【ケース11:デン・トー】
結局、王は「期待させおってぇええ!! もういい余は寝る! あとは勝手にやっておれ!」と自室へ戻ってしまったようです。
まだステイトを調べていなかった数人は結局保留になってしまい、どうしよう、どうしたら……と困惑している数人に、双子は声をかけていきます。
「あっ、べつにあの騎士さんに確認しなくても、ステイトって言えばいいんだっ」
「なぁんだ、情報とかどうしても見せなきゃいけないのかもって焦って損した~」
「え~? もしかしてヤバいジョブだったとか~?」
「ジョーダンッ! だって自分はよかったーって思ったジョブでも誰かに笑われるとか見下されるとかヤじゃん?」
「あ、それ言えてる!」
生徒たちはやがてわいわいと騒がしくなって、けれどもひとつの疑問を抱きます。
「……ちょっと待て。王が行っちゃったけど、俺達こっからどうすりゃいいんだ?」
そうです。なんの指示もなく、勝手に召喚されて勝手に放置です。もういい加減、戸惑っていた生徒たちも確信を抱き始めます。困っているくせに肥えたデヴ王に、申し訳なさそうにしている騎士や兵。
王の周りばかりに贅をこらしたこんな場所に召喚された自分たちは、これからどうすれば?
不安がじわじわと広がっていくと、それを断ち切らんと歩み寄る人が居た。
「───まずは急な召喚に対して、王に代わり謝罪をさせてほしい」
「や、王じゃなきゃ意味無いんで騎士さんの謝罪は要りません」
「ぬごっ!?」
男子高校生に一蹴されました。それはそうです。勝手に召喚しておいてアレはありません。
「それより質問させてください。俺達の衣食住はどうなりますか? 帰る手段はありますか? 王の命に逆らった場合はどうなりますか?」
「…………すまない。衣食住については、冒険に出るまでの鍛錬が終わるまでは保証せよと仰せつかっている。帰る手段は……魔王を討伐出来れば、と聞かされているだけだ。王の命に逆らった場合、お前達はこの国の者ではないのだから深い問題は無い筈だ。だが───」
「OK、この国に移住しようとなると話は別になるってやつですね。非戦闘員には地獄みたいな条件だ。どうあっても国を出るしかないし、残るなら言いなりになるか罰を受けなきゃいけない」
「うーわー……あったま痛ぇ……」
「マジで居るんだなそういう王……」
「創作の中だから笑える話って、実際自分に降りかかるとここまで気色悪い状況になるのかよ……」
「んーじゃあどうするか……とりあえず鍛錬するっきゃねぇか?」
「ちょっと待って。その前に騎士さん。私達に部屋は用意される?」
「あ、ああ。城には空き部屋が多い。……その。ああいう王だ、仕えていた様々が辞めていってな。辛抱強く支えてくれていたお方も、代替わりとともに追放のような形で辞めさせられた。……私も、きみたちを見送ったら故郷へ帰るつもりだ」
「うわー……」
「うわー……」
「うーわー……」
玉座の間の空気は冷え切っておりました。他ならぬ王の所為で。
「異界のあなた方には本当にすまないことをした。謝らずにはおれん」
「無理だろうけど本当に王が心から謝らなきゃ受け取る気もないんで、ほんと謝罪とかいいです」
「あ、確かに」
「代理謝罪とかって逆にカチンとくるから、いやほんとしない方がいいですよ騎士さん」
「苦労しましたでしょうあんな王の下で……」
「頑張ってください騎士さん……」
「俺、応援してます」
「実家帰ってもその心を無くさずに」
「騎士さんみたいな人ならもっといい仕事見つかりますって!」
「騎士さん素敵!」
「騎士さん最高!」
そして何故か騎士さんを応援する会が急に設立され、騎士さんは生徒らに囲まれて励まされまくりました。
そんな輪の中にこそりと侵入、素敵素敵と言葉で持ち上げられ、照れつつもどうしていいのかわからないといった表情の騎士を見つつ、双子はこくりと頷きます。
