【ケース28:なんかたまぁに突然ハンバーグが食べたくなるみたいなアレ】
「ところで提督はさ、あの城のやつらが来るとして、どうしてそんなに嫌なんだ?」
「や、だってさ。絶対に無駄に絡んでくるだろ。“おいおいまだこんな寂れた村のままなのかよ~”とか、“俺が、俺達が代わりに立て直してやるよ!”とか」
「アタイらにはアタイらのペースがあるんじゃけんどもね。加護の拡大やら安定やらはきちんと村長やらロウズィーンたちと話し合って決めとるし、それ無視されたらアタイら辛ぇ」
「まあ……」
溜め息を吐くように、呟いて、モミアゲさんは振り向くように村を見ます。
荒れ放題だった地面は緑に溢れ、木々は一か月前に生えたとは思えないほど成長。けれど通行の邪魔にはならない程度に生えたそれらは、時折妖精らに声をかけられては、ゆらゆらと揺れています。
「……平凡な村って、こんなだっけ」
「いや、うん……俺もほんのちょっぴり違うかなーって……思ってたけど」
「自然の増殖のこと、妖精たちに任せたら、これじゃもんね……」
ともに生きるにあたり、自然のこと、緑の増殖についてはその道のプロである妖精たちに任せました。
人ひとりに出来ることなど随分と少ないものです。なので任せてみれば、緑は増える一方。けれど邪魔になるわけでもなければ、一緒に住むというのは、任せるというのはそういうことさと受け入れて、先住民たるお爺様方が受け入れているのに自分らが受け入れぬとは何事! とばかり自然と受け入れていたら、老村は緑溢れる森の村となっておりました。
ちらりと視線を動かせばクワを持ったマサルゴさんが道を歩き、歩く地面ではザワザワと結構な速さで緑が避けて、進むべき道を察して道を空けてくれています。
道に生える草は芝生程度の長さです。それらが、人が道を通るたびに避けて、土を踏ませるのです。
「……なんかもう、生えてる雑草ひとつひとつが妖精だったりする、みたいな状況だよな……」
「“普通の村”ってこんなもんじゃったっけ……」
「まさか俺SUGEEとかじゃなくて、村SUGEE状態になるとは……。俺達完璧に村の発展に置いてかれてるよ……」
村が発展していきます。自然の村が賑やかです。けれど、全自動で作物が成るほど生易しくもありません。なので村人はクワを振り、大地と語り、肥料を撒いては自然とともに生きるのです。
これらには少年な彼らよりも老人の方が順応が速く、関節痛などの痛みも増えてきたところをマナによって癒され、もはや老人とは思えない細マッチョさんらになっておりました。
しかしそこは“面倒くさい”を口にするより突っ込む型の原中生徒。とりあえずなんでもやってみるタイプの彼らは、こうは口で言いつつも積極的に物事に首を突っ込んでみています。
現在の“コレ”は、たまぁに漏れる“普通の村ってこんなんだっけ……”を口にした結果にすぎません。なにせ、“人と妖精と精霊と死神と悪魔と龍が集まる村の普通”なんて、彼らに解るわけがないのですから。
「まあ、じゃあいつも通り“村”で生きますか」
「せやね」
「異議なしだ」
「俺も増えた精霊の分、またURの範囲を広げないとだし」
「おっ、レヴェリング行く? アタイも付き合うゼ?」
「死神の不朽って、俺達や妖精たちには効果ないもんな。……こころなし、老人達がツヤツヤしてるような気がしないでもないけど」
「おっほっほ、きっと気の所為ヨ、ダーリソ」
「だとしても別にいいんじゃないか? 老人の村として立て直した場所なんだし、こりゃもう老人にとっては最高の理想の村だろ。躓いて倒れても草たちがやさしく受け止めてくれるし」
言ってる先からマサルゴさんが躓いて倒れそうになるのですが、雑草らがにょいんと伸びて、彼をモサァァアア……と優しく受け止めるのです。
それに対してマサルゴさんは「おお、ありがとうなぁ」と返し、態勢を立て直すと、作業に戻るのです。
