ボケ者どもの理想村(ムラビディア)   作:凍傷(ぜろくろ)

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初めての戦いは大体ゴブリンかイノシシ

【ケース1:はじめてのたたかい】

 

 ヘルネスト王国の王城から離れ、その城下町からも出た先には大きな森が広がります。

 もちろん森といってもきちんと道は舗装されていて、長く続く道も土を踏んで歩くわけではありません。

 少年三人はそんな木漏れ日差し込む森林をのんびりと歩き、これからのことを話し合っていました。

 

「とりあえず覚えられるスキルとかがあるかどうか、見てみっべーョ」

「お、賛成。えーとどらどら……?」

「ドラドラ? クレイジーダイヤモンドか。癒しとかあるとえーね」

「やかましいたわけ。些細な言葉拾って無理に話題広げんでいい。それより、どうだ?」

「オウヨ、アタイんとこには体術とかよくありのスキルと、これ固有スキルだべなぁってーのなら月操力(げっそうりょく)があるね。中井出は?」

「えぇとなになに? ……アンリミテッド・リヴァイヴァー? あらカッピョイイ名前」

「………」

「………」

「え? なにそのオチが読めたって顔。ね、ねぇちょっと!? やめて!? 僕なんかとっても嫌な予感がしてきたんだけど!?」

「説明とかないのか? ほら、予想が外れてれば俺も彰利もにっこり笑える筈だから」

「筈とか引き攣った顔で言うのやめようよ! でも調べよう」

「相変わらず切り替え速ェェェエねてめぇ」

「うるせぇ一等兵この野郎」

 

 それでも調べます。

 ステータスが三人の中でダントツで低く、貧弱一般人でモブで雑魚な彼の、そのスキルとはいったい……!?

 

「えーと……アンリミテッド・リヴァイヴァー。略称UR。何度死んでも生き返れる。効果はPTを組んでいる仲間に、二人まで効果あり。“ただし、効果を得ている存在は、自分も含めたそれぞれの命に対する執着が薄れていく”」

「………」

「………」

「他には?」

「え? これだけ」

「いや、説明って意味じゃなくて、他にスキルとかは?」

「え? これだけ」

「………」

「………」

「…………《ポム》やめてよ! 無言で肩叩くとかやめてよ!」

「やったな中井出! UR! ウルトラレアだぜ!」

「自分とお前らに貢献するだけで、技術や戦闘スキル一切無しでなにがレアだよこの野郎!」

「本心は?」

「生贄を捧げる儀式でこの博光ほど活躍出来る者などおるまいて!! ……こんにちは、博光です《脱ギャァーーーン!!》

「脱がんでいい。どこまで精神逞しいんだよお前」

「普通に生きてたら絶対に出来ないことを、ファンタジーだからこそ許されることで塗り潰す……。現代に生きる男子高校生なら一度は夢見るオトギのフロンティア……その一歩目に、僕はなりたい。いやなる。なるからね、絶対。……博光です《脱ギャッ》」

「だから脱がんでいい」

 

 中井出博光。かつて、彼らと中学の時に同級であり、特殊な家系に生まれた彼らの心を解きほぐした、彼らにとってはまさに心から気の許せる馬鹿者であり、ある意味伝説の人物です。

 しかし彼はあくまで貧弱一般人でありモブであり雑魚でした。

 焦ると口調が幼っぽくなる時があり、大体ろくなことがありません。

 自己紹介とともに服の前をはだけ、腹を見せることをよくしますが、いわゆる“警戒の必要はないよ”というサインだったりします。

 本当に脱ぐつもりもなく、あくまで前をはだけるだけです。

 シャツがあるので肌が見えることもありません。変人であっても変態ではないのでご安心を。

 

