ボケ者どもの理想村(ムラビディア)   作:凍傷(ぜろくろ)

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彼ら彼女らはこれでも全力で真面目なのです

【ケース18:愚か者どもの戦い】

 

-_-/モブさん

 

 マヂュー! マヂュー!

 

「おっほっほっほ〜元気だ( ^ω^)」

「だぁああもう! また提督がサキュファーに混乱させられてるぞ!」

「中井出!? 中井出ーーーっ!!」

 

 異常事態は少しずつ忍び寄っておりました。以前討伐したサキュファーというモンステウが、川の上流から頻繁に降りてくるようになったのです。

 その調査として向かう傍ら、洗脳系にアルティメット弱いモブ提督さんは混乱させられまくりで、洗脳させられる度に全裸になって水鉄砲を構えました。水になにか思うところがあるのかもしれません。

 笑いながらマヂューと水鉄砲を発射する彼は、その度にドゴォメゴシャアと頬を殴られ、涙を流しながら正気に戻るのですが、衣服を着ている内に洗脳されて再び水鉄砲を手に取るのでとっても厄介です。

 

「ソン・チョーの言うところによると、上流にゃあ源泉っつーの!? 湧き水が溜まった池みてーなのがあるそうじゃけど、こいつらそこで生息しとるん!? てーか数居すぎデショ! なんなんこいつら!」

「ソン・チョーじゃなくてオーサさんな!?」

「わかっちょーよダーリソ!」

 

 モブさんは役立たずとして、トンガリさんとモミアゲさんは月鳴力を駆使してサキュファーを退治します。

 経験値を得ながら進んでいくと、裸の友人がレベルアップしたりして、PTのグループメッセージに“中井出博光が新たなスキルを習得した!”なんて出ると、二人はまさか鈍器スキルが!? なんて喜ぶわけですが、とりあえずまた水鉄砲を手におっほっほっほ~と言っているモブさんの頬を、ベパァンとビンタしました。

 

「げひゅんっ!? ───はっ!? あ、あれ!? ここはどこ? 僕は誰?」

「中井出中井出! スキル見てみれ! 今PTメッセでテメーが新スキル得たとか出たから!」

「え!? マジで!? やったぜもしや鈍器系!? これから始まる博光ロードの第一歩が今ここに!? ……えーと? 独自スキルのー……ば、ばー……器詠の理力(バストラルフォース)? ものに宿った意思を受け取ることができる?」

「……ホ?」

「いやいや提督……新スキル欲しくて、こん棒を手にサキュファー退治についてきたんだろ? そんな、モノの意思を受け取るとか……」

「や、うん。こん棒まるで関係ないんだけど、でもなんかほら、ばすとらるふぉーす? って書いてあってそのー……なんか……ご、ごめんね? でmおっほっほっほ〜元気だ( ^ω^)」

「洗脳回復させてまで付き合った意味ねぇじゃねーかこのポニテフェチがぁーーーっ!!」

「《マゴシャアー!!》ヘナップ! もうごめんなさいホントもう言いません!!」

「いや彰利、この際提督のフェチとかいいから、レベリングはついでだったしとりあえずは源泉行かなきゃだろ。元々の目的はそこなんだから」

「ちなみに僕ポニーテール女子が好きなんだけど、麻衣香にお願いしたら髪伸ばす気ないからダメって言わrおっほっほっほ〜元気だ( ^ω^)」

「えーからキミは服着ろこのタコ!」

「《バゴルシャーァァァ!!》ペサァーーーッ!?」

 

 そんなこんなで、サキュファーから始まった川調査で、少しずつ源泉を目指す男達がおりました。

 

 

 

-_-/双子

 

 ゴブリンから情報を得た姉は、危険は無しとして妹を呼び、ゴブリンに紹介しました。

 ゴブリン二体は丁寧な挨拶をしてからマスクを被り直し、ラビット狩りの手伝いを買って出てくれたのです。

 

『ゴブリン謹製爆弾投げ! 喰らえェエ! ヘアーーーッ!!』

 

 とはいえそう都合よく兎モンステウばかりが出てきてくれるわけもなく、木人などの植物モンステウを爆弾で吹き飛ばしたり、飛翔型タックルモンステウであるロックスワロウの突撃を大盾で叩き落して、眩暈を起こしているスワロウを短剣で刺しては経験値に変えていきます。

 

「おお……ゴブリンさんたち連携スゴイ」

「Sì……これは見習うべきジャスティス」

『長い付き合いですから』

『しかしホーンラビットがここまで現れないのも珍しい……もしや別のモンステウに食われたか襲われたかして、群れごと隠れて……?』

「不穏な言葉は不穏を呼ぶ。たまたま見かけないだけ。だからこのまま狩ればいい」

 

 心配をしても解決するわけではありません。なので二人は駆けて、姉はゴブリンに借りた刃渡り90センチほどの鉄製の長剣で、妹は町で買った魔法発動媒体としての双杖で戦います。

 敵は木人で、いわゆる自然発生したウッドゴーレムです。

 それを剣で斬るわけですが、木を剣で斬ろうとしても切断できるわけがありません。達人にでもなれば事情は変わってくるのでしょうが、今はまだ無理です。

 なので妹がファイアボ「ヨォンガッファァイッ!!」……ヨガファイアーを放ち、焼けてもろくなったところを姉が剣で斬りつけます。

 

『ン゛ン゛!!』

 

 ウッドゴーレムは声と言うには少々違ううなりのような音を立てて、人型の木から伸びた腕のような枝をしならせ、鞭のように攻撃します。

 

「inutili(無駄)tà───ファイアウォール!!」

 

