ボケ者どもの理想村(ムラビディア)   作:凍傷(ぜろくろ)

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若者(悪魔)が村に加わった日

【ケース9:ノレシフェノレだから……ノレさん。雄である】

 

 しばらくタコタコ言い合ったのち、急に調子を取り戻した三人は早速舞いを開始。

 一番手にモブさんが舞い、次にモミアゲさん、トンガリさんと舞い、結局なにも起きず。

 

「あっれー……今回は間違えなかったんだけどなぁ」

「クォックォックォッ、そりゃ中井出てめぇ、キサマにゃ“間違えないようにする”という意識しかなかったから想いが籠もってなかったんじゃぜ?」

「バカヤロコノヤロォ、間違えないようにしようって想いがミッチリ詰め込まれてたわナメんなよテメコノ」

「バカヤロコノヤロォ、それ言ったらアタイだって昼飯のことばっか考えながら舞ったわコノヤロォ」

「お前らなぁ……」

「ホホ、そげに呆れた声で横槍入れても、ダーリンもなにも起きんかったのよね?」

「貴様とて同類よグオッフォフォ……!!」

「じゃあもうちょっとだけでも真剣にやらないか……? 実際創造とかがないと本当に潰れるぞこの村……」

 

 その通りでした。

 今でこそモミアゲさんの創造と、トンガリさんの月然力で作物の創造、植物の急成長などで食い繋いではおりますが、それも無限ではありません。

 なんとかしなければ……と考える中、二人はちらりとモブ提督さんを見ます。

 

「え なに?」

「いや……のぅ中井出てめぇ? アタイと悠介が月然力と創造で頑張ってるんじゃし? なんぞない? 貴様が出来る、謎の力の発現とか発案とか」

「愚かな……。あると思うのか、この博光に───!」

「なんでちょっと格好良さげに返してんだ中井出てめぇ!!」

「ちょっとはなにか隠された異能とかないのかよ提督……」

「フン、言ってくれるな……試すか晦。かのカルボーン、確実に複製してみせよう。こちらも自滅を前提とした創造だが、真に迫ることは出来る」

「それ提督が精神的に泣くだけの自滅じゃねぇか!」

「だから前提が自滅だって言ってるじゃねぇか!」

「ほんにクソの役にも立たねー語りじゃねぇマジで!」

 

 相打ちにすら持っていけそうにありませんでした。実に雑魚です。

 しかし懲りることはしません。小休憩を取ったのち、彼は再び舞いを捧げ始めました。

 

「ライトッターン! レフトッターン! ぐるっと回ってボンパッパー!!」

「ボンパラパラパラボンパッパー!!」

「それは舞いなのか……?」

「心は込めてるよ?」

「…………いや、ほんと、真面目にやろうな、提督。本気で村がどうなるかの瀬戸際なんだから……な?」

「お、押忍」

「ぬう、心を込めるだけじゃあダメだっつーことかえ。ほいじゃあどうしたもんかねェ~~ィエ」

「そりゃお前……舞うしかないのでは?」

「だぁね」

「だよなぁ」

「ほいじゃあ中井出YO! 今こそ超本気で真剣に舞う時じゃぜ!?」

「任されよう! さあ精霊よ! 俺と縁がある精霊よ! 今こそ俺の全てを捧げ、この舞を奉納いたそう! そりゃー!!」

 

 そして彼は舞いました。

 それはやはり不恰好ではありましたが、とてもダサくてもたついていてバランスを崩したり倒れそうになったり、ところどころどころか全てがレベルの低いクズな舞いではありましたが、まあなんというかそのー……舞いと言われれば舞い……なのかも? と言えそうなものではありましたが。

 ともかく舞い、やがて足がフラつき、もつれ、ドグシャアと倒れた拍子に脇腹を岩に強打、アオオオオと悲鳴を上げながら悶絶しました。

 

「ぬう、やはりどこまで行っても中井出は中井出だぁね」

「フフ、だが俺は四天王になれたのが不思議なくらいの弱者にして最弱」

「涙こらえながらネタに走る暇あったら真面目にやろうなほんと」

「いや、これでも全力で、真面目にやってみたんだけどな。舞を覚えきれてないのは素直にゴメンナサイだが」

「やっぱアレ? てめぇが夢見なきゃ話が進まねーパターン?」

「し、失礼な! 僕だって夢くらい見てるさ! 大きくなったら破戒僧になるんだ!」

「その夢じゃねィェー!! てか冗談にしたって凄まじい夢じゃねマジで!」

「あー……つまり提督が何度か眠って、そのー……緑髪の女性? の声が聞こえるようにならなきゃダメってわけか?」

「まあファンタズィーの基本に倣うなら。ホレ、異世界の女性が夢に出てきて、そやつの訴えを聞いたらハイ異世界、とかありそげデショ?」

「ぬう、つまりこの博光が役に立つことといったら、眠る以外にはないと……?」

「べつにそーまで言ってなぎゃあも、じゃけんどもとりあえずは寝て、夢の続きが見れるか試してみるのもえーんでない?」

 

 三人は頷き合いました。そしてモブさんを眠らせることになったのですが───

 

「快眠すぎた所為でちっとも眠くないんだが」

「彰利、チョーク」

「オウヨ!!」

「《キュッ》シェヴァアアアーーーーッ!!」

 

 チョークスリーパーでオチました。

 

……。

 

 さて。

 

