【ケース12:性格勇者は融通が利かない】
そういった始まり方で、鍛錬の日々が訪れます。
まずはどこまで体を動かせるのかの確認を。ということで長距離ダッシュ。
「オーーーリーーービーーーアーーーッ!!」
「妙技、疲れないための忍走り……!」
続いて、武具などをどれほど振るっていられるか。
「イーヤイーヤーセイヤセイヤチェスタチェスタァッ!!」
「杖に二刀流がないなどと誰も決めてない……杖を両手にモンハンの双剣のように立ち回る……!」
さらには魔法適正があるのかの確認に入り。
「んー、んー、んー……んっ、よっし全属性解放完了ォーーーッ!!」
「ふふり。ついに美鳩は魔法を手に入れた……! 絆、絆……! 無詠唱……! 無詠唱は可能……!?」
「え? ん、んー……や、ちょっと無理っぽいかな。属性適正の解放は出来たけど、魔法発動はまだみたい」
「───ではあなたにこれを見せつけるジャスティス。ヨォンガッファァイッ!!《ボファー!》」
「ヨガファイヤー!? どどどどうやったの!? ねぇねぇどうやったのどうやったの!?」
「無詠唱でファイアーボールを用意。口ではヨガファイヤーを唱えて口から放てばヨガファイヤー……! 男子がかめはめ波に憧れる中、美鳩はヨガファイヤーに憧れていた……!」
「我が妹ながらその感性ってどーなんだ……? 灼熱波動拳でもよかったんじゃない?」
「No、絆はなにもわかってない……! 口から出すから素晴らしい……! 格好つけたいんじゃない……それを成し遂げたいと思うことこそジャスティス……!」
「そ、そか…………そっか! うん! 念願叶えばそれこそ最強! じゃあ次行くよ美鳩!」
「
体に負荷をかける運動、ものにぶら下がったままどれほど耐えられるか、またそこからよじ登ることは出来るか。
そういった様々を試し終えれば、栄養補給のための食事を摂ってお風呂に入ってゆっくり就寝。
翌日からは別の生徒も参加しますが、二人は基本二人で行動。その理由も騎士から他の生徒に通達があって、みんなも納得「待つんだ! これから一緒に魔王を倒す旅に出るというのに、勝手な行動はやめるんだー!!」……馬鹿者は見つかったようです。
ちらりと見てみれば、手を突き出したままのイケメェン? な彼。山田のぶおさんがおりました。
ちなみに彼には双子が勇者と賢者であることは伝えられておりません。
「さあ! こっちに来て僕たちと一緒にやろう! 大丈夫! すぐに打ち解けられるさ!」
そして彼はどうにも彼女らが召喚の儀のあとに会話に混ざろうとしなかったことから、コミュ障かなんかなのかと誤解しているご様子です。
輝かしい笑顔を振りまいて、歯をゴシャアアーアアアと目に毒なくらいに輝かせております。表現ではなく本当に輝いております。これが彼のスキル“歯光/Lv.10”の効果です。
そんな彼に対する双子の反応は───
「いらぬ!!」
「余計なお世話。こちらはこちらで勝手にやる」
とても冷めたものでした。
「なにを言うんだ! 団体行動を乱しちゃだめだー!! それは連帯責任に繋がるんだぞ!」
「黙れ小僧!! 鍛錬が終わったらどうせ分かれて行動するから責任もなにもありはせぬ! 失せろ!!」
そして姉がとても男らしいセリフでのぶお氏へと返します。胸の下で腕を組んでのお黙りシャラップです。
「なっ……きみは別行動を取るというのか!? だめだ、危険すぎる!」
「黙れ小僧!! 何故にうぬが我らの行動をダメとぬかすのか!! 危険!? 危険だからこうして鍛錬しておるのである!!」
「女の子を危ない目に遭わすわけには───」
「黙れ小僧!! 戦場に老若男女を持ち込むなこの甘ったれめが!! 美鳩美鳩、この小僧はダメだ! 戦場に立ったら真っ先に味方の足を底なし沼に引きずり込むタイプのダメ男だ!」
「何を言うんだ! 僕はみんなのためを思って!」
「黙れ小僧!! 人の話を聞かない男の“みんなのため”は自分のためだ!」
「こうやって話しているじゃないか! 僕は───」
「黙れ小僧!!」
「……なんかあいつ、喋るたんびに黙れ小僧言われてんな……」
「いやまあ言いたくなるだろ……なんで指図しまくってんだよって話だし」
「ていうかあの子、ケッコー可愛いのに言うことキツいわね……」
「いやお前、あいつ相手に口調乱さず冷静に話し合える? あいつ自分の言い分を貫き通すことしか頭にねぇぞぜってー」
