【ケース05:加護があろーがどーしよーが、身体能力は変わらねーのです】
磔け状態の彼は、どこか寂しそうな、諦観の表情を顔に滲ませ、語りだしました。
「二人とも……よぉくお聞き。俺はもうこの樹と同化が始まってしまっている」
「へ? いやいや提督?」
「わかるんだ。この木々は……自然の加護を求めて動いている。自然の精霊と契約を果たした俺を、取り込む気なんだろう」
「いやいや大自然ともあろうモンが毒にしかならねーテメーを食うわけねーべョ」
「鬼ひでぇ! せっかくこんな状況なんだから素直に付き合えコノヤロー!!」
「や、だって同化もなにも、どう見たって蔓にからまった中井出じゃし」
「……言ったな? ならば思い知るがいい……! 自然の加護を身に宿したこの博光が、自然と同化するとどうなるかを───!!」
彼がそう言った途端、ゴゴゴゴ……! という音が二人の耳に届きます。
ハッとする二人は、まさか本当に───!? と、トンガリさんは素早く離れて着地し、構えるモミアゲさんの隣でともに意識を尖らせます。
「コホホハハハカッカッカッカッカ……! 貴様らはこの無の力に恐れ慄くことになるのだ……! ネオエクスデスばりに木に絡まったこの博光の力、今こそ───!」
再びゴゴゴゴ……という音が耳に届きます。
途端、ネオエロマニアさんはがくりと首を垂れ、ぴくぴくと痙攣を始めました。
そう───……彼はまだ朝ご飯を食べていなかったのです。
「腹減ってるだけじゃねーかこのタコ!」
「無の力って、腹になにも入ってないって意味か!? 何事かと思ったわこのたわけ!」
「おっしゃもうやったれ悠介! 裁き裁き!」
「グウウ……え? なになに? サバキ? あ、もしかして大岡越前ばりに手を引っ張って木から逃がしてくれるの? こんな悪ノリにも付き合ってくれた上に助けてくれるなんて、僕は《ヂガァアンガガガガガ!!》ギャアーーーッ!!」
そして彼はスパークしました。
しかし彼はめげません。そんな状況さえ利用して、なんか崩壊とかが始まってチカチカ光ってるダンジョン的な場所を夢想して、寸劇を始めます。
「っ……もう、離してくれ……晦……! お前まで自然に巻き込まれる……!」
「ぬおっ!? すげぇ! この状況でまだ危機的状況寸劇やっとるわこの中井出!」
「この中井出ってなに!? え!? この世界、中井出他に居るの!? ───ォオオオギャアアアア!!」
「あ、やっぱやせ我慢じゃったわ。つーか喋れる時点でスゲーヮ中井出」
「フフフ……生憎とこの博光、この程度で気絶出来るほどヤワな一般人はしておらぬのよ……! そして思い知るがいい! この博光に攻撃するということは、反射ダメージを受けるということと!」
「なんと!? い、いかん悠介! なにかヤバイッ! こやつにはなにか、隠された凄味を感じるッッ!」
「っ!? まさかURの新しい能力かっ!?」
「《バリバリバリバリ!》ウギャアアア~~~ッ!!」
「……普通に苦しんでるようにしか見えないが」
「なんか強そげなこと言えば、離してくれるとか思っとったんでない?」
「ミラミラ~~~ッ、その油断が命取りよ~~~っ!! 逆光! レインボーシャワー!!」
「アッ───やべぇ悠介! すぐ手ぇ放せ!」
「へっ!? やべぇって、なにが───」
「《バリバリバリバリ!!》ギャアーーーッ!!」
「………」
「………」
「ば、馬鹿な~~~っ! 電撃が走っている俺に触れたままで、なんで感電しねぇ~~~っ!!」
「随分他人任せな解決策だなおい」
「術者が感電しねぇなんてよくある話でしょーが! なして通じると思ったん!?」
「……現実的におかしーじゃん。なんで炎使いとか手ぇ火傷しねぇんだよコンロの火も平気なの? あれ《バリバリバリバリ!!》」
「どんだけ物事にツッコミてーのよキミ! 感電しながら言うことじゃねーべョそれ!」
「フフフ無駄さ。俺もう本当に解決策見つけちゃったから。オラァッ!!」
「《バヂィッ!!》いっづぁっ!?」
「なんと!?」
なんということでしょう。
彼は未だに雁字搦めな上、体もしびれているというのに、モミアゲさんに攻撃を返してみせたのです。
「な、なんだ……!? 急に、シビレ……!?」
「中井出、きさん……いったい何を……!? ア、アアーーーッ!!」
あの状態から攻撃を返してみせた彼に、驚きつつもモブさんを見上げたトンガリさんは、モブさんの状態を見て大変驚きました。
電撃を散々と浴びていた彼は、何故か頭と口の端から血を流していたのです。
そう……それを散らすことで血に宿った電気で、モミアゲさんを驚かせてみせたのです───!
