ボケ者どもの理想村(ムラビディア)   作:凍傷(ぜろくろ)

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同穴のムジーナ - 未来への遺産 -

【ケース21:モンステウのカルシウム摂取量が気になるお年頃】

 

「いや俺完全に彰利に巻き込まれただけだからね? 俺だってその時期、まだばーちゃん死んだこと引きずってて、自分から騒ぐどころじゃなかったからね?」

「つまり?」

「んにゃ、ちょほいとつついたら人生やけっぱちになったみたいに騒ぎだした中井出が原因YO? 俺じゃねィェー」

「いやいや待てコラ一等兵コラ貧弱一般人がそんな、いきなりヤケッパチだろうと人の死から立ち直れるわけないだろ。引っ張ったのお前だって」

「なんだとコラ中井出テメェこらこの野郎、実際テメーに引っ張られたからこそ、繰り返す日々に腐れてたアタイは救われたんだぞこの野郎」

「? ああ、そういや彰利、お前何度も人生やり直したって」

「オウヨ! そのいっちゃん最初のきっかけとして、腐るばっかだったアタイを立ち直らせてくれたのが中井出YO! ……まあそれこそ中学卒業する前に校舎裏に呼ばれて、お互いどぎつい心の内側叫び合って殴り合って中井出がボコボコになっていっただけの、素敵な殴り合いじゃったわけじゃけど」

「殴り合ってねぇ!! あれ!? それ僕殴り合えてないよ!?」

「オウヨ、まあアタイも鬱憤晴らし出来たのと、最後に油断して気絶前の中井出に思いっきり殴られたので、目ェ覚めたんじゃけんどもね。結局その周もあっさりゼノにコロがされて、自爆して、やり直した先でまた中井出に遭って、んで、その時に初めて“なんだってこやつはあの時、突っかかってきたんじゃろ”って気になってね? で、突っ込んだ質問しまくったら初対面から泣きながら殴りかかられました」

「お前たまに素直に外道(ゲド)いな一等兵この野郎。俺、自分が原因でばーちゃん死んだこと引きずってたのに、お前それ初対面からつつきまくって喧嘩に発展させるとか……」

「彰利……お前たまにほんと外道(ゲド)い」

「ゲドいってなに!?」

 

 外道い。非道(ひど)いの外道バージョンです。

 ひでぇ、と言う場合は“げでぇ”と言い、ひっでぇええと叫ぶ時は“げっでぇえええ”と叫ぶのです。きっと。

 

「あれ? でもそれを提督が知らないってことは、提督の時間軸じゃ違ったのか?」

「俺? や、俺の場合は“腐ってねーで、いっちょ楽しいことしようZE!”って感じでの勧誘が最初だった。最初はそれこそ“俺が悲しみ続けなきゃ、ばーちゃんが忘れられちまう”って感じだったけどさ。まー……その、ほら。ばーちゃん、俺が笑うと、楽しそうだと嬉しそうに笑ったんだよ。だから、うん。その、うん。そういうことに、気づけたっていうか、うん」

「ほっほ、一丁前に照れてやがるわこの提督めが」

「提督が照れるとか、綾瀬のことでつつかれてる時以外じゃ珍しいよな」

「麻衣香ネーサンの場合はそれを受け入れてたからほんと、中井出の理解者って感じだったヨネ。まあ一週目じゃあひっでぇ喧嘩したみてーで、麻衣香ネーサン自身が中井出に関わろうとしてなかったけども」

「え……本当か? あの綾瀬が!? 傍から見たって提督大好き人間だったのに!?」

「麻衣香ネーサン、前向きな中井出に惚れてるところあったから。ばーさま死んで落ち込んでる中井出に、自分こそがなにかしてやりたかったみてーじゃけどね。たぶんそれで、自分だけで踏み込んで失敗したのが一週目だと思うのアタイ」

「提督……」

「中井出ヨォ……」

「いやなんでここで僕呆れ顔されてるの!?」

 

 綾瀬麻衣香。モブ提督さんの幼馴染で、中井出家の家族を知る数少ない理解者です。

 トンガリさんにネーサンと言われていますが同い年です。なんかたまーにおねーさんぶったりすることがあったので、そう呼ばれているだけです。

 やんちゃで元気で真っ直ぐだったモブさんを知る数少ない理解者でもある彼女で、念願叶ってモブさんと恋仲になれた彼女ですが、中井出家が殺人事件に巻き込まれたことで両親が警戒。引き剥がされたことから疎遠になっておいでです。

 違う時間軸ではモブさんと結婚して子供まで出来て、大変幸せで笑顔の絶えない日々を送っていたのですが……。

 

「そういやYOォオ? 中井出YO? おめーさん、麻衣香ネーサンのことは諦めた的なこと言っとったけども。ほんにそれでえーん?」

「お前ね、相手の両親に拒絶された上でする結婚がどんだけ辛いと思ってんの」

「親がアレじゃったから知らん」

「同じく」

「………」

 

 皆様思ったことくらいしか言えません。穏やかで賑やかなる家族に関しては、経験値が少なすぎるのです。

 

「こっちに麻衣香が飛ばされて、永住することになるかも~とかならまだしも、あっちにゃ両親が居て、あっちでの夢もあったとして、こっちで一緒に棲もうゼっ☆ とか俺なら平気で言うけど相手が頷けないだろ」

「あ、そこは言うのネ」

「さすが提督」

「博光です《脱ギャァアアア!!》」

「「脱がんでいい」」

 

 無駄話をしつつ、そうして彼らはやがて源泉……広く透き通った湖のような場所に辿り着きました。

 それまでにサキュファーとの会敵はありませんでしたが、その透き通った水の周辺に───

 

