【ケース06:サムディ───と書いて、あなたなら“サムディー”と発音するのか“サムデイ”と発音するのか、そのまま“サムディ”と発音するのか。ちなみに作者はサムディを三文字風に発音します】
村に巨大な樹が出来ました。たった一日で村のシンボルが誕生したのは驚きの一言ですが、地面の栄養とか大丈夫なのかと皆様が心配します。
けれども立派に立った巨木自身から自然の加護が溢れ出て、少しずつしか増えていかなかった土壌の栄養が、今度は大樹自体からこぼれるようになりました。
というのも、一定量集まった自然の加護がマナの結晶となって実を作り、それがぽとりと地面に落ちると染み出し、大地に栄養を広げていくのです。
染み出した土に食らいついた土中におわすミミズ様が、それを分解、糞として排出すると、今度は微生物らがそれを分解、細かく大地に広げてゆき、みるみるうちに土壌が整い、むしろ土こそが驚いてそれらを他へ逃がそうとし───結果、大樹から実とは別に落ちてきた種がそれを吸収、土に根を張り草を増やし、加護を受け取りマナを吐き出し光合成して酸素を吐き出し、代わりに空気中の悪い成分を吸収してはマナと加護の力で分解、澄んだ空気を吐き出すと、バリアで守られた村の空気はやべぇくらいに澄んでゆき、なんかもういっそ、それこそ“聖域”ってくらいに神聖なる空間へと変わっていきます。
そんな中にあって、村人たちは───
「タッキームッチー! タッキームッチー!!」
「タッキームッチー! タッキームッチー!!」
「はいはい、今度はなんだよ……」
「ダーリン反応薄い!」
「晦反応淡泊!」
「ダーリンお前ェエエ!! 長い名前のものの文字で、いっつも捨てられる後の文字の気持ち考えたことあんのかァァァァ!!」
「ブタキムチなんてあと一文字だぞ!? ブッタッキームーブッタッキッムーって、あと一文字なのに略されるチさんの気持ち考えたことある!? なにあれ非道にもほどがあるだろ! 俺ラーメンコーナーでブタキムチ(超カップ)を見るたびに心が切なくなるんだぞ!?」
「心の底からどうでもいいわ!」
「じゃあダーリン今日からユースな」
「よろしくな、ツゴモ」
「んなっ……」
「ど、どうしたユース! なんかあったのかユース!」
「急にンナッ……とか言い出して、なにそれどこぞの言葉なのかツゴモ! なんか語呂がナメック星の若者とかで出てきそうなツゴモ!」
全力で略語への反逆の心を露わにしておりました。ちなみに老人達は「ほっほっほ……まぁた始まりおったわ……」と風の心で行く末を眺めております。
「というわけでまあチの心は置いておくとしてだぁよ?」
「うむ。ツゴモの残虐性も引き出せたことだし話の先へと突っ走ろう」
「オウヨ。そんでヨォオ? 中井出YO」
「なんだYO」
「転移・転生者って言ったらYO、やっぱYO、冒険者ギルドに登録するべきなんじゃあねーのォ~~~ッ?」
もぐもぐと昼食を摂りながら、そんなことを話しておりました。
「俺達のパターンだとこれ、あれじゃないか? スローライフタイプの転移者。だから村から出るor村を発展させたあと以外じゃないと、冒険者の話題はそもそも無いだろ」
「グムー、そりゃそっか。現在のアタイたちって無理にモンステウと戦う理由、ねーものね」
「ファンタズィーに来たらモンステウと戦いてー、ってボーイな気持ちはわかるけどなー」
「じゃよねー。あ、オサ、この村を発展させるとして、どこらへんまで許容できマッスル?」
そんな中、村の中心───既に大樹が立つ場の下となっておりますが、そこにて炊き出しを囲む村の老人の長、オーサ=ムラーベィトさんに訊ねます。
ムラーベィトさんは若い頃に騎士をしていた事があり、先々代の老国王に仕えていた際、名を賜った立派なオサです。
引退する際に村ひとつを下賜され、大事に大事にしてきましたが、勇者召喚によって様々を奪われた彼の気持ちはまさに痛恨の一言でしょう。
