ボケ者どもの理想村(ムラビディア)   作:凍傷(ぜろくろ)

5 / 68
信楽焼きと土偶とおなごと何か

【ケース4:信じるものは人それぞれですよね】

 

「………」

「………」

 

 やがて、ゴドリと輪から創造されたそれは……

 

「……おいYOダーリン」

「いや……言わんでいい」

「キミ、信楽焼(しがらきや)きを信仰してたりでもすんの……?」

「言わんでいい!」

 

 信楽焼きでありました。酒を下げたキャンタマたぬきでございます。

 

「おぉお……これはまたなんとも精巧な……! お若いの、お主はもしや、特殊な能力の持ち主かなにかか……?」

「まぁよ、ある意味モノスゲー特殊なことは確かだァね。ま、ええんでない? なにやらちょほいと神聖さも感じられるし」

「い、いや彰利? 俺はやり直しを───」

「キミ、他のことに集中し出すと今度別の方で失敗しそうだし。形にこだわった所為で神聖味がなくなったりとか」

「………」

 

 言われて、思わず“ああ確かに”と納得してしまった時点で、この村のご神体は信楽焼きに決定したのでした。

 

「いや決定したのでしたじゃねぇよどうすんだよこれ」

「とりあえず自分が住めるスペースに置きたいと思うんだが」

「キャアステキ! ほいじゃあアタイもアタイも! 高校生らしくアハンな像とか飾ってみてー! 悠介悠介! アタイのイメージも創造よろしく!」

「いかがわしいもの創らされるって知ってて誰がやるか! ていうか出来るかもわからんわそんなもん!」

「大丈夫できるわYO! 少なくともアタイの知ってる時間軸ではやっとったから!」

「……マジか」

「マジです」

 

 ちなみに大嘘です。いえ、のちに出来ることを知るのは確かですが、彼の元居た時間軸でも、それはまだ試したことがありませんでした。

 

「ほれほれ、まずは額に触れて、そんで相手のイメージを創造するように能力コントロールをするのYO」

「まあ……試せることは試しておくべき、だよな。躊躇してちゃ、なにも出来ないだろうし」

「オウヨ! ……ところでダーリソ? なしてアタイじゃなく中井出の額に手ェ当てっとや? 釣竿が無いことに気づいて泣きそうな顔で戻ってきた我らが提督に対して、なして?」

「以下同文です」

「そんな卒業式とかでいっちゃん最初のヤツしか卒業出来てねぇみてぇな言い回し大っ嫌いYO!! わかった! 創造してもらうの黄金のおじさま像にしとくから!」

「なお断るわ!!」

「フッ……なぁに任せておくのだ彰利一等兵。この博光が素晴らしいものを創造してもらってみせるさ。貴様も納得の逸品をな……!」

「お、おお! 中井出この野郎!」

「そこは普通に“て、提督……!”とか声色変えて喜ばない!?」

「釣竿無くて泣きそうだった男が何をぬかす」

「うるさいやい! ほっといてよもう! せっかく役に立てると思ったらダメだった俺の気持ちなんざわかるもんか!」

 

 言いつつもうずうずしながらモミアゲさんの前にスタンバるモブさん。

 結局やるのか……と溜め息を吐くモミアゲさんも、これはこれで楽しそうでした。

 

「じゃあ、いくぞ?」

「はじめてだから、やさしくしてネ?《メキキキキ》ゴアアアアア……!!」

 

 イメージを引き出す媒介として、額に当てた掌がアイアンクローに化けた歴史的瞬間でした。

 

「真面目にやれたわけ」

「シュ、シュワルツミー!」

「待ってダーリン! 彼は自分は黒だと訴えているワ!」

「犯人じゃねぇか!!」

「ゲゲェしまった《メキメキメキメキ》ウェヴァヴァアアーーーッ!!」

 

 攻撃70と防御7の10倍もの差がモブさんを襲います。

 しかし彼はめげません。なにより“楽しい”を優先する彼は、ハッとするとこの状況を利用する策に打って出たのです───!

 

「ま、魔のショーグンクロ~~~ッ」

「すげぇ! 顔面メキメキいってる中でもバッファローマンの真似をするそのタフネス! ジョルノッ! おまえの命がけの行動ッ! ぼくは敬意を表するッ!」

「敬意よりも助けてぇええええええっ!!」

 

 そんな悶着もありながら、結局は創造チャレンジへと向かいました。

 モブさんが教会の女神像に祈りを捧げるように跪き両手を組み、モミアゲさんが溜め息を吐きつつその額に触れて、トンガリさんが“やべぇ……ほんとは相手のイメージの創造なんて出来るかわからねーとかバレたらどうしよ……!”とドキドキしながら。

 

「提督のイメージが出ます! 弾けろ!」

 

 やがてそのイメージは、確かな形となって、彼が作った指の輪から弾き出されたのです───

 