 けれども妹はそれを見越して、詠唱を完了させていた炎の魔法障壁を作り出します。

 これに触れれば植物系統のモンステウなど恐るるに───

 

「《べちーん!》はちゃーーーっ!?」

 

 足りました。障壁の炎が燃え移り、燃えた枝の鞭が妹を襲いました。そりゃそうです。

 

「もーーーっ! 美鳩はどうしてそうここぞって時に詰めが甘いのー!」

「はちゃちゃちゃちゃ! はちゃっ! はちゃぁああーーーっ!!」

 

 姉は思わずツッコミつつ木人と対峙しますが、妹はそれどころではありません。大いなる大地をゴシャーと転げまわって燃え移った火を消すと、「恐ろしい……恐ろしい強敵……!」と顎をグィイと拭いました。

 姉はドゥブルシャアアアと呆れたっぷりの溜め息を撒き散らしつつも、勇気を以てウッドゴーレムという名の木人と対峙。するとなんか急にパワーが漲ってきて、身体能力の向上を自覚します。

 

「……うわー、こりゃ反則だ。説明にも書かれるわけだよ、“だからそれなんだよ”ってセントーインじゃなくても言いたくなるよ」

 

 言いつつも自分に不利ではないのなら使います。

 喫茶店の制服で戦う勇者と賢者なんてとても珍しいものですが、器用に立ち回っては木人を追い詰めていくのです。

 木人の、硬い樹木の体を剣で斬っては、「斧が欲しい……!」と正直な気持ちを吐露します。

 

「大体! なんでゲームとかにおける“なんたらキラー”とかって剣ばっかりなのさ! べつにいーじゃん! 斧とかでウッドキラーとかあってもいいじゃん! 世の中不公平だちくしょー! ゾンビキラーとかドラゴンキラーとか、ゾンビ相手なら聖杖とかでもいいじゃない! ドラゴンキラーなら得物がよく届く槍とかでもいいし! なんで剣!? そういう理不尽さが勇者を嫌わせるんですよこのやろー!」

 

 言いつつも戦います。

 

「No,絆……! アーマーキラーさんは……! アーマーキラーさんは剣の場合もあったりレイピアっぽい時もある……!」

「やっぱり剣もあるんじゃないか! ずるい! なにそれずるい! なのでこの理不尽な悲しみを理不尽のままウッドさんにぶつけます! くらえトンチキ! 勇者突き(ブレイブスラスト)ォッ!!」

 

 ただの突きがゾスリと木人さんを削ります。それに反応するように、木人さんも反撃を開始。燃えた枝の鞭が振るわれますが、姉は目をキラリと光らせ木人の攻撃をスレスレで(かわ)し「《べちーん!》あいったーーーっ!?」無理です。達人でもないのにそんなこと出来るわけがありません。妹と同じく大いなる大地を転げまわる羽目になって、「恐ろしい……なんという強敵……!」と顎をグィイと拭うこととなりました。

 そうこうしている内にゴブリンの爆弾がひょーいと投げられ、木人は爆殺。王城での鍛錬の日々なんて実戦経験の足しにもならないなぁと反省しつつ、戦闘は終わったのでした。

 

「第弐拾参回、愚か者反省会~……」

OH()~……」

 

 二人して草原に正座して反省しました。植物モンステウなら火に弱い。定石道理にやってみましたが、よもや相手の腕が燃えて火属性攻撃に発展するとは思ってもみませんでした。よくある魔法剣を自ら敵に付与させてしまった阿呆的状況です。

 

『ふぅむ。本当に戦闘には慣れていないのですねぇ』

『鍛錬ばかりを積んで、スキルばかりを育ててしまった者が陥りやすい状況ですね』

「「グ、グゥムッ……」」

 

 反論の言葉もございません。王国のやり方は相当危険だと身を以て証明してしまいました。

 しかもあの人数でモンステウと戦っていくとなると、転移者全員が熟練と言えるほどに戦闘経験を積めるのはいつになることやらです。

 

「とりあえず美鳩。敵には鑑定を使うことを癖にしてみよう」

「Sì,調べるを使って“とてとて++”を知るのはファイファン勢のセオリー」

「まあそういう表記が出るかは謎なんですけどねー……。ていうかファイファン言うのも久しぶりだね」

「ジョジョで“F・F”(フー・ファイターズ)が出てから、美鳩の中では“最後のファンタジー”はファイファン」

「妙なこだわりだねー……あ、マメカさん、この“刃渡り90cmほどの鉄製の長剣(ロングソード)”、しばらく借りたいんですけど」

『いえいえ、戦闘に慣れるまでサポートしますよ』

『これも人の隣人として立つ妖精の努め。あなた達からは王国の者特有の嫌な感じがしませんからね。王国で守られながら積む実戦経験ではなく、見守られながらきっちり戦う経験を積んでいってください』

「OH……」

「……失敗は出来ない、とか無駄に緊張したりするのは、慣れで潰していくしかなさそう……。絆、頑張って行こう」

「そだねー……」

 

 勇者というジョブに不満はあるものの、だからってスキルだのなんだのを嫌う理由にはなりはしません。

 勇者ってだけで王の駒ってイメージがついて回ってうんざりする彼女ですが、そこは割り切るべきだと深呼吸を数回。頬をばしーんと叩くと、「よしっ! よろしくお願いしますっ!」とゴブリン先生達にご教授願うことにしたのでした。

 ……それはそれとして、勇気を漲らせた所為で溢れ出す勇気のパワーが発動。叩いた頬は決意表明の直後に激痛に襲われ、彼女はどこから出るのか渋い声を絞り出しながら蹲って、ゴブリンさんたちを困惑させたのでした。


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