【ケース24:伝説の聖剣。……伝説じゃない聖剣ってどんなのだろうって考えたけど、クエクエ3で最後に装備してたのがロトシリーズになるなら、こん棒だってそりゃ伝説の剣になるわ。剣ですらないのにこん棒やお鍋の蓋や布の服が剣や盾や鎧になる。スゴいね、伝説!】
辿り着いた泉は、透明度がやたらと高く、透き通っていました。なんなら底の方まで余裕で見えるほどです。そして生き物らしい生き物も居ないことから、水の中は水棲生物が生きるには適していないことが予測できます。
恐らく浄化作用が強すぎて、そういった生物が食べるような微生物も生きていられないのでしょう。それが山を下りる中で段々と消え、生物が生きるまでになったというのが村に流れる川なのだと思われます。
「……《ぴちょり》
トンガリさんがおもむろに水に触ってみますが、冷たかったようです。
「えーと……ねぇ晦? 僕らサキュファー調査に来ただけだよね? これで村に平和が戻ったならさ、もう戻らない? ほら、晦がウホレヒやって、悪魔以外を呼べるかどうかしっかり確かめなきゃだし」
「いやー……それなんじゃけどもね、中井出YO」
「なんだYO、こういう場合の引き留めって絶対いい方向に話が進まないから、僕もう帰りたいんだけど敢えて聞くよ」
「オウヨだぜ、テメーならそう言うと思っただぜ。つーわけでほれ、あんまりにも透き通った水じゃからYO? 底ン方になんぞかあるかなーって見てみたんじゃけど……ほれ、あそこ。見える? あそこ」
「ヌァン? なにかあるか? ンンー……、……なんかあるな」
「アタイがアルティメット・アイでパワ~っと視力UPして見てみた結果、なんかあれ剣っぽいのよね」
「剣とな?」
アルティメット・アイ。なんか視力が良くなるキン肉マン二世で存在した謎の技です。ケビンマスクとスカーフェイスが使えます。
「で……水の底にあるような剣じゃぜ? ありゃぜってー水属性の剣にちがいねー。ほらあのー……あ、あくあー……う、うぉーたー……?」
「水属性の剣ってあんまり聞かないよなそういや。モンハンとかならあるんだけど」
「そうよね? 火だったらフレイムタンとかフランベルジュとか?」
「氷だったらアイスブランドとかな。名前で選ぶならファイアブランドが俺のジャスティス」
「ギュスターヴ様か」
「ギュスターヴ様だ」
モミアゲさんそっちのけで、モブさんとトンガリさんが語ります。
ちなみにギュスターヴ様はファイアブランドの所為でいろいろあったので、それで連想するのはどうかと思います。
「で、話を戻すが」
「オウヨダーリソ」
「戻すほどの何かを見つけたのか」
「毎度話の腰を折っておいて、よくもまあ相手にばっかり頼り切りの言葉を吐けるなぁこの提督はぁあ……!!」
溜め息ひとつ、話を戻します。
「そもそもサキュファーが川を辿るみたいに降りてくるから、こうして調べに来たんだ。その元凶であるさっきのモンステウを倒したなら、もう出てこないかもだが……」
「………」
「………」
「だが、って言った途端にニヤニヤするのやめてくれほんと」
「おっほほいやいや、実際そんな口調、小説とかじゃなきゃ聞かねーべョとか思ってねーから続けて続けて」
「そうそう、主人公の心の中とかじゃなきゃ“だが”とか見たり聞いたりしないよなーとか思ってないから」
「おぉまぁえぇらぁああ……!!」
「よくあるツッコミどころは、清楚系のおなご視点の時の心内ネ。その時に“だが”とかあるともうブッフォオってなっちゃうのよね!」
「わかるわかる! たまにああいうの見ると“一人称が僕の主人公より男らしいなオイ!”とか思っちゃうよな!!」
「じゃあホイダーリン続き続き」
「………いやほんと。話の腰折りまくるのやめてくれな」
「今さらじゃないか? もう複雑骨折級だろ話の腰」
「腰痛どころの騒ぎのじゃねィェー」
「複雑骨折も粉砕骨折も同じ意味だ、っていうか俺からしてみりゃ開放粉砕骨折レベルだたわけ! いいから話! 進めるぞ!」
「「グ、グゥムッ……」」
黙らされたので清聴開始です。
モミアゲさんが水底の剣をちらりと見てから話を始めたので、二人も剣を見下ろします。
太陽がよく差し込むこの山の泉の水底で、けれどまったく錆びた様子もない剣を。
(なぁ彰利。……聖剣伝説2の聖剣でさえ、水に沈んでなくても錆びてたのに、水底の剣が錆びてないことにツッコミ入れたいの、俺だけ?)
