【ケース04:大自然のお仕置きだよ! ……大自然はお仕置きしたくなると刃物を持った幼女をよこすらしい。マジか】
「すげぇ……」
「落ちてきた種から草が生えてきたぞ……? 新しい木が生えるでもなく……すごいなこれ」
「てっぺんがもはや見えねぇ……すげェェェェねこりゃあ……」
「……そして提督のテントももはや見えないな」
「…………」
「………」
「い、いやァァァア……ただちょほいと樹の成長を観察しつつ、盛り上がった土の影響で中井出がびっくらこいてテントから出てくる~なんてのを想像しとったんじゃけど……」
「びっくりどころか物凄い勢いで空の上に持っていかれちまったな……」
「やべぇ……今さらすげぇ罪悪感……」
「復活してこないってことは、いつもみたいに死んだわけじゃないんだろうけどな……」
「や、フツーに話しとるけど、死ぬこと前提で話しとるアタイらもよっぽどじゃからね?」
そうしてかなりの速度で高く大きく育つ樹を、彼らはその成長のたびに一歩、また一歩と下がりながら見上げました。
やがてその樹の成長がゆっくりになり、これ以上土を盛り上げ押しのける行動を止めたあたりで、ここが成長限界か、と改めてその大きな樹を見渡し、ハワーと溜め息を吐くのです。
周囲の家に住んでいた村人たちも、驚きのあまり出て───こようとして、家が揺れたために断念、揺れが治まるまでを待っていたら、いつの間にか自分の家が木の上にありました。
しかもその家も伸びた枝に綺麗に支えられ、むしろ下部は巨大な幹と融合し、揺れることもなくそこにありました。
家から出てみれば巨大な幹から広がる、根に繋がる分厚い樹皮。
滑り止め加工でもしてあるかのように足をしっかりと支えてくれて、巨大とはいえ丸い形だというのに多少斜めになっていても滑りません。
老人たちは普通に歩いて地面までを降りてくると、改めて巨木……ファンタジーで言う“大樹”と呼べるそれを見上げ、「「「これは見事なもんじゃのぉおお~~~っ!!」」」と口を揃えて驚きました。
「いやほんと……なにこれ、キツィンといろんな枝とかが道になってて、てっぺんまで登れるみてーになってねー? これってば……」
「やばい……これは、なんていうか……! お、男心を擽られるなっ!」
「キャア! ダーリソが興奮しとる! でも解る! 解るワダーリソ! 登ってみてーよね!」
「彰利!」
「悠介!」
二人は今こそガッツィと手を叩き合わせて、走り出しました。
月空力、というものには空に浮く力もありますが、トンガリさんはそんな無粋な真似はしませんでした。
登るのを楽しむアトラクションがあるのに空を飛んでは意味がありません。つまりそういうことです。
「おおおお! このナナメの樹幹を螺旋階段みてーに駆け上るの、なんか嬉しい! ファンタズィーって感じ!」
「枝と枝との間を飛んで渡るとかいいよな! ……って下の方に蔓で出来た網みたいなのがあるぞ!? 落ちた時用かあれ!」
「キャアアなんか秘密基地で遊ぶクソガキャハートを擽られまくるワ! って、あれ!? 登る道がねー!」
「彰利彰利あれだあれ! あそこに蔓が垂れ下がってる!」
「ンマアアアやばいこれ今アタイすげぇ興奮してる! 楽しいが……楽しいが止まらねェYO!!」
「ここはあの垂れ下がった蔓で向こうに渡る……のか? 勢いよく飛んで───んよっと!!」
「ダーリン! こういう時は恥ずかしくてもターザンするのYO! ジャングルの王者ターちゃんのように! ふんさっ───AAAAAAAA!!」
「よ、よしっ、次はどこだっ!? 次は……って、う、おおおお……!?」
「……ぁ、やばい、自然すげぇ」
ある時は走り、ある時は跳び、ある時はよじ登り、またある時はターザン。
様々をしながらどんどんと上へ上へと昇ってゆき、そのたびに見える景色に心を弾ませます。
