【ケース11:命懸けを選んでも命に対して執着がないから突撃出来る人】
「なぁ……提督が泡吹きながら動かなくなったんだが……」
「短時間で死にすぎたからじゃねーんかね。いくらなんでも死にすぎだと思ったし」
『それでも助けに入らん貴様らもどうかと思うが』
「や、だって中井出がレベルアップせにゃ意味ねーもの」
「や、でも単独でオーガに勝つとか純粋に凄いだろ」
「KOFばりにオーガに暗黒地獄極楽落としめいた叩きつけされまくってた時は、さすがにやべぇと思ったけどね」
「たぶんオーガの親子だったんだろうなぁ……」
「子供に偶然勝てたと思ったらデケェエエエのが来たもんねぇ……まあまあほいでほいで? 中井出? 中井出ー? 目的のレベルはどぎゃんなったとよ?」
「自分からオーガの喉に突っ込んで、強引に窒息死させるとか……普通考えないよなぁ……」
『そうしてしみじみ思い返す貴様らも、本当に心底どうかと思うが……』
「おっほっほ、原中なんてみんなそうそう」
グビグビと泡を吹く彼に回復能力を行使しつつ、トンガリさんは彼を揺すり起こします。
揺すられた彼はといえば、何故だか「お得でっせ……」と呟きながら目覚めました。
「う、んん……ん……お。なんだか……そう、なんだか……とても長い夢を見ていた気がするよ……。ガルパンおじさんだった僕が、最終章を最後まで見届けることなくガルパンおじいさんになって、ついにはラストの上映を見ることなく旅立つ……そんな悲しい夢だった……」
「おいやめろ」
「それ以上、いけない」
「う……? あ、あれ? 晦一等兵? 彰利一等兵? あれ? オーガは? あれ?」
「提督……もういい、いいんだ……戦いは終わったんだ……提督……」
「よくやったぜ中井出YOォオ……てめーはようやく解放されたんじゃぜ……?」
「そ、そうなの? 俺……もういいの? もう暗黒地獄極楽落としされなくていいの……?」
「オウヨ! つーわけだから早速ステイトオープンYO!」
「任せてくれたまえ! さあ見さらせわが生体マナの上昇!」
モブさんはステータスをオープンしました。
そこにはレベルアップの通知が何列にも渡り続いており、オーガの経験値の高さと、貧弱一般人のレベルの上がりやすさを強烈に印象付けておりました。
そして肝心の生体マナといえば───!? ……ゼロのままでした。
「……あれ? 生体マナがちっとも上がってねー」
「なにやってんだ中井出てめぇ!」
「それじゃ意味ないだろうが続き行くぞ提督てめぇ!!」
「え? ちょっと待って? さっきもう終わったって……終わったって言ったじゃない! 違うよ! こんなの僕が望んだ終わりじゃ───え? いいからポイントさっさと振り分けろ? いやだからこれURにしか振り分けられないんだって! 違うよ! 僕だって好きでこんな能力しかないわけじゃ───ってだからなんで都合よくオーガがさっさと見つかるの!? しかもなんかめっちゃやる気だしいやちょ待って僕まだ心の準備がしぎゃあああーーーッ!!」
戦いとはなんと悲しいのでしょう。
けれど彼は己の可能性を信じて戦うしかなかったのです。
そうして戦い、殺され、やられて、死んで、勝って、殺され、殺され、殺され、勝って、勝って、やがてレベルが19にも到ろうという頃───彼はついに。
「……!!」
そう、彼はついに───!!