「うっしゃい! ほんじゃあ中井出のお陰で不死なアタイらで真っ直ぐゴー! 中井出! スキル取得した!?」

「お、おう。これしかないしね、うん。ていうか命に対して執着が無くなるとか大丈夫なのかこれ。自殺しろとか言われたら気軽に出来るようになるみたいなもんだよね?」

「ああ待て待て、ちゃんと仲間として成立してるか、PT組めてるかも確認しとけ」

「キャア危ないとこじゃったわYO! んんー……オッケン! いくべいくべー!」

「うしゃー!」

「むしゃー!」

「はぁ……ほんと、急にこんなことになったってのに元気だよな、お前ら……」

「ダーリン! 溜め息吐いとらんとさっさと行くべョ!」

「んーなんだからステイトにまで苦労人とか書かれるんだモミアゲ一等兵!」

「モミアゲ言うな!」

 

 そうして走り出します。

 まずは死なないことを確認するべく、限界ギリギリまで敵と戦ってみることにしたのです。

 そのためにはまず敵を見つけないといけないのですが、その敵がおりません。

 なので三人はWHOOOOO(ウホオオオオ)と雄叫びをあげながら全速力で走り、やがて身体能力的についていけないモブさんだけが、ぜひゃーっはぜひゃーっはと息を荒げ、ドグシャアと倒れ伏しました。

 丁度舗装された道が、小さな川を跨ぐ小さな橋の先で途切れた頃のことでした。

 

「オラー! 立てー! 立つんだジョー!!」

「提督急ぐぞ! 試してみるんだろいろいろと! なにやってんだ提督!」

「ハリアーップ! 立て中井出この野郎! オラどしたー! 立てー!」

「提督なにやってんだ! 楽しむんだろ提督! 早くしろ提督!」

「中井出ホレ中井出! はよ! 中井出はよ! はよ! はっ……なにやってんの中井出さっさと立てこの野郎!!」

「う、うるせぇええーーーっ! 昔っから体力超人の貴様らと違って俺は貧弱一般人なんだよ! もう疲れてるっていうか体が悲鳴あげてんだよ! つーかこれ普通の人間の体力だからね!? お前らがたくましマッスルなだけだからね!?」

「死ぬ気でいけば行ける行ける! 行けンべョ!! 構わんわ行けGO! 行けGOォ!!」

「ハッ……そ、そうか! 俺、それを確かめるために走ったんだった!」

「オウヨ! いっそ肺や心臓なんぞ潰すつもりで走ろうZE!」

「任せてくれたまえ! 人間の限界なぞ───この俺が超えてみせる!!」

「キャアステキヨ中井出ー!」

 

 提督は走り出します。ふらふらですが、根性で。

 その後ろでツンツン頭がにちゃりと涎を垂らしながら笑っていることも……まあ知っているけどノリで。

 

「……チョロいぜ」

「ひっどいなお前……」

「んにゃんにゃ、今のマキシマの真似だから。つーかほれ、見てみんしゃいダーリソ。こんなアタイらの汚れきった会話なぞそっちのけで、人の限界に挑まんとする健気な姿……。目から老山龍(ラオシャンロン)の鱗が落ちそうじゃねぇの」

「どんなサイズだ。瞼が引き千切れるわ」

 

 大げさな喩えを話題に、溜め息とともに小さな苦笑がもれたその時でした。

 

「《ドボゴシャア!!》エヴォォエッ!!」

「ややっ!? 中井出が通りすがりの巨大イノシシに!」

「提督!? 提督ーーーっ!!」

 

 健気にも人間の限界に挑まんとしたモブ提督さん───そんな彼の脇腹が、森に作られた土の道を横断するように飛び出た巨大イノシシ……ジャイアントボアという猪型のモンステウ(モンスター)によって、痛打を受け入れる結果となったのです。

 その威力は防御7程度で耐えられるものではなく、勢いよくキリモミしながら飛ばされた彼は、森の木に黄金から激突して、「覇王っ!?」という切ない悲鳴ののち、光の塵となって天に消えたのでした……!