村の元の名はムラーベィト。ここで育った者たちは、“自分はムラーベィトの○○です”と胸を張って自己紹介をしたものです。
「そうさなぁ……ここが───ああ。ここが、ここで生まれ育った者が胸を張っていられる場であれるなら、それで構わんよ」
「胸を張って?」
「ああ。ここはかつて、ムラーベィトという名じゃった。そう……儂はムラーベィトのオーサじゃ。王とともに駆け、友としても臣下としても共に在った儂が、王から貰った名じゃ。そんな名を、皆が胸を張って口に出来る……そんな村であってくれたなら、姿カタチなぞは問題ではないのじゃよ」
「え? この村の名前ってムラーベィトっていうの!? なにそれすっごいいい名前! ヤッベェエエーーーッ!! そういや俺達廃村一歩手前って勝手に認識して勝手に名前つけてたよヤッベェエエエーーーッ!!」
「オイオイオイオイオイオイオイ、どぎゃんすんのよ中井出ヨォオ? ムラビディアよりいい名前じゃあねぇのYO。こりゃムラビディア撤回したほうがえーんじゃあねーの?」
「ナァナァナァナァナァナァナァ、そりゃあそういう意味じゃあねぇんじゃあねぇのォ~~~ッ? ムラビディアは理想村って意味なんだから、理想村ムラーベィト、って名前で村の住人が知ってりゃあよォ~~~ッ、それでまるっと解決してんじゃあねぇか」
「つまり?」
「改名は無しです」
「だから気に入った」
胡坐を掻いた状態でハイタッチして、ガハハと笑い合う二人は実に楽しげです。中学では出来ていたことが、高校になってから出来なくなってしまったこともあって、それらの鬱憤を晴らしているのでしょう。
より幼かった頃の方が友人達と馬鹿出来ていたこと、ありませんか? 大人になってからより昔の方が気の合う人が居た、なんてこと、ありませんか? つまりはそんな感じです。
「しっかし……村長さん、元王国騎士だったのか。しかも王直属の」
「知識もなにもない、腕自慢なだけの馬鹿者じゃったがの。王も代を変える毎にひどくなっていった。己の誇示しか頭にない。あんな状態では、城下の者たちもいつまでついていけるか……」
「それってば魔王倒す前に国民にこそ王が討伐されそうって感じ?」
「まあ、そうじゃの」
「ウーワー、国王サマだっせー……」
親民に寄り添うことのない王の末路が見えるようじゃわ、とトンガリさんはこぼします。
そうなった理由も、“そうなったからこそ”の現在も、その理由が透けて見えるようです。
「つまり、もはや異世界にしか頼るアテが無かったってわけだ、あの王様は」
溜め息ひとつ、モミアゲさんがこぼすと、
「あ、なーるほど。そりゃ無様だ」
トンガリさんも得心いったとばかりに手の平にぽむと拳を落とします。
「魔王を倒せば民たちからの信頼受け放題だー、って感じの未来を夢見てるんだろうなぁ」
「キョホホ、清々しいほどクズですわい。便所のネズミのクソにも匹敵する思想ってやつじゃね」
「となると、あそこで勤めてる騎士たちにもいろいろ事情がありそうだよな」
「ん、そっか。提督を窓にブン投げたやつにも思うところはあったのかもな」
「あの。ツゴモ一等兵? なんでそこで、あえて彼を出すの?」
「提督、悪かったからツゴモはもう勘弁してくれ」
「うんわかった」
「随分あっさりだなおい」
「電話会社のbocomoみたいな感じで正直名前を呼んでる気がしなかった」
「スォルェアルゥ~ンヌ!(訳:それあるー!)」
指さしながらそう言ったトンガリさんが、モミアゲさんにボゴシャアと殴られました。
「女子高生でたまァにYO? 笑い出すとスッパンスッパン手ぇ叩くおなごおるじゃない? あれってモノスンゲーおっさん臭ェよね」
「おー、見たことある見たことある。男側が一瞬、ものすげぇ真顔になんのな。親がそういう癖持ってると、それを見て育った子供としちゃあショックでかいよなぁ……」
「ていうか中井出YO……アタイ殴られたことに関してちょほいとでもツッコんでほしいんじゃけど」
