【ケース31:
「ま、あれやね。勇者がおなごならまだいいけど、男だったらほんと、おなごを食い散らかしたりしてる可能性もあるから……グーヴ、出来れば早めに始末してやりてーのう」
「女が勇者だった場合も、取り巻きの男達がうるさそーだけどなー……」
「ぐほっ、そーだそれがあった……。で、あれね? なんか自分の正義を押し付けまくってきて、たとえば戦うことになったら男どもがこっちの状況によってギャースカやかましいアレ」
「勝っても負けてもうるさいんだよな……ちなみに俺が前に“女だったら鬱陶しいだろうな”って言った理由の大半、それね」
「うわーいナルホロ、そりゃ“キミには負ける”って言葉は別方向で撤回するわ」
「サンクス」
「? 別方向って?」
「ゴーホホホ、この博光が女勇者と戦うとして、鬱陶しさ勝負で負けるとでも?」
「「いや、そこで胸張るってどーなんだ?」」
見事な同時ツッコミだったそうです。
けれどもモブさんは輝かしい笑顔で誇らしげです。
「だいじょぶだいじょぶ、俺はきちんとバトルにゃあポリシーを持って生きてます。剣と魔法の世界で相手から喧嘩売って来て、ましてやその相手が我ら原中生徒ならば、やることなぞ一つだろう」
「まあ、性別がどうあれブチノメすわなぁ」
「……だな。勝負は勝負だ。ただ提督の場合はその手段が怖そうなんだよな……」
「怖いなんてとんでもない、とても真摯な行動ですよ?」
“貧弱一般人”をステータスにまで書かれた彼は、モミアゲさんに“怖そう”と言われてこれは心外とばかりに胸の前で両手を組んで語ります。まるで祈りを捧げるようなポーズで。しかしそんなポーズをとっても普通にクズでカスな言動をはじき出すのがこの提督なので、モミアゲさんは身構えもせず苦笑をもらしました。
「考えてもみるのです……自由なる我らが原中に生きた猛者らよ。……貧弱一般人が方法を選んで勇者に勝てるわけないじゃない。特に俺は」
そして言われてみれば、「「ああ無理だわ」」と頷ける内容でした。
「だから外道の限りを尽くしてでもブチノメします。はい彰利、そこで一言」
「“女だぞ”」
「“……見ればわかる”」
「「イエーーーッ!!」」
神エネルの流れを再現し、彼らはハイタッチして燥ぎ合います。
そう、戦場において、特に剣と魔法の世界において、戦場に老若男女を持ち込むなど覚悟を以て戦場に立つ者への侮辱にございます。他はどうかは知りませんが、少なくとも彼らにとってはそうなのです。
子供だろうが刃物があれば、毒があれば人を殺せるのです。老人だろうが魔法が使えれば殺せるのです。むしろこの世界で偉大なる魔法使いやら賢者やらと呼ばれる大半は老人です。そんな世界を前に“アッ、老人だ! ジョワジョワ手加減してやるぜ~~~っ!”など本気の本気で自殺行為です。
女だろうが特殊能力があれば、圧迫魔法で安全圏から首を絞めることも出来ましょう。故に“敵ならばブチノメす”。相手の美学にわざわざ付き合い敗北するなど、“遊び”以外であってはならないのです。
「けどなぁ提督。そこはせめて男女で分けないか? 老若男女じゃなくて」
「なにを失礼な! 今貴様はこの一ヶ月でたくましマッスルになったロドリーゴさんに喧嘩売ったぞ! あの人は老人でもウルフくらい狩れる猛者になったんだぞこの野郎!」
「たくましマッスルな老人なんて限定的すぎるわ! 子供だってそうだろが!」
「馬鹿! ダーリソのバカ! もしクソガキャアが“あ、兄ちゃん堪忍”とか言ってぶつかってきて、持ってたのがソフトクリームじゃなくて毒ナイフだったら“な、なんちゅうやっちゃ、蹴りよった!”じゃ済まねーんじゃよ!?」
「その前に蹴ってる事実をなんとかしないか!?」
