ボケ者どもの理想村(ムラビディア)   作:凍傷(ぜろくろ)

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クズスキルさん

【ケース23:彼が与えたダメージはそんなに無かったそうです ~ほぼ胃酸ダメージの村人伝説~】

 

 歯を食いしばりすぎたのか、口の端から赤の混じった泡をこぼしているブブルドフさんを見て、モブさんはじわりと湧いてきた唾をごくりと飲み込み、軽く喉を湿らせると口を開きました。

 

「───内股で 涙目で立つ モンステウ

川柳吐いてる場合かドアホ!!

「ぼ、僕の勝手だろ!? だが見たまえ一等兵諸君! 僕今にも勝て《ゴボチャア!》ジョッ!」

「「中井出ぇええーーーっ!?」」

 

 子供のように喜びを隠しもせずに、親指で自分を指して勝てそう宣言をした彼は、痛みを我慢して放ったブブルドフ・スレッジハンマー(個人が両手で恋人繋ぎをして振り下ろすアレ)で潰されました。断末魔はジョでした。

 けれどもすぐさま復活した彼は、復活位置をブブルドフさんの頭上に設定していたために重力に従って落下。手にある確かな鈍器の感触を確かめて、すごく……大きく振りかぶるのです。

 

「モコモコ! 会心の一撃!」

『ゴガッ!? ガァッ!!』

「《ベパビタァーーーン!!》ギャアーーーッ!!」

「「中井出ぇええーーーっ!?」」

 

 そして、よせばいいのにわざわざ攻撃宣言をした所為で気づかれ、ビンタで叩き落されて地面に激突。運の悪いことに丁度突き出ていた岩石に脇腹から落下して、悶絶しているところをブブルドフ・ハンマー(握った拳の小指側の側面のアレ)で潰されました。

 けれどもやはりすぐさま復活した彼は、ブブルドフさんの足元を復活位置に指定したためそこに現れ、やはりすごく……大きく振り被って鈍器を振るうのです。

 

「ザ・グレート・ベイケイ!!」

『《ドゴォ!!》アンゴァアアアアッ!?

 

 痛みで上手く防御に専念できないブブルドフさんは、弁慶の泣き所へと痛打を受けてしまいます。

 

「さあどうです、存分に後悔なさい。あなたには今から十数える間だけ、後悔する時間を」

『ホンガァッ!!』

「《バゴシャア!!》ギャアーーーッ!!」

「提督ーーーっ!?」

「中井出ー! BLEACH史上超絶最強の飛び道具使いであらせられる一貫坂慈楼坊(いっかんざかじろうぼう)、またの名を鎌鼬慈楼坊(かまいたちじろうぼう)さんの真似とかいいから真面目に戦えっつーのォオ!」

「グビグビ……」

「あ、だめだ、あやつ殴られて普通に脳震盪起こしておるわ」

「提督ーーーっ!? なんだってあんたはそうここぞって時に普通すぎるんだよもぉおおおおっ!!」

 

 ピンチの時にはチャンスが待っている。物語ではよくある話ですね。けれどそんなものは主人公のみが、もしくは主人公に近しい者のみが得られる栄誉です。

 激烈凡人最弱有敗モブリアーノ公爵様なモブさんごときがそんな機会を得られるかと問うのなら、「《ゴシャーム!》ボッシュ!」無理です。踏み潰されました。

 

『ハガッ……ハガァアッ……! ハガッ……!!』

 

 モブさんを仕留めたブブルドフさんは、息を荒げながらももちろん警戒します。次はどこから来るのかと、それはもう痛みに耐えつつ意識を尖らせるように。

 けれども待てども待てどもモブさんは現れず、つい『ホガ……!?』と首を傾げてしまいますが、やがては勝利という言葉が頭の中に浮かんでくると、ブブルドフさんはプラトーンのポーズで喜びを解放し、直後に股座に復活したモブさんにオウゴーンへの痛打をプレゼントされました。

 

アオォオオオオォォォォッ!!

 

 激痛です。悶絶です。

 耳を(つんざ)くほどの絶叫とともにブブルドフさんは両手を股間で挟むような恰好で、ドッタンバッタンと暴れ回ります。

 

「よっ……」

『ゴギャァアッ!?』

 

 そんな激痛劇場のさなか、暴れると余計に響くと気づくや震えながら落ち着きを見せるブブルドフさんの目に、モブさんはヴァサァと砂を投げかけ目潰しをします。

 

「あれだけの猛攻を受け、暴れ回る余力があるとは中々の腕前、お見事。出会った相手がこの博光でなければ、今少し長生きも出来たでしょう……後悔なさい。あなたには今から十数える間だけ、後悔の時間を差し上げます」

「だっ……だぁから提督! そんなこと言ってる場合じゃ───」

。───死ねぇえええぇぇぇぇっ!!