(ああそれアタイも思った。沈んでからあんま時間経ってないんかね?)
「……目の前でコソコソ話をするなっつーのに」
「気になることは突き詰めたいだろ? ああでも、結局さっきのサキュファーの親玉みたいなヤツと、あの剣って関係あるのかな」
「悠介! キミの意見を聞こう!!」
「進めさせなかったのは誰だこの野郎!! ~……ええっとだな、ああいう剣があって、ああいうモンステウが居るってことは、あの剣があそこにあるのにはなにかしらの理由があるんじゃないか?」
「簡単すぎてヘドが出ますぜー!! はいダーリン! はいはい! アタイアタイー!!」
トンガリさんが目を輝かせて手を挙げます。元気です。
「わぁった! わぁったから本当に目を輝かせるな!」
「オウヨ! 禍々しいモンが沈んどんのに水がどんよりするどころか、死神属性が強ェエエアタイが触るとちと刺激を感じた。さらに巨大モンステウがうろうろしてたってところから、恐らくあれはモンステウが守る理由があるモンか、はたまた誰かの手に渡るのを防ぐ理由があるモンだ。んで、水が澄んでいるってェところを振り返ればそりゃもうひとつ。そう……真実は、いつもひとつ!! 身体は高校生! 頭脳は人並み! 迷宮に入ろうとは思わんからそもそも迷宮無しの名探偵! その名は!」
「ドスコイカーンか」
「違ェよ中井出この野郎!! ああでもいいや、そろそろダーリン本気で怖いから」
コホンヌと何故か普通に咳払いを口で言って、トンガリさんが説明を始めます。
名探偵の名前も気になるところですが、ドスコイカーンの名前の由来並みにどうでもいいことでしょう。
「つまりあれは、いわゆる聖剣に分類する剣に違いねー」
「マジかよドスコイカーン」
「そんな理由があったのか、えっと、ドスコイカーン」
「なしてアタイドスコイカーン呼ばれとんの!?」
「だって今お前“ああでもいいや”って」
「ああ言ったな。よろしくなドスコイカーン」
「それダーリンが言う!? 話の腰自分から折りに来とんじゃねーのYO!」
「黙れドスコイカーン」
「そうだぞドスコイカーン一等兵、いい加減話の腰も治療してやろうぜ……?」
「ドスコイカーン一等兵!?」
ちなみにドスコイカーンとは相撲の“どすこい”の掛け声のきっかけとなった伝説の人物の名前です。
「とりあえずアタイはドスコイカーンじゃねーってことで、話を戻そ? ね? あれは聖剣に違いなくて、たぶん古くからこの泉にあるものじゃぜ? んで、この泉を浄化し続けているに違いねー。そげな聖剣を勇者的な誰かに奪われるのを、魔王軍幹部的な誰かが恐れたのよ。なんかこー、物語的に紐づけると」
「マジかよドスコイカーン」
「そんな理由があったのかドスコイカーン」
「だからドスコイカーンじゃねぇっつっとんデショ!? 話の腰折って悪かったから話戻すべ!? ネ!? 話の健康状態が下半身不随とかになりそーだから! ネ!?」
「いや、なんか語呂がいいっていうか。なんか素敵じゃないか? “マジかよドスコイカーン”って」
「マジかよドスコイカーン」
「誰がドスコイカーンだドスコイカーンてめぇ!!」
「……わかった、とりあえずドスコイカーンから離れよう。な? 彰利、提督」