「…………うん、なんかこれダメだこれ」
……生体マナがカスほどにも上昇しないことを受け入れたそうです。
「なにやってんだ提督てめぇ!」
「てめぇの生体マナが上昇しねーと精霊の声が聞こえねー言うちょろー!? なして上がらんとやこのタコ!!」
「う、うるせー!! 俺だってむしろめっちゃ上がってほしかったわ! 堕天使に魔法適正マイナス値とか認定されたくなかったわ! アイテムでブーストしようが武具で補助しようがどうあっても魔法使えねぇとかもはや泣きてーレベルだわちくしょうめぇええっ!!」
「いや、けど本気でまいったぞ……? これじゃあどうやっても精霊の声なんて……」
「グムムムム~~~ッ、な、なにか方法はな、ないものか~~~っ!! つーわけで中井出YO? ……なんか裏を突くような方法思いつかん?」
「貴様散々カスだのクズだの言っておいて、それを俺に訊くって……」
「けど実際、このままじゃ手詰まりだぞ提督……なにかなかったりしないか?」
「んー……確かにそうなんだよな。このままじゃ本気で廃れるだけだし……ゲームとかだったらどうするかね」
顎に手を当て考えてみます。
するとどうでしょう、なにやら急に素晴らしき案が……!!
「………」
案が……!
「………」
……。
「あ。俺が聞こえないんだったらさ、ノレ公に憑依してもらって、夢の話を聞いてもらうってのはどうだろう」
「おいおい中井出YOォオ? そげなゲームじゃねーんだから、夢の中に契約堕天使を引きずり込むとか……ねぇノレちゃん?」
『うん? 出来るが?』
「「「出来るのかよ!!」」」
『無論だ。生体マナを食いつぶすような行為はともかく、ただこの男に同化して声を聞くのみなぞ容易いことよ』
「バカヤロー! じゃあなんでさっさと言わねーんだこのクズが!!」
「そうだこの馬鹿!」
「バカめ! バカめ!!」
『貴様らがそうやって騒ぐからだ! 最初から素直に助けてくれと泣きついておれば考えてやらんでもなかったというのに!』
「そうかじゃあよろしく」
「言ったからには守れよコノヤロー」
「というわけだからよし寝ろ提督」
「無茶言うねこの一等兵!!」
『こ、こいつら~~~……!! ……フン? だが私が言葉を聞いたとして、真実を話す必要があるかな?』
「真実を全部話したら下僕契約解除してあげるねはい契約」
『任せるがいい!! 聞き漏らすことなく完全に記憶してきてくれるわ!!』
こうして、一歩ずつ一歩ずつ、彼らは真実へと向かっていくのでした。
「まあ、これでほんに少しずつでも先に進めるやね」
「鈍行にもほどがあるだろ……ちったぁこっちのことも考えてくれ」
「おいおいまた被害者ヅラかよ晦一等兵。こうなったからにはあれだろ? 俺達……一蓮托生だろ?」
「いいから提督はさっさと寝ろ」
「そうだ中井出てめぇこの野郎」
「だから眠たくないんだって! そんなに寝かせたいなら眠くなる道具でも創造したりしてみせろよぅ!」
「って言ってもな。んー……人が眠くなる成分ってなんだ?」
「キョホホ、ここはアタイの出番じゃね? つーわけで中井出コラァ! 貴様に月清力からなる沈静と穏やかなひと時をくれてやろう!」
トンガリさんが手を掲げ、そこから月清力なる力を放ちます。
するとどうでしょう、モブさんの様子が段々と変わってゆき───
「フフ? いや、全然眠くないし? 俺めっちゃ目ぇ冴えてるし?《フララララララララ》」
「怖いくらいにフラフラしてるんならさっさと寝ろたわけ!!」
「いやいやなに言ってんの? 俺さっき眠くないって言ったじゃん。眠くなる力とか嘘だから。ないからそんな力。ない。ないからね。証明するからね僕が。……中井出博光です《脱ギャーーン!!》」
「フラつきながら脱ぐなよ!」
『いいから貴様はさっさと寝ろ!』
「ウ……ウグアア~~~ッ! き……強烈な睡魔に襲われるということは……こ……こんなに苦痛をともなうものなのかぁ~~~っ! ま……まるで体内の血液が全て入れ替わっていくようだぁ~~~~っ! グ……グウウ~~~ッ! しかしオ……オレは耐えるぞ~~~っ、あ……愛するアリサのた……ために~~~~っ! ……ぐう」
「いろいろ言ってたわりに寝るの早いなおい……」
「きっとロビンの真似が終わったら、起きてる意味とかなくなったんしょ」
「ああなるほど」
特別手を出すこともなく、彼は睡魔に負けました。
やはりただの貧弱一般人でした。