「「うぅわ()ッたねェ!! “十だけ”数えやがったぁああああああっ!!」」

「《ゴシャーム》ギャアーーーッ!!」

「「そして死んだァアアーーーッ!!」」

 

 そして目の痛みからかブブルドフさんががむしゃらに振るった拳がクリーンヒット。一撃のもとに死亡しました。

 けれどもめげません。復活するや攻撃を仕掛け、無事な足の指を潰してはコロがされ、爪と肉の間にクロスボウボルトを発射してはコロがされ、そうした地味な嫌がらせ攻撃を続けた先に───

 

「よっ……! お、重いねアンタ……!!」

 

 新しく創造してもらった大きい金づちを両手で持ち上げ、足と指を丁寧に潰され、疲れ果てて仰向けに転がるブブルドフさんの額目掛け、それを振り下ろしたことで───この戦いはようやく終わりを迎えました。

 散々殴られた頭骨がゴシャアと砕ける音が鈍器を通して伝わると、途端にブブルドフさんの巨体が光の塵となって消えます。

 

ナンバーワーン!!

「「うおぉおおーーーっ!!」」

 

 そして彼はネプチューンマンのように決めポーズを取ると、仲間たちに己の勝利を伝えるのでした。

 が、それだけでは終わらなかったのです。

 

「うおっ!? な、なんか体が熱い!? 身体がメコモコ躍動しているような……! に、肉が! ワシの肉がァァッ!! ───なんという柔らかさだ……!!

「「凶徒の拳やってる場合か駄阿呆(ダァホ)ォオッ!!」」

 

 モブさんの体が赤くなり、体のあちこちがメコモコと躍動を始めたのです。

 そして彼の目の前には半透明ウィンドウが出現し、レベルアップを報せる文字列がうざったいほど。

 

「ギャーッ! これレベルアップの反動だ! 身体が! 身体が一気に作り変えられてゆくーーーっ!!」

「おっ……おぉおおお!? 中井出が! 中井出の体がアナボリックステロイドパワーアップを繰り返したジャック・ハンマーのように!?」

「ていとっ……中井出!? 大丈夫か!? 中井出ーーーっ!!」

 

 身体は躍動を続けます。腕を見てみれば、まるで腕の内部を巨大なミミズが移動しているかのように盛り上がったりへこんだり。

 けれども不思議と痛みはないので、彼は冷静にニコリと笑ってみせると、体を多少斜に構え、左手首を右手で掴み、全員に渾身の力を込めていくのです。

 

ンゥウンッ!!《ボゴォンッ!!》」

 

 右手が握った手首から肩にかけてが隆起して。

 

アァーッ!!《バゴォンッ!!》」

 

 順を追うように胸が、首が隆起して。

 

「───はいっ! サイドチェストッ!!

 

 やがて顔面以外の全ての部位がはちきれんばかりに隆起した勢いで、トランクス以外が弾け飛びます。

 その姿はまるで、完成されたボディビルダーのようです。もちろん素晴らしい笑顔を見せることも忘れません。スマイルはポージングの基本ですね、白く輝く歯を見せつけてやりましょう。

 果たして、戸惑いつつも様子をうかがっていた二人の反応は───

 

「すっ……すげぇ!」

「中井出すげぇ!」

「中井出すげぇキモい!」

「キモい!!」

 

 キモかったそうです。

 

「………」

 

 あとに残されたのは、見るも無惨に千切れ飛んだ衣服たちでした。

 モブさんとしては、“せっかく体が躍動しているのでポージングでもしてみよう”……そんな小さな好奇心からの出来事でした。

 しかし、いざどこぞの街雄さんの真似をしてみると、筋肉は望んだ通りに呼応し膨らみ、そこにはサイドチェストのポージングで微笑む合成写真のようなゴリマッチョボディのモブさんがいらっしゃいました。

 そして突然の隆起に耐えられなかった衣服がトランクス以外弾け飛び、全裸ではないにしろ、彼は“トランクスのままの行動を自ら選択してしまった”みたいな状況に追い遣られてしまったのです。

 

「あ、あのー……晦? 服、創造……」

「また破られたらかなわないから断る」

さ、残りの目的を果たしましょうか? トォランクス王子ィ……?

