ボケ者どもの理想村(ムラビディア)   作:凍傷(ぜろくろ)

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神と死神と人。略称? トンチンカンで。

【ケース2:インフィニット・デンドログラムという文字を見て、花騎士のデンドロビウム師匠を思い出したあなたは同士だ。え? 小説の内容との関連性? ……そんなもの、ウチにはないよ……】

 

 幸いにして、アイテムボックスという便利機能があったため、血抜きをしたイノシシはそこへと便利に収納されました。

 そして三人はさらにさらにと進みます。

 正直何処へ行けばいいのかも、行くのかも決めていない三人なので、とことん自由です。

 

「衣食住も約束されてないのに、とりあえず冒険って……お前らなぁ、どこまで計画性ってのを無視すれば───」

「ブッホホやだよぉこのモミアゲめが。まーだぶつくさ言っておるでよ」

「おいおい晦、こういう時はとりあえず行動しなきゃだろ。よく言うだろ、悩むより行動しろって」

「この場合のそれは、知らない場所に送り込まれて道だと思ってた場所が化物の胃袋でしたって方向によ~く似てると思うんだが」

「あ、ところでボアさん倒したらレベル上がって、スキルポイント貰ったんだけど」

「マジ!? すげぇやさっすが天下の中井出さんだ!」

「いや聞けよ」

 

 二人はうきうきと、呆れるもう一人は、けれどやっぱり隠しきれないうきうきを抱きつつ、結局は三人揃って同じステータス画面を覗き見ました。

 他の二人と違って貧弱一般人なためか、貰える経験値が高い彼のレベルは2。

 貰えた3ポイントをどう使おうかなどと考えながら開いたスキル習得画面には、アンリミテッド・リヴァイヴァーの名前が一つだけ。

 

「「「………」」」

 

 悲しみと切なさが、三人を襲ったのでした。

 

「提督……レベルアップしたならスキル的にも成長してくれよ……。なにかあるだろ新たなスキルを取得した、とか……」

「たった1レベルの成長でどれほどの進化を望んでんの!? 俺一般人なんですけど!? ステータス様に貧弱って認定されるレベルの!」

「てめぇにはがっかりだよ中井出この野郎……」

「ひ、ひどい! なんてひどい! ……でも上げられるのがこれしかないなら、なにか進化的なものもあるのかも」

「あ、それはちょっと気になるな」

「さぁ中井出くん! 振り分けてみたまえ!」

「てめぇらほんとブレねぇな……」

「「あんたにだけは言われたくない」」

「ほっといてよもう!」

 

 そんなこんなで、モブ提督さんがポイントを振ります。

 スキルレベルが上昇すると、彼のアンリミテッド・リヴァイヴァー、略称URは成長を遂げ───

 

「ア、アアーーーッ!!」

「え!? なになに!? どぎゃんしたん!?」

「提督!? まさかなにかしらのすごい進化が───!?」

「………………復活の仕方が選べるようになった」

「………」

「………」

 

 悲しみと切なさが、再度到来しました。

 

「え……なにそれ。復活の仕方?」

「えっとほら、今までだと死んだ瞬間にリスポーンだったろ? なんか今回から死んでもその場に残れたり、好きなタイミングで復活できるっぽい」

「……お、おう」

「ああ、うん……」

「………」

「「「どの道死ぬこと大前提なのな……」」」

 

 死ぬ必要が無い、なんてことは一切ありませんでした。無慈悲です。

 

「それよりさ、彰利と晦、貴様らのスキルはどうなんだ?」

「ホ? アタイ?」

「俺のは……まあ、今さらか。こんな世界に来て、隠しておくのもなんだしな」

「おっと、そりゃそーじゃね。えーとね中井出。中学ン頃は黙っとったけど、アタイらって特殊な家系に産まれた存在なのよ」

「先祖がモンスター・ザクロパスとか不思議な名前の血統とか?」

「ちげーよこのタコ!! 特殊の意味がキャプテン翼の一話内の選手の滞空時間並みにおかしいべョ!!(一話丸々空飛んでる)」

「あー……その、な、提督。俺達の先祖ってのが……ほら、ステータスにあっただろ? 神と死神の混血とか、そっちの方向なんだ」

「なるほど、能力に目覚めたりオサレな展開に発展すると、なんかBGMさんが甲高(かんだか)い音域でウホォーゥオッホォーとか言い出すのか」

「違ェエエっつってんだろこのタコ!! 確かにアニメ・ブリーチのあのBGMさんってなんなんだろうって思ったことあったけど!」

「提督、話が進まんからとりあえず納得。いいな?」

「お、押忍」

 

 逸れると収集が着かない二人を宥めるのは、いつもモミアゲさんの仕事でした。

 その所為で苦労人の称号を欲しいままにしているのは、もはや逃れられないことなのかもしれません。

 

