【ケース20:地獄の電車でお出かけメソッド】
現在現在あるところに、自然の加護があろうとも、まだまだ緑の少ないその地にて、切ない気持ちで数歩を歩き、祠の横へと体育座りをする男がおりました。関係ありませんが昔話をする際、何故むかしむかしと言うのでしょう。現在をたとえるのなら、やはり現在現在と言ったほうがいいのでしょうか。
「またなんも出来ねーのかよコノヤロー! てか祠の傍で死ぬほど寂しそうな顔で体育座りするのやめれ!」
「じゃあジョーロでもなんでも僕におくれ!? 水撒きでもなんでもどーんとやったるでぇーい!!」
「ジョーロっていやぁ……なして象さんが多いんじゃろね。やっぱアレ? 鼻で水吸って噴射するから? 形的に丁度えーんかね」
「俺を好きなのは誰もいない……」
「ジョーロくんでさえ“お前だけかよ”なのにテメーときたら……ってそのジョーロじゃねィェー!」
「ジョーロくんはきっと自分がどんだけ恵まれているか知らねぇんだよ……。まあ好きになってくれた人を自分が好きになれるかの問題だから、いいことばっかじゃないけどね。よしじゃあ晦、真面目になんか創ってくれ。そんで彰利はえーと、月然力? ってので土の活性化の手伝いと、月清力だったか、で、悪くなってそうなところの浄化を頼む」
「っと、よしわかった」
「ほんに中井出って、真面目になりゃあ指示とかフツーに出来ンのにねぇ。なして頑張ろうとすると大体失敗するんだか」
「そりゃ提督だからだろ」
「まあ、中井出じゃしねぇ……」
「うるさいよもう!」
彼は何処までも普通です。最悪、普通よりもひどいものです。むしろ才能方面ではほぼ死んでいます。
それはどの時間軸でも言えることで、家族の手伝いが無ければ才能として扱えるものは一切無いほどのクソザコ野郎です。
「ほいじゃあ土壌復活と
「んー……っと、ほれ提督」
「おお! 早速ジョーロを───っ……ジョッ……ジョワッ……ジョワジョワ……」
トンガリさんの言葉に、どおれとばかりにギュッと手を握るモミアゲさんは、イメージを働かせると輪を作って創造をします。
出来たソレをモブさんに渡すと、彼は喜びに顔を綻ばせ、やがて困惑を前にジワジワと時間超人ライトニングになっていきました。
それもその筈───いえ、ジョーロがジョワジョワになる理由は謎ですが、困惑は当然です。なぜならモブさんが渡されたそれは、二丁の水鉄砲だったからです。
「ハハッ……エッ!? イヤアノ……エッ!?」
水鉄砲とモミアゲさんを交互に見るモブさん。
モミアゲさんはそれに気づくと、「見た目より水が入って、出すのもトリガーひとつで結構でるように出来てるから」と笑って言いました。
それを聞いたモブさんはパアッと少年のような笑みを浮かべ、川へ向けてクソガキャアのように走っていったのです。
「中井出って元気じゃよねー……」
「水鉄砲両手に燥ぐ姿を見て、それしか言葉が出せない俺らって……」
「ホホ、老成しておるね。まあアタイ実際千年近く生きちょるけど」
「前もそれっぽいこと言ってたな。なんか理由があるのか?」
「ん? おー、お前の未来がねー、ほっとくとゼノって死神にぶち壊されるんだわ。ルナっち関連でね。創造の理力もルナっち関連だから、キミのソレ、産まれ持っての異能ってワケじゃねーのよ? で、アタイはその腐った未来をぶっ潰すためにゼノと戦って、負けて、過去に戻って、やり直してを繰り返しとるの。他の月操力はその繰り返しの中で覚えた」
「……待て。いきなりスケールがデカい。重い」
「ようするに。親友のために長生きしとんのよ。んで、俺はそんな人生に後悔をこれっぽっちも抱いてない。それってなんか物語で言うと愛する者のために人生を懸ける愚か者っぽいじゃない? だから“ダーリン”。命懸けて守りたいもんだから、おちゃらけようがそう呼んで、自分の人生はくだらなくなんかねーって笑っててーのよ」
「………」
“それはまた別の話”候補をベラリーニョと話すトンガリさんは、ニヤリと笑って言いました。そして、「だから、元の世界に帰ったら、向こうのアタイにゃやさしくしてやってネ」と言います。
「そのゼノっていう死神……か? は、どんなやつなんだ? 戦う理由は───」
「めんどくせー死神のアレコレが原因。キミ、ガキん頃にいろいろあったらしくてネ? 死神と契約した時に契約特典として創造の理力をもらったー、とかルナっちは言っとったけど、なんかうそくせーんだよね。や、ルナっちはそうだって思ってるみてーだけど、たぶんそれ、悠介の死神が関係しとるとアタイは見たね」
