ボケ者どもの理想村(ムラビディア)   作:凍傷(ぜろくろ)

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亜人獣人の類ではなく

【ケース17:ゴー・ブーリン】

 

-_-/双子

 

 魔道具店を出た双子姉妹は、まずは金を稼がんことにはと腹を鳴らします。乙女の恥じらい? そんなものはありません。ここにおわすは腹を空かせた(ジュウ)にございます。そこに男女の差別も歳の云々も、美醜のなんたらも関係ないのです。だって人間ですもの。

 しかし面倒なことばかりではありません。髪の売却と同じく、“魔道具に使える素材を持ってきたら買い取ってくれる”とおばさまが言ってくださったのです。これを逃す手はございません。

 

「よぅしまずはなにはなくとも冒険! 未知を知り既知に変えるが冒険道! もちろん既知から未知を探すことも忘れちゃいけません! というわけでえ~と、素材リスト素材リスト……」

 

 姉はおばさまにもらった素材リストを広げます。そこに、値段入り買い取りリストと、出現場所などが書かれているのです。

 

「……なにはなくとも冒険って言葉、取り消していいかな」

「Sì.まずは腹ごしらえ」

「Yes.モンステウを狩ってフレッシュミートでパーチーだ。美鳩もそれでいい?」

Ah,bon(そうね)

「それフランス語ね」

Ah,gia(そうね)

「や、返事の仕方とかはいいから」

 

 ともかくリストを調べて、……まずはこの町の名前を調べることから始めたのでした。

 

……。

 

 エ・スペーシャ(という名と判明)の町から出て軽く進むとある草原、ゴリー・ル草原。そこに生息しているゴーモラビットの尻尾が素材になるらしく、二人は早速そこで───

 

『ゲギャゲギョー!』

『ギレラレ~ッ!!』

 

 ……なんだかサタン様のような鳴き声を放つゴブリンを発見しました。

 

「……美鳩。私、耳悪くなったのかな」

No(),正常。美鳩にもサタン様ボイスとして聞こえる」

「……鑑定出来る?」

「ん。───鑑定」

 

 妹の鑑定が発動します。

 ◆ゴブリン

 ブッチャー。獣肉を売っているゴブリン族の肉屋。

 E:フルゴブリンレザーシリーズ

 ◆ゴブリン

 メイジ。魔法を使えるゴブリン。

 E:フルゴブリンレザーシリーズ

 

「ん……ゴブリンメイジとゴブリンブッチャー。レベルは低い」

「ブッチャー……プロレスでヒール役やってそう」

「No,ブッチャーはただ肉屋ってだけ。アブドーラさんとはなんの関係もない」

「わかってるけどね? でもアブドーラさんだって凶器を使って相手を攻撃する様に、“あいつは肉屋さ! ああやって相手の肉を削いでいるんだ!”ってところからブッチャーって呼ばれ始めたんだから、無関係ではないと思うよ?」

「……そんな豆知識は今はどうでもいいと思う」

「まあ、そだね。気になるといえばメイジの方だもんね」

「Sì.モンステウでメイジといえばオーガメイジがジャスティス」

「だよね。センセの“懐かしき過去ゲーグッズ”のファイファン2で、序盤なのになんか急に出てきてPTを全滅させるモンステウ筆頭だと思うし」

「Sì.すこぶるSì」

 

 それも違うと思います。

 とはいえゴブリンです。よくある漫画やラノベではオークと双肩を並べる女子の敵です。妻子持ち、彼女持ちの男子の敵でもあります。どの道敵です。

 

「とりあえずゴブリンとオークは敵だね」

「Nn……絆? いいゴブリンである可能性は考慮する?」

「……まともな知性あるように見える?」

「ゴブリンスレイヤー風ではないけど、ファイファン11に出てきそうなゴブリン」

「だよねー。じゃ、美鳩? アンチドートは使える?」

「Sì.Lascia a(任せて) me」

 

 モンステウと戦う場合の注意点といえば状態異常。それらの状態異常解除の魔法は率先して学んだ妹は、半眼のままにこりと笑むと、サムズアップをしてみせます。

 ならば後顧の憂い無しとばかりに姉は歩き出し、わざとゴブリンどもの視界に入りました。

 

『ゲギョ!?』

『ゲーギョー!!』

 

 途端、ゴブリン達はハッとして駆け出し───

 

『丁度よかった! えーと、あなたは人間さん? お肉買いませんか? 今日はホーンラビットの良い肉が取れまして!』

『いやぁ、上手いこと睡眠魔法がクリティカルしましてね! 眠っている最中にノッキングが上手くいったので、いい状態で捌けたんですよ!』

「………」

 

 なんか普通に商談が始まりました。

 

『ああっと申し遅れました、わたくし、ゴブリンブッチャーのマメカ・ソフと』

『俺っちがゴブリンメイジのマソゴノレ・モマと申します!』

 

 なんだか乱雑に文字にしてみると、アナカリスとかアンゴルモアと間違えそうな名前でした。

 

「……あのー。モンステウではなく?」

『いやいやいやとんでもない! あ、もしかして初心冒険者さんで!? 居るんですよ~っ、妖精や亜人獣人族をモンステウと勘違いして攻撃してくる人! あ、確かにオーガと一緒に居るゴブリンは、従わされて無理矢理人間と敵対している場合がありますが、オーガさえ倒していただければなんの問題もありませんので』