「いやさ、気絶で夢見るとか難しいって。相手さんのことも考えてあげようぜ? な?」

「気絶じゃ見れんかったか……」

 

 目覚めた彼は、なんの夢も見なかったそうです。

 

「いや、案外時間に寄るのかもしれないぞ? 夜じゃなきゃ見られないとか」

「オッ、それあるやもやね。ほいじゃあ中井出、夜になったら大江戸ドライバーコースね?」

「夜なんだから普通に寝かせてくれない? 死んじゃうから。ね? お願い」

「てーかだぁよ? 中井出YO。てめぇが罵倒したから出てこなかった、とかあったりしねーの?」

「フッ……そうか。まさかとは思ったが、この博光は精霊よりも強者であったか……!」

「ボアに襲われて黄金強打して死んだくせにすげぇふんぞり返り様よねキミ」

「バカヤロー! 夢の中なら俺の方が強いかもしれないじゃないか!」

「夢見んなよ中井出YO……な? てめぇ……中井出なんじゃぜ?」

「そうか……そうだな。俺が間違っていたよ彰利一等兵……。俺、中井出だもんな……」

「だから……そういう問答とかいいから、さっさと段階進ませるぞ。村が廃れるっつーとるだろうが」

 

 もはや炊き出し鍋も片付け、村人たちも家に戻った現在。三人は川の傍であーでもないこーでもないを続けておりました。

 水の傍でなら、水の精霊でも降りないものかと願ったが故です。

 

「しっかし、上手くいかないもんだな」

「上手くやろうとするからダメなんだって、漫画あるある名言があるよな」

「オッ、あるね~。ほいじゃあアレ? むしろ成功させようとか思わんほうがええってこと?」

「かも。というわけで、自然体で自然の精霊に自然なる自然の舞いを奉納しよう! レッツダンスィン!!」

 

 そうして彼は踊りました。自然といってもなにがどう自然なのかがわからんモミアゲさんとトンガリさんは見守り、モブさんだけが。

 やがて彼のその踊りは、二人の視線をまったく気にしないものへと至り、恥も照れも全てを置き去りに、様々な意識を捨て去り行なわれ───!!

 

「オウレイ!!」

 

 ッタァーン! と最後にステップを踏みしめ、完了しました。───次の瞬間!

 

「ウオッ!?」

「ホワッ!? ななななんぞ!? 何事かぁああ!?」

「な、なんだ!? 地面が光って───魔法陣!?」

 

 モブさんの足元が光り輝き、その光が魔法陣を浮かばせるのです。

 彼らは大変驚きました。よもやの成功!? とうとう彼は成し遂げたのか───!? そんな期待に胸が高鳴り、やがて───

 

『悪魔の舞いにて我を呼ぶは貴様か、人間……!! 我が名はノレシフェノレ……!! 天意に背きし元・天の使いである……!』

 

 堕天使、ノレシフェノレが現れたのでした───!

 

「のっ……ののノレシフェノレ……? え? ルシフェルじゃなくて? え?」

「てーか悪魔の舞いってナチュラルになんてもん踊ってんだ中井出てめぇ! てか語呂悪ッ! ノレさん語呂悪ッ!!」

「自然の舞いとか言っておいてどうやったらそれが悪魔の舞いになるんだよ提督この馬鹿!」

「やだなぁ、俺にとっての自然が他にとっても自然なわけがないじゃないか」

「「うぅううわぁすっげぇ説得力!!」」

 

 思わずツッコんでみましたら、ものすごい説得力で返されました。

 そんな状況の中、堕天使は問うのです。召喚されし者の務めであるとさえ取れるほど、自然な流れで。

 

『招きし者よ……我に願うは契約か? はたまた無駄に血を捧げるために招いたか』

「え? 契約? ……」

(……お、おいおいやばくねーのダーリソ、中井出のヤロー、またとんでもねーこと言い出したりして悪魔にムッハァー言わすんじゃね?)

(ぬおっ、一瞬で想像できた……! こりゃ止めた方が───)

うむ! 契約のために召喚しました! 俺に(くだ)れコノヤロー!!

「「だぁああ止める間もなくやりやがったぁあっ!!」」

 

 とりあえず面白そうなので真っ直ぐGOした彼はとてもとても満足した顔をしておりました。絶叫した二人なんぞ知りません。

 ですが───

 

『ほう、そうか。いいだろう。だが───対価は貴様の命で支払ってもらう!!』

 

 堕天使ノレシフェノレは、口を歪ませそう言うと、一気に接近、彼の胸をその大きな腕で一気に貫きました。

 

「ごはぁあっ!?」

『クフフフフ……! ああ、いいぞ……! 新鮮な魂と、血の味だ……! ここに契約は完了した───下僕だろうとなんだろうとなってやろうではないか。だが、契約者が死んでしまってはどうにもならんが、な』

 

 ハハハ、ハハハハハハと堕天使は笑う。

 彼の肘辺りまでを胸に埋められたモブさんは軽く咳き込むとがくりと項垂れ、やがて動かなくなりました。

 ……次の瞬間には、大空の雲の切れ間よりこぼれる光から生まれ出たような演出とともに、大地へと降り立ちましたが。

 

『………』

「………」

『………』

「………」

『………』

おい下僕、とりあえずアンパン買ってこい。あ、テメーの金でな

嘘だぁああああああああっ!!

 

 ここに契約は完了しました。

 逆らおうにも契約の楔がそれを許してくれませんでした。

 自分で認めてしまったので自業自得です。


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