ボケ者どもの理想村(ムラビディア)   作:凍傷(ぜろくろ)

16 / 68
青汁

【ケース15:失敗は成功の母。挫けぬ心こそが……そう、父だ。え? 叔父? ……遊び心じゃね?】

 

 ……そんなわけでして。

 

「いやね? なんかきちんとしたそのー……然の舞い? ってのを教えてもらってさ? それが出来ればきちんとした降臨の儀式になるんだって。気持ちを込めるのは大事だけど、村長さんに教えてもらったのはほら、あくまで以前の像に妖精を降ろすための舞いだから、僕に関係する精霊を降ろすにはいろいろと足りてないんだとか」

「マジか青汁」

「そうなのか青汁」

「うん、いやあの、ねぇ? なんで僕青汁言われてんの?」

「うるせぇ青汁てめぇこの野郎青汁」

「今回はさすがに驚きすぎたわ青汁、なんなんだよあれお前青汁、ほんと勘弁してくれ青汁」

「いつから青汁って罵倒文句になったの!?」

 

 目が覚めてみれば青汁呼ばわりでした。

 ハッと気がついて、枯れた大地に多少の潤いと、小さな植物などが生えていることに驚いた時点で、既に彼は青汁と呼ばれていました。

 第一声が「起きたのか青汁てめぇ!」だったほどです。

 

「ほいでよォオ? 青汁の夢に出てきたっつーそのー……ドリャード? が、どう青汁に関係しとるっつーの?」

「精霊と青汁の関係なんて俺知らねぇよ!? つーか青汁の夢ってなに!?」

「なんだと青汁てめぇ!!」

「だからどんな罵倒文句なのそれ! 言っとくけどなー! 青汁って言った方が青汁なんだかんなー!? ……言ってるこっちがワケわかんねーよ! なにこれ!」

「ほっほっほ、おいおい青汁てめぇ、とりあえず落ち着きなされよ。青汁呼ばわりの真実を知りてーなら、このケータイとかいうもので撮った動画を見るがヨロシ」

「え? 青汁呼ばわりの真実が撮れてる動画ってなに? いや、正直青汁って表現はどうかと思うけど、想像はついてるんだよ。ドリアードがさ、俺に向かって自然の加護ってのを飛ばしてきてさ? それがすっごい細かい緑色の粒子でさぁ、俺に懐くみたいに俺の周囲を飛び回るんだよな」

「ほれ、これ動画ね」

「どーせあれだろ? それが俺の体から出てきたのを見て、幻想的な光景って言うのが恥ずかしくて青汁って言───発生場所ォオオオーーーッ!?」

 

 動画で早速斜塔が建築されておりました。そして溢れ出る青汁の粉末。なんか輝いてる緑色の濃霧。

 ああなるほど、青汁だ───。

 羞恥に顔を真っ赤に染め、涙まで滲んできた彼は静かにそう思ったそうです。

 

「おいおいヤベーョこれェ……このままじゃこの村、中井出の股間から噴火した青汁に救われた村、GOD青汁の村とか呼ばれ始めちまうよ……」

「そもそも青汁言ってもこの世界の人に伝わらないからやめない!? そもそも青汁って言ったって青くないから余計に伝わらないだろ!」

「それよりもまず、教えてもらった然の舞いってのをやって、とっとと村を救わないか……?」

 

 言い争いを始めるバカ二人を前に、モミアゲさんは溜め息を吐きつつ告げました。

 二人はそれもそうだとすぐに納得し、それぞれ舞いを始めたのです。

 

「よーするによォオ? 自分の属性に合った舞いをしなきゃなんねーってわけっしょ? つーたらアタイは闇っぽい舞いってわけよネ?」

「舞いの仕方に自然っぽさとか闇っぽさなんてあるのか?」

「あると思えばあらぁな! ちゅーわけで闇っぽい舞い……!」

 

 そうして彼は踊り始めました。闇っぽい踊りは、確かに闇っぽい雰囲気を醸し出し、その(やみ)ィ気持ちは確かに自分の像に流れ込んだのです。

 けれどそうであれと願われたグリフォンマスクの像が、その闇の波動を吹き散らしました。

 

ゲーーーッ!!

