【ケース18:ただ村のことを考えよう。次の世代のことは知らねー】
そもそも彼らが何故走っているかといえば、基礎体力作りのためです。異世界転移や転生ものではチートや特典、異能の目覚めやレベルアップであっさり最強になっておりますが、武器を使った鍛錬も実戦経験もないのに他者を圧倒する姿は、アナタソ・レ・ドゥナッテルーノ先生な状況です。
ひきこもり生活で訛り切った体がレベルアップごときで達人を圧倒する世界……素晴らしいですね。
「あ、じゃけんども急に動いたら」
「《ブチブチ》グワアア~~~ッ!!」
「ミ、ミートーーーッ!! なんて無茶なことをーーーっ!」
ちなみにこのモブさんは、上がったレベルの分だけ数値が増えた素早さを全力で行使すると、足の筋肉が断裂します。それはそうですよね、はい。
「馬鹿野郎~~~っ! 上がったステイトに体がついてこれねぇからって鍛錬してるんだろうが~~~っ!」
「ア、アイアムソーリーヒゲソーリー!! いでででいだぁあだだだギャアア痛ぇええーーーっ!!」
「……そんだけ叫ぶくらい痛ぇーのに、まずはアキレス腱断裂したミートの真似出来るって、いちいちド根性よね、キミ」
「フーッ! フーッ……!! だ、だが耐えるぞ~~~っ! あ、愛するアリサのた、ために~~~っ!」
「いやキミ愛する者もう居ねーじゃん。アタイもじゃけど、ほんにどこまでキン肉マンネタに命張っとるんじゃろね、アタイら」
「好きならば当然さ!」
「好きねぇ……あ、好きと言やぁ中井出YOォオ? キミもし村が発展したら、おなごとかどぎゃんする?」
「え? 要る?」
「クォックォックォッ……! てめーならばそう言うと思ったぜ……!」
トンガリさんがモブさんの足を治す中、痛みが引いていくのにつれ、彼は普通に疑問を返しました。
トンガリさん、その返事に大変満足そうにニヤリと笑います。
「狭い村におなごが入ろうものなら村の法則乱れそうじゃもんねェ~~~ィェ。あれよね、冒険者PTにおなごが入るとPTで喧嘩が起こる法則」
「そうじゃなくてもお姫様になりそうだろ。そもそも異世界ものって、ああして都合よく行く先行く先で美人女性と出会う確率のおかしさに着目するべきだと思う」
「ほいじゃあ?」
「いらんだろ。なんでかここ、お爺様は居てもお婆様は居ないし、こうなったら男の村として確立していいと思うの。家族構成するとしたらこうな」
言いつつ、すっかり足が治ったモブさんは、傍に落ちていた木の枝を手に立ち上がると、地面に文字を書きます。
兄、弟、おとん、そして───
文字として、あくまで文字として、家族が構築されました。
「雄漢って……文字だけ見るととっても男らスィーやね」
「こんなこと言ってたら、やがて発展した村にやってくる行商人とかが女だったりするんだよなー、はーやだやだ」
「エロマニアなてめーがおなごを拒絶するたぁ……何事?」
「グオッフォフォ……!! それは違うぞ彰利一等兵……! この博光、確かにエロが好きだ。だが───女性なら誰でもいいとか、そういうのって違うと思うの。それが原因で村が崩壊とか、アノガキ・ブチノメーションじゃ済まないだろ」
「まあ、そりゃそーだわ」
「ドリアードが俺に一目惚れ~とかそんなテンプレ転移人生じゃなくて本気の本気で良かった。というわけで、俺は要らないに一票」
「まあ、アタイもやねぇ。おもろいおなごとかならえ~かもじゃけど、それってつまりそんだけ男連中からの人気が出るってことじゃし。この村の人口がもし増えたとして、それが原因で諍いとかは……確かに冗談じゃねーべさ」
トンガリさんの言葉を耳に頷くモブさんは、ハタともう一人のことを思い浮かべます。
「あっ……晦はどうだろ」
