ボケ者どもの理想村(ムラビディア)   作:凍傷(ぜろくろ)

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眠ってる人の鼻を摘む少女が居たらトラウマになるお話

【ケース14:眠ってても傍迷惑】

 

 メッシャア!!

 

「うおぉっほぁあっ!?」

「ウォヒョッ!? ど、どぎゃん!? どぎゃんしたとねダーリソ! キミがそげな声上げるなんて、めんずらスィー!」

 

 一方の老村では、モミアゲさんが眠ったモブさんを見守り、トンガリさんが舞いの練習をしていたりしたのですが───

 

「い、いやっ……! 提督の様子見てたら、いきなり顔面がメシャアってヘコんで……!!」

「ホ? おっほっほ、ダーリソったらいくら中井出が変人変態の類でも、いきなり顔面ヘコむなんてあるわけねーべョギャアアへこんでるゥウウーーーッ!?」

 

 トンガリさんが笑いながら覗いてみたそこには、愚地克己の下段突きをくらったヘクター・ドイル氏のように顔面が陥没しているモブさんの姿がありました。

 

「ダ、ダダダダーリソ……! いくら普段から中井出が、あくまで中井出が迷惑かけてるからって、ドイルさんになるほどの下段突きをせんでも……!」

「ナチュラルに俺がやったみたいに誤解するなたわけ!! ていうかお前も大概図々しいな!? 迷惑かけてるのはお前も同じだからな本気で!!」

 

 言うだけならタダなので、そう言われてもニコリと返すはトンガリさん。

 ともあれ癒さねばヤバイと、早速トンガリさんが癒しの月操力で癒します。するとどうでしょう、ヘコんでいた顔がミチミチメリメリ……と音を立て、直後にパァンッと元の形に戻りました。

 

「……もはや人間じゃないな……」

「いや、これ回復しただけだから、さすがにそう言ってやんねーであげましょダーリソ」

 

 回復の過程で人間であることを否定された彼は、しかし未だに眠ったままでウンウンと唸り、グムム~と唸り、ヌァンーーーッと叫びました。

 

「なんなんだこの叫び。ていうかこれで起きないとかどうなってるんだ」

「ロビンマスクの真似デショ。ギロチン・キングに襲われた時になんか叫んでた」

「……寝言でももうちょいマシな言葉はないのか……?」

「寝言は寝て言えがキメ台詞みてーなキミが言うと、なんか中井出がカワイソーじゃわい」

 

 しかしなんとも平和な寝顔です。とてもさっきまでドイルさんだったとは思えません。

 トンガリさんはニコリと微笑みつつ、そんな彼の鼻をうりゃーと摘んでみました。

 するとどうでしょう、なんと彼の顔面が再びメッシャアと陥没したのです。

 

「オギャアアアアアアアアアワァアアアアアアアッ!?」

 

 これには鼻を摘んだトンガリさん、絶叫。

 

「イヤッ!? ホギャッ……ホギャアアアワァアアアアアアッ!!」

 

 一気に涙が飛び散るほどの恐怖と動揺に襲われ、一緒に潰れた鼻からバッと指を離すと、高鳴りまくる心臓を落ち着かせようと必死になります。

 

「彰利……お前……」

「いや違いますよ!? アタイじゃっ……アタイじゃねィェーッ!!」

「いや、けどな……」

「ダーリンだって見てたっしょ!? アタイ鼻摘んだだけYO! 北斗神拳でも鼻摘んだだけで顔面潰すとか無理じゃよ!?」

 

 ともあれ耳からまで血をドグドグこぼすモブさんにさすがに危機感を抱き、再び癒します。するとふたたびミリリメチメチパァンッと顔面が元通りになり、彼は変わらず寝息を立てました。

 

「……提督ってさ、無駄に逞しいよな」

「これぜってー、夢の中でノレさんに顔面ストレートくらってるっしょ」

「夢の中でもからかいまくってるんだろうなぁ……」

「じゃけんども、いい加減なんらかのコトが起きんことには、この村ダメになりそーじゃし。アタイらのダンスじゃ悪魔は降ろせても精霊も妖精も降ろせんかった。こりゃあただのヒューマンな中井出に懸けっきゃねーべョ」

「その懸けた気持ちを土足どころか便所スリッパに履き替えて踏み砕くのが提督だから、俺達こうして困ってるんだろ……」

「どんだけ身体能力があっても、特殊能力とかがあっても、人の性格にまでズケズケ干渉できるかっつーたら、そういうわけでもねーもんねぇ……」

「出来ないのか?」

「出来るよ? でもしねー。中井出はコレだからえーんべさ」

「……まあ、そりゃそーだ。こうなりゃ一蓮托生だもんな。こういうヤツだから、俺も中学が好きだった」

「オウヨ、アタイもだ。アタイね、こやつだけはどげなことになっても信じられるって……そう思うのYO。なんっつーのかね。こう……どうあっても……人間? 凡人っぽさがどこかにぜってーあって、ああ、中井出だわぁ……って思えるのよね」

