【ケース08:
ホウネンエビとカブトエビが見たい、と言ったのはモミアゲさんでした。
田圃を蘇らせる行動の中、なにやら只管に田圃の水を見下ろしていた彼でしたが、ふいに「……異世界にはホウネンエビとか居ないのかな」とぽつりとこぼしたのです。
「おいおいダーリソ、そりゃあ夢のある話じゃけんども、なかなか難しいんじゃあねぇのォオ~~~ッ? なにせ日本とこっちとじゃあ生物の形とかも違うっぽいし」
「そこんところは晦が創造とかして放ってみたらいいんじゃないか? 異世界の水に順応できるかは知らんけど」
「いや……その。言い出しておいてなんだけど、ホウネンエビとか実際に見たことがないんだよ。彰利に動画で見せられてから、やたらと気になり始めたってだけで」
「なんつーか……そういう関連で関係してるのってほんと彰利なのな」
「だってほっときゃダーリソったらこう……じっさまとしか思えないような生活しとるし。たまに刺激与えんと、ほんと若人的行動しねェぜ?」
「そういや中学の頃はケータイとかいうものも持ってなかったしなぁ。俺もだけど」
「中井出ン家はまあ事情アリだって話だからしゃーねーべョ。まあそれ言ったら悠介ン家もだけど」
彼らはそもそも親が居ません。現在日本に戻ったところで、大して心配していた人が居なかった、なんてオチがついてまわる状態です。
モミアゲさんには妹二人が居ますが、羽棠と呼ばれるお爺さんはそもそも彼の家にしょっちゅう訪れる、なんてこともありません。
「家の事情かぁ……妹二人がおかしな連中に絡まれてなきゃいいが」
「だいじょぶっしょ? 二人とも家系だし、身体能力そもそも高ェーよ。しかも月影力っつー能力も持っとるから、近寄っても影で操られて逆に血祭に上げられるわい」
「や、でもな、そんな能力があっても、俺みたいに使えるとか知らなかったら───」
「じゃーじょーぶよ。アタイもう何度もそれでボコられてるから」
「………」
「……あ。アタイが襲い掛かった~とかじゃなくてね? 言ったっしょ? 弦月って嫌われてンのョ。そりゃあ若葉ちゃんや木葉ちゃんとて例外じゃねィェー」
「なんていうかその……すまん」
「えーよ。知ったきっかけじゃって、刺激の無いじっさまみてェーなダーリソの机にエロホンヌをソッと忍ばせようとしたらバレて、影で捕まってボコられただけじゃけぇ《バゴシャア!》ホシモス!」
「なんてくっだらない行動で人の妹達の能力知ってんだよお前はぁぁぁあ!!」
双子が実に逞しいことを知って、安堵したやら頭が痛いやら。
モミアゲさんはトンガリさんをボゴォと殴りつつ、そういえばと思い出します。
「彰利の方はどうなんだ? 雪子さんとか」
「アタイが居なくなったくらいでどーにかなるお方じゃねェーべョ」
「まあ、そりゃそっか」
麻野雪子。天涯孤独になったトンガリさんを拾った高校教師。
かなり大雑把な性格ですが、根っこは人恋しい性格なので、現在平気な顔でいるかどうかは謎です。
月の家系とは関係がありませんが、家系の事情は知っているという隣人的理解者で、モミアゲさんもトンガリさんも生き方には憧れた、という不思議な人です。
「ほィで? 中井出は?」
「え? カブトエビとかのこと? 任せてくれたまえよ! ホウネンエビだったら爺ちゃんと婆ちゃんが畑とか持ってて、その田圃に居たし卵から孵したこともあるから、俺のイメージから引っ張り出せると思うよ?」
「少年のようなフェイスでなんとピュアな返事……! てーかキミ話聞いとった?」
「ホウネンエビのイメージ纏めててあんまり」
「……そういや途中から話に入ってこなかったのう。OKほいじゃあダーリソ、創造GO!」
「………」
「ダーリソ? おーいダーリソ~? ……タダノシ・カバネー氏になってらっしゃる。あ、思ったんだけどYO中井出? ただのしかばねは返事しねーけど、魔族とかに殺されたあと、呪文で言葉に反応するしかばねにされたら、どうなるんじゃろね?」
「そりゃお前、“呪文で返事をするしかばねのようだ”になるだろ」
