【ケース19:
「まあまあ、つまりはレベルとスキルっていうシステム上でなら強くなれるってことなんだだぜ? そりゃあ強くならなきゃもったいないだろうだぜ?」
「なんで“だぜ”を語尾につけたがってるのかは知らないが、まあそれでしか強くなれないっていうならそうするしかないよな」
「てーかまあ、普通に人がどんだけ鍛えようが、こげなファンタズィーシステムの後押し以上に強くなれるかっつーたら無茶もえーとこじゃしね」
「そうそう。だから“郷に入っては郷に従うそぶりを見せつつ背後からカーフブランディング”、という素晴らしいことわざにこそ従って、僕は強くなるのです。主に村のために」
「原中基準のことわざやめい」
「原中名物“
「代表の名物といえば……ああ、体育の時間のドッヂボールがゲームにならなくなったなぁ……いやぁ懐かしい」
「あー……あったなぁ。ボールを当てたら得点、当たっても拾われたら無効、なんてヘンテコルールだったな」
「そうそう。当てられたけど拾えなくて、別の誰かが落ちる前に拾ってくれて、“おおサンクス!”なんて思ってるとそいつにぶつけられるのよね」
「当てて、落ちなきゃ得点にならないからなぁ。だから当てたヤツの邪魔をしてでも自分の得点を拾いに行くと、もはや助けてるのか殺しに行ってるのかわからなくなって、最後は大乱闘スマッシュハラチューズになってたし」
◆大乱闘スマッシュハラチューズ───だいらんとう~
原沢南中学校迷惑部に伝わる遊戯の一。
まずは普通にドッヂボールをする。当てられて外野に行ったら、意地でもボールを手に入れて味方だろうがぶつけられる修羅と化せる。ぶつけたら復活? そんなもんありゃしねー。
なので外野に行ったら敵味方外野のために引いた線なぞ無視して、ラグビーよろしくボールを奪いに駆け出して良い。この際、
見事ボールを奪取し、投げたボールがヒット、落とすことに成功すれば、修羅を増やせる。修羅に対してならばタックルが許可される。タックルは腰から下。
決着として、最後まで生者として残っていた者が勝利となるが、みんな修羅の方が好きなので無理に生者で居ようとする者のほうが少なかったりする。
のちに全員が修羅と化した時より大乱闘フマッシュハラチューズが開催され、自己責任で得点管理をしつつ、ボールをぶつけ、ぶつけられては拾い、点を得ては妨害しを続け、チャイムの音色を成仏の調べとして戦いの幕とする。
これぞ原中名物“
その名の起源は球を当てられ怒り狂った坊であろうと、猛り狂い騒ぎ遊べばそれらも流れる、というところから来ている。
*神冥書房刊:『原沢南中学校迷惑部反省文-第七百八十九頁-』より
「いやぁ懐かしい」
「とか言ってるうちに滝の裏まで来たわけじゃけんども……いや~~~ぁあああ……うるせーのぉおお!!」
「あー!? なんだってー!? 滝がうるさくて聞こえねーよー!」
「うるせー! って言ったんじゃよ!」
「なんだとてめぇ! ただ訊ね返した僕に向かってうるさいだと!? なんて非道い奴だこのクズが!!」
「あー!? なんだってー!?」
「うるせー!!」
「なんだとてめぇこのクズが!!」
そんな騒がしさを横で眺めるモミアゲさんは、まあこうなるよなぁ……などと想像通りの展開に、諦観の笑みを浮かべておりました。
ともあれ滝の裏です。こんなやかましい状況ではありますが、滝の裏に心惹かれぬ人などあまり居ないというのは、モミアゲさんとて同意できる意見です。
なので友人二人に向ける諦観とは別に、わくわくさんを胸に歩を進めていったのです。
進めて進めて……───反対側に抜けて、やがて三人で顔を見合わせ───
「「「ほっ……ほはっ? ……ウェッハッハッハッハッハッハ!!」」」
なんだかおかしくなって笑い合いました。
ただ滝の裏に道があっただけでした。本当にそれだけだったのです。
ああこれただの絶壁が多少削れて出来た偶然的な道だわ、と理解した時の笑撃といったらないです。
世が世なら観光スポットとして映えていたかもしれません。
「やばいこれはやばい! まんまと騙されたよもー! 博光恥ずかしい!」
「いやまいった! 洞窟とかあると思ったのにただの道だけとかっ……っははははははは!!」
「思えばすげぇタイミングでサキュファー来たよね!! あれにやられたわ! 絶対なにかあるに違いねーとか思っちゃったものアタイ!!」
滝の裏は浪漫です。道があれば、そりゃあ洞窟があるに違いないと思ってしまうものです。
