ボケ者どもの理想村(ムラビディア)   作:凍傷(ぜろくろ)

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 馬鹿な男どもの異世界転移ものです。
 暇つぶしにでもどうぞ。


第一部:勇者と賢者はまあまたの機会に
勇者召喚!? すげぇ! アディオス!


【ケース0:勇者召喚】

 

 その日、ヘルネスト王国の地下、召喚の儀式の場にて勇者召喚が実行されました。

 日本から異世界へ、何人もの高校生が異世界の召喚の儀式の間の、巨大な魔法陣のもとへ。

 何故大体が高校生なのでしょう。何故ほぼ日本人なのでしょう。それは誰にもわかりませんし、多くの人は気にしません。

 けれどここに集った存在は、やはり全員が全員高校生であり、不思議と───全員が全員、同じ学校の生徒ではありませんでした。

 

「オ? お……お? おー! おンまえ中井出でねでがや! どぎゃんしたとよオメ!」

「うぬ! そういう貴様は彰利一等兵!」

「その呼び方は相変わらずなんだな……」

「ややっ!? ダーリン!?」

「晦一等兵も一緒か! となるともしや!?」

 

 驚いた中の一人、ゲーム登場人物の中ではモブっぽい顔をした男子高校生が、中学時代を思い出しながらバッと振り返りました。

 この二人が居るのなら、もしや中学で別れることになった懐かしき猛者どもが居るのでは───そんな気持ちを胸に。

 しかし───

 

「いや……誰?」

「アタイに訊かれても」

「見たことないやつらだな」

 

 ───知っている人は誰も居ませんでした。

 制服もバラバラなら、年齢もきっと、学生間という条件の範囲でバラバラだったのです。

 

「YO、YOYO中井出ヨォオ? このパターンってアレじゃろ? 勇者召喚とかゆーやつじゃろ?」

「おうとも彰利一等兵。こりゃあ絶対勇者召喚だぜ? きっとこの中に勇者が居て、勇者に連なる猛者がたくさん居て、で、一人or何人かが雑魚なんだぜ? そしたらそいつらが追い出されて逆境の中で強く生きていく……そんなトキメケストーリーが……!」

「ほいじゃあアレよね! ステータスオープン!」

「なに!? 貴様! ステータス確認の水晶とかカードに触る前からそれを唱えるなど! そんなことは神が許さんぞ!」

「ならば神とも戦うまで!」

「退けぬか!」

「退けぬ!」

「じゃあしょうがねぇや。俺もステータスオープン」

「やっぱそーよね」

「お前らそれでいいのかよ……」

「んもうダーリンは硬いのう。ノリよくやってきゃえーのよ。ソワソワしたって始まらんし」

 

 そんなわけで。

 

 ◆弦月彰利───ゆみはりあきとし

 Lv.1

 種族:月の家系(死神と神の混血)

 職業:死神/月操者

 年齢:17

 性別:男

 HP:1000/1000

 MP:50/50

 攻撃:50

 防御:70

 魔力:20

 精神:20

 称号:変態オカマホモコン、ツンツン頭、トンガリーニョ、彰利一等兵

 

 ───弦月彰利。一人称:俺、アタイ。

 髪を大雑把なオールバック風にしたため、ぴっちりとせずにツンツンと跳ねている髪が特徴の、無邪気という言葉が合いそうな、若者言葉と老人言葉を合わせたような口調の男でした。

 親友である晦悠介のことをダーリンと呼ぶものの、別にホモではありません。

 若者老人言葉とは、「だよね」を「じゃよね」と言ったり、「つまりはそういうことだね?」を「つまりはそういうことじゃね?」と言うような感じです。

 そんな彼のステータスを見て、他の二人はほほうと息を漏らします。

 

「称号ェ……」

「お? なにこれ月の家系?」

「おわっとと! 貴様人のステイトを勝手に見るとは!」

「ならば我のも見るがよいわー!!」

「潔いねキミ! 見るけど!」

「見るのか……」

「あぁほれダーリンもステイトステイト」

「まあ、いいんだけどな」

 

