ボケ者どもの理想村(ムラビディア)   作:凍傷(ぜろくろ)

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極々普通の食事風景【老村基準】

【ケース19:ルドラメシャーテ (メシ食いたい)】

 

 カチャッ……スクッ……グムッ、ギウウウウウウ……ナポッ……。

 モグ……モニュ……。

 

「彰利、食い方が鬱陶しい」

「んぐんぐ……むはっ、いやいや、やっぱ肉はナポッて食ってみてーべョ一度は」

「だからって口の中に無理矢理肉詰め込むなよ……味わって食ってくれ、創造物だからって、なんにもコストがないわけじゃないんだから」

「サンクス」

 

 丁度モブさんと肉食いてィェーと言っていたところに、モミアゲさんがお肉を創造しての料理だったので、トンガリさんは大喜びです。

 その喜びを胸に、何枚も重ねた薄切りハムを纏めて無理矢理口に詰め込み、咀嚼しておりました。

 その横には、思わずじゅるりと唾液が出そうなほど美味しそうに焼けたステーキを前にするモブさん。

 

「………」

 

 スクッ……ハモ……モニュモニュ……。

 モブさんはそれを丁寧に切り、一口を口に含むと、何故か白目になりつつ咀嚼します。ステーキを食べる時のマナーですね、マナーは大事です。

 

「クラスには一人は居たのよね、白目が上手ェエエエ奴」

「居たけど、肉食うたびに白目するのやめないか……?」

「じゃけんども中井出のもえーのう。薄切りで何度も味わう名目でそうしてもらったけど、アタイも厚切りステーキにしてもらやぁよかった。っつーわけで中井出中井出! ナポってナポって!」

 

 ■ナポる───ナポ・る

 ジャック・ハンマーさんがステーキ肉をフォークでぶっ刺し、丸のまんま口に無理矢理ギウウウウと詰め込み、ナポ……と口を閉じたことから名づけられたステーキ食いの秘奥。

 なお、

 

  ドジュウウウ!!

 

「あががーーーっ!! おがっ! おごがぁあああーーーっ!!」

「アアッ! 中井出がステーキの反撃を受けてる!」

「提督!? 提督ーーーっ!!」

 

 ……なお、熱々の、自分の口に見合わない大きさのステーキを口に詰め込むのは自殺行為です。

 

「ホレ中井出! ナポッ! ナポるのYO!!」

「ふごっ! うぉがごっ! わがぁああががががが!!」

「熱がってる場合じゃねィェーーーッ!!」

「いや普通に場合だろ、って提督! 無理に押し込まなくていいから!」

「《ゴキャア!!》おがぁあああああーーーーっ!!」

「て、提督ーーーっ!!」

「な、中井出の顎が、は、外れたーーーっ!!」

「おごあががっ! アオアーーーッ!!《ドジュウウウウ!!》」

「しかもステーキが妙な感じでハマってて取れないぞこれ!」

「中井出! ペッしなさいペッ!」

「───」

「「誰が加トちゃんペッしろって言ったんだよタコ!!」」

 

 ただの食事風景でもやかましい馬鹿どもです。

 そんな様子を見ていた老人たちは、少しずつ緑が癒されて行くこの村と、このボケ者どもを見てフフリと笑いだすのでした。

 

……。

 

 間を置いて、食事を続行です。

 モブさんはマゴシャアと顎を殴られることで肉は解放、現在は普通に食べているところです。

 

「肉にライスに山盛りキャベツ…………ご機嫌な朝食だ」

「おいおいダーリソこれなんか間違ってるよ。アタイの皿にレタスがねェェェェぜ?」

「……“そっち”のお前もキャベツだめなのか」

「キャベツ食うと血ぃ吐くよアタイ」

「「マジでかお前!!」」

「オウヨ! だからアタイにレタスクラサイ! 月操力の魔力補給も、月光浴と好物を食うことで回復できるけぇ、レタスねぇとオラつれぇ」

「月の家系ってそんな単純構造なのか!? えっ……じゃあ俺はなにを食えば回復を……!?」

「回復っつーてもキミ、自分の本質がなにかも解ってなかったじゃねーの」

「あ……そうだな。なんつったか、げ、げ……?」

「月蝕力。アタイのは月壊力。悠介のは神側の能力だから、神側方面の……月聖力とか月清力とか月醒力とか月生力とかも頑張れば覚えられっかも」

「言葉で言われても解らんわ」

「ああうんそうよネ」

 

 納得の横で、モブさんは山盛りキャベツを口に頬張り、ゆっくりゆっくりと咀嚼していきます。

 モシャ……ゾリュ、メリ……という音を口の中で鳴らしながら、彼は食事を楽しんでおりました。

 

