【ケース32:首が折れた時、これで生きてるとかリクーム戦の悟飯ちゃんすげぇと彼は思ったそうです】
「ま、まあそう思えるのはひとえにアタイらが悪側である証拠に違いねー! そ、そうよね!? そういうことYO! 正義とかじゃあなく、主人公側からしてみりゃあアタイらの思想なんてクズデカスガ戦記代表なのYOねきっと!」
「ベルデセルバ戦記の語呂で失礼なこと言うのやめなさい」
「けど、そっか。お前らの考え方だとそんな感じなのか。主人公側からの思想かぁ……双子の妹たちと一緒に暮らしてきた俺からすると、なかなか難しい注文なんだよな、それ。俺も“相手、女だぞ”とか言いそうな気がする」
自分の性格を振り返り、思わずそうこぼしてしまうモミアゲさんですが、そんな彼にトンガリさんとモブさんが片方ずつの肩をポムと叩き、ひどく真面目な、けれどやさしい表情で言うのです。
「言っても、えーのよ……ダーリソ」
「そう……その時の我らの行動を邪魔しなければ、いくらでも我らの思想を罵倒するのだ」
「彰利……提督……。…………ちなみに。その時のお前らの行動って?」
「え? そりゃオメー、毒霧吐いたりサミングしたり、砂かけババア流目潰ししたりじゃよ?」
「“状態異常魔法耐性の魔法、かけ終わったよ!”“よっしゃあ!”とか言ってる連中にコショウをふりかけて、くしゃみ地獄にいざなうとか」
「全力で邪魔するわこのクズども! せめて多少でもまともに相手してやれよ!」
「「なんだとてめぇこのクズが!!」」
結局みんなクズでした。
そうして大木の上でギャースカ騒いでいると、下からロドリーゴさんの声が聞こえます。
今日はロドリーゴさんが、この村で有名だった村料理をご馳走してくれる約束になっていたのです。
途端にゲルググゥと鳴るトンガリさんの胃袋は、とても正直でした。
「どういう胃袋してるんだよお前は……」
「ほっほっほ、健康な証拠じゃて。きっと中井出ならアッガイとか鳴らせるゼ?」
「鳴らないから。普通にグロロ~とか鳴るくらいだから」
「や、それほんとだったらフツーにスゲーからね? てゆーかさっさと降りんさい中井出」
「な、なんだよぅやめろよぅ! こんな高いところから降りるなんて怖いじゃないか!」
「そういやテメー最初木登り出来ねーから殲滅部隊筆頭 (一人)になったんじゃねーの! なして我先にと降りよーとしとっとや!?」
「動いたからお腹空いたんだもの! で、でもこんなに高いだなんて思わなかったんだもの!《グィイ!》ヒィ!? なっ……なーんーだよぉ~~~っ! やぁーめぇーろぉーよぉ~~~っ!!」
「駄々捏ねてる小学生みたいな返し方してんじゃねィェーーーッ!! つーか爆弾で平気で自爆出来るヤツが今さら木から降りる程度でビクビクしてんじゃねー!」
「それとこれとは恐怖の方向が別なんだい! この、足を精一杯延ばしても地面に届かない心細さと、早く行けって後ろからせっつかれる気持ちなんて、女子アナが理不尽にバンジーすることになって泣きたくなるような状況なのに、ただ見て笑ってるだけの奴らになんざわかるもんかっ!《ズリャッ》あっ───」
「「あ」」
手が滑り、彼は大木の上から大いなる大地へ向けて落ちていきました。
けれども彼らに心配はありません。何故ならどうせ、倒れそうになったマサルゴさんと同様に雑草が受け止めてくれるに違いねーと思っていたからです。
「あっ! なんかこの状況、じゃーん僕ジャンとばかりに落下したザ・シークレット・オブ・ブルーウォーター的な《ゴシャア!!》ギャアーーーッ!!」
けれども加護は彼らには大変厳しいことを忘れていました。
結果としてモブさんは足を粉砕複雑骨折することになり、「オワァ~ウハハハハァ~ン……! ァ~ゥハハハハハァ~ン……!」とザ・グリードのラストあたりで豪華客船からボートに飛び移って同じように足を砕いた男性の如く、ねちっこい悲鳴を上げて苦しむこととなりました。
