ボケ者どもの理想村(ムラビディア)   作:凍傷(ぜろくろ)

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コンビニエンスなビレッジを目指して

【ケース3:ろーソンCVほっとステーション。CVはコンビニエンス・ビレッジ】

 

 ファンタジー生活が始まって数週間。

 野営だろうと逞しく生き延び、猪肉で食い繋いでいた彼らは、ある時、王都から大分離れた場所で、廃村一歩手前の村を発見しました。

 住んでいるのは老人だけで、食料の備蓄もなく、病気の者はほったらかし。

 活気のかの字もないその場所は、あとは滅びを待つだけのように、村人である老人たちは諦めを胸に生きている様相です。

 近くに川は流れているというのに畑は荒れ放題。田は枯れ、なんの作物もありません。

 聞けば、勇者召喚による準備と歓迎のため、残り少なかった備蓄さえも徴収され、若者も兵や人手として連れていかれた今、何も出来ない状態なのだといいます。

 召喚されたのが数週間前だというのに、ひどい荒れようだったのは、はたして徴収だけが原因だったのでしょうか。

 もはや潰れるだけの村に慈悲など不用と、国に捨てられたからなのでは、と、三人は心のどこかで首肯していました。

 

「国から捨てられたならもう国のもんじゃネィェー! ほい中井出! 命名!」

「この地を……老人が笑顔で暮らせる村、略して老村(ローソン)と名づけましょう。そして遅々としてでも発展した暁には、その名を昇華させた村人達の理想郷と呼べる村……アルカディアならぬ“ムラビディア”を名乗りましょう……!」

「提督……お前にゃ負けたぜ……」

「いい村にしようぜ中井出YO……」

 

 普段冷静なモミアゲさんも、やっぱり男の子。

 ノリや場の雰囲気に負けることも、ノることもあり、トンガリさんは言うまでもありません。

 その二人を前に、ニコリと笑うモブさんはビッと背筋を伸ばすと、軽い跳躍と着地と同時に靴の踵を合わせ、両手は腰の後ろに。

 それを見て二人もビッと踵を揃え、背筋を伸ばしました。

 

「ならばこの村、その名も老村を癒し、復興させていくものとする! 総員、覚悟はいいか!」

「「サーイェッサー!!」」

「戦いの準備は出来ているか!」

「「サーイェッサー!!」」

「覚悟とは別になんていうかそのー……わくわくしているか!」

「「サーイェッサー!!」」

「うむよし! では総員心より楽しむことを大前提に、このファンタジーを生き抜こうではないか! イェア・ゲッドラァック! ライク・ファイクミー!!」

「「Sir! YesSir!!」

 

 謎の掛け声ののち、モミアゲさんとトンガリさんが一斉に敬礼をして、声高らかに返事をします。

 これぞ彼らが中学の頃から続く、結局意味も解らない言葉と、それに賛同するための返事であり、名を総員大号令と云いました。

 

「キャア! 久しぶりの総員大号令YO! アタイったらもうむず痒くて嬉しくて───!」

「高校はつまらなさの宝庫だからなぁ……中学が退屈しなさすぎた。よしっ、一丁やってやるかっ!」

「おおダーリンのノリがいい! こりゃあ頑張らねばなりますまい!」

 

 そうして、まずは挨拶回りと老人たちの人数、そして村の規模からの確認をすることにしました。

 早速村長さんに会いにいったのですが、なんと病気で伏せている老人が村長さんだったらしいのです。

 これは困ったとモミアゲさんとモブさんが悩む中、

 

月清力(げっしんりょく)

 

 トンガリさんが老人に触れ、浄化の力を発動。

 老人の病気はあっさりと治り、二人は「「ホアアアァァ!?」」とおったまげました。

 

「お前そんなこと出来たのか!?」

「オウヨ! 言っておくがアタイはそのー……便利、じゃぜ?」

「ってことは、元からそういうことが出来たってことか。そのー……月操力、だったか。俺のは創造で、彰利のは……なるほど、そりゃ手品とか言っていられないわな……」

「そういうことは中学の時に遠慮なく言わんかこの愚か者が!」

「アルェー!? アタイこれでも結構悩んだんですが!? 中学でこげな異能力とか見せたら、普通不気味がられるっしょが!」

「この愚か者が!」

「改めていうんじゃねィェー!! メガト■ンかテメーヮ!!」

 

 好きな“居場所”だったからこそ、そこで拒絶されるのを嫌ったのでしょう。

 元から異能を持っていたトンガリさんとモミアゲさんは、互いに顔を見合わせたのち、この元気で常識破壊が好きなモブ提督の自由さに笑うのでした。

 

「はぁっ……やれやれじゃね。ま、オッケン。てめーならそういう風に受け取ってくれるんじゃ、って考えたことも、そりゃああったけんどもね。それならそれでよかったわ。……ほいじゃ、老人を癒して話し合いでもしますかい」