「よし行け提督」

「頑張れ中井出」

「想定外にも程があるんですが!?」

 

 ブブルドフ・サキュファリスという、“大きなこん棒”を持ったモンステウが居たのです。サキュリファイスでもサクリファイスでもないので気をつけましょう。

 ブブルドフ・サキュファリスは一つ目の巨体モンステウであり、ドラクエで例えるとトロルのような化け物です。デブです。ハゲです。たらこ唇です。なんか口の端から舌とよだれを垂らしてます。

 ただしその個体は自らモンステウを生み出せる存在で、口から吐き出した大きな木の実のようなものがサキュファーとして成長、人を襲うというものなのです。現に今も“ゴンヴォッチョ……!”というねっとりとした音とともに、口からサキュファーを吐き出しています。大きな木の実にしか見えないそれは地面にどちゃりと落ちると、川に流れるでもなく覚醒の時を待っているようでした。

 

「やだ……! ポコペンとか誰かがつついてそう……!」

「マさんの卵吐きは、体の中でどうやって卵を精製してるのかわからんから不思議よネ」

 

 モブさんは卵もとい木の実のようなサキュファーを吐き出すブブルドフさんを見て、ハワワ……と怯えました。吐き出された覚醒していないサキュファーは、どちゃりと地面に落ちたまま動くわけでもありません。

 どうやら流れてきたサキュファーはたまたま水に落ちたものが流れてきたケースだったようで、基本的には地面に落ちて、覚醒の時を待っているようでした。

 そんな、地面がサキュファーだらけの光景の中で、モミアゲさんは「誰だよマさん」とマさんの正体に興味津々です。

 

「あーほれダーリン? マホメドアライの息子は、“マホメドアライジュニア”。OKね? ここまではOKね? じゃあマさんの息子は?」

「マジュニア……ああっ!」

 

 と納得したところで、「っつーわけでさあ行け中井出」とモブさんは背中を押されました。

 

「話の流れおかしくない!? マさんの話題続けてこうよ!」

「いやいや、敵はどうやら鈍器使いだもんな、協力したいところだが……頑張れ提督」

「グ、グムーーーっ、吐いた言葉がボスモンステウソロ攻略に挑戦することに繋がるなんて、誰が予想出来ましょう。けれどこの博光は向かいましょう。何故って、冒険とは険しきを冒すこと。欲しい物があるのならッッ!! 命も懸けずしてなにが冒険ッッ!!」

 

 彼は駆け出しました。一応クロスボウガンとボルトを数個受け取って。

 それに気づいたブブルドフさんが、ゴオオオと咆哮すると、地面に落ちていた木の実───サキュファーが一斉に覚醒します。あとついでにいきなり咆えられたことで、モブさんが「キャーッ!?」と叫びました。とてもびっくりしたようです。

 そんなモブさんの様子などお構いなしに目覚めたサキュファーが浮き上がると、びっくりして駆け足を止めたモブさんの前で、サキュファーたちがブブルドフさんのもとへと集結、大きな巨体にぶつかると、ヌムヌムとその体へと沈んでいくではありませんか。

 

「ア、アアーーーッ!! こ、これはまさかーーーっ!!」

「吸収……!? いや、合体だ! 仕掛けろ提督! なんかヤバい!」

「なにっ!? ばっ……バカモン晦! 変身シーンで攻撃だなんて、てめぇには主人公としてのプライドはねぇのか!

「いやなんでここで俺が怒られてるんだ!?」

「ちなみに俺にそんなプライドは欠片も微塵も素粒子ほどにも無いので攻撃します」

 

 クロスボウボルトが躊躇の“ちゅ”の字もなく放たれました。が、それは肥大し膨れ上がるブブルドフさんの体にあっさりと弾かれ、地面に落ちてしまいます。

 

「ゲッ……ゲェエエーーーッ!! な、なんて硬さだーーーっ! いかんこの流れは中井出がいつも通りボコられる流れ!」

知らん刺され

『《ザボシャア!!》ゴガアアアアアアッ!?

「「刺さったァアーーーッ!?」」

 

 ならばと狙った巨大な一つ目の隅にあっさりとボルトは刺さり、ブブルドフさん絶叫。こうなれば怒りを露わにし、口を大きく開けたまま剥き歯になって吼えるブブルドフさん。どうでもいいですけど口を開けたまま剥き歯になると、首がムキキって強張りますよね。

 そんな小さな隙に口へとボルトを発射され───咄嗟に歯を食いしばると、ブブルドフさんはボルトをごぎんと弾いてみせます。巨大な一つ目にボルトが刺さったとはいえ、閉じているわけでも機能していないわけでもないところは、さすがはモンステウです。ただ巨大化にともなって、目までデカくなっては狙いたい放題です。アホです。

 

「ぬおっ!? ば、馬鹿な……! 歯でクロスボウボルトを弾いた……だと……!? なんて───」

「提督っ! 油断はまずいぞ! ただでさえさっきよりも二倍三倍はデカくなってる! 身体の硬さとかだって───」

「───なんてカルシウムしてやがる……! このモンステウ、絶対健康馬鹿だぜ……!?

感心するとこそこじゃないだろ!!

「なんだとモミアゲこの野郎! そんなの俺の勝手だろうがこのクズが!!」

 

 モブさんがブブルドフさんの日々のカルシウム摂取量に驚く中、未だに肥大化を続けていたブブルドフさんは、ついに巨人ばりの巨体へと変貌を遂げていました。

 こういう時に一緒に大きくなる衣服や武器っていったいどうなってるんでしょうね。謎です。というわけで、腰回りを隠すように存在している腰蓑のようなものや、こん棒がデケェです。


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