追い出してくれるはずだ!!!

 

そう思っていると、妹がジト目で俺を見る。

 

「....嘘言っちゃダメだよ。兄貴。呉姫さんだけならまだしも、ナドラさんだって言ったって言ってたし。」

 

「ナドラ....どうして......。」

 

君なら....僕の真意にだって気づいてくれると思っていたのに。

側近に刺されたカエサルはこんな気持ちだったのだろうか?

そう思いつつも、気落ちして首をかくりと落とす。

ナドラの性格上、初対面の印象も良くて、父母にも気に入られるはずだ。

そんないい子と、逃げ癖を看破されている俺。

二人の内、どちらの言葉を信じるかと言えば間違いなく前者だろう。

....なんだろう、息子の俺が自分で言ってて悲しくなってきた。

 

すると、香子は呆れた顔で嘆息する。

 

「あのねぇ....流石に嫌がりすぎでしょ。別に見た目は可愛いし、前に家に不法侵入した時は驚いたけど、境遇上、人との接し方が分からなくてもおかしくはないし。ちゃんと私達にあの日のこと謝罪してくれたし、反省してるみたいだよ?....それに自分の言葉くらい責任取りなよ。私、素人だから分からないけど、あの人、多分今心の支えは兄貴っぽいし。兄貴の事何回か助けてくれたんでしょ?なら少しくらいお礼言ってあげても良いんじゃない?」

 

妹が執拗に嫌がる孝太郎に対してジト目で見つめてくる。

どうやら俺の味方はいないらしい。

あの目は聞かない目だ。

武蔵野は確実に猫被っている。

間違いない。

でもここで俺が奴が嘘を吐いていると言っても家族は信じないだろう。

少なくとも少し良い事したからって親父が信じてくれるとは思えないしな.....。

 

そう思っていると、妹は話を切りだす。

 

「まぁいいやゴミ兄貴。私ね、実はここに来たのは前みたいに様子を見に来たからってわけじゃないんだよ?」

 

「は?じゃあなんだ?お前が俺をここから出してくれるって言うのか。」

 

そう言うと、彼女は苦笑いを浮かべる。

 

「いつもだったらそんなわけないじゃんって笑う所なんだろうけど....、そうだよ。兄貴を出しに来たの。」

 

「うおっ!マジかぁ!!やっぱ持つべきは妹だな!なんださっきから妙に悪態吐くと思ったらただのツンデレかよこのこの~」

 

「...兄貴、ウザイ。」

 

妹は兄を見て顔をしかめる。

しかし孝太郎はそんな視線さておき一人で盛り上がっていた。

何はともあれこれで脱出できる。

ちょうどずっと続いている反省文生活にもうんざりしてた頃だ。

これを機に脱出しよう。

なに、ヨミハラに行った時の道順は一応ぼんやりと覚えている。

一度辿り着いたんだ。

迷う道理はないさ。

 

そう思っていると、階段を降りる音がする。

なんだ、まだ誰か来るのか?

孝太郎が疑問符を浮かべていると、扉が相手一人の女性が入ってくる。

 

「どうした桂。遅いぞ。」

 

それは五車学園の教師であり、いつもアサギ先生の傍に居る八津紫だ。

おいおい、まさか.....。

 

「あっ、八津先生すみません。今出しますから!」

 

香子は八津先生にそう言うと、俺の檻を開ける。

 

「アサギ先生からお呼びがかかって私がその伝令しに来た訳。ほら、出て。」

 

そう言って座敷牢の戸を開けた。

これは.....上手くいけば逃げられr.....

 

「念のために言うが、私が居ると言うことはその意味が分かっているな?」

 

そういってギロリと睨みを利かす八津先生。

殺す気かな?

なるほど....確かに名目上は街一つ俺のせいで焼け野原なったもんね、納得できないけど。

ならその場で処刑してもいいわけだ!良いや!よくない!!

いつの間に、俺には基本的人権がなくなっていたのだろうか。

そう思いつつ、出ようとして一つ思い出す。

 

「そう言えば、すみません。....その桐生先生の薬飲んでも良いですか?その発作があるんで。」

 

そう言うと八津先生は構わないと一言言う。

その言葉を聞いて、妹が来た時に渡してきたペットボトルを手に取る。

そして机に置いてある薬を口に入れて水で流し込んだ。

これを飲まないとマイサンに意識を持ってかれてしまうからな。

前にナドラに股間の粒子溜まりを流してもらったが、それでもまだ後遺症が残っている。

近くにナドラが居れば対魔粒子を弄ってもらえば飲まずに済むのだが.....