「コココ……! まずは恩を売って話し合いの場を作るというわけだなゴブルフォホハハハカカッカッカッカッカ……!!」

「キミってほんと、悪い笑い方するの上手ェェェよね。でもアニメとかの声を忠実に再現するとヘンな言葉になるからやめない?」

「え? やだ」

「オウヨ! やっぱやりたいことやってこそよネ!」

「うむその通りだとも!」

「俺としてはもうちょっと落ち着いてくれって言いたいんだが」

「せっかくノってきたのにノリ悪ィイよダーリン!」

「ノってもお前らのテンションがおかしすぎて一気に困惑が勝るんだよちったぁ解れこのたわけ!!」

「グ、グゥムッ」

 

 話し合いもそこそこに、病気を浄化され、体も癒された老人に、これからのことを話します。

 まずは全員の状態と、その浄化と癒し。次に村の規模の確認と、村の復興作業の確認。

 癒しと浄化はトンガリさんの独壇場でした。

 創造が出来るモミアゲさんは、トンガリさんの時間軸の、自分よりも経験が豊富な自分の話を聞いて、鳩以外の創造を練習。イメージをカタチにするということで、まずは“出来るわけがない”という意識の破壊から始めました。

 そして、彼らが言うところの原沢南中学校迷惑部提督、モブさんはといえば……

 

「ガイ、見参───!」

 

 やることがなくて、老村の端っこで体育座りをしていました。ガイが誰なのかはわかりませんし、何故体育座りでそれを言うのかも謎です。

 

「中井出てめぇ! 遊んでんじゃねィェーーーッ!!」

「じゃあやることをください! 僕に何かやることをください!」

 

 死んでも蘇れること以外になんのスキルもない彼は、控えめに言って役立たずでした。

 復興のための行動も、まずは老人全員を元気にしてからということになったため、なにが出来るわけでもありません。

 仕方も無しに釣りでもしていてくれと頼むと、彼は村の傍を流れる川へと走っていきました。

 

「すまないなぁ、旅人さんよ。ワシらではもう、なにも出来んところまで来てしまっていてなぁ……」

「出来ないんだったら出来るようになればいい。そのための力なら貸せると思う」

「おや、ダーリソったらやる気? なんぞやるんだったらアタイも手伝うぜ?」

「ああ。まずこの荒野っぷりをなんとかしなきゃだな。川の近くだってのに草がほとんどないだろ」

 

 モミアゲさんがそう言うと、背が曲って立つのもしんどそうな老人が、「それが、この村が滅びに向かっている原因なんじゃよ……」と言います。

 はて、それはいったいどういうことなのでしょう?

 

「この国では、様々な位置に精霊様のご神体を立て、それを祀ることで様々な恩恵を授かっておったのじゃが……」

「じゃが?」

「勇者を召喚する儀式には膨大なマナが必要とのことで、そのご神体が全て回収されてしまってなぁ……。マナも減る一方で、早馬で報せに来た騎士もご神体は全て砕けた、と……」

「うわぁ……」

「ひどい国だな、おい……」

 

 国はとりあえず勇者を召喚、魔王を倒させることしか考えていないのかもしれない……二人がそう思うのに時間は必要ありませんでした。

 

「じゃあその、なんだ? ご神体だかマナだかが無いと、草もろくに生えてこないってことで……いいのか?」

「その通りじゃ。ご神体を用意したところで、そこに精霊様が降りてくれなくては意味が無い」

「あー……なんて言ったか……。大昔の儀式的ななにかか」

「降霊術みてーな?」

「ああそう、それだ」

「ナルホロ、となるとまずダーリンが創造でご神体を作って、あとは我等でなんらかの儀式をして、精霊を降ろすしかあンめーョ」

「言っておいてなんだが、出来るのか?」

「ハッキリキッパリ言いませう。ファンタジーで“不可能”なんて言葉は、世界をつまらなくさせる合言葉でしかねーザマス。幻想の中におんのよアタイら。やってやんなきゃおめぇ……嘘だぜ?」

「なにが嘘なのかは知らんが、まあ、そうだな」

 

 それじゃあ早速、と。

 モミアゲさんは両手で輪を作り、頭の中でイメージを纏めていきます。

 ご神体に相応しいイメージ。ご神体。神々しい。精霊。

 様々なイメージをくっつけて、やがて───

 

「ご神体が出ます! 弾けろ!」

 

 イメージを弾けさせ、創造をしてみせたのでした。




コンビニエンス=便利、好都合な
ビレッジ=村、集落

例:「コンビニって便利だよなー!」⇒「便利ってコンビニエンスだよなー!」
日本人は結構適当でも生きていける。
そしてビレッジといえば、オリーブビレッジを思い出すあなたはテイルズオブファンタジア好きの同士です。

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