【ケース16:高いところで叫びたい】
-_-/双子
適当な話をしながら魔道具店までつくと、入り口の扉には“精製錬成中”の掛け札。
その横にはライオンノッカーならぬ、謎のモンステウっぽい顔を
ライオンとも獅子ともとれぬ謎の獣が輪を銜えておる。双子の姉妹はきょとりと顔を見合わせると、
「シィィーーーザーーーァァァッ!!」
輪を掴んでガンゴンガンゴンガンとノックをしまく「うるっさいねなんだい誰だい何の用だい!!」怒られました。
「私です」
「わたしです」
「~……あんたらかい。待ってたよ。ていうかノックするなら四回にしな。うるさいったらない」
「それは失礼を。ていうかこの扉についてるノッカーって、なにを模ってるんです? シーサー? シーザー?」
「あん? こりゃあたしが適当に作ったノッカーだよ。独特の面構えしてるだろう?」
「Sì。美しい貝と書いてミッシェルとか名付けたいくらいに独特」
「やめとくれ気色悪い」
「Sì」
ともあれ店内に案内された二人は、早速とばかりに大小様々な魔法発動媒体を見せられます。
杖、指輪、護符に水晶にタリスマン。護符はしっかりと杖に貼り付けられており、水晶は小型ながらも三日月状の杖の先に、指でつまむような形で治まっています。どういう原理なのか、宙に浮いているかたちで。色からして虹色光石をそのまま水晶として用いたようで、綺麗な虹色が眩しいです。
指輪とタリスマンは杖に埋め込まれているようで、「指輪で指を埋め尽くしたら、持ち運びづらいだろうが」と、しっかりと説教付きでニヤリと笑われたのでした。
代わりに、と渡された指輪はこの杖の魔力と持ち主の魔力とで繋がっているらしく、魔力を込めれば自分のもとへと戻ってくる、という優れものらしいのです。
これには半眼さんも目をきゃらんと輝かせて、ぴょんこぴょんこと飛び跳ねるくらいには喜んでいる模様。
試しに離れた位置に立って、指輪を薬指に通して魔力を込めると、シュパァンッと飛び起きるようにして杖が宙に浮いて、空を飛んで彼女のもとへと……ドボォ、という鈍い音とともに、彼女の鳩尾に突き刺さりました。
おぉっとこれは悶絶です。格好よく片手で受け止めて華麗に構えてみせようとしていた彼女に、これはすこぶる格好悪い状況です。
「これはとても……! すこぶるシュビドウバ(訳:激痛)……!」
「はいはい、わかる人にしかわからない言葉で痛みを謳ってないで。……ていうかすごい勢いで飛んできたね。速度調節とか出来ない?」
「簡単に言ってくれる……! 初めてやってみることで、いきなり調節とか調整とか、頭のおかしいレベルでケタ外れな上級転生者じゃなきゃ無理……!」
「あー……初めてやることでもなんでかなんでもこなせて、周りに驚かれるタイプかー。大丈夫大丈夫、おばば様は結構驚いてくれたし」
「No、それはただおばばがきっといいヤツなだけ」
「まあ、きっといいヤツ」
「きっといいヤツ」
「阿呆なこと言ってないで、魔力調節くらい出来るようになっときな。そっちのが言った通り、それは込める魔力で飛んでくる速度が変わるもんだ。飛んでくる向きも調整出来るから、受け止められる余裕が無い限りは杖の先端や石突側なんて向けて飛ばさないことだね」
「グウウ……! 先に言ってほしかった……!」
「美鳩ー、肉が出てるよー」
「肉出てる言わない……!!」
姉にしっかりと仕返しされた妹は、涙目で言い返すくらいしか出来ませんでした。
姉に「冷静半眼キャラはなんでかひどい目に遭わないとかなのに、宅の妹はほんと自分でポカやらかすよねー」と笑われております。
「
「人間だもの、失敗する時ゃするする。じゃあおばば様、今さらだけど美鳩が杖のコントロールを練習してる間、店の中のもの見てていい?」
「ああ好きにしな。ただあんたら金ないんだろ?」
「威風堂々、お冷やかし致そう」
「帰っとくれ」
「なんですかその対応は! いいモノがあったらお金稼いで買いにくるかもしれないじゃないですかー!」
「どんだけ属性に愛されてたって、実力が無けりゃ死ぬんだ。いーから恋しながら髪だけ伸ばして金でも集めてな」
「わっほい辛辣! でもお金がないのも事実なわけで。でもなー、冒険者はなー」