「スーテキ! スーテキ!」
「フースキ……! ファッスフィ……!!」
「「マッスブディ! マッスルボディ!」」
「「「マッスルボディ!!」」」
「「「「「マッスルボディー!!」」」」
「「「「「「マッスルボディーッ!! ウォンチューーーッ!!」」」」」」
素敵な騎士がいつの間にかマッスルボディ扱いになっておりました。
ネタを知らない何人かは戸惑っておりましたが、知っている生徒たちは「筋肉一番筋肉最高!」と騎士さんをさらに言葉で持ち上げるほどです。
そんな褒め方をしていたら、理不尽な召喚をされたというのに、異界の者は逞しいものだなぁと周囲の騎士や兵や魔術師も寄ってきて、そんな騒がしさの中に混ざってゆくのです。
あの王は一度拗ねたり落胆すると、自室にこもって出てこなくなる。それを知っているからこそ、誰もが不敬罪を口にすることもなく、家のために仕方なくこの仕事を続けていた者たちは声高らかに不満をぶちまけました。
……。
そうして、騎士さんや兵さんや魔術師さんらと共通の話題で仲良くなり、部屋へと案内されたそれぞれは、とりあえず鍵のかけ方を聞くとそれぞれが部屋にこもり、しっかりと鍵をかけた上でくつろぎます。
「んー……でも、失敗したなー。私達もあの窓ガラスクラッシャーズ達と一緒に出ていくべきだったかなぁ」
「
「うーぬ、こうなったら今からでも見張りの兵らをだまくらかして、自由の翼を得るために“すいませんそこ右に家が”?」
「
とある部屋のとあるベッドの上に座る双子の少女達は、ホフーと溜め息を吐きつつ現状を呪います。
異世界転移なんてもっとわくわくするべきものだと思っていたのに、召喚された場所がよりにもよってデブ王様の下だったのです。
ゴテゴテした装飾と偉そうな態度。もうそれだけで、あ、この国ダメだわ……ときっと誰もが思ったことでしょう。ただ一人、“任せてください王様! 俺がこの世界を救ってみせます!”なんて言っていた男以外は。
「勇者ー……やだなぁ勇者。私こそ格闘家になりたかったのに」
「ふふり。美鳩は願っていた賢者で安定。気分的にすこぶるジャスティス」
「なにをこのー! こうなったら伝説の剣とか手に入れたら伝説の鍛冶屋見つけてナックルに仕立て直してもらおう! この浜谷絆! 世界の理なんぞよりも己の道を信ずる者! というわけで美鳩」
「なに? 絆」
「ここで得るもん得たらさっさとずらかろう」
「
彼女らはとてもいい笑顔で頷き合いました。
双子の姉妹である彼女らはそれぞれが勇者と賢者のジョブを発現させ、それを王様以外に語ってみせて周囲を驚かせておりましたが、魔王退治になんぞ興味がありませんとも伝えました。それはそうです。
世界のためではなく国のために働くのだ、などと言い出した王様を、絶対零度の眼差しで見つめられるくらいには、この国にあきれ果てているほどです。
「でもまあ、なによりもまずは地盤固めだね」
「
その確認だけで十分です。では早速とばかりに部屋を出ると、騎士さんに早速鍛錬をと願います。
他の生徒たちが現状確認で頭を悩ませている時間だろうと、二人には関係ありません。
「い、いや、どうせなら全員で───」
「騎士さん? ごめんなさいだけど、私の勇者スキル、二人までしか効果がないのです。なので私は美鳩と二人でお願いします」
「そうなのか!? むう……よしわかった。確認をさせてもらうが、いいか?」
「どうぞ」
言いつつ、必要な情報だけを映像化。勇者スキルの“成長”を見せると、彼は深く頷きました。
「いいだろう、などと偉そうに言っていいものか。だが確認は取れた。君達二人には限定的だがいつでも鍛錬に参加できるように手配しておこう」
「押忍!」
「オス……!」
握った両拳を胸の前で交差させて、横に開くようにして軽く頭を下げます。意気込みを表したいだけなので、作法などの意味はありません。