二人もすぐに降りて、トンガリさんの月操力によってズタズタな足はゴワゴワと完治したのですが、新鮮なる血液の香りが風によって流されたのか、再び襲ってくるはフォレストウルフさん。
「「中井出ぇええーーーっ!! てめぇええーーーっ!!」」
「えっ!? これ僕が悪いの!? いいじゃないか! 僕だって二人みたいに木に登りたかったんだい! なんだよ二人して仲間外れにして《ガブリャア!!》ギャアーーーッ!!」
「ああっ! 中井出が的確に頸動脈を狙われて!」
「中井出!? 中井出ーーーっ!!」
真っ先に狙われたのはモブ提督さんでした。あまりの勢いに提督、と呼ぶのも忘れ、モミアゲさんも純粋に驚くほど的確さでした。
けれどもモブさんも負けてはいません。首にかぶりついたウルフの目に指を突っ込み、さらには喉をギュミミと指圧の心で全力圧迫すると、自分の喉への攻撃が緩んだ瞬間にウルフの股間をゴシャッ……と蹴り上げました。
『~~~~ッッッ!! アオォオオオオオーーーーーッ!!』
これにはウルフさん、絶叫。
も、悶絶ーーーっ! とばかりに腰を持ち上げるようにスターンスターンと後ろ足のみの跳躍を続けるウルフを前に、自由を得たモブさんは邪悪な笑みを浮かべます。
別のウルフに頸動脈を的確に狙われて、ギャワーと叫ぶのはその直後でした。
「中井出てめぇ! どんだけおいしい香りとか出しとんの!?」
「ししし知るかぁあーーーっ!! うゎだいだだだイギャーリゴファーリ!!」
「そもそもどれだけのウルフに囲まれてるんだよこの森な村!」
「なんかもう森ってだけで、動物とかモンステウとか寄って来そーじゃもんね! ええいどけどけコンナラー!!」
トンガリさんとモミアゲさんが、身体能力にモノを言わせてウルフらを攻撃します。
そんな中、モブさんは「なにをこんなものーーーっ!!」と喉にかぶりついたままのウルフを持ち上げ、地面に叩きつけるのです。
……その拍子にゴキリと首の骨が折れ、モブさんが塵と化しました。
「提督ーーーっ!?」
「えぇええーーーっ!? おまっ……なにやっとんのアホォーーーッ!!」
彼としてはただ、キン肉マンキャラのように腕ひしぎにも負けず立ち上がり、腕ひしぎ十地固めの状態のままの相手をマットに叩きつけるアレを真似したかっただけなのですが、STRがほんのちょっぴり上がった程度の貧弱一般人が“強靭なる首の筋肉を持つ超人レスラー”を真似るには無理があったのです。
むしろ肉 (中井出)に噛みついて、もう少しで仕留められる筈だったウルフの方こそが困惑しております。“肉はどこだ!? どこ行った!? え!? なにこれ!?”とばかりに辺りを見渡しています。
「………」
「……悠介。なんぞかツッコんでおやりよ」
「いや……うん、なんかすまん、言葉もない」
そんな困惑するウルフを月操力で仕留めつつ、彼らはどうせヘンテコな復活の仕方をするんだろうなぁと彼の帰還を待ちました。
そこへ「やあ」と普通に歩いて戻ってくるモブさん。───が、早速別のウルフに的確に頸動脈をねらった噛みつきを食らい、地面にドジャーと倒れてました。
「ギャアアたすけてぇええ!! 彰利! 晦ーーーっ!!」
「いやほんとなにやっとんのおんしゃあ!!」
「自分でも予想外の死亡に頭が追い付かなかったんだよぅ! 復活設定してる暇もなかったんだ! そしたらなんか普通に蘇ってギャアーーーッ!!」
「ああもうほんと世話のかかる提督だなぁちくしょう!」
「だ、だが俺は負けねぇ~~~っ! ロ、ロドリーゴさんの料理を食うまで、死んでたまるものか~~~っ!」
「死んだばっかでしょーが!」
「う、うるさいやい!!」
そうした騒がしさが、結局ウルフらを撃退するまで続きました。
が、狙われない村人たちや妖精らからしてみれば、今日も騒がしいだけで、ムラビディアは平和です。