「ん? なんだい、魔法適正があるってのに、そういやあんたら冒険者タグつけてないじゃないか。これから冒険者になろうってところだったのかい? だったら昨日のうちに登録しときゃあよかったのに」
おばさまにそう言われ、姉は胸の下で腕を組んで目を糸目に、口をへの字に結んでンムーと唸ります。
「いえいえいえいえ、正直ワテクシ、冒険者~なんて職業にこれっぽっちも興味がござんせん。剣と魔法の世界。冒険者。ええテンプレですね。テンプレですとも」
「てんぷれ……? なんだいそりゃ」
「でもですよ。いいんですかそれで。組織に入って届けられる依頼を受けて、お金をもらって。いいと思いますよ? ええいいのでしょうね。けれどおばさま? 私はそんなものを冒険者とは認めていません」
「ほう? なんでだい」
「だって冒険者ですよ? 依頼を受けたらそれをこなす、なんて冒険ではないでしょう。そんなのはただの依頼請負人です。冒険してません。確かに語源は“険しきを冒す者”と書いて冒! 険! 者! ……でもそれってお金もらってすることと違う気がするのデス」
「馬鹿言ってんじゃないよ、それじゃあ稼ぎにならないだろう」
「冒険で得た素材を売ります」
「……なるほど? 確かに冒険してんじゃないか。けどそれじゃあ狩人、ハンターと変わりゃしないよ」
「ああ、それべつに副産物なんでどーでもいいです。知らない場所へと突っ走って、いろんな景色や洞窟や、様々を見つけては心を満たす。そんな冒険をしてみたいのです。わかりやすいですか?」
「身の丈に合った依頼でも受けて、そこそこの人生送っときゃいいじゃないか」
「そういうのは本当に危険な目に遭って、自分の未熟さとか噛み締めながらもなんとか生き延びて帰れた時でいいです。死んだら死んだでその時で」
「さっぱりしてるねぇ」
「死ぬことはそりゃ怖いですよこの絆は。でもそれで選択肢の幅を狭めるような行為は取りたくないんですよね。だってそんなのつまらないじゃないですかー」
「人生とは楽しむことと見つけたり!」そう言って、握った左手を腰に溜め、右手は頭上ナナメ上に貫手状態でシュパッと構えます。いわゆる古き良きライダー変身ポーズっぽいアレです。
「で? 全属性適正があるってのに冒険者にはならず、ハンターをやるあんたはまずなにを目指すんだい?」
「見たこともない絶景スポットとか行ってみたいのですよ。その頂上に息を切らせつつ登って、両手を振り上げながら
「なんでそこで胸張るのかわからないけどね、なんなんだいフーアムアイってのは」
「自分探しをする人が高い場所で叫ぶ時に使う伝統の言葉です。心がスッキリします」
「嘘お言い。聞いたこともないよそんなもん」
「極一部での伝統なのです」
「ほほーう? んじゃあ訊くが、どこの伝統だい」
「ムラーベィトという村です」
むしろその村とヘルネスト王国の名前くらいしか知りません。なのでそう言うと、おばさまは「あぁ、あそこかい」と溜め息を吐きました。
「ご存知?」
「ああ知ってるよ。もう老人くらいしか居ない、加護まで毟り取られた廃村寸前の村だろう? 可哀想にねぇ、あんな王に目をつけられたばっかりに」
「………」
想像以上にヤバい状況のようで、姉はハラハラドキドキものです。自分たちが辿り着く前に本当に廃村になっていたら、伝説の剣をもらい受けるどころの話ではなくなっていそうです。何処か別の場所に安置した、隠した、なんて状況だったら見つけることすら困難です。
これは少し急いだ方が良さそうだと、やはり心の中で王に悪態をつきつつ思うのでした。
……ちなみに、そんな時のモブさんはといえば。
-_-/モブさん
ゴオォオオオオオ……!!
「フーアームアーーーイ!!」
村の一番高い場所で、天に掲げた両拳を前後に振るうと、それはそれは元気に叫んでおりました。
ビッグコング・モガにいいようにボコられ、クソの役にも立てなかったため、自分を見つめ直そうと高いところへ登った時の出来事でした。
直後に突風に煽られて落下し、脇腹を強打して悶絶することとなりましたが、
「おわっ!? 提督がまた脇腹強打して血反吐吐いてる!」
「中井出!? 中井出ーーーっ!!」
割といつものことと認識されておりました。今日もムラーベィトは平和です。