けれども現実はこんなもんです。
来た道を戻って、滝の裏の壁をコンコンしようがごまだれーとか叫ぼうが隠し洞窟が見つかるわけでもありません。
「まあ、これで怪しいのはあくまで上流、ってことになったわけだ」
「はふー……オウヨ、そういうこっちゃね」
「いやはやいきなりの笑撃だったよもう……。初めてヌ・ミキタカゾ・ンシに出会ったあの笑撃に似た感じだと思うね、今のは」
「あ、それアタイなんかわかる」
「なぁ?」
思い切り笑ってリフレッシュして、緊張もほぐされきったところで、三人は滝の上を目指します。
滝の裏まで続いていた崖の道を、戻るのではなくそのまま進み、絶壁ではない足で普通に山を登れる位置までを進むと、少し急ではある山を登っていきます。
登ったところからは少々平坦な道が続いていましたが、川が流れる程度の斜面は続きます。そして当然とばかりにサキュファーも現れました。
「合衆国ニッポン!!」
「アーッ! ダーリンが戸惑う間もなく洗脳された!」
「晦!? 晦ーーーっ!!」
そしてモミアゲさんが即行で洗脳されました。 滝についてを語り合っていた二人に、「いーからさっさと行くぞー」と自らが先を急ぐことで促した結果でした。
「ニッポポポッポポニッポンポン! ニッポポポッポポニッポンポン ポポポポポポポポニッポンポン! 合衆ゥウウ国ニッポンポン!!」
「落ち着けダーリン落ち着け! 落ち着けェエエエ!!」
「殴れ殴れとりあえず殴っとけ! サキュファーは俺がおっほっほっほ~元気だぁ( ^ω^)」
「秒とかからず洗脳されてんじゃねィェエエエーーーッ!!」
「《バゴシャア!》へきゃあああーーーっ!?」
言葉通り、とりあえず殴られたそうです。
もちろんその後、「俺を優先的に殴ってどうすnおっほっほっほ~元気《バゴシャア!》ダヴォール!」などと電光石火で再び洗脳されて殴られるモブさんが居たり、「即戦力を最初に正気に戻さないでどーすんだこのバカモン一等兵めがーーーっ!!」と、サキュファーを引っ掴んで武器にし、トンガリさんに襲い掛かるモブさんが居たそうです。
……。
泥臭い乱闘試合のようなかたちで、武器にされたサキュファーが潰れるに到り、モミアゲさんは両手両膝を草むらについて落ち込んでいました。
サキュファーの最後? ……それは立派なクロスボンバーだったそうです。
「先急いだ所為で洗脳されて迷惑かけるとか……」
「ダーリンたら時折ポンコツじゃからねェ~ィエ。まあ今回はアタイらがさっさと本題に向き合わなかったからシヴィレを切らしたんじゃろうけど、焦っても心の余裕をなくすだけ……じゃぜ?」
「そうだぜ晦。俺達……仲間じゃないか」
「この状況でそれ言われると、一緒に愚か者のレッテルを自分で貼るどころか刻みこもうぜとか誘われてる気分だよ」
「そりゃそうだろ。だってそう言ってるんだし。ていうかレッテル貼られるとか言い出す奴って、大体が自己評価と周囲からの評価がかみ合ってないから、考えるだけ無駄なんだぞ晦」
「そうそう。それに馬鹿で居りゃあ見つけられるものもあるもんじゃぜ? っと、ダーリンレベルア~ップ」
「おっ、なにかスキルとか増えたか? って、増えたって出てるな。どんなだ晦」
「………」
「落ち込んでたのにレベルアップで燥ぐのは恥ずかしいダーリソであった」
「うるさいよ!」
ともあれ覗いてみますと、そこにあったのは“洗脳耐性”の文字でした。
「洗脳耐性?」
「これでニッポン言わなくなると思うと、博光悲しい」
「いや待て中井出、耐性であって無効化じゃあねェーゼ?」
「おお」
「オウヨ」
「人の横で頷き合わないでくれよ……彰利だってなってみれば結構痛恨だったりするぞ? 絶対」
「アタイべつに恥ずかC思いなんていつものことじゃもの。中井出にゃあ負けるけど」
「わかっていたよ一等兵ら……私こそが勝者だったのだ。敗北に彩られていた筈の人生がその実、光明に満ち───」
「はいはい逆ドリアンはいいから。けど……そか。なんかちょっとわかってきたかもだ」
「ホ? なんぞ? ダーリソ」
モミアゲさんが自分のスキルを眺めつつ、モブさんに「提督のえーと、新しいスキル、見せてくれ」と言いました。
合衆国ニッポンポンについては、検索で“合衆国ニッポンポン総集編【第二部】”をどうぞ。
「強者が弱者を虐げない! 合衆ゥウ国ニッポンポン!」が大好きです。
魔物狩りのお祭りが来たので執筆がかなり滞るかもです。