ボケ者どもの理想村(ムラビディア)   作:凍傷(ぜろくろ)

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ハイカラさんは通らない。

【ケース02:麗しのギャンブラーは早口で言われると鰯のギャンブラーに聞こえる】

 

 テーレッテー・ルルレルー♪ テーレッテー・ルルレルー♪ テーレッテー・ルルレルー♪ テー・テー♪

 

「モミアゲ伝説殺人事件!! 前編ッッ!!」

 

 ドゥルレレ・レットゥッテットゥッテットゥッテットゥッ♪

 

「さて、じゃあダーリソ? 次はこう手を構えて、破邪……邪なるものを退けるアバン先生みたいな気持ちで、月醒力、って心の中で」

「おい待てこの野郎。さっきのモミアゲ伝説なんたらってのはなんなんだよ」

「あらスルー。まあいいコテ。あーん……ウヌ、火サスのアイキャッチみたいに考えて? ちなみに後編はねぇぜ? じゃ、話戻して、やろうゼッ、合掌造りっ!」

「待て待て待てっ、提案しておいてなんだけど、二人でとか何年かかるか解ったもんじゃないぞ!?」

「じゃーじょーぶじゃーじょーぶ! 合掌捻りなんて二人居りゃあ出来るぜ!?」

「誰が相撲の技を作れと言ったのか! ええいこのたわけは!!」

「いぞり投げどすこーい!」

 

 頭の中には神を投げるスモトリの姿がありました。

 

「まあよ、まぁああよ。せっかく時間や社会に囚われず、幸福に欲求(くうふく)を満たせる今が来たのYO? なしてまごまごせんといかんとや? 燻るハートなぞぶっ潰してなんぼ! 火を点けてる暇があったらマグマにでも投げ込めそんな不燃物! そして最初っから燃えるものを再点火すりゃヨロシ。それはなにか? 興味! 欲求! 即ち人間性! 点火に人間性を捧げよとかよく言ったもんよね? だから我らは趣味からは逃げられぬのよね! “楽しい”は悪である!」

「そこは正義じゃないのかよ」

「ホホ、正義なぞただの押し付けじゃもの。ハマって、続けて、まぁたそんなもの続けて~とか言われて呆れられるもんが、正義なわけねーべョ。最初っから正しいことなんだ~なんて主張したり考えたりするから罪悪感なんぞが生まれるんじゃぜ? んじゃどうするか? 悪でしょう。認めるんじゃぜ友よ! 悪は! 楽しい! けども人として社会に生きる者としての最低限は守ろうね? 激烈クズの悪は、ただの極悪じゃけぇ」

 

 言いながら、トンガリさんは月然力を行使します。自然の加護により少しずつ土壌が強化、浄化されている土は、土中におわすミミズ様が耕しつつもそのミミズ様こそを吸収して、さらに栄養を蓄えています。

 

「この土ならいいサイバイマンが作れそうだぜェ……」

 

 土の状態を確認しながら、月然力を込めた右手を土に押し付けます。するとそこから“ぴょいっ”と芽が出て、その芽を中心に次から次へと草が生えていくのです。

 それはスゴゴゴゴ~と結構な勢いで伸びたかと思うと、次の瞬間には色抜きをしたかのようにザァっと薄茶色に変わり、固まります。

 

「して、ススキはいかほど?」

「お前すごいなほんと……」

「ゼノと戦わずにダーリンが健康に過ごせるなら、アタイだってわざわざ死ぬ未来を繰り返さんでもええってこと! これが喜ばずにはいられるかってんだい! なんだったらこの世界でいっとー強くなって、戻った先でゼノ助ボッコボコにするのもEし!」

「自分が死ぬしかない未来って、怖いな……そのー……ゼノ? が、俺達の前に現れる時期は決まってるのか?」

「高二の秋の終盤あたり? まあこれがめちゃんこ強くてね? だからアタイも悠介も強くなればきっと勝てるぜ?」

「勝利条件は、あー……」

「抹殺!」

「やっぱりかぁ……」

 

