【ケース22:ビッグバトルオーガスト】
こん棒スキル取得のため、モミアゲさんとトンガリさんが離れた位置の木の陰からモブさんを見守る中、モブさんはソロで巨大モンステウを見上げ、どこかウキウキした様子でモミアゲさんに声を投げます。
そのうちにブブルドフさんは大きな目に刺さったボルトをヌボチャアと引き抜きます。
「ねぇねぇ晦! こういう時のビッグモンステウって、やっぱキャンテャマとかもビッグなのかな!」
本人、よそ見をしてキャンテャマの話なんぞをしておりますが。
「なばっ……なばななななんてこと訊いてんだこの馬鹿! いいから戦いに集中しろって!」
「今一番集中してないキミにだけは言われたくない」
「誰の所為だよ!!」
「馬鹿野郎! 自分の不甲斐なさを人の所為にするなど恥を知れ!!」
「だからなんで俺が怒られてるんだよもう!!」
「てーかそれ、中井出にだけは言われたくねー言葉じゃと思うよ?」
「バカモン一等兵この野郎! もっと広い目で世界を見ろ! 俺のように恥も知ってる上であんなこと言うヤツより、恥知らずのまま言うヤツの方が圧倒的に多いじゃないか!!」
「「自慢にもならねぇよそれ!!」」
ギャアギャアと騒ぎながらも戦いは続きますが、言った通り敵モンステウであるブブルドフさんの体はさきほどの比ではありません。ありませんが、恐怖よりもまず彼の興味は
フリーザ様のようにつるりとした造形ならば、そもそも隠す必要などないのですから。
「い、いや悠介。これは確かに謎な話じゃぜ? そもそもこのモンステウの繁殖能力がどういった方向から来るものかで、グワッハッハの有無にも影響が出てくるだろ……!」
「なんでそこで繁殖能力一辺倒でしか考えられないんだよ……排泄能力の有無も考えろたわけ」
「!!」
「!!」
モミアゲさんの言葉に、トンガリさんとモブさんが彼を指差し“!? ァやっべそれがあったそうだよそうじゃねぇかヤッベェーッ!”という顔をします。
「いや彰利はまだいいとしても提督はこっち見てまで驚いてる場合じゃ───!」
「《ゴシャーム!》ギャアーーーッ!!」
「提督ーーーっ!?」
振り向いて指差して驚いていたモブさんが、踏み潰し一発で昇天めされました。
「ひ、ひでぇ……! 中井出、自分の実力を自分なりに分析して戦ってたのに……! 必死だったのに……! ダーリンがあんな、目から鱗滝さんレベルのことを急に言うから……!」
「だから人の所為にするのも大概にっ……誰だよ鱗滝さん!」
なお、必死な人は戦いの最中によそ見をしたりしません。
そして死んでも復活する彼はあっさりと復活。ブブルドフさんを大いに混乱させるとともに、クロスボウを構えて体勢を低くし、走る準備をします。
「ヌハハハハ! さあゆくぞ! 反撃開始だ! こういう時ってなんか“いくぞ”よりも“ゆくぞ”って言いたくなるよね! こればっかりは“そうゆう”って文字を見ればすぐに“そういう”だろうが~とか注意する人だって同意するんだぜ!」
「「あ、それはわかる」」
トンガリさんとモミアゲさんが頷いてまで同意する中、彼は走りつつボルトを発射します。が、どれもだらしがないながらも弾力あるブブルドフさんの肉体に弾かれ、目を狙ったものさえこん棒で弾かれ、ダメージには至りません。
『ゴガアアアアッ!!』
ブブルドフさんの反撃です。こん棒を振り上げ、その時点でゴォッフォオゥンという大量の風を巻き込んだ振り上げに“あ、やべぇ”と思いましたが構わずツッコミます。もとい突っ込みます。
やがてそれが自分へと振り下ろされた時、漫画などでよくある“直前横ッ跳び避け”を披露してみせたのです。上からの攻撃にはこれです。巨大生物と戦う時は、なんか横に大きくシュパーンと跳ばなければいけないんです。何故か。
「《ビビスビスビス!!》ギャアーーーッ!!」
「「ア、アアーーーッ!!」」
けれども所詮凡人の跳躍なので距離が取れるわけでもなく、ほぼ真横の地面を殴り砕いた巨大なこん棒は、すぐ横に居た彼へと土や石を容赦なくぶつける結果となったのです。
次いで、横跳びの勢いと風圧でザムゥ~と無様にも地面に倒れたモブさんは、持ち上げられ、降ろされたブブルドフさんの足であっさりと踏殺されたのでした。
ちなみにブブルドフさんの元の身長は成人男性の二倍ほど。サキュファーを吸収した大きさはさらにデカいです。元の横の大きさは肥満も肥満でしたが、今では腹筋も見事なシックスパック……ではなく、脂肪を無理矢理に横や縦に伸ばしましたみたいな体でした。が、体重はハチャメチャです。そりゃあ踏まれれば死にます。