 続いて、モブっぽい男とモミアゲが美麗な男が、ツンツン頭の男へと空中に浮かぶ半透明のステータスパネルを見せていきました。

 

 ◆中井出博光───なかいでひろみつ

 Lv.1

 種族:貧弱一般人(日本人)

 職業:モブ/雑魚

 年齢:17

 性別:男

 HP:72/72

 MP:0/0

 攻撃:8

 防御:7

 魔力:0

 精神:0

 称号:元原沢南中学校迷惑部提督、提督、ムラビトンZ

 

 中井出博光。一人称:俺、僕、この博光。

 学校に通っていれば、同じクラスに“あぁ居た居た、そんなやつ居たよ”って思えそうな、なんかそんな感じです。

 髪はスポーツ刈りを少し伸ばしたかのようなスネ夫チックなものであり、楽しいことがとにかく好きという、元気と平静の間を行ったり来たりしていそうな男でした。

 中学の頃は彼らと同じ学校に通い、その特殊なクラスにて頂点、つまり提督と呼ばれ、親しまれつつも厄介ごとを押し付けられまくり、それでもなお大爆笑していた猛者。

 けれどもあくまで一般人。神と死神、なんていう特殊な産まれとは、あまりにステータスが違いました。

 

「………」

「……弱ェエ……」

「超弱ェエ……」

「う、うるさいやい! だったら晦のはどうなんだ! 見せてみなさいよー!」

「わかったからもう泣くなよ……な?」

「泣いてなんかないやい!」

 

 ◆晦悠介───つごもりゆうすけ

 Lv.1

 種族:月の家系(神と死神の混血)

 職業:神/創造者

 年齢:17

 性別:男

 HP:620/620

 MP:1000/1000

 攻撃:70

 防御:40

 魔力:80

 精神:90

 称号:苦労人、ダーリン(時にダーリソ)、晦一等兵、モミアゲ様

 

 晦悠介。一人称:俺。

 長くもなく短くもない髪と、他の二人とは骨格からして違いそうな、少々童顔にも見える顔。むしろ輪郭。

 そんな彼の特徴を捉えるならば外せない、綺麗に伸びたモミアゲと、二人とは違って元気印とは程遠い、落ち着いた雰囲気。

 高校生という年齢で、神社の神主代行を務めているのだから、その落ち着きも……いや。彼の場合は終始、家族やこのトンガリ頭に振り回された経験、そして中学にていろいろと苦労した経験から来た落ち着きでした。

 しかし楽しんでいなかったといったら嘘なので、彼もまた、根っこの方では楽しいことが好きな男の子です。

 ……なぜそのトンガリくんにダーリンと呼ばれているのかは、また別のお話で。

 

「……あのさ。種族が貧弱一般人で職業が雑魚モブの俺を差し置いて、称号苦労人ってナメとんの?」

「すまん嫉妬の意味がまるでわからん」

「ていうかお前らなんなの!? 僕のこと置き去りにするようなステイト最初から持ってるとかなんなの!? 月の家系ってなに!? まあでもこれで確定した! 俺これ絶対巻き込まれ召喚だヒャッホォウ!!」

「てめぇずりぃぞ提督てめぇ! アタイもそっちがよかった!」

「いや……いいのか? それ」

「だからダーリンノリ悪いっての! 巻き込まれ転移主人公って言やぁ、のちにいろいろあって最強になること請け合いなあれじゃねーザマスか!」

「え……そうなのか?」

「ヌフフハハハハ……! 晦はなにも知らんなぁああ……! どれ、では巻き込まれたことを盾に、ちと王様に旅のための金でもせびってくれようか、の。ホホホ……!」

「ウヌヌヌヌアタイもあげに偉そうに巻き込まれを盾に脅迫したかった……!」

「お前らほんとクズな」

「なに言ってんだよ晦一等兵」

「急に当たり前のこと言い出して、どないしたんダーリン」

「良心ぴくりとも動かないのな」

「まあまあ。交渉はこの原沢南中学校迷惑部が提督、中井出博光にお任せあれっ☆ 必ずや望み以上の状況を手に入れてみせようぞグオッフォフォ……!!」

「……なんかオイラ、中井出が胸張った時点で失敗する未来しか見えんくなった」

「はぁあああ……。ああ、うん。俺もだ……」

 