 殺しにかかってるんじゃから当然デショ? と返すトンガリさんに、モミアゲさんは溜め息の嵐です。

 なにせ自分が傷つけられたわけでもないのですから、実感なぞ沸く筈もありません。

 

「ちなみにそやつがやって来る前に、あのー……悠介に創造してもらったあの空き缶おなご像あるっしょ? あれと同じおなごが悠介のところに来るけぇ」

「? そうしたらどうなるんだ?」

ブチャラティが来ます

「なんでだよ!」

「まあ冗談は捨てといて、まあそやつから始まるやかましい“人? 達”に囲まれて騒がしく生きることになるよ」

「……人じゃないわけか」

「オウヨ、死神。人の姿をした死神ってなんなんだろね? 死神ならおめぇ、アレだぁ、骨に決まっとんべやねぇ?」

「先人がそう描いたからってそうとも限らないって話だろ。じゃあなんで天使にゃ羽根が生えてるんだって訊かれたら、お前答えられるか?」

「そりゃ創造者の趣味じゃべ。薄い羽衣なのも、羽根が生えてるのも“GOD・性癖”なんじゃよ。そしてなんか男の天使が片乳ほうりだしてるのも」

「乳放りだしてる言うな!!」

「バカヤロコノヤロォ、今の時代、超人閻魔だって片乳どころか両乳放り出しながらグロロ~とか唸る世の中じゃぜ? 片乳くらいなんじゃい」

「…………月鳴力」

「《ヂガァアアンガガガガガ!!》ギョェエエエァアアアアッ!!

 

 モミアゲさんは、脱力するようなことを熱弁する親友に、覚えたての雷の印を提供しました。当然トンガリさんはスパーク。エセオールバックだった髪がモサファアと天にも昇るキューティクルになります。

 

「で、その死神なんだけどな」

「アガガガガ……う、うん、ルナっちね? ルナ=フラットゼファー……」

「そうそれ。その……ルナ? の像を俺に渡してきたってことは、なにかしらの関係があるんだよな?」

「キョホホ……ヤツめきっとショタコンじゃぜ? ガキの頃のダーリンに惚れて、高二になってから会いに来たのYO。なにせ、そうじゃなけりゃあ説明がつかねーこと盛沢山なの」

「………しょたこん? ってなんだ?」

「───ショタコン。曙汰紺、と書くのだが……スモトリの曙関の沙汰についてを紺を詰めて考える人のことを言うんじゃぜ?」

「さらりと嘘つくなよこのたわけ」

「だってショタコンで通じねーとは思わなかったんじゃもの! キミどーせハイカラとかの意味も知らねーんデショ俺も知らねーけど! ハイ意味とか調べず答えてみれ!? 答えてみれ!? え~~~っ!? わからねぇだろぉ~~~っ!!」

「いちいちねちっこいなおい……! ハイカラだろ? 流行りのものが好きだとか、新しいものをやたらと好きになるとか、そういうのだろ?」

「えっ……そうなの? ダ、ダーリンたら嘘言ってない? え? そうなの?」

「いや、俺も詳しくは……。羽棠のじいさんが言ってたからそう認識してるだけで、実際どうだかは……」

「………」

「………」

「アレ? 流行がどーのってモダンじゃなかったっけ?」

「ん、んん?」

「アレ?」

「………」

「………」

「「ハイカラ……?」」

 

 詳しくはハイカラで検索です。

 

「モッ……モダンだけどさー!」

「あ、ああっ、モダンなモダン!」

「モダン焼きのモダンって、流行に乗った焼き物って意味なのかなぁ!!」

「さっ……さぁなぁ! そうかもなぁ!」

「………」

「………」

「ダーリンはお好み焼きって焼きそば派? うどん派? カメハメ派?」

「俺はうどん派……ってなんだよカメハメ派って」

「焼きそばとかうどんじゃなくてベビースターもっさり入れるの。それがプリンス・カメハメの腰蓑っぽいからカメハメ派」

「食欲失せるわ!!」

「キョホホ、ドラゴソボーノレを連想したボーイはまだまだ肉レベルが足りねー。というわけで今日の朝飯はお好み焼きにすっべー」

「……頭の中がプリンスカメハメで埋め尽くされてる俺に、それ言うか……」

「頭の中埋め尽くされて、って。やべぇよ悠介……それ、恋だぜ?」

「月鳴力ぅううううっ!!」

「《ヂガァアンガガガガガ!!》オギャヮアアアガガガガオゴガガガガァアーーーッ!