「お前とか言わないでよちょっと。……や、そりゃまあ無理だけど。傍から聞いてて無理だってわかるくらい気持ち悪いし」
騒がしい中にも悶着を持ち込むのは大体がのぶお氏でしたが、無視して鍛錬を続ける日々です。
そしてその間もやたらと距離を詰めようとしてくるのがのぶお氏。
「あ゛あ゛あ゛ぁああああぁぁぁーーーっ!! しつこい!! なんなのさ貴様ァーーーッ!!」
「僕か! 僕は山田のぶおだ!」
「……騎士さん。もう無理です限界です。素晴らしき騎士の力でこの勇者をなんとかしてください……!」
「お前、いい加減にしないか。お嬢さん方が困っているだろう」
「Sì、まったくその通り」
「困っているなら僕が助けてあげよう!」
「人の話を聞け! 困らせているのはお前だ!」
「じゃあなにに困っているのか言ってほしい! 僕が力になる!」
「山田のぶおを名乗る者がしつこいくらいに付きまとってくるんでとっとと失せろ!!」
「きみ! 女の子がそんな口の利き方をしちゃあだめだ!!」
「人の話を聞け!!」
「まずはその口調を直してからだ! 女の子がそんなんじゃだめだ!」
「山田のぶおが付きまとってくるんです。私はもうあなたと関わり合いたくありません。構わないでください。近づかないでください」
「やれば出来るじゃないか! そうだよ! そうすればいいんだ! せっかく綺麗な声をしているのだから、きみはずうっとそうして喋るべきだ!!」
「人の話を聞け!!」
「どうしてわかってくれないんだ! そんな口調はだめだー!!」
「人の話を聞け!」
「人の話、聞くべき」
「いいからまず人の話を聞け!!」
「僕はきちんと聞いている! きみたちがわかってくれないだけじゃないか!」
一息つくたびに人の話を聞けと言われる人も珍しいと思います。
やがてしびれを切らした騎士にナイトげんこつをくらって、彼はずるずると引きずられていきました。
「精神的疲労がきっつい……! 人ってあんなに頭がおかしくなれるんだ……!」
「Sì……もう今すぐにでもとんずらしたい……。誰に唱えようと同意してもらえるであろうジャスティス提案……」
鍛錬はむしろ成長を実感出来る分、達成感を得られるものでした。しかしそこに精神的疲労がつくだけで、体がひどく重くなるのです。鍛錬場に向かうのはよいのです。そこにのぶお氏が居なければ。
けれどもそんなのぶお氏もシカトし続け、鍛錬を続けていれば、やがてスキルのお陰で差が出てきます。
そうなれば鍛錬方法自体が別のものになるので、のぶお氏が口を出せない距離を得ると、二人はそれはもう鍛錬に集中しました。何故なら第一修練場での鍛錬が終われば、ヤツもこの第二修練場に来るからです。来られる前に第三を目指して、それはもう必死で鍛錬しました。
「加速加速加速加速加速ゥウウウッ!!」
「ウィンドアシストウィンドアシストパワーアシスト……!!」
二人は1ランク上の体力作りを開始します。スキル加速を使った状態で躓いたりもつれたりしないまま、走り続ける&スキルを使い続ける鍛錬と、風の影響を殺しつつ風の後押しを使い、さらには足にパワーアシストをつけて走る鍛錬。
二人は同じ速度でMPと体力が尽きるまで走って、スキル効果でHPMPが回復すると再び同じ鍛錬をします。
「イャッイャッイャッイャァーッ! チェチェチェチェチェストゥァーッ!!」
「パワーブーストパワーアシストウィンドアシスト……!!」
次に武具を振るっての俊敏な動きの鍛錬です。
姉は模擬長剣を使って“スキル加速”を使いっぱなしでの正確な剣捌きの練習。妹は魔法で抵抗と筋力のアシストをしたまま、双剣ならぬ双杖を捌いて高速攻撃。
双子が同じ速度でゴカカカカカカカンと杖と剣をぶつけ合う姿は異様です。騎士さんは「いや……なんで杖二つなの……そこは短剣二つでよくない……?」と困惑しております。
「出でよォオオ……炎ォオ……!! おぉっ! 出たー! 中級実習でようやく魔法発現できたー! 勇者魔法覚えるの遅すぎだー! でもこれでようやく剣も魔法も使える勇者っぽい! どーですか見ましたか美鳩! この絆はこれでとうとう勇者と自称出来る存在になりましたよ! むふんっ!」
「ふふり。それはこの美鳩も同じ。双杖の素晴らしさを世に知らしめるため、わたしはずうっと考えていた。この世界には魔法を使うための触媒がいくつか存在する。杖、指輪、水晶、護符、タリスマン等がそう」