 

そう思っていると、ついて来いと言われるのでついて行く。

隣を見ると妹も同伴している。

なぜだろう?二人係で見張りされているのかな?

そう思っていると、外に出て五車学園の中に入っていく。

 

 

 

 

 

どうやらまだ時刻は昼だけあって学生が勉学に励むなりなんなりしている時間だ。

凄い視線を感じる。

動物園のパンダかよ。

少し肩身の狭い思いだ。

....あれ?俺、肩身が狭くない時なんか帰ってきてあったっけ?

....なかったなぁ。

 

しみじみと考えていると、校舎の中に入り、ある部屋の前で八津先生は足を止める。

 

「校長室だ。入れ。」

 

....なんだろう。

こういう流れ年末のケツを棒でぶたれる番組で見たような気がするぞ。

まぁだからなんだと言う話なのだが。

 

そんな下らないことを考えながら部屋に入る。

 

整った調度の部屋。

そこに黒髪の女性と、オレンジがかった髪色の女性が立っていた。

アサギ先生とサクラ先生だ。

 

「よく来たな、桂孝太郎。日々反省文をまともに書いているみたいじゃないか。」

 

感心したような様子で言ってくるアサギ先生。

俺は媚びへつらうように笑みを浮かべて答える。

 

「えぇ、暇だったので....それで、一体何の用でしょうか?」

 

思う所はもちろん色々ある。

そもそも任務で協力する予定の人が裏切者の時点でそちらに落ち度はあるし、街が焼け野原になったのは暴走した忍じぇい民のせいで俺のせいじゃない。

だが、ここでそれを出しても自分を不利にするだけだ。

そうだ、堪えるんだ.....。

 

にこやかに尋ねると、アサギは答える。

 

「君の観察処分期間の終了、そして.....次の任務の通達だ。」

 

観察処分の終了。

その言葉を聞いて喜びを感じたのも束の間、任務が引っかかる。

ん?任務?

いや確かに成功したけど、街焼け野原だし、もっとなんかあると思ってたんだが。

俺が不思議そうな顔をすると、アサギ先生は口を開いた。

 

「不思議そうな顔だな?まだ何か罰則があると思っているのか?作戦漏洩の件にはそれに見合った期間謹慎処分を出した。何か不満でもあるというのか?」

 

「い、いや....っでも街の件がですね.....」

 

孝太郎がそう言うと、彼女は溜息を吐いた。

 

「対魔忍掲示板サイトが閉鎖された。その時に開示請求されてな。確かに当初のお前の主張の通り、お前ではなくアレは暴走した他の人間によるものだ。それぞれの組織がその事態を引き起こした人材を各々処罰し始めたことで、貴様を解放しても外聞の問題がなくなったということだ。」

 

「なるほど.....。」

 

つまりは推定無罪の法則。

俺ではなく、明確に街を燃やした犯人が見つかった為、俺は何もしていないし、煽っても居ないと言う事が証明できたのだろう。

よかった....流石にここでその罪まで被るのは溜まったものではないからな。

 

しかしそれにしても.....。

 

「任務っていうのは.....」

 

座敷牢の中で覚悟はしていた。

任務を一応遂行出来た。

帰ってきた時に一応労いの言葉をもらったのだ。

つまり、成果は残すことが出来たのだ。

ならば次は本格的に対魔忍として活動させられるはずだ。

 

牢の中でゆっくりと考えた。

どうしても嫌だ。

嫌だが、避けられないのなら甘んじて受け入れよう。

働くなんか本当に嫌だけど、でもまともに任務は出来たのだ。

親を安心させるのも長男として悪くないだろう。

俺は長男だから我慢できるのだ。

次男だったら多分我慢できなかったね!(断言)

そろそろダメ息子卒業してやっても良い。

そう思えるようになっていたのだ。

 

すると、彼女はタブレットをこちらに渡してくる。

 

「これを見ろ。」

 

タブレットには金髪の男が写っている。

なんだろうか。

再生ボタンを押してみた。

 

すると、それは何かの会見のような物であると分かる。

 

『思えば..私たち対魔忍のヒエラルキーは狂っていた。優秀な術を持つ者が優遇され、それにかまけて頼り切った無能共が上層部を支配している。このままでは腐る一方だ。そうなれば優秀な術を持つ者の質も下がる。そんな組織の何の意味がある。』

 

男は演技がかった口調で言葉を続ける。

なるほど...そういう思想の人達かな?

