ボケ者どもの理想村(ムラビディア)   作:凍傷(ぜろくろ)

30 / 68
勇者が勇敢な者だとは限らない原因は大体転生者らにあるらしい

【ケース28:勇・者】

 

『ところデこの哀れな悪魔、名をナンという?』

「便所の神様だ」

『ベンジョノカミ……! 確か、遠キ倭の国とやラでは、○○ノカミというのを祀るのだソうだナ……! 悪魔でありナがら祀られる存在トは……恐れイったゾ、ベンジョノカミ……!』

誰が便所の神だ貴様!! おい違うからな!? 私はノレシフェノレだ!』

『解ってイるゾ、ベンジョノカミ。ベンジョノカミとはワレラで云う地精としての在り方だロう? ワレは地精・“カッカナ”。オマエはベンジョノカミであるノレシフェノレ。今後とも、ヨロシクだ』

違うっつっとろーが! お前らで云う地精の在り方として、私は悪魔だ! 解るな!?』

『……ソウカ、失礼しタ。悪魔、ベンジョノカミ=ノレシフェノレ』

『ファミリーネームでもサイドネームでもミドルネームでもないわ!』

『で、デはなんナのだ、ベンジョノカミ』

『まずはベンジョノカミ呼ばわりをやめろ! やめてください!』

 

 急に怒り出したベンジョノカミに、コボルト達は動揺を隠せません。なにせこの地で祀られるという神だというのだから、迂闊に機嫌など損なえる筈も……と、ドキドキしているのです。

 そしてそんな、コボルトにさえ振り回されるノレさんを見て、「なんかもう逆にこっちが泣けてきた……」とあまりの不憫さに涙を流すモミアゲさん。

 

『スマナイ、隣人。ワレラはオマエラが祀るモノを怒らセてしまったヨうだ……』

「ああ気にしないでください、いつものことですから」

『ナ、ナント、そうなのカ、もしやベンジョノカミは常に怒っテいる……怒りの神、というものなのカ……!?』

「……へへっ」

『その余裕の笑ミ……ナルホド、彼ノ者は伊達に悪魔を名乗っテいなイ、といウわけだナ……!』

 

 そして誤解が誤解を生みます。そして別に嘘はついていないモブさんは、ニィイイコオオと密かに笑み、コボルトには見られなかったものの、ノレさんにはバッチリ見られたその笑みの代償として、思い切り顔面を殴り抜かれました。痛撃です。

 

「いばががががが……! よ、よしっ、これで大地の心配も無くなりそうだし人手も一気に増えた! これから賑やかにしていこう! この老村を!」

「オウヨ! やったろうぜ中井出!」

「ここまで地盤を整えるだけで、物凄い心労に襲われてるんだが……大丈夫なのか、これから……」

「大丈夫! なんとかなるしなんとかするしダメだったら死んでも次へ繋ぐのさ!」

「……まあ、そうだよな。むしろそれしか出来ないんだもんな。頑張るか、提督、彰利」

「へっ……おっと、アタイを忘れてもらっちゃ困るぜ?」

 

 三人が決意を新たにすると、そこで足をザリィッと地面にこすり合わせる者が。

 

「なにっ!? お前は……!」

「そう……アタイだ」

 

 トンガリさんでした。

 そして直後に足を地面にこすり合わせ、音を鳴らす者。

 

「ふふっ───まさかお前に先を越されるのはな」

「なにっ!? てめー……まさか来ていやがったのか……!」

「そう……俺だ」

 

 モブさんでした。

 そんな彼に呆れた声をもらし、肩をすくめる存在こそが───

 

「なんだ、今更来たのか」

「なにっ!? ……チィイ、てめぇも来てやがったとはなぁあ……!」

「そう……アタイよ」

 

 トンガリさんでした。言うまでもなく既にそこに居た人です。

 

「アホやってないでさっさと作業開始するぞー」

「「はーい」」

『……ほんと、自由ほねねぇ……』

 

 ───こうして。大体の地盤が揃ったところで、彼らののんびりとした、けれどやかましくも楽しい村ライフが始まったのでした。

 そこは結界が張られ、内側は空気が常に浄化され、大地は癒され、草花も活性化され、生き物は癒され、心は落ち着き、騒げば賑やかなひとつの村。

 そんな中で村とともに生きる者達の中には……やっぱり女性はおりませんでした。

 

……。

 