「パラガス調にトランクス王子言うのやめて!?」

 

 ちなみに筋肉の隆起はすぐに収まり、現在はさっきよりも少し逞しくなっただけの博光です。

 レベルは一気に20ほど上がったようで、そのために肉体が驚いたようでした。

 

「ハッ!? そ、そうだ、スキル! スキルはなにかー……! アッ、アアーーーッ!!」

 

 早速といわんばかりに泉の調査を始めたモミアゲさんとトンガリさんはさておき、モブさんは自分のステイトとスキルを調べます。トランクス一丁のまま。

 すると、

 

「……鈍器使い。切れ味が悪いものを使うほど、威力が高まる」

 

 スキル:鈍器使いの文字を見つけます。最初はよかったのに、あとになると隅に追い遣られていそうなスキルでした。

 けれども構いません。彼はニコォと笑うと、手に入れたスキルポイントの全てを鈍器使いに注ぎ、鈍器使いが進化してベテラン鈍器使い、プロ鈍器ャー、やがて“鈍器の筋道を往く者”……即ち鈍器オーダーまで進化させると、「……アッ! しまったつい……!」と焦りました。

 別に自分は雑魚のままでも構わないのですが、これからのことも考えてURを鍛えるべきだったか、という考えが浮かんでしまったのです。

 なお、ひとつのスキルを極め、進化させるには10P必要だったので、20のレベルアップで手に入れた60Pを全部振り分けても、40を消費した程度です。

 ならばと残りのポイントを全てURに注ぐと、再び複雑な復活条件の解放と、効果人数の上限が増えたのでした。

 

「………」

 

 少し気になって、最初に創造してもらったこん棒を振り下ろし、石を叩いてみます。

 ……コィーン、と綺麗な音が鳴って、石が割れました。力はそれほど入れていないのに。

 

「………」

 

 スキル:鈍器オーダー……“鈍器殴打”の説明欄を見てみます。

 

 ◆鈍器殴打───ドンキオーダー

 鈍器使いのスキルをマスターした証。

 鈍器を使った際に他の武器では得られない恩恵を受け取れる。

 手に持つ装備が硬ければ硬いほど破壊力向上。

 しかしこの世界ではそれほど硬いものが発見されていないため、長い歴史の中ではクズスキルと言われている。

 上位モンステウの甲殻などはそれは硬いものだが、その硬さも対象が生きている時までの硬さであるため、討伐して素材にしようとしても柔らかいものになってしまう。

 魔法鉱石なども使えるには使えるが、そもそも鈍器使いなどで引き出せる能力向上値が少なすぎて、この世界にある硬度では他の武器やスキルで出せる強さに追い付けていない。

 つまり、クズスキルである。

 

「………」

 

 説明文を見たモブさんは、猫口で目は大変嬉しそうです。

 クズスキル。なんというステキな響きでしょう。村人を目指す彼にはとても素晴らしく素敵な響きに聞こえます。

 

「しかしなるほど……つまり、剣スキルは剣の威力をスゲェ引き出せるものがあるのに対して、鈍器使いは満足に能力を引き出せるほど、硬いと言える物質がねーと」

 

 同じ材料で作った剣と鎚があったとしても、その硬さじゃあ剣スキルを使った剣の強さには届きません、ということなのでしょう。

 スキルは最上級にしたというのに、世界にある硬さでは満足な破壊力を引き出せません、とか外道もいいところです。鈍器能力に恨みでもあるのでしょうか。

 

「なるほどなるほど、つまり硬けりゃ武器になると。……頭突き!」

 

 とりあえずジャンピング土下座で地面に頭突きをしてみました。……額から血がドゥシャーと吹き出ました。それはそうです、頭骨というよりは額での攻撃になるわけですから。

 

「グ、グウウ……! 確かに硬さは伝わるんだろうけど、その前にこの博光が雑魚すぎて衝撃に耐えられそうにないとか……!」

 

 悲しみの事実です。が、それとは別にとりあえずなにかにぶつかって死ぬ時は頭から行こうと心に誓ったのでした。

 

「おーい提督ー!」

「中井出ー! 早う()んねー!」

「お、おー!」

 

 ひとまずは後で考えるとして、彼は二人が待つ泉の傍までを駆けました。




 ◆補足
 パラガス調言語:“勘違いするな”を“かぁんちがいするな”と喋る、ねっとりとした味わい深い喋り方

 肉が! ワシの肉がァァッ!:劇場版ハート様

 なんという柔らかさだ……!:アニメ・ミスター味っ子第9話ステーキコンテストの小西さん

 凶徒の拳:BM98界で愛を取り戻さない物語

 プラトーンのポーズ:地面に足を大きく開けて膝立ちをします⇒両手を挙げて仰け反るように空を見上げます⇒この時、肘は少し曲げて、腕は斜め上に広げるようにしましょう⇒はい、『プラトーンのポーズ』
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