『というより、オーガをなんとかブチコロがせないか、日々虎視眈々と狙っているので、是非レボリューションを手伝ってあげてくださると嬉しいです』

「ゴブリン自体に戦闘能力とかは……」

『とんでもない! 精々で下級モンステウを倒せるくらいですよ! そりゃあレベルを上げて上位ゴブリンになったやつらは別ですけど!』

「ええっと。ごめんなさい、とりあえず今はお金がありません。むしろお金が欲しくて、ゴーモラビットという兎型モンステウを探しているところなんですが」

『ゴーモラビット!』

『なんとまあ……! お気をつけを、奴は狡猾です。ここらでホーンラビットを狩っていればいずれ姿を見せると思われますが……』

『奴は幻惑魔法を使います。お陰で我らゴブリン族が何度迷惑を被ったか……!』

「ていうかさっきのギレラレーってなんだったのか!」

『ややっ!? 聞かれていたとはお恥ずかしい!』

『あれは得物を仕留めた時の喜びの唄なんですよ。ああも綺麗に仕留められると、思わず興奮してしまって』

「………」

 

 姉の心に悲しい風が吹きました。そして……人? を、見かけで判断してはいけません。

 むしろ喜びの唄がサタン様みたいな声でいいのかと、なんだかツッコミたいのにツッコめない気分でもありました。

 

『わたくしたちは元々、ムラーベィトという村の傍の森に棲んでいたんですがね。そこから加護が奪われてしまって、オーガが住み着くようになってから我々の生活はズタボロです。隣人であったコボルトたちともはぐれてしまいました』

「コボルト? あの顔が犬型の───」

『よく言われますけど違いますよ? 子供な大人、といえばいいのか』

『ああ失礼、そういえばマスクをかぶったままでしたね。……ぷはっ』

 

 言うと、ゴブリンはゴブリンマスクと言われる革素材のマスクを取ります。その下からは耳が長く鼻が長い、髪が逆立って尖っている亜人っぽい顔が出てきました。

 

『一応分類としては亜人というよりは、精霊や妖精のノームやドワーフやコボルトと似た位置に属する者です。ムラーベィトのオーサ族長とは彼が若い頃からの付き合いでしたが……』

『やめないかマメカ。話したところでどうにもならん。王に見捨てられ、加護を剥がされた村の末路なんてどこも同じだ。なんとかしてやりたいが、加護が剥がされては俺達妖精はなんにも出来ないさ』

『そうだが……悔しいじゃないか。オーサは我らの隣人だ。大切な隣人だ。それを、顔も見たこともない王なんぞに死ぬまで追い詰められたんだぞ。ゆっくりと家族に見守られて眠る筈だったんだ。それをこの国の王は!』

『マメカ!』

『……すまない人間さん。こぼしてしまった愚痴の対価として、なにか入用だったら言ってほしいです。ゴブリンのかばんはアイテムボックス仕様です、小さそうに見えてもいろいろ入っていますよ』

「なにもしてないのにどんどんと話が進むなぁ。ではゴブリンさんや、ちょいと情報をおくれでないかい? ムラーベィトのことを知ってるなら、そこにあった伝説の剣のことは知ってたりする?」

『伝説の? …………ああ、もしかしてアレだろうかマソゴノレ』

『ああ、あれかもしれないマメカ』

 

 特になにもしてないのになんだか勝手に話が進んで、なにかが貰えると言うのなら食料もとい情報を、と姉は思い、訊ねました。するとあっさりと思い当たることが聞けそうで、これまた話が進みそうで拍子抜けします。

 

『あの村には川があるんです。最初は淀んだ、瘴気に侵された川でした。けれどオーサのやつが妖精の声を聞いて、上流の源泉にそれを沈めると、川は時とともに綺麗になっていったそうです』

『けど。水に棲むようになった妖精からは、剣が泣いていると何度も聞かされました。どうやら剣にはなにかが宿っているようで、宿っているなにかのお陰で瘴気が浄化されようと、宿っているなにかはずうっと川の源泉の底で孤独で居るのだろう、と』

「それは……すぐに助けてあげないとじゃあないか! あ、でも引き揚げちゃったら浄化の効果も消えちゃうとか……?」

『それはなんとも』

『既に長い時間を浄化されたのですから、瘴気が漏れる要素もなさそうですが……もし漏れるとしたら、その原因を断ち切ってしまえばいいのですよ。まあ俺っちには無理ですが』

『当然わたくしもです』

「………」

 

 想像してみて、ゴブリンに“川の瘴気をなんとかしろ”なんて頼む人なんて居そうにないなぁとすぐ納得出来てしまいました。




 ルッパッパラー【-豆知識劇場-】ラーララーラー

「ねぇねぇタイ・ソーのお兄さん! エ・スペーシャの町の───」
「エ・スペーシャとゴリー・ル平原を足すと、肉好きなら誰もが知ってる伝説の技、カメハメ52の関節技のひとつ、ゴリー・エスペシャルになるんだ」
「すげぇ!」
「よくゴリー・スペシャルだろうと言う者も居るがとんでもない、肉世界ではゴリー・エスペシャルだ」
「すげぇ!!」

 ルァー【-豆知識劇場 完-】ラーラーラー

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