 言いながらも、やがてやってきた王直属の騎士たちに連れられるかたちで、玉座の間へ。

 高校生男女が何人も居て、水晶のようなものに触ることで、男女らの職業が明確化されていきます。

 やがて、三人の番が近づいてくると───三人は目を合わせ、ゆっくりと笑いました。

 こうして、かつて中学で一緒だった、高校では別々になってしまった、3人の旅が───

 

「おぃコラ王様ァ、金ェくれよ金ェ。俺巻き込まれちゃってさぁ。冒険なんかやってらんねぇから生活資金くれよォ。もしくは衣食住約束するかさぁ。え? できないとか言わないよね? なんてったって巻き込まれたんだもんねぇそっちの都合で。持ってんだろォ~~~っ? え~~~っ?」

 

 類を見ない外道さで金をせびるところから始まったのでした。

 

「出ろォオオオ!!」

「《バキャーン!!》ズイホォオーーーッ!!」

 

 詳しく言うのなら、狼藉者として騎士様に窓ガラスをブチ破る勢いで投げ捨てられ、城から追い出されたのでした。

 ブチ破った先の庭にて、強打した顔面を押さえ、産まれたての小鹿のようにガタガタ震えるその様には、もはや交渉ならばお任せあれと言った笑顔なんぞ微塵も残っていません。

 友人二人もその窓から飛び降りて、城の外へと着地します。

 そこには痛む顔面を気遣いながら、ぴくぴくと震えるモブさんが。

 

「いばがががががが……!!《ズキズキズキズキ……!》」

「提督すげぇな……。いまだかつて、騎士に窓目掛けてブン投げられて城から出た召喚されたヤツなんて居なかったぞ絶対」

「やったな中井出! 世界初だぜ!」

 

 素直な感想をトンガリさんが口にした時でした。モブさんは赤くなった鼻をそのまま、涙を滲ませながらもボタン式の服の前を両手ではだけると、イイ笑顔で名乗ったのです。

 

「時代を先ゆくモブ男───……博光です《脱ギャァーーーン!》」

「脱がんでいい」

「で、まんまとステイト確認さえせずに城から出たわけじゃけんども。これからどうするん? 魔王を倒す使命は別に負わんかったし」

「おいおい彰利一等兵、貴様ともあろうものがそんなこともわからんのかこのたわけが」

「失敬だなキミ! なにを言ってるんだキミは! そこはキミ、チ───」

「アホ言ってないでとりあえず立て提督」

「馬鹿とはなんだこの野郎!」

「アホって言ったんだよたわけ」

 

 こうして、三人は立ち上がり、暢気なる旅路へと歩み出したのでした。

 果たして彼らの行く末はどうなるやら───

 




 *呼称

 弦月彰利 ⇒悠介(悠介、ダーリン、ダーリソ)、中井出(中井出)、自分(俺、アタイ)

 晦悠介  ⇒彰利(彰利)、中井出(提督)、自分(俺)

 中井出博光⇒彰利(彰利、彰利一等兵)、悠介(晦、晦一等兵)、自分(俺、僕、この博光)

 原中迷惑部⇒誰に対してもクズだのカスだの平気で言えて、呼ぶ時には“てめぇ”や“この野郎”や“貴様”を平気で混ぜる(例:おいおい茶がねぇぞ人妻てめぇ)。そんな、互いを許し合って笑える外道集団。そんな猛者どもが集まったのが彼らの中学時代、原沢南中学校迷惑部である。

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