【ケース03:彼ら(一部)の中で、肉語は万国共通語という認識に近い】
「で、異世界でしか出来ねーこととか話のことだけっどヨォオ? まずは……そーやね。おーい、コボルトさーん」
早朝ということもあり、起き出してきている人も少ない現在。
代わりに大地の妖精である地精、コボルトさんは眠る気も無いのかトコトコと歩いては、なにかをしています。そんな中の一人、コボルトのヌットコさんに話しかけます。
『ム? なンだ、隣人』
「地精であるコボルトのヌットコさんに、ちと相談が。この大地によく馴染みそうな木の種とか、持ってない?」
『あるゾ、ワレラとエルフは友人ダ、カレラの持つ種を幾つか譲り受けていル。適合しそうな土壌があれば埋メて欲しイと頼まれテいるからナ』
「その種をひとつあちきにくださいな? ここで育ててみてーのです」
『構わんゾ。適合する地面に埋めレば結構な速度デ成長すル。建物との間隔は出来るだけ離して埋めルのだゾ? これからは立派な木と、それを囲む草の子が産マれるからナ』
「……ホエ? 産まれる?」
『この種は大樹ノ種なのダ。ワレラ自然ととモに生キる者ラは、自然に生キる者しか感じられヌものを知覚スる。コレラの種には間違イなく命が宿っテいる。育っていけバしっかりと意思も持ツかラ、雑に扱ウのは無しダゾ、隣人』
言って、ヌットコさんはコサ、と種を一粒くれました。
その種はかなり大きく、いやどこに持ってたのとツッコミたくなるほど。
大きさで言えば、ラグビーボール級の大きさでした。デケェです。
モブ提督さんがここに居れば、確実にトンガリさんとラグビーをしていたことでしょう。モミアゲさんは心底安堵の息を吐きました。
『デハナ、隣人。また用ガあれバ呼びとめロ。代わりにコちラの用事の時モ止まるのダ』
「オッケンヌットコさん。スィーユー」
『ム? スィ……?』
「僕らに伝わる古き言葉で、また会いましょうって意味です」
『オオそうカ、スィーユーダ、隣人』
そう言って手を振り、ヌットコさんはトサトサと歩いていきました。
「……やべぇ、いきなり異世界じゃなきゃ出来ねーことしちゃった……! コボルトさんと話しちゃったYOアタイ! な、なんなのこの興奮……! かつて日本に居た頃は、異世界人と話すことをドキワクしてたアタイだけど……! あ、ああ……あああ……! 俺、今とっても輝いてる!《ギシャアアン!!》」
「物理的に光るなよ! ていうかなんで顔が輝くんだよお前は!」
「エッ!? そっちのアタイ、やったことねーの!? ……お前それ俺じゃねーよ。お前騙されてるんだよ悠介……」
「なんで光ってること前提で自分の存在疑ってるんだよ! いや光ってたけどさ! どういう原理なんだそれって意味で訊いたんだよ!」
「ホ? 原理? 月操力でね? 月醒光ってのがあってネ? ほれ、ダーリソでもたぶん出来るよ? さっきやった月醒力のイメージをね? こう……顔に集めて」
「ん、ん……? こう、か? って、顔? 顔《ビカー!》うおっ!?」
「キャーッ!?」
光りました。モミアゲさんの顔が。
「ば、馬鹿者ーーーっ! キン肉族たる者、人前でマスクを外し素顔を見せるなどあってはならんーーーっ!!」
「これが素顔だよばかたれ!」
「黙らんかスグルーーーッ!!」
「どう考えても黙るのはお前だたわけ!」
「グッ……グゥムッ……! で、でもYO? いかな中井出とて、顔を輝かすことだけは出来なかったのYO? 肉好きとしちゃあ顔面輝くヤツにゃあ言ってみてぇ肉語のひとつはあるってもんじゃぜ?」
「いーから。話戻すぞ。種の話」
「パゴアパゴア~~~ッ、
「………」
「パゴッ……あの、はい。戻すから裁きはヤメテ?」