 

 そして彼は再びスパークしました。

 

「ばっ……馬鹿なッ(・・・・)! ダーリン(・・・・)そして電撃(・・・・・)というコンボッ(・・・・・・・)! それを前にして、シビレるのがこのアタイなどとっ! ア、アギャーガガガガ! オ、オネーサーーーン!!」

 

 彼は電撃によってミシミシと勝手に硬直する指を無理矢理動かして、中指と薬指以外をピンと伸ばした状態で、とある鬼を想いました。

 

「~……はぁっ……! 朝から疲れさせるなっ、まったく……!」

「そうだぞまったくだぞダーリンこの野郎」

「で、どうしてお前はそんなピンピンしてるのかな……」

「そりゃオメー、アタイってば自分を回復する速度はとんでもねぇから。ダーリンにツッコミナックルくらってもアッという間に治るのはその所為じゃぜ?」

「お前もうちょっとマシな能力の使い方出来ないのか」

「ホホホ、キミもうちょっとマシな腕力の使い方出来んの?」

「…………はぁ。どっちもどっちか」

「アタイらがからかったりふざけたりしなけりゃいいだけの話なんじゃけどもね、“つまらん”は敵ですけぇ」

「まあ、なるほど。つまらんは敵か。わかるよ。じゃ、なんでもまずはやってみないと、か。んー……月醒力?」

 

 話題に出ていた話を巻き戻し、口に出してイメージしてみます。

 すると、モミアゲさんの右手に青白い光が灯りました。

 

「……彰利」

「OK、それが成功したならキミ間違い無く朧月だ。アタイの方は死神側じゃけぇ、破壊系統が多いけど、悠介のは神側だ。そりゃ、裁きとか破邪には適正があるわな」

「そういうもんなのか……あ、他にはどんなことが出来るんだっ?」

「コンナラ、アタイが死にまくって散々苦労して編み出した能力どもをあっさりと会得しおってからに……!」

「……手探りだったのか? 教えてくれる人とか───」

「おらぬ! 文献調べたりと、あとは夜襲かけて能力使わせて自力で見て覚えた!」

「普通に見せてくれとか言わなかったのかよ!」

「しょーがあんめーよ弦月って嫌われとるんだから! 伊達に死神の血が一番濃いわけじゃねぇよ!? って、そういやなして月操力談義になっとるん!? 異世界でしか出来ねー話とかコトをしようぜ!?」

「む。異論はないけどさ、じゃあそれってどんなんだ?」

「ほォ~らまたそうやって訊くゥ~~~ンゥ」

「………」

「あ、やめて、構えないで、教えたアタイが言うのもなんだけど、月鳴の裁きでスパークすんの十度や二十度じゃねーのよ」

「どんだけそっちの俺にツッコまれてるんだよお前は!」

「なにを馬鹿な。……アタイじゃぜ? ツッコまれんとでも? まあ中井出にゃあ負けるけど」

「提督は例外中の例外だろ」

 

 なにせ彼が居ると、この二人までもがツッコミに回ってしまうのです。

 普段はモミアゲさんの前でふざけたり冗談を言ったりでキャアキャア笑っているトンガリさんも、ともにふざける時はふざけますが、冗談抜きでツッコミに回ることもしばしば。神や死神が混ざった、なんて特殊な環境に生きたわけでもないのに、どうしてああまで普通でいられないのか。

 それは彼の生まれた環境、育った環境によるものですが、それもまた別の話。


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