「………」
「ば、馬鹿な……! 中井出ヤロウ、やりやがった……! 洗脳系モンステウ相手に、一度も洗脳を使わさず負けてみせるとは……!」
「いや、彰利、無理に提督がやり手だった、みたいに言わなくていいから」
「オウヨ。で、中井出がいつも通り即座に復活した様子がねーんじゃけど。あやつ何処行ったん?」
「へ? あ、そういえば……」
「………モンステウがこっち見たね」
「へ? あ……見てるな。ていうか、こっち、来てるな」
「………」
「………」
あ、これやべぇ。そう思った瞬間、ブブルドフさんのだらしのない腹部から、ドシュリと尖ったものが生えます。
何事!? と驚く間に二本三本と増えてゆき、もしやあれを生やした状態で熱い抱擁をする気なのかと想像すると、モミアゲさんもトンガリさんもしこたまに戦慄しました。
『ゴギャアアアアアアアアッ!!』
しかし様子がおかしいのです。
「ややっ!? 何事!?」
「自分で自分を……殴ってる……?」
ブブルドフさんが叫び、自分の腹を殴り始めました。なにやら相当焦っているかのように。
仕舞いには喉に手を突っ込んで、なにかを引きずり出そうとしているかのような行動まで取るのです。
「アー……」
「復活場所まで選べるって、強いよなー……」
二人はなんというか想像がついてしまいました。ていうか絶対やっています。
そうこうしている内にドドスドスドスと腹から尖ったなにか───恐らくはクロウスボウボルトが生えてくると、もう確信に至ります。
よほどに焦った様子のブブルドフさんが一層に腹を殴る様を見れば、もうこれは勝ったな、なんて思えたりもするもので「ギャアーーーッ!!」……あ、死にました。……中身が。
「提督ーーーっ!?」
「エェエエエエッ!? きょっ……えぇっ!? 巨大生物の腹ン中に自ら入って、外側から殴られて死ぬヤツなんて、フィクション含めて初めて見たよアタイ!!」
「《パパァアア……!!》いつも心に世界初……こんにちは、中井出博光です」
「うおまぶしっ!」
「だから光とともに降りてくんじゃねぇってなんべん言えばわかっとや!? つーか敵の腹ン中に入ったなら、フツー吐き出されるかするでしょ! なに死んどんのキミ!」
「しょうがないじゃないか! なんか必死にボルト込めてる時にドゴォバゴォ殴ってくるんだもん! しかも胃酸が強すぎて溶けるし! 中に木の実がありまくったからなんだろって思ったら全部サキュファーで、俺を認識するとみんなして起き上がって洗脳してくるんだよ!? 胃酸でダメージ受けなきゃ正気に戻れないわ戻った途端に洗脳されるわ、体が勝手に全裸になろうとするわで大変だったんだかんなー!?」
「あー……道理でボルトが飛び出る間隔が妙に空いたり空かなかったりしたわけだ」
「でもそれじゃあ、これからは全力でサキュファー吐いてくるんじゃねぇの?」
「あ」
「あ、それなら平気さ! 一番最初に胃袋の入り口のところに、ボルト打ち込みまくって塞いできたから」
「それお前も出られないヤツだろ!!」
「うん、やって少ししてから気づいたんだ僕……。溶かされて洗脳されておっほっほっほ~元気だって言いながら、なんとか俺を吐き出そうとする胃壁と胃酸にドッチャモッチャ揉まれまくるの……。生きながらにして、“あ……地獄の拷問があるなら、こんなのなのかな……”って妙に悟っちゃって」
「………」
「………」
胃の中から巨大生物にダメージを与える。フィクションではよくありますね。でも生きる算段、回復手段が無いのならオススメしません。彼は笑顔でそう言いました。
「で……巨大モンステウが大層苦しんでらっしゃるんじゃけんども」
「そりゃ強酸湧かせる胃に穴が空いてるんだし、内側から自分が溶かされてる感じなのでは?」
「強酸って……どげなレヴェールで?」
「疲れた体に炭酸ガスのバヴをどうぞ、って風呂に入ったら、あの体につくシュワシュワがマシュマロを焼く泡型の炎だった、みたいな感じ。微粒のシャボンランチャーに襲われたワムウみたいな。しかも痛覚麻痺成分まで入ってるみたいで、気づけば足が溶けてましたァン★ なレベル」
「怖ッ!?」
「まあでも自分の胃酸だもの。結構すぐ溶けるんだね……仕方ないね。というわけで自分の胃酸で苦しんでいるモンステウに、無慈悲なるボルト地獄を」
「提督……あんたほんとひどいな」
「殺されたなら殺さなきゃ。やってきた相手をいきなり殺しにかかる存在に慈悲などいらぬ!」
そんなわけで、と。モブさんはモミアゲさんに鈍器スキル取得のための鈍器と、他には次々とボルトを創造してもらい、ボルトが突き出た腹部を狙って次々とボルトを発射します。
