【ケース13:どんな図鑑にも載ってないやこのパチモン】
夢の中の草原。見渡す限りの綺麗な景色と、自分たちと女性とを隔てる濃霧の仕切りの前にて。
「ちょセンパッ! っちまってっせぇーよ! ンのオンナ俺っことっちまう気ッンスョー!!(訳:ちょっと先輩! やっちまってくださいよ! あの女、俺のこと殺っちまう気なんですよー!)」
『………』
一人は喚き、一人は頭を痛めておりました。
『言いたいことは落ち着いてしっかりきっちり相手に伝わるように言え! 何語だそれは!!』
「先輩に頼ることとイキがることしか知らないクソザコツッパリ後輩語。なにより相手に言葉を受け止めてもらう気がこれっぽっちもないことから、我ら原中はそれらを総じて“ヴァサー語”と呼んでおります」
『な……なに? つっぱ……なに? ヴァサ……なに?』
「ガンダムではない。OK?」
『う、うむ……? いや、それは悪魔的な存在としてのヴァサーゴではなくてか?』
「あ、認識としてはそれでOK」
『そうか……』
「うん」
『………』
「………」
『ところであの緑髪の存在だが』
「ッちょセンパっちまってっせぇーよ!!(訳:ちょっと先輩やっちまってくださいよ!!)」
『ヴァサー語はもういい』
「速ぇえ!?」
『お前ぇええ……! あのような尋常ならざる存在に対して、よくもまあ罵倒なぞ飛ばせたな……!』
「え? 尋常ならざる? …………ああっ! だよね! 普通緑髪なんてないよね! 俺が住んでた世界でも、どこぞのお婆様が紫色に髪を染めた上に、髪型をなんかヘンな形にゴッチゴチに固めてたのを見て、ついたあだ名がグレートハンマーヘッドだったくらいだもの! きっと彼女も苦労したに違いねぇ……! でも髪の毛染めるのヨクナイよ? なんで染めるんだろね、自然色ってあんなに眩しいのに」
『知るか! というかあれが自然色だ! 貴様らの世界にも違う髪の色の存在くらい居ただろう!』
「いや、なんかアレって太陽とかの影響でそうなるらしくて、きっちり銀髪産まれってなかなか居ないとかなんとか聞いてて……あ、金髪は居るんだけど、さすがにほら、緑髪って……どんな影響を受けたら産まれるのかなーって」
『…………ふむ。ならば緑髪の存在は、色素……と言うべきか? が、植物に近いのやもしれぬぞ』
「アッ……なるほど! じゃあ桜とかに色素が近いお子は髪の毛がピンクになると! ……ところでピンク髪ってなんで淫乱なの?」
『まっ……真顔でなにを訊くかと思えば!!』
男二人で髪のことを話し合う中、女性は困惑しっぱなしです。けれど律儀に待っているところに、彼女の性格を感じました。
『はぁ。それで? どういった存在なのかはやはり解らんままなのか』
「いや、なんでも彼女、ドリアードらしくてね? 僕の舞いに誘われてきたんだってエヘヘ」
『……待て。何故知っている。意思疎通が出来なくて困っていたのではないのか!? 私がなんのために苦労してまでここに来たと思っている……!!』
「え? 僕キミの苦労なんて知らないよ? だって“夢に入って意思を受け取ること”が出来るって、普通のことのように言ったのはキミだし、僕は条件出して頷いてもらっただけだし」
『…………ま、待て。待て待て待て! ではなんだ!? 私はっ……』
「条件満たせてないから関係続行! これからもよろしく頼むゼッ☆」
『嘘だぁああああああああああっ!!』
絶叫でした。頭を抱えての絶叫でした。
当然と言うべきか、ドリアードもノレさんも、こんな方法で言葉の届かない状況をなんとかする存在が居るとは思いませんでした。
普通の物語では、夢の中で声が聞こえないことを訴え続けるか、不思議な夢だなーと思いつつなにもせずに見守るだけです。
冷静に考えれば、動くことも考えることも出来る状況で、何故なにもせずに見守るだけなのかとツッコミを入れたいところではありますが、ようするにそういった物語の多くは、考えることは出来ても実際には動くことが出来ないのでしょう。
