そして彼らは幻想に馴染んでいく
【ケース01:時間や社会に囚われず、幸福に空腹を……満たしたい】
時間は───彼ら三人がそれぞれ加護を得た翌日にまで戻ります。
「ウムムムムムム~~~~ッ……!! っはぁっ! よっし、善き朝! ……ややっ?」
早朝、太陽の光を光を浴びてグミミミミと伸びをするトンガリさんは、既に起きてなにやらぶつぶつと言っているモミアゲさんを発見します。
「モーニンダーリソ、相変わらず朝早ェェェェね」
「ん、彰利か。まぁ、神主代理の朝なんてこんなもんだろ」
「そげなもん? まあいいコテ、それよかなにやっとるん?」
「自分の家づくりのことだよ。村長がもう起きてたから、家を建ててもいいかどうか相談してた。……ひどくあっさり構わんぞいとか言われたから驚いたよ。日本じゃ考えられない」
「クォックォックォッ、ぬぁ~~~っ? 言った通りだっぺぇ~~~っ?」
「普通に返せないのかお前は……」
ポピースマイルとともに肩をぽんぽん叩いてくる彼は、それはもう鬱陶しい顔をしていたそうです。
さて。モブさんがいつも通りお寝坊している現在、彼ら二人はその事実に特にツッコムでもなくこれからのことを話します。
まずは住居。いつまでも空いてしまった家を借りておくのもなんだと思い、先日のうちに相談していたのです。
「いきなり村長に“家建てていーか訊いてみっべー”とか言い出した時は頭大丈夫かとか思ったもんだけどな」
「ホホ、ファンタズィーにおける転移・転生者の考えなんぞそげなもんよ? なんか知らんけどそこに家を建てるのは当然だー! とばかりに家建てにかかるから。日本に生きながら土地がどうとか考えないのが転移・転生者の基本!」
「それ基本でいいのか……? ああまあ、俺はそっちのことに関しては詳しく知らないからツッコんでも仕方ないけどな」
「して? ダーリソはどげな家を建ててーの? 木を生やして作るような家なら、アタイの月然力でも作れるゼ? こう……大木をお空に向けて伸ばして、その真ん中あたりに空洞と入口ができるように成長させて、そこに住むのYO」
「なんでもありだなオイ……」
「苦労したもの。んで? どぎゃん?」
「俺のは……~……」
「あら珍しい、悠介が口元むずむずさせて言いたがるようなそぶりを見せるなんて」
「わざわざ口に出して言うなよっ……!! え、ええとだな。ほら、その。……が、合掌造り、って……知ってるか?」
「え? なにそれ。
「………」
「おほう!? えっ……なしてそげに落ち込んどっとや!? テンションあげてこーぜ親友!」
合掌造り。日本の住宅建築様式の一つです。基本二階建てのもので、屋根がかなりの傾きがありまして、瓦などでなくススキなどを材料にした分厚い屋根材に使っていることが特徴。
それらを合掌するように合わせたことが名前の由来だとか。急勾配の屋根の理由は水はけや雪下ろしの簡易化が目的とされています。
現在で例えるなら、合掌というよりは建物に開いた本をドカリと乗せたような、古きよき時代の本好きが顔に開いた本を載せて眠っているようなアレの本の状態に似ています。
……ということを、興奮交じりの顔で話すモミアゲさん。
「オ、オー……ダーリンたら神社系の家に住んでおいて、そういうのほんと好きよね……。普通、もっと別な、こー……も、モダンっつーの? そういう系統に憧れねー? ところでモダンってなんだっけ?」
「近代的とかそういう意味だろ。俺はこういう歴史ある建物とかに憧れる。晦の家は瓦屋根で、あれはあれで好きだけどな。こういう、その、わかるだろ? 最初から屋根裏を重宝してしっかり使う目的で作られる家とか、憧れるだろ、男として」
「オホホ、まあ屋根裏はロマンよね。でも晦屋敷にも屋根裏はあるデショ」
「一階が“牧草地域でありそうな作りにする”っていうのが最大の特徴なんだよ……! せっかくのこういう風景、こういう世界なんだぞ!? もっと自然と接するみたいな作りにしなくてどーするんだ!」
「おお……ダーリンが熱い……! え? その合唱……合掌か。それの一階って、馬とか入れるスペースでも作るのが風習なん?」