 彼らが精霊やら龍やら死神と契約してから一ヶ月が経っていました。

 村全体より広く大きく作られたトンガリさんの力、月聖力による聖域は、確かに自然の加護を逃がさず、少しずつですが確かに村に広がり、大地を癒します。

 そこへトンガリさんの月然力による作物の育成なども加わると、荒れた大地は雑草を育み、それらが急速に枯れ、やがて大地の栄養へ到り、また雑草を生やします。

 それを、コボルトに紹介されてやってきたエルフたちが育み、虫の羽を持つ小さな人型のフェアリーたちが癒し、ナイトキャップを被りフェアリーと同じ身体の大きさの、緑色の服を着たピクシーが栄養の行き渡りを促進。実りを実らせた頃にコボルトたちが収穫し、種を植え、また育ててゆく。

 そうして木々が広がり林が広がり森が広がり、草の一本だったものが二本に、束に、草叢に、大草原に変わって、最初は細く、弱弱しい雑草ばかりだったものが、繰り返す毎に大きな草葉となり、加護が村に充満し、大地の底にまで染み入る頃には───

 

「アノ……アタイ、チョットヤスミタイ……」

 

 自然を癒しまくりつつ、バリアを維持していた彼は、ちょっぴりげっそりしておりましたとさ。

 

「ナイスダイエット!」

「じゃかましゃあとよ!」

「というかな、彰利? 俺達別に休むの止めないぞ? 別に急いでるわけでもないんだ」

 

 げっそりしているにも関わらず二人がからかうのは、もちろんそういった理由です。べつに自由に休んでいいのにちっとも休まず動くのが悪い。まさにその一言につきます。

 

「や、けどねぇダーリソ? ここまではやりたい……っての、なんかあるじゃない?」

「それで俺達にちょっと休みたいって言ってたら、まず提督が休ませてくれないだろ……」

「し、失礼な! 俺ちゃんと休ませる……っていうか邪魔したりしないよ!? せっかくこうして緑がめちゃんこ増えて、村としてそろそろ理想村(ムラビディア)って呼んでも許されそうな感じになってきてるのに、誰かの休息を邪魔するなんていう空気の読めない勇者サマムーブなんて誰がするもんですか!」

「こ、これ中井出てめぇ! そげなこと言って、影が差したらどーすんの!」

「ハッ!?」

 

 噂をすれば陰が差す。その言葉を思い出し、モブさんは息を飲みます。

 慌てて辺りを見渡したり、コボルトさんに周囲の様子を調べてもらいますが───どうやら大丈夫なようです。

 

「フウウ……! 危ない危ない、この博光としたことが、危うく災いを呼びこんでしまうところだった……!」

「勇者なのに災いって……」

「違うのよダーリソ。転移or転生勇者って、現地勇者に比べてクズでカスでゴミなパターンが多いのYO。やつらは信じちゃなんねー。ある意味アタイたち原中生徒よりも常識のタガが外れとる外道集団だから」

「…………勇者?」

「常識の外に()気を振り絞りすぎたアタマがイカレた()。略して勇者ね」

「その点、現地勇者はきちんとこの世界の在り方ってのが解ってる分、この世界のために勇気を振り絞れる。転移転生勇者はね、自分の世界の在り方で勇気を振るうから性質悪ぃんだ、ほんと」

「「で、多くの場合は“これは俺の勇者としての決定だ! 誰にも文句は言わせん!”を地で行くドアホウ」」

「…………勇者?」

()気を振るう場所を盛大に間違ってる愚か()、な? もしくは()気は振るわず腰ばっか振ってる痴恵()

「………」

 

 モミアゲさんは、自分が抱いていた勇者像がゴシャーンと崩れる音を聞いた気がしました。他ならぬ同じ地界……地球で生きる者たちの俺TSUEEE像の所為で。

 

「しっかし、勇者ねェ~ィエ……もし来るとしたら、あの城に居た内の誰かになるんかねぇ」

「嫌だなぁああああ……もんのすごい鬱陶しそう」

「ほほっ、てめーにゃ負けるぜ中井出」

「し、失礼な!」

「あんたにゃ負けるよ、提督」

「改めて言わんでも! 同意だけでいいじゃん二度も言うなよう!」

 

 鬱陶しいという意味では、モミアゲさん的にはトンガリさんもあまり変わりはないという言葉は飲み込みました。苦労人は多くを語らないのです。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告