「え? いつものことじゃないか俺含めて」
「あ、それもそーね、オホホアタイったら」
いつものことでした。
「さて、話戻すぞい。エルフからもらったとされる伝説の大樹がこうして育ったわけだけっどよぉ」
「だけっどよぉ、ってアニメ後半の悟空さによくありそうな言い回しだよな」
「中井出今話折らないで」
「任せたまえ」
「そのー……コボルトさんたちが言うには、エルフさんらは自然から自然へ渡って歩く種族らスィー。ので、いつかここにも来るから、快く迎えてやってほしいそうじゃぜ?」
「ヌハハもちろんだぜェェェ!! あ、ところで歓迎に何を捧げる? 村人全員の命?」
「快すぎィイ!? どんだけ崇拝してりゃあそげな暴挙に出れんのよ! 普通でいいんだっつーの中井出この野郎!」
「馬鹿野郎! エルフさんが人間嫌いのエルフさんだったら最高の歓迎になるだろうが!」
「ハッ……!? ア、アタイとしたことが、快く迎えるとかぬかしおってからに自分目線でしか物事見てなかったのネ……! ……よし、とりあえず入口に門を設置して、代表として中井出の首、さらしとくか」
「それな」
「頼むから……! 死ぬこと前提で話進めるのやめてくれ……!! むしろ提督も平然と賛成しない!」
「なに言ってんだ、俺達の命ごときで誰かが喜んでくれるんだぜ? 最高のお持て成しじゃないか」
「そうだぜダーリソ、アタイらの命なんざいくらでも替えが利くんじゃから」
「お前らほんとしっかりしろな!? それ以上命の勘定薄れさせたら、人としてのなにかが決定的に崩れると思うから!」
おそらくもう崩れていると思われます。
そんなわけで軽く話して歓迎の仕方を大決定するのでした。
「じゃ、エルフさんがやってきたらまずは会話を試みる方向でOKね?」
「うむ。そんで話しかけただけでも顔をしかめたら、目の前で即座に自殺する(俺が)。エルフさんが結界内部に入った時点で結界を閉じて、出られなくなるように仕掛け、僕ら人間の在り方を認てくれるまで死にまくる方向で」
「キョホホ腕が鳴るのゥォ~~~ッ!!」
「人間嫌いエルフさんだったら張り切らないとだよね! 話しかけてきて否定的な言葉が出たなら、それは確実に人間への不満だろうから!」
「オウヨ! 燃えてきたぜェェェェ……!!」
「アッ……でも人間の自殺ごときで森の民エルフ様方が喜んでくださるだろうか……!」
「ヌッ……そういやアタイら基準で考えちゃあ森の民たるエルフ様方に失礼というもの。どぎゃんする?」
「……大樹のてっぺんから投身自殺して、地面で弾けて肉片ばらまいて歓迎する、とかどうだろうか。俺の脳漿がエルフさんにエメラルドスプラッシュ」
「やだ……! 中井出天才……!?」
「お前らの中のエルフってどんだけ人間嫌いなんだよ!」
「「一般常識の範囲内で人間嫌い」」
「常識って言えるくらい嫌いなのか!? えっ……ほ、ほんとに嫌われてるのか!? 自殺する人間を目の前で見て喜ばれるほど嫌われてるって、どんなレベルでの嫌われ方なんだ!?」
世間一般というか、異世界物語ではよくあるという程度には嫌われております。
この世界でもそうであるかはまだ謎でございますが。
ルッパッパラー【-豆知識劇場-】ラーララーラー
「ねぇねぇタイ・ソーのお兄さん! 結局ピュアピュア~ってキン肉マンのどこで言われてるの!?」
「はっはっは、まぁた来たなこの野郎。それなんだけどね、あんなに素敵な笑い声なのに、おそらくは一度きりしか使われていないんだ」
「だからどこで使われてるかの結論だけ教えておくれよ! 前振り長ぇんだよ! なんで質問にだけ答えてくれないんだ! 僕はそれが聞きたいだけなのに!」
「キン肉マン38巻の78Pをどうぞ。サイコマンの笑い方がニャガニャガじゃなくてニュガニュガだった頃の素敵な思い出も一緒に見れます」
「すげぇ!」
ルァー【-豆知識劇場 完-】ラーラーラー