「ダァ~~~リンはねぇ~~~……あやつほんと、アタイの世界でも究極の女ッケ無し男じゃったからのぅ……。外見もいいし家事スキルも一通り。性格もそげに悪くねーんじゃけど、月の家系って人から嫌われやすいからのう……」
「そんなもんか? あ、じゃあお前は? 更待センパイからHOTな視線贈られてなかった? 日余はまあ解り易いとして」
「え? 更待先輩殿? アー……そういや幼き頃にそげなことがあったよーな……」
「俺の直感だけど、あれはあれだな。好きと嫌悪の間を行ったり来たりしている乙女の反応だ」
「好きと嫌悪って両立すんの?」
「オー……ほれ、好きな人なのに、その人が実は殺人を犯してしまってましたー、みたいな? これでも見る目はあるつもりだぜー?」
「……ほんに時々怖いわ、キミ」
「───殺人鬼だったのかテメー!! うわ信じられんわこのクズが!」
「掌すげぇ!! どんだけ回転すりゃあそうまで言えるん!?」
自分たちの命に執着がない分、他の命への感情が大きかったようです。
けれどもすぐに事情を説明されて、サワヤカに一息。
「ほへー……親が貴様を一族の無能呼ばわりして? 夜に人集めて、全員で殺しにかかってきた?」
「そゆこと。んで、その時にえーと……ほれ、神と死神の混血っつーたでしょ? 家系の人間の中にゃあ神か死神が宿ってるんだわ。悠介は神側じゃろうけど、アタイは死神。で、そいつが目覚めて……」
「一家惨殺、と。で……更待先輩の苗字、更待ってのは確か月の顔の名前だったから……?」
「押忍。更待先輩殿も月の家系。粉雪もね」
「日余もかー……日余とは幼馴染だったか?」
「オウヨ。ヒアマリコユキ。友達以上恋人未満みてーな関係じゃったね」
「つまり惨殺事件が明るみになる前は、更待先輩は貴様のことが好きだったけど、明るみになってからは好きと嫌悪が混ざったと見るべきか」
「いやいやてめーの目が腐ってるって確率も捨てきれねーべョ」
「お前なに言ってんだ、俺の目なんて腐ってるに決まってんだろーが」
「清々しいほど見る目ねぇじゃねぇかこのクズが!!」
「なんだとてめぇこのクズが!!」
そうして今日も一日が始まります。
罵倒し合えば遠くからモミアゲさんの「朝食が出来たぞ天才どもー」という声。
二人はビキキメキメキと顔面を青筋だらけにして、ドスドスと力強く歩いては、「「誰が天才だ馬鹿てめぇこの野郎!!」」とモミアゲさんへと叫ぶのでした。
「どうしてほしいんだよお前らは……」
「わざわざ馬鹿どもとか天才どもとか確認せんでも呼べばよかろーもん」
「俺達が馬鹿じゃなかったら、いったいこの村の誰が馬鹿だというのか」
「そこは自信を持って言うなよ……。ああほら、いいからメシにしよう」
「「アイガットサァーン!!」」
「そこで無駄に外国人がありがとさん言うみたいに言わんでいいから」
「ノー、ジャンボはカンシャのココロ、ワスレません。なのでキャベツは大盛りでクダサーイ」
「ノー、アタイはレタスがいいデース
「……彰利のはわかるけど、ジャンボってなんだったっけか」
「今日から俺は! の外国人マッスル」
「………………あ、あー……居たなぁそんなの」
「なんかアタイ急にアンパンと牛乳を飲食したくなってきた」
「あんぱんかー……好物なのに長いこと食えてないなぁ……」
「てーか中井出YOォオ? キミの好物ってこの世界で食えんの?」
「晦が居ればなんとか」
「グムムー……アタイも食材関係はダーリソに頼りっぱなしになりそうじゃし、月然力でもっとなにか作物を作れるようにならんとのう」
ぶつくさ言いながらも動き出して、老人たちを呼びに回ります。
そうして集まって、みんなで手を合わせ。食事をするのです。