「人間してるよな~って感じだろ?」

「そうそれ。どこまでいってもヒューマンよネ、安心する。そしてアタイは……こやつの人間性を否定なんぞしねーのョ」

 

 そんな、どこか過去を懐かしむような会話をした時です。なんと眠っているモブさんの体が、びくんと跳ねたのです。それだけではなく、なにやらビググガタガタと震えだすではありませんか……!

 

お、おのれ妖怪!

「おいー!? さっきまでの会話ー!!」

 

 しかしその言葉もわかるなぁと思ってしまうモミアゲさんも、このモブさんの謎の痙攣には心底びっくりしました。

 

「彰利! あの前の悪魔をその場に縛り付けた時みたいに、提督の体も押さえられないのか!?」

「───! ……いや……大丈夫だ悠介。ここは中井出を信じよう」

「え……彰利?」

「中井出が纏ってる気配が変わった。変わったっつーか、纏い始めた。それが中井出の意思によるもんかは解らんけど、たぶんこりゃあ……内側で何かが起こっとるぜ」

「内側って……」

 

 痙攣するモブさんを見下ろします。その様子はまるで、ホラーものでありそうな……そう、体内で産まれたなにかしらが、その殻を破らんとするような様子であり───!

 

「おぉおおおいおいおいおいこれ大丈夫なのか!? 本当に大丈夫なのか!? 腹とか突き破ってなにかが溢れ出そうだぞ!?」

「死んでも復活できるって安心材料がなけりゃアタイだって見守らんって! けどこりゃあ……やっぱりなにかが内側から溢れ出んとしとる! 強烈なパワーを感じるワ!」

 

 膨張し、破裂する。そんな予感をさせる何かが、今、目の前で痙攣するモブさんの姿から感じられました。

 けれど二人は無駄に無茶なモブさんという存在を好き勝手に信じることにし、様子を見るコトにしたのです───が、変化が訪れたのは直後でした。

 ひときわビグンッと大きく震えたかと思うと、モブさんの体が膨張し始めたのです。

 

「あっ……彰利! やばいぞこれ彰利!」

「腹があげに膨らんで───腹が───は、はら……ハラ?」

 

 腹部あたりが盛り上がりました。……が、なにやらそれが少し下に下がり、別の部分がモリモリと。

 

「え、やっ……いやちょっ……待って!? お待ちになって夢のおなごさん!? そこやばい! 男子的にそこが盛り上がっちゃうとなんかいろいろ誤解がっ……!!」

「おわわわわどどどどうするんだ!? どどどどうするんだ彰利!? 彰利ーーーっ!!」

「落ち着くのよダーリソ! ここここここここは鎮魂の意味も込めてグワッハッハッハーと笑って、ってそうじゃねィェーーーッ!! 中井出!? ちょ、中井出ーーーっ!? 今キミの恥とか外聞が相当ヤベーッ!! 起きてねぇちょっと起きて中井出ななな中井出おきやべ中井出っ、まっ、おっ、中井出ーーーっ!!」

 

 ───その日。

 眠り、跳ね、顔面を陥没させ、回復し、陥没させ、回復し、痙攣し、ズボンの股間部分を盛大に盛り上げた彼から、自然の力が溢れ出ました。

 

「ホギャアアアアアーーーッ!? ななな中井出が股間からなんか緑色の霧を噴出させたァアアーーーッ!!」

「う、うわっ……うわぁあああーーーっ!?」

 

 その光景に、かつてのクラスメイツは絶叫し、その自然の力……然の精霊の加護が降り注ぐと、荒れた大地が……なんと癒されていくではありませんか!

 

「ゲッ……ゲェエーーーッ!! ななな中井出の緑色の汁が大地を潤していくーーーっ!!」

「ななななんだコレなんだこれなんだぁこりゃぁあああああっ!!」

 

 二人は、それはもうパニック状態でした。

 ちなみに“然の加護”は彼の丹田を通して出たのであって、股間からではありません。出た霧状の加護が出口を求めて溢れ出し、たまたまそのー……ズボンのチャックあたりから解放されただけです。

 けれど見た目がもういろいろとアレなので、この衝撃的光景を機に、モブ提督さんのあだ名に“奇跡の青汁”が追加されました。

 起源は、スティック状の青汁粉を誤って散らしてしまった時の光景に似ていたためです。

 


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