「ん、そうだね。ちなみにこの絆は指輪である」
「ん。そしてわたしは思い至った。指に、手の動きを邪魔しない程度の数の指輪を嵌めて、杖は両手。水晶は杖の先端に取り付けて魔法で浮かせておく。護符は何枚も連ねて杖にぐるぐる巻きにして、タリスマンは首にかける。……魔力媒体、とてもたくさん……!」
「うん美鳩ー? それきっといろんな人が考えたと思うよ? でも詠唱しきれないし扱い切れないからみんな諦めたと思うのだよお姉ちゃんは」
「
「……つまり?」
「偉い人は媒体をたくさん持っても、詠唱の長い強い魔法をわざわざ放とうとしたに違いない。ファイアボールだけなら、魔力にものを言わせて打ちまくればまったく問題なく速射可能」
「おおお……見せて見せて美鳩見せてー!」
「
一言返事をして、妹は準備をします。指輪をつけて、護符を杖に巻いて、水晶を杖で小突くと浮かせて杖の先端に固定。タリスマンを首に下げて───準備完了です。
それからは速射のイメージを頭に刻んで、詠唱も頭の中でたっぷり溜めて、その行動に相応しいルーティーンをなぞるように唱えるのです。
「ロボッ! カイッ! ───スーパーロボカイセカンド2ダッシュ! デュアルレベル99発進……!」
「……美鳩? えと、なにする気───」
「駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目ェエーーーッ!!」
「ホワァアアアアーーーッ!?」
妹はごちゃりと杖を構えて、しっかりとスキル速射を発動させてから、空に向かって無詠唱でファイアーボールを撃ちまくりました。
最初に杖が二つとも光ったかと思えば次は指にたくさん嵌められた指哈が順番に光を放ち、指輪が終われば杖に巻かれた護符が。護符が終わればタリスマンが。タリスマンが終われば再び杖に戻って、魔法媒体ごとのクールタイムを順序よく使うことで殺し合い、呆れるほどの数の火球が空へと飛んでいきました。
「お……お、おぉお……おぉおおおーっ!! すごい! 美鳩すごい!」
「ふふり……!
半眼で口角を持ち上げ、ちょっぴりドヤさ顔で胸を張る妹さん。そのバストは豊満でありました。
経験を積めばレベルも上がり、レベルが上がればスキルポイントを得られます。彼女らはきっちり勇者スキルと賢者スキルを育て、コーヒースキルを極めたい気持ちに揺られながらも日々を耐え、成長していきます。何故ってコーヒー豆が無いからです。あったら絶対に振り分けていました。
「妹にこんなスキルを披露されては……こちらも抜かねば……不作法というもの……。といっても伝説の武具がないと力も引き出し切れないんだけどねー。ねぇ美鳩ー? 蔵書で魔法の研究してたよね? なにかスキルでいいのなかった? こう、武技とか」
「特になかった。魔法も教えられたもの以外は同じく」
「むう。オーバーロード的武技もいいけど、私としては武技ってゼノギアス方面なんだよねー……超武技光勁には憧れます」
「武技はなかったけど、伝説の武具がある場所の地図があった」
「むー……最初の目的はそれの探索になりそうかなぁ。ちなみに一番近いので?」
「ムラーベィトという村。昔、過去の王様が村と一緒にオーサという騎士に預けたらしい。最も信頼する友に贈るとまで書いてあった。素晴らしい友情。これには流石の美鳩もすこぶる温かい気持ちになる」
「ユウジョウ! いいね! じゃあまずはそのー……村人?」
「ムラーベィト」
「そうそう、そこを目指すとしてー……」
「でも国王が召喚の儀を始める前に、その村から加護を奪ってから土地の権利を投げ捨てたそう。そうすれば“国民としての意見を受け取る理由が無いから”って」
「うわー……え? じゃあそのムラーベィトって今は誰のものでもないってこと?」
「ううん、土地は国のものだったけれど、村自体はオーサという人に先々代国王が下賜したものと書いてあった。つまりこれで、名実ともにムラーベィトはオーサ・ムラーベィト氏のもの」
「……ただ、加護っていうのを毟り取られて無事でいられるか、かぁ」
「Sì、そういうこと」
彼女らは悩みます。けれどそこに伝説の武具があるというならば、行かない理由はないのです。
「まあ、なにはともあれとりあえずは」
「ん。ここで得られるものを誰より最速で手に入れる」
「だね。よっし頑張ろう」
二人の意欲はムラーベィトへ向いておりました。ならばともかく経験を積まねばです。