なんか上司に困っているって人は掲示板では多かったからなぁ。

 

すると、男の後ろのプロジェクターが変わり、人の顔が写る。

....え、これって.......。

 

「彼の名は桂孝太郎、又の名をゼロ。私たちが提唱する組織『アンカー』の組織基底をこの年で作った若き革命児である!!」

 

俺やんけ。

多分これヨミハラで演説した時のだな。

なんで俺の顔が出てるんだ....。

そう思っていると、アンカーという単語。

そう言えば不知火が俺を差し向けた組織とか言って誤解していたような......。

あれ、もしかしてコイツそれを使って自分の主義を言っているのか?

 

戸惑う俺を他所に、彼は続ける。

 

「彼はなんの才も持たないにも関わらず、あるコミュニティのつながりを利用してヨミハラの支配機構に変動を齎し、一つの非合法な組織を壊滅させた。それは、我々にとって希望となり得る。しかし、上層部はそのコミュニティを閉鎖した。彼の様な革命の担い手を作り出さぬためだ。我々は、このまま黙っていて良いのか!?彼はそうしなかったぞ!!!」

 

男は聴衆を煽る。

現地の聴衆は口々に賛同の言葉を口にした。

 

「我々は無知蒙昧な物言わぬ家畜ではない!今まさに宣言しよう!我ら権力秩序再構成機構は、形骸化した対魔忍の権力図を是正し、正しき人類の守り人を養成する!桂孝太郎を志を継ぐ。みな、アンカーの意思はここだ....みな、アンカーの元に集え!!!!」

 

すると聴衆たちは口々にジーク・アンカーと叫び出す。

なんだこの頭の悪い光景は、たまげたなぁ......。

頭の悪い光景ではあるが、同時に洒落にならないような事態であることが分かる。

 

これは端的に言えばクーデターだからだ。

そしてその基底概念に祭り上げられたのは.....自分なのだ。

恐る恐るアサギさんを見ると、彼女は口を開く。

 

「不知火も勘違いしていたくらいだ。貴様の発言と活動はヨミハラに広がり、実際にアンカーなる存在すらしていないあたかも革命を起こすグループのような概念を作り出した。担い手が居ない殻があれば、利用しようとする人間がいないはずもない。そして掲示板によってお前の任務に内通者がいたことが任務内容の漏洩で明らかになってな。上層部に疑念を持つ者も少なくない。そして元々不満を持っている連中はこれ幸いに貴様を利用したと言うわけだ。....これは、貴様が残した遺物そのものだ。現に連中は我々と繋がりのある議員の何人かを暗殺している。魔族勢力とも繋がりがあるという話だ。」

 

「マジかよ.....どこまでついてないんだ、俺は。」

 

俺本人は忘れていた単語、アンカー。

それがまさかこんな使われ方をするなんて考えもしなかった。

生き残るのに必死で出まかせとか何でもやっていた。

それが今、俺の首を絞めているのだ。

 

「貴様の残したものだ。貴様に責任を取ってもらう。これが任務の概要だ。」

 

そう言って投げ渡される任務の書類。

見ると、そこには一文。

 

『「アンカー」なる不穏分子の根絶。』

 

命令内容はこれだけだった。

しかしそれだけ故に、理不尽さが際立つ。

どこどこの○○という構成員を暗殺してこいという物ではないのだ。

テロ組織の根絶。

それがどれほど難しいかは想像に難くない。

 

いや、これ無理だろ.....。

だってテロ組織根絶だよ?

しかも、もしかしてまた俺だけ?

 

裏を見ると、そこには<第2-J部隊>と書かれている。

構成員は俺と....獅子神、ナドラ、そして武蔵野ォ!!!!

えっ、何俺....武蔵野とこれからずっとやっていかなくてはいけないの?