“ていうかなんで急に例えにろくでなしブルース使うんだよ!”と心の中でツッコミつつも、まあいつものことなので細かなツッコミは抑えてみれば、言われた彼らは「「オーケー任せろ!」」と返します。
そして、続けて言うのが「そこが戦場じゃなかったらね?」でした。
「ホホホダーリン? アタイらだって何も四六時中老若男女を警戒してるわけじゃねーぜ? けどね、日本のそのー……倫理? をファンタズィーに持ってきて熱弁したって、有利にゃならんしモンステウは止まらんし、こっちの世界の戦士さんたちゃ“こっちじゃこれが常識だこのタコ!”で終わって、止まってくれるわけじゃねーデショ」
「晦はなんだかんだ優しいから、釘を刺す意味で言っておきたい。実行してる時に“それ以上、いけない”って止められて、そんな時にそのー……手を止めて丁寧に説明してると何度死ぬかわからないし」
「死ぬことは確定してるんだな……」
「ほっといてよもう! 僕はこの世界で、自分ってものを見つめすぎただけさ! 俺YOEEE!!」
悲しい事実でした。そして、彼はそんな事実を受け取った上で、トンガリさんに肩をポムと叩かれて「頑張れヨ」と言われました。
言い返したかったけれど、実際頑張らなければ瞬殺な未来しか見えなかったので、頑張るしかありません。むしろ敵が雑魚一掃のために放った低級範囲魔法の流れ弾で事故死するモブな未来を想像して、遠い目をするばかりです。
「ともかく。この博光はファンタジーの戦場においては男女平等を掲げる修羅よ。全裸のねーちゃんが倒れていても、俺は性的に襲わない。全裸のにーちゃんが倒れていても性的に襲わないからだ。寂しい顔して落ち込んでるコゾーが居たら笑わせにかかる。で、それは血管ムキムキで全力激怒してるおっさんだろうと変わりません。平等ってそういうことさ」
「キャア! そんじゃあテメーは男と恋愛して結婚もできるのネ!?」
「ちゃんと聞いて!? ねぇ聞いて!? 僕ちゃんとファンタジーの戦場においては男女平等って言ったよね!? 違うからね!?」
「ホホ、まあ中井出のはアルティメット極端じゃとしてもYO? 戦いが繰り広げられてるところにやってきて、“アタイ女よ狙わないでNE”とか無茶言わんでくださいって話じゃぜ?」
「そうそう。たとえばほら、えーと……おお、そうそう。女だからってほっといたら全財産かっぱらわれました~なんて、峰不二子級にひどい結果になるんじゃないかな」
「うわー……ああ、うん。峰不二子の例えは物凄く良く解った。ファンタジーの戦場での男女平等も……まあ、言われてみれば解らないでもないんだけどな。完全に割り切るとなると、やっぱりなかなか難しそうだ」
頭が痛いとばかりに片手で頭を押さえ、とほーと溜め息を吐くモミアゲさん。
その横で、大樹からムラビディアを見下ろし、木々や草花と戯れている妖精らを見やるモブさんは、「そういやね」と呟きます。
「……僕さ。じいちゃんがぎっくり腰になった時、めちゃくそ痛がってたのを覚えてるんだ。親父様はぎっくり背中になってね? それがまたハチャメチャに痛そうなの。麻衣香の親父さんの知人が背骨骨折して入院して、退院しても後遺症で首と腰が動かせなくなったって話も聞いたんだ」
「お、おう? どぎゃんしたんいきなり」
「ニコさんさ、能力でさ、背骨折ってくるよね。あれ……やられた方、
「あー……」
「たまぁにそのー……言ってる人、見るけんどもさ。……どんな物語でも、主人公側から理不尽を叩きつけられる悪側って、たまったもんじゃねーよね……。や、そりゃ雷だってヤバイ当たり方すりゃあ痛風みてーなことになるとか聞いたことあるけど」
「
悲しい風が吹きました。
吹かせた原因であるトンガリさんが、モブさんとモミアゲさんに脇腹連続地獄突きをドドスドスドスとされて「キャー!?」と叫ぶくらい、悲しい風が吹きました。