「似たようなもんだと思ってる。いや、正直俺も完全な知識があるわけじゃないんだ。ただ、この世界に合わせた建物を造れたらって思うだろ? もちろん、そこに自分の趣味を入れるんじゃないって言うんだったら、なにも合掌造りじゃなくてもいい」
「いやいやナルホロ! そりゃ手伝わねぇ理由はねぇやね。オッケン了解! ……そいでまずはなにするん?」
「なにってそりゃあ……」
「………」
「………す、ススキから……作るのか?」
「……ちょっと待ってダーリソ、その合掌造りの屋根っていったいどれほど分厚いん?」
「どれほど……あ、あー…………相当?」
「………」
「………」
道は遠そうです。
けれどもコボルトさんを迎え入れた今、人では少しずつ増えていると言えましょう。この時期ならばエルフの“渡り”が来ることもあるので、それに声をかけてみたらどうか、という話も出ているのです。
そうして人手が増え、種族も増えれば出来ることも増えていきます。
けれどもやることはあくまで“村の発展”。私腹を肥やす行動なんぞどうでもよいのです。
「ま、地道にやるか。制限時間があるわけでもない。……ないよな?」
「ぅぃんにゃあ? この場合、アタイらがあっちの世界に帰りてーと思うかどうかでない? ダーリン的にはどう? アタイとしちゃあ、ゼノのこともあるから双子ガールにゃあ悪いけどここで“生きてて”ほしいやね」
「……俺、あっちで暮らしてたら死ぬのかよ」
「死ぬよ? 冗談抜きで。ゼノって死神にブチ殺される。最初の頃なんざひでーもんだったもん。殺されたダーリンゆすりながら大号泣してさ? ヤロォぶっ殺してやぁああるっ! ってゼノに特攻して、転移して自爆です。その時に初めて月空力が成功した。あ、月空力ってのが時間移動とか出来る月操力ね? んで、それ成功したのはいいんだけどさ、降りた場所がアルティメットやべぇところでね? どうせ死ぬなら~って、ゼノ巻き込んで能力暴走させて、自爆しましたハイ」
「にこやか笑顔で言うことかそれ」
「ままま、そっからはね、そのアタイの魂を使ってダーリンがアタイを“創造”。まあ器はあったから、創造っつーよりは蘇生に近かったわけで。やー……ほんにいろいろ面倒なことになっとんのよ、家系。創造でなしてアタイが蘇生するのかーとかいろいろ考えたことあるけど、そこんところもかなり捻じ曲がった裏話があるんじゃろうね。なんせダーリンの属性が神側だっつーんなら、キミの出生とかも相当やべーもの」
「月蝕力、っていったか」
「オウヨ。神側の家系、朧月の印。ダーリソ、“晦”に貰われる前の記憶っていやぁ……十六夜じゃったっけ?」
「そっちじゃそうなのか? いや、実際昔のことを思い出せないのは確かなんだが」
「アタイのところじゃそうYO。そっちじゃそうなのかってこたぁ、なんぞかあるん?」
「いや……気づいた時には晦の家に居たな。で、嫌な夢を見るわけだ。家族が俺に暴力を振るう夢」
「OKそれ十六夜のクソどもだ。で、たぶんそれはダーリソの親じゃない」
「……まじか」
「OH.YES」
なんでもないことのように言う彼は、ご近所のおばさまが噂話をするかのように、やだよぉこの子ったらと言わんばかりに手招きするように手を振るいます。あの動作はいったいなんなんでしょう。
「ダーリンを晦の家に預k……もとい拾われる前に、隠れ住んどった朧月が誰ぞかに惨殺されるって事件があってね? 子供の遺体が見つかってねーとかゆーとったから、たぶんそれがダーリソだわ。試しに魔払いのイメージを手に集めながら、月鳴力、って心ん中で唱えてみんさい?」
「まばらい?」
「悪いものを祓うイメージ。やってみれ?」
「…………」
言われた通り、やってみます。素直です。
トンガリさんの予想では、恐らく失敗します。月鳴力は十六夜の月操力であり、朧月のものとは違います。
故に、十六夜の息子でない彼がそれを使えるわけがないのです。
「……なんかバリって電気みたいなの出たが」
「アッルェエエエーーーーーーッ!?」
彼はこの世界に来て一番驚いたそうです。