そんなの嫌なんだけど....。

 

すると、隣の妹が笑顔を俺に向ける。

 

「えへへ....私はオペレーターだから、よろしくぅ!」

 

「は....は...はは.......。」

 

もうこれ笑いしかでねぇよ。

引き攣った笑みを浮かべると、後ろのドアが開く。

振り向くと3人の女性が居た。

 

「その資料を見ているってことは...。せ、先輩!いや、部隊長、よろしくお願いします!先輩と一緒に任務なんて、ヨミハラぶりですね.....。」

 

獅子神は顔を赤くして、頭をぺこりと下げる。

 

「そ、その...私対魔忍じゃないのですけれど....、でも、精一杯貴方を支えていこうと思っていますわ。」

 

微笑を浮かべるナドラ。

そして....。

 

「ふへ、....うへへへ.....パパっ、パパッ!パパッ!!会いたかったんだよぉ?ずっと離れ離れで寂しかったぅ.....でも、これで家でも任務でもずっと一緒......夢みたい...もう家族みたいなものだよね?子供は男の子が良いな....じゃないと私娘に嫉妬しちゃうもん。私、上手に子育て出来るかな....え?パパが居るから大丈夫って?えへへへ...そんなこと言って!もう!もうっもうっ!パパほんとカッコイイ!そんな頼もしいと...顔舐め回したくなっちゃうだろ?」

 

うわっなんだコイツすごいニヤニヤしてる、気持ち悪いっ!!

雰囲気だけでここまで顔の造形を台無しに出来るんだな。

一人で話しているし....話せばいい人とか見る目ねぇだろ馬鹿かぁ?

さっきまで一人で俺が何も言っていないのにも関わらず一人でモジモジしながら惚気ていたのに、急に顔舐めの部分でぎょろりと視線をこっちに向けて、低い声で呟く。

妖怪かな?

 

もう既に足は震えていた。

頼む、何かの間違えであってくれ!

頼む....神!!!

 

アサギは俺に向かって言い放った。

 

「今日で貴様を部隊長とし、<第2-J部隊>を結成する。任務はアンカーなる組織の捜査、及びに根絶だ。我々対魔忍の秩序が揺らげば、魔族から人々を防衛することなど出来るはずもない。重要で、そしてお前にしか出来ない仕事だ。アンカーの理念発案者、桂孝太郎。」

 

オゥ―!ファッキューゴッド!!!

現実は無情にも任務と部隊の成立の宣言が部屋を響く。

テロ組織根絶。

しかも実態はただの俺の出まかせ。

ほぼ別物の組織だ。

 

そして部隊の中には武蔵野が居る。

家にも武蔵野が居る。

俺の人生これから武蔵野だらけだ。

パパになるとは言ったがまさかこんな風になるなんて聞いてない。

 

無理だ...。

想像してみたけど、そんな生活できるわけない。

任務中も武蔵野で、家の中も玄関開けたら武蔵野ごはん。

ずっと武蔵野。ずっーーーーと武蔵野だ。

あんなことがあっても変わらずこれな女とずっと一緒何て持つわけがない。

しかも見てみると、なぜかあそこまで他の女に殺意を飛ばしていた武蔵野が仲良さげに他の部隊員と話している。

クソッ!この様子じゃ他の部隊員も俺の味方とは言えない!

ナドラ!信じていたのに!!!

 

ダメだ!逃げなきゃ....逃げなきゃ壊れる。

俺が人である為に逃げなきゃ.....。

 

そう思うとおもむろに窓に向かって走り出す。

 

「あっ、逃げようとしてます!!!!」

 

ナドラが声を上げると、紫が取り押さえる。

 

「貴様何してる!?また檻に戻りたいのか!!!」

 

「それでもいい!もう一生反省文書くからこれは嫌だ!!無理!むりぃ!!!!」

 

必死に喚いて拒否する孝太郎。

すると後ろから柔らかい感触。

しかしそれと同時に万力のごとき力で腕で抱き締められる。

 

「暴れちゃダメだよパパぁ.....私のパパになるってのは嘘だったのかよ。」

 

耳元で蕩けた声が聞こえたかと思えば、ゾッとするような冷たい声がする。

そして右腕をナドラが、左腕を獅子神が抱く。

 

「なっ、お前ら止めろぉ!放せぇ!!うわあああああ!!!!!」

 

「うわぁ....情けな。」

 

喚き立てながら地団駄を踏む兄を見て、軽蔑の眼差しを向ける妹。

そんなのはお構いなしに喚く兄。

 

「なんで俺の邪魔をする!!この馬鹿野郎!!!!」

 

俺が半狂乱で問うと、3人が答える。

 

「お母さまとお父様に定職に就けるように頼まれましたので。」

 

「先輩、親御さんを安心させてあげましょう?」

 

「私もさ、...コイツらと一緒は嫌だし、本当はそこの魔族が居るのだって怖気がするくらい。....でも、パパがパパである為にパパの好きな人を傷つけないように言ったんだよ?だから頑張って妥協したんだぁ偉い?.....だからパパも、妥協しろ♡」

 

周りを見ると、3人が3人、どいつもこいつも敵に見える。

武蔵野とかアレ目が洞穴みたいだもん。

目が死んでるもん!