「畑とか田圃での作業中は、フェアリーらが見てくれてるし……むしろ最近あんまり倒れなくなってきたし、逞しき村人魂を見せてくれてるよな」
「あー……そだな。炊き出しも体を作る栄養素を~とかおぼろげにイメージして創造してたけど、今じゃ自然が育てた作物の方が体に馴染むしなぁ……」
「いつか村長の頭から草が生えてこないか、アタイたまぁに心配」
「蟲師のヌシか」
「蟲師のヌシYO」
村には他種族が増えました。
村と結界の範囲は荒れ地が癒えるにつれ広がりましたが、それも無駄に増やすものではなく、きちんと範囲の限界は決めてあります。
この一か月でエルフがやってきて、フェアリーもピクシーも増え、コボルトも増えては、増えていく自然の在り方に順応、笑顔で生活しています。
最初、エルフは人を嫌うのでは、と多少の警戒はしたものの、コボルトたちが話を通していたのかあっさりと順応。
女性エルフはおらず、なんでも彼らは住んでいた森から別の豊かな森を探すために移動を続ける、渡りと云われる者たちなのだとか。
心地よい緑の声に惹かれてやってきたら、なんか変なやつらが居たので足を止めてみてるらしいです。
彼らが言うには、人が居るというのに自然の在り方に口出しするでもないのはとんでもなく珍しい、というか“てめぇらほんとに人族か?”レベルでありえないことなのだそうです。
「ホホ、まあミルク色の異次元ミルク色の異次元」
「そゆことそゆこと」
「前々から思ってたんだが、それってどういう意味なんだ?」
「「“それがあり得るかも”って意味」」
「じゃあそう言えよ……なんであえて長い言葉で言うんだよ」
「略語ばっか重宝されるのってなんか違うって思うじゃない」
「そうよダーリソ、たまにゃあ長語を使っていきマショ?」
返された言葉に、モミアゲさんは溜め息ひとつ、まあ、つまらないわけでもないっていうか、ほんと退屈はしないからなぁとこぼして笑います。
「じゃあ、これからの方針とかはどうする?」
「村とともに生きましょう」
「それっきゃねーべョ」
「……だな」
「よっしゃあそうと決まりゃあノレっち探すべー! なんかやたらとコボルトに好かれてるノレっちを」
「好かれてるっていうか、物凄く同情されてるだけなんじゃないか?」
「や、ダーリンもしょっちゅうエルフに肩叩かれてるじゃん」
「やめろ言うな。ていうか原因の大半おのれらだろうがたわけども」
「巻き込んででも楽しまにゃあダーリソったら動かねぇんだもの」
「縁側で茶ァすするだけの人生に至高の喜び見出してる老人みたいなんだもんなぁ、晦……」
「やかましい、俺はもともとそういう生活とかしてみたかったんだ。家じゃあ若葉と木葉がほっといてくれないし、かといって外に出ればやかましいだけ。ここ以外のどこでそんな平穏を楽しめるってんだ」
「理想が育まれつつあるなぁ……もうここ、老村という名の理想村でいいよね?」
「おおムラビディア……!」
「理想を名づけるならあんまり面倒ごとに巻き込まないでくれな……?」
「ホホホやだ」
「なに言ってんだよ晦……俺達、仲間だろっ?」
「だとしても程度を知れっつっとるんだたわけども!」
「「グ、グウムッ……!」」
平穏を愛する苦労人気質な彼は、まだまだ若いのに縁側で静かに茶をすすり、羊羹を食べるのが好きだったりします。
けれども大体周囲がほうっておいてくれません。
そんな時は口実として、創造した将棋や囲碁なんぞを老人たちとやるわけですが、平気で巻き込んでくるのが彼らです。
「まあともかく。せっかくこうして成長してる村があるんだし、俺達の、というか村のペースでいきますか」
「オウヨ! 命に替えても村を守るだっぜィ!」
「……ほんと、命に替えてもが基準になってるから怖いよな、UR。ていうか守るだっぜいってどんな言葉だよ」