モミアゲさんの手が静かにスパークすると、彼は話を戻しました。
「あのな、そのなんでもかんでもキン肉マンに結びつける癖、提督ともどもなんとかならないのか?」
「はっはっは、よせやいダーリンたらぶち殺すぞこの野郎」
「そこまでなのかよ!」
「おっほっほ、まあ殺すは冗談にしても、あんまりひどいことを言うと僕のこの高校生男子のように一見普通な足が、なんか急に丸太のように太くなってキミの信楽焼を破壊することになる」
「わかったやめよう趣味は人それぞれだもんな」
「んもうまったくYO? そこんところは訊かんでもわかるべきでしょーよダーリソったら。でも次肉的なことを全否定するようなことがあったら貴様の土偶と信楽焼がミート君のようにバラバラになる呪いをかけさせてもらったからなダーリンこの野郎」
「お前ひどいことするな!? や、やめろっ! 土偶と信楽焼に罪はないだろ!?」
「うるせー! キン肉マンにだって罪はないやい!」
「いや正直お前と提督に肉ネタで振り回されてる分は怒っていいと思うぞ俺は」
「ヌヌーーーッ、た、確かに肉ネタで迷惑をかけるのは肉ファンとしてはあるまじき行為~~~っ! ……じゃあバラバラはしないと約束しませう」
「ん、よし」
「じゃあ代わりにあの土偶がグラマラス土偶に変わる呪いをかけとく」
「どんなだよ!! グラッ……どんな!?」
「ホレ、土偶って言やぁ頭、首、肩幅、腰、ケツ、足の順に、ボンッ、キュッ、ボンッボンッボンッキュッて感じのボデーデショ? それを───八頭身にします」
「───……………………やめてください」
「やめてください!?」
彼の頭の中にとてもキモい土偶像が浮かびました。
言われたトンガリさんが思わず聞き返すくらい、震えたやめてくださいだったそうです。
「さってトゥー、ほいじゃあこの種を、このサイバイマンが良く育ちそうな地面に…………どうせなら村の中心に植えて、この村のシンヴォルにでもするってーのはどぎゃん?」
「お、いいと思うぞそれ。必要だよな、そういうの」
「そういや晦神社にもデッケェェェェ樹があったよネ? なんか高けーところに空洞みたいのがある」
「あれも樹齢何年か解らないほど昔からあるらしいからな……。まあ、大事にしろってずうっと昔から云われてたらしいけど」
「そうなん? ホホー、いったいどげなヤローが植えたのやら。ご神木~とか、どんなツラしたヤツが植えたのかとか気になるよネ?」
「ツラとか言わない」
ホホホと笑いつつ、二人は村の中心に移動します。
そして、たぶん村の中心、と思えるそこには“なかいで”と書かれたテントがありました。中の住人はまだ眠っているようです。
「んじゃ埋めよう」
「いい樹が育つといいな」
軽く土を掘って、種を埋めます。
そこへと月然力を当ててみれば、埋めた部分の土がグムグムと蠢き、なんともう芽が顔を出すではありませんか。
その芽は陽の光を浴びて元気にぴゅるぴゅると伸びてゆき、すぐ傍にあったテントを土台にするように寄りかかると、蔓を伸ばし枝を伸ばし根を伸ばし、どんどんと巨大になっていきます。
途中、バキゴキグラビッ……! というなにかが折れる音と謎の悲鳴が聞こえましたが、大いなる自然の成長の前には些細なことです。
ソレはどんどんと成長していきました。
背の高さは人を家を越え木々を越え、それにつれて横にも広がり、枝葉を伸ばし、花を咲かせては、そこから種子を落として草花を広げていくのです。
たった一つの種から様々な自然が生まれる、という光景を前に、トンガリさんもモミアゲさんも声が出ません。熟睡していたモブさんは伸びた蔓に物理的に首を絞められて声が出ませんが、ともかく誰も声が出ませんでした。