「あ、そりゃそうじゃったわい」
今、モミアゲさんの中でホウネンエビとカブトエビ祭りが開催されておりました。
そして悩むのです。
成体として創造するか、卵で創造して孵化させるか。卵から、の方が水やらなにやらへの順応も出来るのではないか、いやいや成体で創造してなんとか卵を産んでもらい、それから育てば抗体が……などなど、考えることが盛沢山。
しかしその悩む時間が苦ではなく楽しいのです。
「じゃけんどもホウネンエビねェエエ~~~~~~~~ィェ。水生生物側のペットショップとかに、そういやぁ育成キット、みたいなのあったよネ」
「あったあった。俺は普通に田圃から取って育ててみてたけど」
「かく言うアタイも、野生のホウネンエビを見てみたくて田圃巡りとかしたみたけど、ちぃとも見つけられんなかったのう」
「農薬とかちょっとでも使ってるとダメなんだとさ。爺ちゃんが言ってた」
「そうなん? グムムー、難しいところよのゥ」
そんなわけで、モブさんはズズイと自分の頭をモミアゲさんへと突き出します。想像を受け取れと言うかの如くです。
モミアゲさんはとりあえず悩むよりも創造してみるかと決めて、創造を実行します。
するとどうでしょう、輪を作っていた左手から、パパァアアと光り輝く“黄金のおじさま像”が……!!
「なんてもん創造させやがんだ提督テメェエエ!!」
「黄金のおじさま《バゴシャア!!》ゾォオーーーッ!?」
訊ねられたので胸を張って答えると、彼は左頬をしたたか殴られました。
「フッ……愚かな。よく見るんだ晦……その黄金のおじさま像の手の中を……」
「手の中? って、なんか黒くて粒々したのが入った小袋が……あ、わ、悪いっ、これがもしかしてホウネンエビの卵なのかっ!?」
「ゴキブリのフンだが《バゴシャア!!》シェヴァァアーーーッ!!」
そしてまた殴られました。
しかし今度こそ「《バゴォ!》待ッシュ!」それが冗談だと「待っ、違《ボゴォ!》ホボリ!」いうことを殴られ「冗談! 冗談だから《ドゴォ!》ゾマリ!」まくりながら伝え、小袋の中身はホウネンエビとカブトエビの卵で間違い無いことを誓ったのです。
「イガガガガガガ……!」
「しこたま殴られたのう中井出YO。でも人の体力削って排泄物創造はマズィーぜよ」
「フフフ、だからこその冗談だったのさ。いやまあしこたま殴られたけどね、ほんと。そこんとこ汲んでくれたらここまで殴られなかったのに……」
「悠介相手じゃあしゃーあんめェよ。オモスィーこととかワクワクすること、まだまだ知らねェーんじゃから。心ン底から楽しんだのなんてぜってー原中時代が初じゃぜ? あれで悠介、てめーに相当感謝しとんのだから」
「ぬう、ならばここはアレか。愛が痛いって言うべきか」
「親しき愛ってやつやね。てーかキミもね、激烈雑魚なんだからあんまりボカスカ殴られるんじゃあござんせん。回復する身にもなりんさい」
「人と心のままにぶつかり合う関係って憧れてたんだよな。ほら、晦って原中時代でも、お前以外とはそこまでどついたりからかったりってなかっただろ? だから俺相手でも素直に感情出してくれるのは結構嬉しかったり。そしてそれを引き出せるこの博光の行動は、ある意味で感情を上手く出せない主人公を地味に支えるモブ的行動……!」
「ゴキブリのフンで主人公奮い立たせるモブなんて見たことねーョ」
ほんとある意味で大物よねこやつも、と内心溜め息をつきつつも笑うトンガリさん。
繰り返す親友救出人生を千年近くも続けてきた彼も、これでこの男には随分と救われてきたのです。
普通にそんな人生を歩み続ければ精神なんぞとっくの昔に壊れているものですが、この馬鹿者と枷を外し合って馬鹿をやり合った果てに現在の彼の性格があります。
トンガリさんにしてみれば、原中は、特にモミアゲさんとモブ提督さんは、友達で仲間で家族、という存在なのでしょう。本当の家族に落胆と呆れと殺意しか抱けなかった彼が抱く親愛は、そういう方向へと向けられ落着しました。