『ハッ……!? 待て! 今からでも訊きたいことくらいはあるだろう!? あるだろう!? あれ! あってくれ!』
「あるけどもう関係続行って言っちゃったから別にどうでもいいかなぁ……」
『本人を目の前にして“どうでもいい”!? 舞いに呼ばれた相手の前で“どうでもいい”!?』
さすがに気の毒になったノレさんは、緑髪の精霊様を見やりました。
けれど彼女は可笑しそうにくすくすと笑うだけです。
『っ……さ……さぞ、上位の精霊殿とお見受けする。私は悪魔、ノレシフェノレ。あなたは……?』
『? ───、……』
『……、しぜっ……しぜっ!? 自然の精霊!? ドドッドドドリアード様ァァァァ!?』
「!?」
ノレさんは叫びました。対し、モブさんは驚きました。
え? そんな名前なの? 自然の精霊ってよく聞く肩書きだけど……すげぇ名前ですねドドッドドドリアードって……と。
「ねぇノレさん。僕間違ってないよね? ドリアードって大木に枝の手足が生えたみたいなアレだよね? しっかり人間女性みたいな姿でドリアードってちゃんちゃらおかしいよね?」
『貴ッ様本当に口が減らないな!? 大精霊の前でよくもまあそこまでズケズケと言えるな貴様!! あとそれはトレントだ!!』
「え? そんなことないって、あれ絶対ドリアードって名乗ってるだけの綺麗なおねーさんだから。なんだったらダークドリアードで検索してみろよ、ドリアードって名前に対する男のロマンとかなんかそんなのが砕け散るから。あ、言っとくけどダーク・ドリアードじゃなくてダークドリアードだからなコノヤロー」
『なんのことだ! 検索!? なんのことだ!!』
「うるせー! ダークってつくだけでエルフは美人が多いままなのに、なんでダークドリアードだけ切り株おばけなんだよ! 全世界のドリアードさん好きに謝れクズが!!」
『貴様さっきまでドリアードを大木から枝の手足がなんちゃらと言っていただろうが!』
「だからドリアードは大木から枝の手足が生えた存在なんだよ。ダークになった途端に切り株お化けになるわけねーじゃん。エルフだってダークでも色黒美人なんだよ? ドリアードだけダークになったら切り株お化けになるとか無いって。だから彼女、ドリアードじゃないんだよ。僕知ってるよ? あの人お酒の神様なんだ。僕の世界に月桂冠っていうお酒があってね?」
『貴様の世界のことなぞ知るか!!』
舞いに誘われて来たというのに、その本人の前でここまで言えるこいつはなんなんだとばかりに言ってやりますが、ノレさんは気が気ではありません。
何故って、視界の先に居る女性が明らかに自分より格上の存在で、さらにはここに入るために苦労したというのに、どうにも彼女は侵入妨害の壁なんぞ張ってもいなかったようなのです。……つまり、純粋な力の差の所為で苦労したと、ただそれだけの理由に、ノレさんは震えました。
「ウフフ、それにしてもキミ、名前はアレでもルシフェル的な存在なのにビビリすぎだぞぅ? もっとドッカリ構えたらいいのに」
『馬鹿か貴様は! 私をルシフェル様のような超上の存在と一緒にするなど! 名前が似ているだけで、私はノレシフェノレだ!!』
「……エ? キミ、ルシフェル的な存在じゃないの?」
『様だ様!! 境遇が似ているだけで、私はノレシフェノレだ!!』
「……………………パッパッパー・ドゥビドゥ・パッパー♪」
『誰がパチモンだ貴様殺す!!』
ノレさんは激怒しました。人間の襟首掴んで、アァン!? とばかりに顔を近づける血管ムキムキの悪魔というのも珍しいものです。
「ノ、ノー! 言ってない! 僕ただ歌を歌おうとしただけだよ!?」
『ほう……!? ならば歌のタイトルはなんだ……!』
「タ、タイトル? タイトルは~……」
モブさんは考えました。かつてないほど真面目な顔で。
いっそ、その凛々しい顔にドリアードさんが頬を染め直すほど。
やがて彼はキッとノレさんの瞳を真っ直ぐに見つめ、歌の名を口にします。
「───フリスキー・モンパチ」
顔面をストレートで殴られたそうです。
タイトル⇒フリスキーのHPに行けばきっとわかる