「オーマイコンブとかでありそうじゃよね」
「…………まあ、だな」
そうして奇妙な会話をしつつ、今日も男のみの村にて騒ぎます。
これから彼らの身に、というより村にて何が起こるのか。
彼らは───
『大変ダ隣人! 結界の境目かラ植物モンステウが侵入しテきタ!』
「なんと!? こりゃやべー!」
「よ、よもやこの結界を乗り越えてくるとは~~~っ!」
『急げ隣人! 今ベンジョノカミが対応していル! 地面かラ根に寄生したヨうで、厄介ナ奴ダ!』
「……彰利? お前まさか土より上にしか結界張ってないとか……」
「…………ヤッベェーーーッ!!」
「バッ、バッカモーン彰利一等兵! これ絶対妙なことになるパターンだぞ!?」
「植物に寄生するっていったら、この村なんてほぼ植物だぞ!? すぐ対処しないと───」
「ハッ!? そうYO悠介! 今こそ龍の加護を召喚せし時ぞ!? バハムル召喚して根絶やしにするのYO!」
「根絶やしじゃあ言葉通り自然ごと滅ぶわ!!」
「そこんところは龍パワーでなんかこう区別して殲滅とかできないのか晦一等兵!」
「あんたほんと平気な顔で無茶言うな!? 超常の存在だって不可能なことくらい普通にあるだろ!」
「言ってみるだけならタダである! 訊いてもいないのに決めつけるのは、逆に相手の龍の力を舐めてるみたいで失礼じゃないか! 僕きっとできると思うんだ。だからさあ呼ぶんだ! ───龍の加護より出でよ! 無情☆ボイ《チュゴォオオオン!!》ギョアァアアアアーーーッ!!」
「て、提督ーーーっ!」
「中井出がメガフレアで滅んだぁあーーーっ!!」
モミアゲより放たれた極光にて、モブさんが消し炭になりました。
ご丁寧にその斜線上の自然は極光をシェェエエイと避け、飛んで行った先にはなんの奇跡か寄生植物がおりまして。対処していたノレさんごと、見事に『なっ!? うおっ!? ごわぁあああああっ!?』……見事に退治してみせたのでした。
「……バハムート。頼む。シフにはほんとやさしくしてやってくれ……」
『ま、待て、我は狙ってやったわけでは……!』
「中井出は自業自得じゃけんどもねぇ……」
こうして今日も、一部の人には厳しいながらも、平和が訪れました。
たどり着いた結界の端で、ギャースカと殴り合いの喧嘩をするモブさんとノレさんですが、やがて一方的にボコボコにされたモブさんが動かなくなると、ノレさんはスッキリサワヤカフェイスでその場を去るのです。
「中井出も相変わらずじゃね。レベル上がってもろくにステイト上がらんのに、喧嘩からは逃げんでボッコボコ」
「まあ、からかった対価はいつも通りだろ。提督? 提督ー? だいじょぶかー?」
「がぼっがぼっ……」
「警棒で殴られたスモーキーの真似はえーから」
「グ、グウウ……ここで電話があったなら、ノレ公に“今日は……ごめんにぇ?”と謝罪のひとつでも送りたいところなのに……」
「あー……昔にあったなぁ、そんなCM」
「オー……こう、“わー!”とか叫びながら殴り合って、最後に電話で“今日は……ごめんにぇ?”って謝るやつじゃよね? なんのCMじゃったっけあれ」
「“今日僕ハンバーグなんだーいいでしょーじゃーねー”と同じでハンバーグでは?」
「待て、ハンバーグのCMでなんで喧嘩してるんだよ」
「や、そりゃオメー……いいでしょーじゃーねー、の続き、とか? 今思い返せば相当な煽りじゃぜ? あれ」
「ていうか“いいでしょーじゃーねー”もハンバーグのCMだったっけ?」
「「「………」」」
『……隣人。それはそんナに悩むホど大事なコとなのカ?』
「食事が豊かになります」
『大事だナ』
こうして賑やかにやかましく、時に激しく、けれど穏やかに、問題は発生したり解決したりを繰り返します。
騒がしいのは豊かな証拠。
今日もムラビディアは平和です。