「……んぁ? あ、あー………………なんだこれ」

「出来たの!? 出来たのダーリソ! でっ……ゲェーーーッ!?」

 

 そこにあったのは小さな箱。

 見る者が見れば確かに驚くそれは、まるで蒼空に浮かぶ雲のような菓子をイメージしたなにかのよう。

 そしてそれの名を……

 

「カルボーン……今は滅びしカルシウム菓子さ!!」

 

 目を開き、ニヤリと笑んだモブさんが、口にしたのでした。

 

「すっ……すげェエエーーーッ!! え!? マジかねこれ! 再現出来たん!? お前どんだけカルボーンのイメージ鮮明に覚えとるん!?」

「落ち着け……まあ落ち着くのだ彰利一等兵。まずはそれを開け、味わわねば。カルボーンの全てはその味にある……そうだろう?」

「オッ……オウヨ。そりゃそうよ。なんてったって、アタイらにゃあカルシウム保有量だのなんだのなんてのはわからんのだから」

 

 三人はごくりと喉を鳴らしつつパッケージを開き、中にある銀色の包みからカルボーンを取り出します。

 その行動ひとつひとつを懐かしく思いながら、やがて一つ一つを口に放り込むと───!

 

「「「…………不味ぃ……」」」

 

 素直な感想をここに下したのでした。

 

「そりゃそうよネ! ガキャアの頃のイメージそのままに創造すりゃあ、不味ィのは必至だったわ!」

「あぁあでも懐かしい不味さだこれ! 提督すごいなほんと! よく再現できたよ!」

「子供の頃……話題になりたくて、遠足の時のおやつを全部これにした経験があってネ……」

「アッ……」

「ゥッ……」

「いざ目的地でおやつを広げてみれば、それまですげーすげーと褒め称えてくれたクラスメイツ達は我先にと僕から離れていって、他のメイツたちとワイワイガヤガヤとトレードを……! そんな賑やかさの中で、独りカルボーンだけをガリボリ噛み砕く俺の姿は、さぞかしお笑いだったろうなぁ……」

「…………なんつーか……お前、中井出だぁね……」

「どの時間軸でも提督が提督でほんと安心するわ……」

「この一等兵ども冷静にひでぇ……泣くぞこの野郎」

 

 それでも創造は成功したのです。

 三人は早速これからのことを話し合い、三人それぞれのご神体をイメージ、創造してみるのでした。

 

「彰利……お前それ……」

「高校生の夢と希望よウェルカム! 美しきおなご像《ゴバキャア!》おなご像ーーーっ!!」

 

 彰利のイメージ:美しきおなご像。創造されて数秒で、攻撃70の拳によって破壊された。

 

「うう、ちくしょう……こうなったら難癖つけて中井出の像を破壊するっきゃねィェー……!」

「物騒だな一等兵この野郎! だが、ふふ……! 妄想や想像だけは無駄に逞しい貧弱一般人高校生をナメるなよ? ご神体ってイメージを最大限に推したこの像を見よ!」

「うーぁぶっさいくだなぁオイ……」

「……提督……もうちょっと綺麗に……なぁ……」

「ウッヒャア辛辣!! ダメかなぁ! この村や老人たちのしゃーわせを真剣に願ったイメージなんだけどなぁ!」

「アー……そういやてめぇ、ご老人とかめっちゃ好きだったっけ」

「そりゃ、相手が老人ばかりってなればそうなるか。ならなおさら、カタチにも拘るべきだったんじゃないか?」

「こっ……こだわったのにこの言われ様!! ちくしょうどうせ俺にゃあ才能とかセンスとかそういうの無いよ! なんだよもうご神体をって頑張ったのに! あ、ところでおじーさん? ご神体はいいんだけど、これでどうすりゃいいの?」

「ほんに切り替え速ェェェね。てーか悠介のは? ご神体」

「土偶」

「…………」

「晦一等兵……俺が言うのもなんだが、せめて村に関係のあるもので行こうな……」

「えっ……い、いいだろ土偶! 信楽焼きに並べてみたかったっていうか……!」

「悲報:村のこと考えて創造したのが貧弱一般人だけだった件」

「ケッ、優等生ぶりやがってバァ~ッカじゃねぇの?」

「なんだとてめぇこのクズが!!」

「おーっ!? なんだコラやんのかコラ中井出この野郎!」

「やらいでかおぉりゃグワーッ!

 

 じゃれるように、流れるように言い合いになって、手四つで組み合ったモブさんとトンガリさんでしたが、攻撃8の彼は確認する必要がないほどに雑魚でした。

 それこそ流れるように押し負けた彼でしたが、苦笑しながら「いい加減話を進めよう」と言うモミアゲさんを前に、二人して同じ流れを実行。優等生ぶりやがってという流れからじゃれ合うまで、それはもう騒がしかった。

 村長が大丈夫なのかこいつらと思うくらいには。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告