「で、その神と死神の混血な貴様らは、能力的にも不思議なものが備わってると? ……まあ、そういや中学の時から身体能力どうなってんだって時はあったけど」

「オウヨ。アタイの場合は月操力って能力が使える。あ、それはダーリンにも言えたことなんじゃけどもね? アタイの場合は一つの家系の能力だけじゃあ……ねぇんじゃぜ?」

「なに!? マジかテメー!」

「はーいはいはい、大げさな驚きとかはいいから。……彰利、一つじゃないってのはどういうことなんだ? 月の家系の能力はひとつの家につき一つだろ?」

「普通はね。アタイの場合は死神の血が濃い弦月(ゆみはり)の家系じゃけぇ、やろうと思えば全部の家系の月操力の習得が可能なのYO」

「そうなのか……って、そうだ。俺のステータス、神ってなってるけど……これってつまり?」

「オウヨ。きっとダーリンは神側に濃いのネ。神側の筆頭月操力って言やぁ……わぁ、月蝕力(げっしょくりょく)だ。俺の知ってる限りじゃダーリンは月鳴力(げつめいりょく)だった筈なんじゃけどもなぁ……まあいいコテ、家系のこと言われても、中井出にゃあちんぷんかんぷんだろうし」

「とりあえず彰利が死神で晦が神なのはわかった。そしてこの俺がヒューマンです《ジャーーーン!!》」

 

 今、神と死神、そして人の物語が始まる───!!

 彼はそんな脳内劇場を賑やかにさせて、追うようにイメージしたツンツン頭さんは手を組み、早速肩車をして叫ぶのです。

 

「「笑止!!」」

 

 神人な豪鬼の真似をしたかったようです。

 

「で、晦の能力だけど」

「ああ。俺のは創造だ。こうして指で輪を作ってな? ───鳩が出ます」

 

 モミアゲさんが指で輪を作ってそう唱えると、なんとそこから鳩が出ました。

 「手品!?」と言うモブ提督さんの言葉には首を横に振り、構えた指から何羽でも鳩を出すのです。

 それはもう手品では説明がつかないほどの量でした。

 

「な? 日本に居る時は手品だと思い込んでたんだが、本気の本気で創造だったらしい」

「おや? ……おお。ちなみにダーリン? キミが日本で見た最後の日付ってどんくらい?」

「え? あー……ああ、そういうことか」

「察しがえーねぇほんに。……おいやべぇぞ中井出。アタイたち、そもそも同じ時間に生きたアタイらじゃないっぽい。悠介が創造の理力のことを詳しく知らんかったりする時点で、そもそもアタイの知ってるダーリンとは違うのYO」

「そうか。じゃあ存分に楽しもう」

「ホ? いや、なんか驚くとかねーの? あ、いやでも…………おーおーおー! そういやそうじゃねぇの! なんらかの結果で現実世界戻っても、アタイら別の時間軸に降りるってことよネ! じゃあ好き放題していいってことじゃねーの!」

「いやいやいやいやちょっと待てたわけども! お前らそれでいいのか!? どうしてこうなったとかの原因は───」

「「どう! でも! E!!《ビシィーン!》」」

 

 モミアゲさんの言葉に、二人は肩車のまま腕を横に伸ばし、トーテムポールの姿勢で応えました。

 

「よく考えるのだ晦一等兵! 今そんなことが重要か!? 我等は既にこの世界で生きているのだ! つまり重要なのは衣食住!」

「オウヨ! どうしてだのなんだのの原因なんて、ぶっちゃけ本日の昼食のことのほうがよっぽど重要YO!!」

「よっしゃあそうと決まればレッツビギンだー!」

「死んでもなお蘇る! アタイらの生存競争を見せたるでぇーい!!」

「あ、まずは村とか作ってみない!? もしくは廃村とか探して復興させるとか!」

「ギィネェ~(訳:いいねぇ~)」

 

 そうと決まれば彼らは止まれませんでした。

 男子高校生が異世界へ、とくれば魔物との戦闘などを想像、強い自分、褒め称えられる自分を想像するのかもしれません。

 けれども彼らはそんなことよりも、秘密基地を作って胸を張れる、そんなやんちゃなクソガキャア精神の持ち主たちだったのです。

 

「ハイヨーシルバー!」

「プロトタイプ・シルバー!」

「ゴールデン・シルバー!」

「「ガーヒー最強ォーッ!!」」

 

 二人……もとい、肩車をした一人が走っていきます。

 けれども貧弱一般人な彼が早速疲れたてふらふらした辺りで、モミアゲさんは溜め息を吐きつつ、苦笑のままあとを追うのでした。

 

「《ドグォシャア!》エヴォォム!?」

「提督ー!?」

 

 駆けた先で猪にタックルされる貧弱一般人に驚きながら。


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