【ケース29:とん汁が食べたくなる29の日ならぬケース29】
精霊や妖精などはほぼが非戦闘員でした。
実力はそりゃあありますが、そもそも森を汚されない限りは戦う理由もありません。
なので、フレッシュミート (人)を求めてやってきたウルフなどの肉食モンステウなどは大体スルーでありまして、それらを倒すのは人の役目です。
森の民エルフは肉は食べませんから動物は殺しませんし、妖精や精霊ももちろんそう。モンステウもそれを知っていればこそ、エルフなどはスルーしてフレッシュミート (人)へとまっすぐ襲い掛かるわけです。
『アオォオオオーン!!』
「ァォ武芸ェエエーーイ!! ムゥーサッスィー!!」
さて、ここは老村改めムラビディア。その村の中心であり、襲い掛かるは狼型モンステウのフォレストウルフです。
群れを成し、リーダーの合図で様々な行動を取るといわれる魔物です。対するは竹槍二刀流でムサシロードを歩まんとする大馬鹿者、原沢南中学校迷惑部が誇るクソザコ提督さん、中井出博光です。
村を、そう……村を守るために駆け出し、刃物とかなかったからそこらへんにあった竹槍を二本とって、とりあえず立ち向かっただけの彼です。
武器熟練度なぞほぼ0なので、どれを手に取ったところでクソの役にも立たないのですが。
そんな彼が竹槍を構え、シィイイイイ……と息を吐いて、「狼虎の呼吸、壱の型───! 狼虎滅却! 快刀ォオオッ乱麻ァアアアッ!」と叫び、槍を振るいますがちっとも当たりません。
「ピュアピュア~~~ッ!! この博光相手に牙で戦おうとはいい度胸だ~~~っ! そして俺の攻撃が当たらぬことなど予測済みよ~~~っ! ほぉ~~~れほれほれ突起物だぞ~~~っ! 突撃すると突き刺さるぞ~~~っ!《バリッ!》ゲーーーッ!!」
前ばかり見ていた彼の尻を、強靭な顎が襲いました。
そう、ウルフは既に仲間に合図を送っていたのです。自分が正面で引き付けるから、後方から襲えと。
そうしてケツへの激痛に、漂流教室の未来人類チックに叫ぶや、他のウルフらが一斉に襲い掛かります。
「うおおぉおおっ!? や、やめろやめねぇか! てめぇら秘境だぞ! 何処が秘境かって!? ……ここさ!」
卑怯ではなく秘境と、彼は言いました。そして、キュピンッ……と、パイナップル型のとあるブツに刺さっていた輪っかを引き抜きます。
「死ぬのは……怖く……ないぜ……! だ、だが……俺はツェペリ家の《ドゴォオオオオンッ!!》ギョエェエエエエエエエエエエッ!!」
名を手榴弾といいます。
そう、彼は最初から命がけでモンステウをぶち殺すつもりだったのです。
自分がクソザコなことは解りきっているので、あとは己の命を囮に殲滅するだけです。手榴弾はモミアゲさんの提供でお送りいたします。
「いたぁい! いたぁい!? 痛いんだよォオーーーッ!!」
けれど死に損なうととても痛いので、カチリと奥歯に仕込んだ小型爆弾で自爆します。ご丁寧に、生き残ったウルフに「あなたーーーっ! お帰りーーーっ!」と抱き着いて。
彼はこうしてレベルを上げつつ村の平和を守っています。
「おーお、また中井出花火が上がっておるでよ。あやつもよーやるねぇ~ィェ」
「生き返るってわかってても、普通は自爆なんてできないもんだけどなぁ……お前出来るか?」
「いやいや無理無理。あやつきっと心のネジがどこぞかイカレとんのよ。や、アタイも悠介の未来のためならって自爆とかしたけどさ? 改めて、こうして大した目的もねーのに自爆せよとかはちっと厳スィーね」
「俺も無理だな。なんかこう、“無駄に死ぬんじゃない”ってイメージが頭の奥底にこびりついてるっていうか」
トンガリさんとモミアゲさんは、巨木の上から村全体を見渡します。