「キャベツ噛み締めてる時のこのメリ……って感じの音、いいよね」

「キミまだキャベツ食ってたん!?」

「ステーキ乱暴に食っちまったからね、のんびりモシャメリ食ってるのさ。あ、ところで貴様はキャベツには何かける派? 俺はマヨネーズとちょいとの醤油」

「血ぃ吐くっつっとんだろがい」

「俺はポン酢だな。たまにソース」

「ソース入れるとマヨも欲しくならない?」

「それはお好み焼きとかの場合だな。や、ソースマヨがキャベツ単品に合わないって言ってるんじゃなくて」

「はいはーい! アタイー! アタイアタイー! アタイね、レタスに水かけて食うのYO!」

「うるせー! 今キャベツの話してんだよ静かに見てろ!」

「グ、グウムッ……! じゃあレタスにはなにをかけるのか! それだけ答えてもらおうかーーーっ!」

「グ、グウウ~~~ッ!! レタスだと~~~っ! ……シーザーサラダドレッシング?」

「バカヤロコノヤロォ! レタスっつーたら水洗いでそのままじゃろーが!」

「好みの問題である! 俺はシーザーサラダがサラダの中では二番目に好きなのだ! そうは思わないかね晦一等兵!」

「悠介! キミの意見を聞こう!!」

「え? 俺? ……いや、俺は……サラダならポテトサラダが」

「カルトッフェルかよ! 美味いじゃねぇかちくしょう! でも俺の中じゃ三番目なんだよ!」

「アタイん中じゃ四番目じゃぜ? ホホ、中井出この野郎、果たして貴様の第一位、アタイらにしてみりゃ何位かのう、ゴホホ」

「あ、それ気になるな。提督は何が一番好きなんだ? あ、サラダでな?」

「そりゃお前、マカロニサラダだろ」

「ヌグゥック!? グ、グムムーーーッ、これは確かに強敵だーーーっ!」

「ああ、美味いよな、マカロニサラダ」

「あれほど“家のマカロニサラダが一番美味い”が出てくるサラダもないだろ。主食ならカレーかな?」

 

 マカロニサラダ。いいですよね。

 ただし作る家庭によって材料が変わってきます。

 干しぶどうを入れるか否か、フルーツを入れるか否かで相当揉める家庭事情。

 

「昔ばーちゃんが作ってくれたマカロニサラダが、俺の中じゃあ至高の料理だったな」

「アタイは雪子さんと一緒に四苦八苦しながら作った、思い出のマカロニサラダやね。あんりゃあ美味かったで」

「……俺は自分で作ったマカロニサラダだな」

「自分でって晦お前……」

「双子の妹二人とも、料理下手じゃもんねぇ……」

 

 悲しい風が吹きました。彼にはブラコンの双子の妹が居るのですが、家事がとことん出来ないのです。そんな二人の世話をしつつ、神主もしつつ、親友に振り回され、周囲には誤解され、と……そんな事情が積み重なった結果の“苦労人”です。

 なお、その後に死神と係わることや吸血鬼と係わることになり、さらには……いえ、これもまた別の話でしょう。

 

「ぷふー、ごちそうサマンオサ」

「ごちそうサマーソルトシェル」

「ごちそうさまでした」

「晦そこはデスタムーアだろ」

「なんでだよ」

「いやいや中井出、なに言っとんの? でした、まで言うんならYOォオ? 時代はタッカラプトポッポルンガプピリットパロじゃぜ?」

「長ぇよ」

「そうだぞ一等兵この野郎」

 

 食後のアイサツでさえくだらないやり取りをして、さて、と落ち着いてから、今日という日が本格的に始まります。

 なにせこれからする行動は、緑をより増やすための行動なのですから。

 

「ここが精霊の力が溢れる廃村一歩手前の村、老村か~~~~~~~~っ!」

「どおれ明日は大暴れしてやるとするか~~~~~~~~~~~っ!!」

「息の続く限り語尾を伸ばさんでいい」

「ホホ、語尾を伸ばす系女子が世に蔓延る時代であろうが、やつらごときが肉語の語尾に勝ることなし」

「つまりキン肉語こそが語尾伸ばしの頂点。断じて先に書いちゃったフキダシを無理矢理埋めるために語尾だけ伸ばしてるんじゃないぞぅ?」

 

 そう言いながら、まだ食事中の老人たちをそのままにやってきたのは、自然の精霊を模して創造された“スーパーおなご像2ndⅡ´デュアルレベル99発進”、略して“ドリアード像”がある祠でした。

 

「ほいじゃあYO? これからどぎゃんすりゃあよかとね中井出YO」

「うむ。聞いた話では、自然に干渉して、自然の様々なものが活性化する地盤作りは成功したから、あとは水撒いたり耕したり栄養あげたりすればいいらしいぞ?」

「ぬう、じゃけんども肥料なんざ無ェェェェぜ?」

「そこで活躍するのが晦と彰利だ」

「え? てめーは?」

「……!! ……、………………ガイ、見参」

 

 言って、体育座りでした。

 まだまだ寂れた村に、悲しい風が吹きました。


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