 

 これには創造してもらったトンガリさんもびっくりです。

 

ゲーーーッ!! わ…わたしの変身機能は外界にある建物・樹木・生物・機械など、目に見える風景に対して敏感に反応するのが特徴! し…しかしそのわたしの変身ターゲットである外界のすべての風景をこのような巨大パラソルで覆われてしまっては、もうどうすることもできーーーん!!

「お前いきなり早口で何言ってんだ」

「いや、ゲーッて叫んだら唐突にオメガマンのこと思い出して。なら二回はゲーッて叫んだあとに、律儀に説明したあとどうすることもできーんと叫ばなきゃおめぇ……嘘だろ?」

「何に対して罪悪感抱いとんのだお前は」

 

 ちなみにオメガマンが二回ゲーッと言った理由については謎です。

 

「まあそれは置いとくとして。中井出~? おんしの方はどぎゃんしとっとねー? ……ア、アアーーーッ!!」

「彰利? って、おぉおおっ!?」

 

 モブさんの方を向いたトンガリさんは、それはもう大変驚きました。遅れて振り向いたモミアゲさんも驚くほどです。

 そこにはなんと、舞いを綺麗に舞いつづけるモブさんの姿があったからです。

 

「す、すげぇ! 馬鹿な! 中井出が……あの中井出が、きちんと舞えとる……じゃと……!?」

「あ……そうかなるほど、そういやそうだ」

「ホ? なんか気づいたん? ダーリソ」

「いや、そもそも貧弱一般人で体力も無かった提督だけど、レベル上がってステータスも上がってるんだよな。筋力に影響が出てるかはわからないが、出てるんなら体幹とか……バランス感覚も強化されてるんじゃないか?」

「あっ……なぁ~るっ! そりゃ確かにそうだ! でも普通の会話で“○○○ないが”とか言う若人ってなかなかいねェエエ~ェエよね。ダーリソってばたまぁにジジくさいんだから」

「うるさい。たまに出るんだからしゃーないだろ」

「たぶんきっとダーリソってば潜在中二病症候群だと思うのよネ。カッピョエエ言い回しとか無意識に探しちゃってる系男子」

「ちゅうに……っていうのがなんなのかは知らんが、格好いいというか、自分が選びたいものを選ぶのは悪いことじゃないだろ」

「……言ったばっかでまた“が”を使うとはさっすがダーリソ。じゃけんども、もちろん自分の好みを貫くの、とてもエエこと。むしろそれを恥ずかスィーとか黒歴史とか言い張る方が情けのうございます。もっと自信持ちましょうよ、あの頃のアンタ、あんなに輝いてたじゃないのって言いたくなるね」

「それもまた好みだろ。子供の頃は嫌いだったクセの強い漬物が、大人になったらたまらなく好きになったとか」

「そこで出る好みの例えが漬物って時点でジジクセェよダーリソ」

「? 漬物嫌いか?」

「桜大根とかめっちゃ好き」

 

 二人はモブさんの舞いを見ながら好みの話をしました。

 ちなみにモブさんはあんぱんとうどんが大好物です。漬物はなんかあのスーパーとかで売ってる大根の黄色いなんかあの~……あの、うん、あの漬物が好き、だそうです。

 そうこうしているうちに、しゃらん、とモブさんが舞いを終えると、彼から少しずつ漏れていた緑色の粒子のようなものが、さらさらと風に流されるように動き、夢の中の女性の形をした像へと流れ、染み込み消えていきます。

 

「オッ……見たことねー反応ザマス! やったぜ中井出!」

「やったな提督! 成功したんだな!?」

「…………いや。失敗だ」

「ヌッ!?」

「失敗……って、なにかあったのか!? 提督!」

 

 問われた彼は眉間に皺を寄せて呟きました。失敗───それの意味するところは……!


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告