ボルトが突き出ている所為で腹部を締められないブブルドフさんに、ついに外側からの攻撃が通用。ボルトは突き刺さり、けれど浅く刺さったそれをすぐに剛腕で払っては、内側から突き出たままのボルトさえも払ってしまい、激痛にのたうち回ります。
「あいつ、馬鹿かもしれない」
「これダーリンッ……! 言ってやるんじゃありんせん……!」
けれどもこれで終わるブブルドフさんではありません。彼はなんと、持っていたすごく……大きなこん棒を振り上げ、モブさん目掛けて投擲してきたのです。
「フッ……笑止」
しかしただで潰れるモブさんではありません。彼は左手を軽く持ち上げ手の平を下にした状態で右肘の下に。右腕は前に突き出し肩の高さまで持ち上げ、肘から先を上に向けて手の平も上に向けた状態で構えたのです。
こんな状況でなにを───と息を飲むどころかツッコもうとするモミアゲさんやトンガリさんをよそに、彼はニコリと笑いました。
そう、この構えこそ矢でも鉄砲でも火炎放射器でも対応可能、受けの最高峰たる廻し受けの
「《ギョバシャア!!》ギョッ───」
死にました。
「「中井出ぇえええーーーっ!?」」
マ・ワ・シ・ウ・ケ……見事な……どころではありません。
ドリアン氏が初めて火炎放射をした際に見せたあの構えより派生、廻し受けを披露した瞬間、彼は圧倒的なる巨大こん棒の圧に負け、肉片と化したのです。
潰れた際に漏れ出た音も“ギョッ───”という謎の言葉だったので、遺言もなにもあったものではありません。こういう時に半身だけはなんだか残って、からがらなる命なのにやけにしつこく喋る伝統行為をすることもなく死にました。
言った通り、ただで潰れるモブさんではありませんでした。足掻いて潰れました。それはなんの意味も成さない足掻きではありましたが、ただではやられぬという確固たる意志が確かに───いえ、ただやりたかっただけでしょう。
「このヤローーっ! あんなチンケな技でこの提督さまにケンカを売ろうとは10年早いぜーっ!!」
で、復活したらしたで創造してもらっていた鈍器を手に、蹲り苦しむブブルドフさんへと鈍器を振り下ろしまくるのです。
チンケな技もなにも、一撃で死にましたが。なんならただ投げただけのこん棒の威力によっぽどびっくりしたのか、今でも涙目ですが気にしてはいけません。
「……いンやぁ~……我らが提督、ちっさいなぁ……」
「清々しいほどにちっさいな……いや、うん。まあ提督だからこそ小さいんだけどな……うん……」
「あ、掴まれた」
「握りしめられてあっさり死んだな」
「死の抱擁で死んだクレマンティーヌ様もびっくりの血液の噴水だぁね」
「あ、復活した」
「なんか、“今のはあれだから! アトランティスのセントヘレンズ大噴火だから!”とか必死に言い訳s……あ、死んだ。結局死んでんだから、死因に拘んなくてもええのに……あ、復活s……あ、死んだ」
「提督ー! いいから戦いに集中しろ集中! 言い訳とかいいから!」
「おお、集中しだした……そして一撃でコロがされる我らが提督、と」
「まあ……提督だしなぁ」
「てーかこげなところにあげなモンステウが居ること自体間違っとんのよ。て、もう復活した。そして鈍器で襲い掛かっては一撃でブチコロがされてるのう」
「ダメージ1でも通れば、いつかは倒せるわけだしな。妙に感心するところではあるよな、あれだけ死ぬと普通は心が折れると思う」
「あ。足の指の先端とか細かいところ狙い始めた───ってうぉあ小指行った!! 鈍器で小指!
『ホォンギャアアアアアアッ!!』
「だぁああうるせぇっ!! ってそりゃ叫ぶわ! あれ絶対小指砕けただろ!」
「あーあーあー……内側は胃液でやられて、移動のために踏ん張る小指は砕かれて……なんかモンステウの方が可哀想になってきたよアタイ……あ、また死んだ」
「痛みで暴れてるモンステウに巻き込まれて死ぬって……提督よぉお……」
ブブルドフさん、絶叫。小指を砕かれ、咄嗟に足を庇った拍子に転倒しました。それに潰されて死亡したモブさんはしかし、復活と同時に倒れたブブルドフさんの下半身の傍に降り立ちました。そして、無防備に痛がっている彼のオウゴーン目掛け、ゴチャアと創造してもらった鈍器を振り下ろしたのです。モンハンで言うところの溜め3の振り上げスタンプです。
これにもはやりブブルドフさん絶叫も絶叫、大絶叫。雄々しき声が裏返りエンジェルヴォイスになるほどの高音域に達すると、けれどブブルドフさんは“ただではおかぬッッ!!”とばかりの形相で立ち上がり、モブさんを