ウルフは突撃の前に遠吠えをする習性があるので、聞こえた時点で備えていたわけです。
「っと、西のほうから三匹!」
「オウヨ! 中井出ー! 西から三匹ー!」
そして、ウルフを見つけるやモブさんに報告。
彼は飛びかかってきて喉笛に食らいついたウルフを、やさしく温かく、地母神がごとき慈しみフェイスでそっと受け止めると、装備品の“E:腹マイト”を起爆。道連れにして、UR復活条件で“西のウルフの頭上へ頭を下にした状態で大回転しながら復活”を決定。
「その賢いオツムを怪力で破壊してやるーーーっ!!」
『《どごぉおおんっ!!》ギャワゥゥンッ!?』
復活と同時に偽マッスルリベンジャーでウルフを叩き潰し、驚いてジュザァアアと地面を滑って足を止める他のウルフへと突撃していきます。
「さあ来いィイ!! 戦士の力がァアア!! 俺の血がァアアア!!」
なにやらアークザラッドのグルガさんのような言葉を口走りながら、タックルしたりローリングソバットしたりする貧弱一般人。
すぐさまザコと認定されて腕を噛まれたり足を噛まれたりで、HEEEEEEYYYと泣き叫び始めました。
「中井出にやった爆弾、いくつだっけ」
「さっきので尽きたな」
「さよけ。ほいじゃあ───お、来た来た、中井出からの満願豊作サインだ」
「大丈夫なのか?」
「おーけおーけ、任せときんさい。伊達に何年もゼノ助の野郎と戦ってねーよアタイ。っつーわけで。月操力融合、標的中井出レッツラゴー、っと。───アァルファレイドッ! カタストロファー!!」
五指を広げた手を突き出し、その手首を左手で掴んで、右手から放つ月操力と左手から放つ月操力を融合、破壊の光として放ちます。
それはまるでゲームなどでよくある波動砲のように大きな光の波動となり、モテモテ王国のファーザーのように犬、もとい狼に襲われてギャワーと叫ぶモブさんへと降り注ぎます。
「いや───」
光の接近に気づいてそちらを見た彼が、桃白白のようにそう叫ぶのに、時間は要りませんでした。───が。
「ワハハハハ! この博光がただで死ぬと思ったら大間違いだぜ~~~っ! ビッグシールドガードナー! 守備表示で召喚!!」
なんと彼は己に噛みつく二体のウルフを前に突き出し、盾にしたのです。当然ウルフ達は『ギャワッ!?』と叫び、顎を緩めて逃げようとしたのですが、
「大丈夫だ……! この博光、貴様らだけを死なせたりはせぬ……!」
感動物語でありそうな言葉とともに、モブさんが火事場のクソ力を発揮して抱擁。
死ぬ気で暴れるウルフともども、巨大な波動砲に飲まれ、消し炭になりました。
「……撃ったアタイが言うのもなんじゃけど、ほんに中井出ってガッツがすげェェェェよね」
「ほんと、撃っておいてなんだけどだな……───あ、提督ー! 次ロドリーゴさんの家の近くだー!」
次いで、復活の仕方をモンステウのもとへ、と決定していた彼は、復活の瞬間に天より流星がごとき速度で落下し、ムラビティックミーティアとなってウルフととも爆裂しました。
あ、これで死ねばまた全自動モンステウ爆砕メテオになれるじゃん、と気づいた彼は、こののちウルフが悲鳴を上げて撤退するまで、村の中限定の魔物殲滅流星群となったといいます。
「……ほんと、敵じゃなくてよかったよな、提督……」
「ほんにね……。敵ぶっ潰す度に自分も潰れて、復活条件で敵目掛けて飛んでいく、を選んどんのよね? あれってば……。なんか死ぬたびに速度上がってるし……ありゃあいっそ敵がカワイソーじゃわい……」
最後の方には大気圏に突入したようなメテオエフェクトまで出て、ウルフのリーダーが木っ端微塵になるほどでした。
こんな光景を、見ず知らずの赤の他人が見たのち、彼がただの貧弱一般人だと言われても、きっと信じないでしょう。