 

「ってオワァアアーーーッ!? 中井出が天に召されたぁああーーーっ!!」

「いやちょ待て待てうわぁああ提督ぅううーーーっ!?」

 

 慌てて近寄りますが既に遅く。

 輝く塵となった彼は消え、新たにイノシシに吹き飛ばされる前の場所にリスポーンしたのでした。

 光に包まれ、空中から現れる姿はまるで……

 

「すげぇ!」

「中井出すげぇ!」

「提督すげぇキモい!」

「キモい!!」

 

 まるで、光り輝く中井出でした。当たり前です。

 考えてもみれば、つい先ほど猪に吹き飛ばされて黄金を強打し、苦悶の表情のまま死んでいったその人が、眩い輝きとともに空中からゆっくり降ってくるのです。やさしい表現であらわすと、キモかったのです。

 そして早速猪に襲われ、ギャアアアアアと悲鳴をあげていました。

 

「たたたたすけてぇええ! 殺されるぅうう!!」

「バカモン中井出! 緊急事態に人に助けを乞う時は、助けてじゃなくて火事だぁーと全力で」

「日本の常識今関係ねぇよこの馬鹿ぁああっ! いやぁあやめて猪さん! 服噛んで振り回さな《ビターンビトゥーン!!》ゲファーリゴフォーリ!!」

「すすすまーん! アタイもちと混乱しとる! 今助けっかんね!? えーとえーとダーリンどうすればええのん!?」

「猪に攻撃するなりして提督から気ぃ逸らさせるとかすればいいだろが!」

「アッ……アイムソーリー!? アイムソーリー!?」

 

 そうしてついにバトルが始まります。

 初めての戦闘ということで、特殊な家系に産まれたとしてもこんな経験など本当に初めての彼らは、ごくりと喉を鳴らして───「シェヴァアアーーーッ!!《シャアアン……キラキラ……♪》」……飲んでる間に中井出が二度目の死亡を果たしました。

 

「アッ……、……お、おのれぇよくも中井出を!」

「え? あ……てっ……提督の仇、討たせてもらうぞ!」

 

 ゴカァアアと再び眩い輝きから中井出が生まれる中、二人は懸命にジャイアントボアと戦うのでした。

 

  ───ジャイアントボア。

 

 猪型のモンステウであるこの物体は、通常の猪よりも大きいものです。

 人のように二足で立てば、全長は軽く2mを越え、四足で立った場合だろうとその隆起した背中の高さは成人男性の頭を超えます。

 そんな巨体が地を掻き駆けてくる様は、猪突猛進という言葉があるほど一直線ではありますが、迫力があるために紙一重で避ける、などという行為は出来やしないのです。

 けれど、そんな巨体を目の前にしてもまだ、目を輝かせる男が二人。……ツンツン頭さんとモブ提督さんでした。

 二人は口を揃えてこう言います。

 

「「キ、キン肉ドライバーしかない!!」」

「あるだろたわけども! そこはあれよ!」

 

 猪が敵としてそこに居るというだけで、キン肉マン大好きの彼らの目には、猪にキン肉ドライバーをきめる光景しか映っていなさそうでした。

 苦労人の称号があるモミアゲさんがツッコミを入れますが、二人はもう止まりません。

 

「ヒョハァーーーッ!!」

「ニュフーーーッ!!」

 

 二人が嬉々としてジャイアントボアに飛びつきます。

 拍子にカウンターで突撃を食らわされて、中井出が死にました。

 しかしすぐさま復活する彼は、もはや光の中から降りる際に決めポーズをキメるくらい余裕が「《ドグシャア!》オヴォエ!」妙なポーズ過ぎたために脇腹から落下、悶絶しているところを突撃され、また死にました。

 

「中井出てめぇ! 遊んでんじゃねィェーーーッ!!」

「遊んでねぇよ必死だよこっちは本当の意味で必ず死んでるよ死にたくて死んでるわけじゃねぇよ文句あっかチクショゥメェエエ!!」

「ジョワジョワジョワ! ならばこちらから実力を見せてやるしかあるまい~~~っ!! ジョワァーーーッ!!」

 

 彰利が時間超人ライトニングの真似をしつつ、突進してきた猪を真正面から受け止めんとします。

 しかしその時です!