「これぞ、奥義【少女漫画出血・電撃を添えて】……!」
「……裁き」
「《ヂガァアアンガガガガガ!!》ギョエェエエーーーッ!?」
でもなんか普通に返されました。
「グ、グウ~~~ッ!! し、自然の加護よ~~~っ!! 悪いことしてないのにツッコミに能力なんぞを使う相手に、我らが然たる加護のもと、裁きを与えたまえ~~~っ!!」
けれどもやられてばかりではありません。あるかどうかもわからないまま、とりあえず他力本願で加護にお願いをしてみます。
すると───
「っ、と───!?」
「地震!? って、今度こそマジモンでゴゴゴゴって鳴っとるよ!?」
「……あれ? お願いが届いた? ───ピュアピュア~~~ッ!! とうとう貴様らの最後の時が来たのだ~~~っ! この博光をここまで追い詰めたこと、それだけは褒めてやろう~~~っ!」
「アッ! コンニャロ事態が動き出したからっていきなり調子に乗りおった!」
「今こそ加護の力を知るのだ~~~っ! さあいざ契約の名の下に! 名の……名の? あの……樹木さん? なんで僕のこと、木々を伸ばしてまで持ち上げるのかな? あれ? なんか随分高いよ? 逃がしてくれるの? でもなんかメリメリ鳴ってない? これってアレだよね? なんか人がものを振りかぶる時とかの
「ヤッベ悠介逃げるぞ全力で!」
「へっ!? やばいのかこれ!」
「とんずらーーーっ!!」
「あちょ待彰利っ……悪い提督逃げる!!」
「あ、あ……ぁあああ……! なにこのジェットコースターがスピードに乗る前の漠然とした不安感……! あ、や、やめて……それ以上いけ───アアアアアアアアーーーッ!?」
そして彼は投げられました。近くに相手が居たのなら叩きつけていたのでしょうが、逃げ出した二人を前に、木々は投擲を選んだのです。
「……!? 風を切る音───!? なんぞ!? って」
「イギーだぜ」
「!?」
風を切る音を聞いて、トンガリさんが走りながら振り返った目と鼻の先には。……飛んできたモブさんが居ました。何故かイギーだぜと言って……そのまま彼の横を飛んでゆき、大樹の天板から外へと飛び出し、足場の一切ない眼下の景色へと落下していったのでした。
……ちなみに。
彼は落下しながら、なにやら“でぇじょおぶさ~、めぇにすす~も~ぅぉ~♪”とか歌い始め、“ねげぇをつけぇ~めぇよぉ~ぅぉよぉ~っ♪”と歌ったあたりで、見事に地面にビターンと激突。死亡しました。
ビターンというか、ドッパァンというか。はい、熟しすぎたトマトが落下したような状態だったといいますが、即座に復活、見上げた大樹に「うおおおおおでっけぇええええっ!?」と大驚愕。
すぐさま登ろうとして、自分に木登りの才能が一切無いことを痛感。最中に足を滑らせ落下し死亡すること27回、ターザンに失敗して大空へ投げ出されて潰れること5回、枝と枝の間を跳躍するも届かず、落ちた先の蔓に着地する筈が、器用に蔓と木々の隙間に両足をズボォと通し、間の枝に黄金を直撃して悶絶。
なんとか抜け出したものの足がふらついて落下、死亡。
そうして最初期のデモンズソウルでもやっているような気分で大樹攻略を目指すも、あまりにも死にすぎたのち……彼は。
……現時点での木登りを、諦めたといいます。