こんなんとずっとテロリストと鼬ごっこしないといけないとか無理だ!死んだほうがマシ!!!

 

「じゃあ、悪いんですけど、兄貴連れて行ってもらっていいですか?」

 

そう言うと3人は俺を押さえ込んだまま部屋を出ようとする。

クソッ!やらせるか!そんないつも、やれると思うなァー!!!

ダメだ!硬い、硬すぎる!!!俺はゴリラに拘束されてるんか!?

他はさておきナドラにこんな力....。

 

見ると彼女の目が輝いている。

コイツ....魔眼使ってやがる。

無理だ、それは反則だ.....。

 

クソ、クソ!俺の人生が....人生そのものが.....。

 

「貴様らは...そんなにも...そんなにも働かせたいか!?こんな面子で、こんな達成できるわけない任務を、大して俺が呼びかけたわけでもない、寧ろ名前を使われただけの被害者である俺に!?許さん、許さんぞ!!貴様らに呪いあれ!!!死してなおこの俺の恨みを思い出せぇぇ!!!!!」

 

狂乱状態でアサギ達にキレ散らかす孝太郎。

いくら色々経験を経て、幾分マシになったとしても人の本質を変えるのは難しいのだと妹はその光景を見て思って。

 

「パパ....泣かないで?涙....ふき取ってあげるね?れろっ...れぇ......すぐに部隊に居るのが良くなるよ....。」

 

目元からあまりの絶望から涙が出ている。

それを舐めとると、武蔵野は後ろから抱き着くように押さえているのを良い事に、耳たぶを舐める。

そして酷薄で好色な笑みを浮かべた。

 

横を見ると、横の二人も熱っぽく感情を窺わせない目をしている。

こんな奴だぞ。

もう無理だろ。

頼む、俺は平穏に暮らしたいんだ。

こうなるくらいなら俺は...俺は.....

 

 

「ニートで居たかったァァ!!!!うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!誰かたすけてぇぇぇぇぇ!!!!!!」

 

助けを呼ぶも、今までは掲示板を使ってたから来た。

今の俺にはそれがない。

そのまま運び込まれるのは部隊の事務所。

そしてそれを境に、翌日まで彼が事務所から出てくることはなかった。

 

 

 

忍じぇいが閉鎖された後、忍じぇい民たちは表のウェブを取り締まられているからこそダークウェブへと進出する。

そこに建てられた忍じぇい避難所。

年月経て当時ほどじゃないにしても賑わいを取り戻した中、そこにある日とあるスレが建てられた。

 

【悲報】引きこもりだったワイ、無事武蔵野に外堀埋められ死亡。なおブラック勤務の模様【おまいらのせいやぞ】




この小説はこれで一度完結とさせてもらいます。
理由としましてはどうしても任務を無事遂行した以上は、彼は対魔忍として起用されるようになってしまうので、どんな展開を考えても『【悲報】引きこもりのワイ、里から追い出される。誰か助けて。【所持金0】』というタイトルと内容が合わなくなってしまうからです。

最後に、父の存在が出来て他の女相手でも妥協し、想いに突っ走らずに両親など外堀を埋めに掛かるほど成長をした武蔵野と無理な任務と武蔵野と任務によって退行してしまった主人公という構図です。

利用されることになったアンカーなど続きを書けるっちゃ書けますが、そうなると最後の文のスレタイで『【悲報】引きこもりだったワイ、無事武蔵野に外堀埋められ死亡。なおブラック勤務の模様【おまいらのせいやぞ】』になると思います。

まさかただの掲示板上のモブキャラだった武蔵野がここまで人気が出たとは思いませんでした。

とても沢山の人に読んでもらえて、色々あってチラシ裏に移ったけど、でもここまで付き合って頂けて有難うございました。
まさかこの作品が初完結作品になるとはなぁ...なんか不思議な気分です。
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