 

「前方回転ミサイルキィーーーック!!」

「なんだと《どごぉっ!》グワ《ドグシャア!》グワーーーッ!!」

 

 何を思ったのか中井出がその無防備な背中にドロップキックをかましたのです。

 油断していた彰利は直後に猪の突進に跳ねられ、宙を舞いました。……当然その後ろに居た中井出も。

 その高さは、日本ではありえないくらいの高さです。妙なところで“ああファンタジー級の吹き飛び方だなぁ”と受け入れている部分が、宙を舞う二人の心に浮かびます。

 

「て、てめぇ~~~っ! 敵を前に味方に飛び蹴りなぞ、正気か~~~っ!!」

「ヌワヌワヌワ……! お、俺の力ではてめぇは……あ、だめもう落ちる! 彰利一等兵! 真下で猪待ってるからなんとかできない!? 生き返るっていったって痛いのは一緒だからもうほんと勘弁!」

「ヌ、ヌヌ~~~ッ!! ───ハッ!?」

「どうした彰利一等兵!」

「思いついた! 起死回生の技! 中井出! 力を貸してくれ!」

「い、言われるまでもねぇ~~~っ! お、俺はどうすればいい~~~っ!」

「ジョワジョワジョワ、なぁにこうするのよ~~~っ!!」

「《ガッ!》ヌワッ!? な、なにをする気だライトニング~~~っ!!」

「『敵を量るは目に在り! 同志を察するはヘソに在り!』だーーーっ! そりゃーーーっ! マッスルドッキングーーーッ!!」

「う、うわ~~~っ! 逃れられな《ベゴキャア!!》ジョゲボッ!?」

 

 相手の都合を一切無視したキン肉バスターが、ジャイアントボアの背に落ち、ボアの背骨を砕きました。

 

「…………ゲボッ!」

 

 そして、ついでに中井出の背骨と首と両足の骨をズタズタにし、彼は決まり事のように遅れて血を吐くと、ザムゥ~とキン肉バスター状態から解除され、倒れ、塵と化しました。

 

「お前、なんか提督に恨みでもあるのか……?」

「いや、感謝なら腐るほど。でもねぇ、アタイら互いに遠慮しねー誓いをし合ったからのう」

「《パパァアアア……!!》───俺……光臨《マカァーン!!》」

「こうしてすぐに生き返るし」

「輝きから復活するからって、毎回ポーズ取るのやめないか? 提督」

「いや、一度死んでみればわかるって。命への執着が無くなるっていうか、なんかこう、な? ……それでもなんか無駄に死にたくないんです」

「あ……うん。なんかソーリー」

「すまん……」

 

 見事にボアを潰した二人は、見事に戦闘に勝利。

 某ハンティングゲームのように早速剥ぎ取りを開始しようとするのですが、剥ぎ取りナイフがありませんでした。

 

「よし持って帰ろう」

「マアたくましい!」

「こらこら待て待て! 持って帰るにしても血抜きとかしとかないとまずいだろ!」

「え? なにそれ」

「チヌキ? なにかそれ」

「………」

 

 自由な馬鹿者が二人。

 称号:苦労人のモミアゲさんは、静かにこれからのことを考えて、溜め息を吐くのでした。




 なお、この三人(迷惑部)のバイブルはキン肉マンです。
 語尾がやたらと長いのはキン肉マンでは当たり前のことなのでお気になさらず。
 晦悠介のネタ知識は他二人の知識より圧倒的に足りなかったりしますが、彼はせめて自分だけは少しでも真面目であろうとした結果……というよりも中学二年生的なアレが彼を無駄にマズィメチックにしてしまった結果と言えます。

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