そうして辿り着いた中腹あたりで、巨大な樹皮の壁と、その壁にびっしりと延び、強く絡まった
なにせ今までが枝や蔓が豊富だったのに対し、この中腹はかなりの高さまで枝の一本もありません。代わりにこの蔦のみで、これをよじ登れというのです。
まるで初めてカリン塔に挑戦せんとする龍球世界の人な気分で、けれどこの見上げる壁の高さに、改めて自分たちが立っているここが、大樹の上なんだなと納得したのです。
「よっしゃこうなりゃてっぺんだ! いくぜぃ悠介!」
「任せろ彰利!」
二人は登ります。まだまだ登ります。
わくわくが止まらないまま、登って登って、「このツタめっちゃ頑丈! すげぇ!」と唸りつつも、ひたすら登って。
蔦を登り切ると木とは思えない太すぎる枝の上によじ登り、そこからまた樹皮を駆け上り、ターザンをしたり、しなる蔓と蔦で出来た網でトランポリンの要領で飛び、高い位置にあった蔓を掴んでよじ登り、登って登って走って掴んで登って跳んで駆け上がって、やがて結構な時間を費やして呆れる高さのてっぺんまで来ると───
「───……は、はっ……はぁああ…………! すげぇ……!!」
「うっ……ぁあああ……! ~っ……達成感ーーーっ!!」
「オウヨーッ! 達成感ーーーッ!!」
まるで木々草花で出来た聖堂のような場所で、二人は両腕を空へと突き上げ叫びました。
登り切り、辿り着いたのは、枝と蔓と蔦と葉が複雑に絡み合って出来た、広い広い平らな足場。
見渡す限りの緑と地平線に、二人の興奮は最高潮に達します。
と、二人の視線が広い広い平らな緑の床の中心、そこに存在するものに注がれます。
ファンタジーで言う広い聖堂っぽい場所といえば巨大な石碑が定番ですが、例に漏れず、木で出来ているらしいソレが存在していたのです。
二人はわくわくを抑えられない笑顔で顔を見合わせ、我先にと樹木碑目掛けて駆けました。
「なんだろなんだろ! こういうのって精霊とか出てきて力を示せィ! とか言ってきそーなパターンだけど!」
「いやいや彰利! こういうのは精霊が力を貸してくれるとか、武器をくれるとかだろ!」
どちらにせよまずは近くで見てみたい! 二人はそんな少年の心を抑えきれず、樹木碑の傍へと駆けました。
無駄に、と言ってはなんですが、やはり広い草の足場の上を蹴って。
やがてそこへと辿り着くと……見上げるほどの巨大な樹木碑に、二人して口を開けた少年のわくわく顔のまま、はぁああ~……と息を吐きます。顔は笑顔のままで、なにやら石板並みに平らな樹木碑の表面に、細い根が盛り上がった形で文字になっているそれらを見やりますが、さすがに読めません。
それでも二人は心を満たすように読めない文字を上から下まで見やって、裏にはなにがあるのかとぐるりと大きな樹木碑の裏へと回り───
「………」
「………」
そこで、樹木に絡まれキリストのように
「……いや…………」
「なにやっとんのお前……」
訪ねてみますが、気絶してらっしゃるようで返事はありません。
「中井出ー? これ、中井出ー? 中井出やー!」
呼びかけてみますが、反応はありません。
仕方ないので樹木碑をよじ登り、彼の頬をぺしぺしと叩いてみると、「う、むむ……む、むおお……」と唸ります。
「悠介、裁き」
「いやいや流石に可哀想だろ!?」
裁き。月鳴力にて相手をスパークさせるあれを指します。正式名称は月鳴の裁きです。
「グウウ……ムムウ……」
「あ、起きた」
「提督、大丈夫か? ちゃんと目ぇ見えてるか?」
「彰利? 晦……? ん、んん?」
モブさんが二人を確認。一人はすぐ近くで、一人は何故か眼下。
見渡す限りの自然の大地と地平線。そして……なんだか動かない自分の体。
見下ろしてみれば、なにやら体中に枝だの蔓だのが巻き付いていて、貧弱一般人の自分の体では外せそうにありませんでした。
ならばやることなぞ一つです。