「俺の中の? ………」
「もう一人の自分、とかそげなええもんじゃねーから期待しねーほうがえーよ? 体の危機に、周囲の大人皆殺しにするくれぇ危ない死神もおるから」
「んぐっ……そ、そか。ていうか…………はぁ。まあ、どんな理由があって、お前が誰を殺そうと、俺が係わっていいことじゃないならどうでもいい話か」
「そゆこと。正義感やそのー……倫理っつーんかね? 一般常識だから~って、一人のガキ相手に結構な数の大人が殺しにかかってきたのを返り討ちにしただけじゃて、正当防衛正当防衛」
「……で、実際はどう処理されたんだ?」
「羽棠のじいさん、知っとる? こっちではあやつがいろいろ。そっちではどうだかは知らんけど」
「あー……羽棠のじいさんか」
二人にしか解らない会話をしながらも、手では既に土壌の準備をしています。
モミアゲさんが液体肥料を創造したり、トンガリさんが能力で土を浄化しつつ、植物を育てては枯らし、育てては枯らしを繰り返して。
そうして出来た枯れ葉等を細かく砕くように土と混ぜたり、ミミズを大量に創造して土に放ったりと、その日はそうした細かなことから始まりました。
話しながらだと時間が経つのも早いもので、気づけば昼も過ぎています。時計がない状態なので、太陽の位置で大体を予想、お腹が鳴ればそれを満たすための準備を───と動き始めたのですが、準備が完了してもモブさんが現れません。
またどこぞでモンステウにでも襲われているのでは……そう思った二人は、苦笑しながら歩き始めました。モンステウに襲われている想像をしているのに苦笑で済ませるのは、URの枠内にある命に執着がないからでしょうか。
そうして歩いて歩いて、川が流れる、水汲み場にもなっている場所へと辿り着いてみれば、
「おっほっほっほぉ〜元気だァ( ^ω^)」
そこには全裸で、二丁水鉄砲を駆使して遊ぶ馬鹿がおりました。
「…………提督」
「中井出……おんし……」
一気に脱力。二人はふらふらと馬鹿者の傍に寄ります。
「中井出……てめー、疲れてたのよ……ネ? 気づいてあげらんなくてソーリー……」
「提督……その、飯……作ったんだ。まずは服着てさ……な?」
「あっは☆ ご馳走♪」
やさしい言葉とともに近づいたら、水鉄砲をマチューと浴びせられました。
「………」
「………」
「よォオ! しっかりしてくれよォオ!!」
「《ゴバシャア!!》ガビョオブ!?」
トンガリさんの全力ナックルが、全裸モブさんの左頬を捉えました。
彼は全裸のままドバシャーンと川へ落ちると、即座に「ぶばぁっはぁーい!!」と立ち上がったのです。
「げぇえええっほごほげほっ! ぶっは! は、はー! はー! い、いや助かった彰利! なんかヘンなモンステウに混乱魔法かけられてさ!」
「可哀相に……! 操られたことにしてーだなんて……!」
「エッ!? いやマジだからね!? って彰利後ろだ! シャキっとしろ本気でまずいから!」
「ヌヌッ!?」
「後ろっ!?」
二人が疑うことなく振り向きます。するとそこには目玉に羽が生えたような異形が居て、その眼が血走ったかと思うと、光を発してきたのです。
「オワワなんだこ───」
「彰利!」
「悠介っ!?」
その光から、迷うことなく親友を庇うために前に出たのはモミアゲさんでした。
直後に彼を襲う血走った目と同じ色の、禍々しい光。
「うぅっ!? あ、うぅうあああっ……!!」
「悠介!! ッンノヤロッ!」
光を発したモンステウ、名をサキュファーといいますが、ソレはトンガリさんが放った光の波動に飲まれ、あっさりと焼き焦げ、地面に落ちました。
塵になったことをモブさんが確認すると、トンガリさんはモミアゲさんの状態を調べます。
「悠介!? 悠介!? なんかされたんか!? やべー状態とかになってねぇか!?」
「───……」
「ゆ……悠介?」
「アレッ!? ていうか俺の服どこ!? むしろなんで全裸!? 操られてた記憶はあるのに、服がどこにあるかの記憶がさっぱりねー!」
「うるさい静かに見てろーーーっ!!」
「グ、グゥムッ……!」
服が無いことに大変驚いたモブさんでしたが、親友のことが心配だったトンガリさんに、あっさりと叱られてしまいます。
そうしてグゥムと黙る彼をよそに、視線を戻したトンガリさんが見たものは───