「……とりあえず今彰利にあだ名つけるとしたら、トンガリカーンだな」
「なら中井出はテイトクカーン?」
「それ言ったらお前、晦なんてモミアゲカーンじゃないか」
「モミアゲ言うな」
ちなみにドスコイカーン伝説の話で戦っているお方はフビライカーン氏です。フビライハーン氏とは関係がないので気をつけましょう。
「しかし浄化され続けてる泉か……もし逆で、死神属性だからこそ軽い刺激で済んでるほどの猛毒とかだったらどうしよう」
「猛毒って……どげなレベルで?」
「そりゃ男塾の話が出たなら、象をも瞬時に殺せる毒だろ」
「アッ……そういや男塾ってなんでか、毒といえば象を殺したがっとったね」
「そうなのか?」
「オウヨ」
「毒の説明といえば、象をも殺すとか巨象をも殺すとかな説明だったぞ。そして何かを試す実験台になるのは大体動物。これ、男塾の基本」
「そげな毒が塗ってあるスリケンを素手で持つ人もどうかと思うけどネ」
「つまり結論」
「世の中に“ゆで理論”が存在するように、男塾に対するソレってどーなの? な物事の謎の大体は民明書房で解決するZE!」
「というわけで話を戻そう今度こそ。で、あの剣どうする?」
「そりゃオメー……ボスモンステウ討伐は中井出がやったんじゃし? 聖剣ってことは悠介じゃね?」
「いや、そもそもの話、俺は彰利の聖剣の話をされてたから、てっきり提督が取りに行くものかと思ってた」
「聖剣の話? ……彰利?」
「オウヨしたぜ? っつーかキミもそもそも聖剣欲しかったんしょ? 鈍器スキル欲しかったのもそのためじゃし」
「や、そりゃそーだけど」
主人公差し置いて、取ってもいいものか。そもそも主人公じゃなきゃ抜けねーとかありそうじゃない? と語ってみると、「「あー……」」と二人は頷いてしまいます。
主人公云々を置いたとしても、なんだかモブさんでは抜けそうにないと妙に納得出来てしまったのです。
「わかった。彰利が触れると刺激があるっていうし、俺が行ってみよう」
「オッ、ダーリン積極的ィ。まあでもほれ、まずは触ってみて平気かどーかじゃぜ?」
「っと、そだな。あー……《ぴちゃり》……冷たいけど、べつに刺激とかはないな。むしろ心地良い感じ……か?」
「マジでか。じゃあ凡人たるこの博光は……《ぴちゃり》……べつになんも感じないな」
「……所詮中井出か」
「提督だもんなぁ……」
「フフフ、僕が凡人だからって二人して担いでやがる。どーせ二人とも実はなんにも感じてないだそうに決まってるさグオッフォフォ」
「いやほんに感じとるからね? マジで手ぇとか突っ込んどったら終いにゃ火傷しそーな刺激とか感じとっから!」
「じゃあ潜って聖剣にタッチしてみろよォ~。ほんとに死神にとって危険なら、なんかあるはずだろォ~?」
「アッ、こんにゃろ小学生みてーな挑発の仕方しおってからに! したらばいいコテ! 中井出とか悠介に任せっぱなしじゃったし、ここはアタイが初っ端を担ってやろうじゃねぇか~~~っ!!」
「あ、彰利? そんな無理しなくても」
「GO!」
トンガリさんは聞きませんでした。衣服を脱いでトランクス王子になると、止める言葉も聞かずにドボシャアンと泉に飛び込みます。
「
けれどもすぐに戻ってきました。
途中までは潜ったものの、冷たさに息が続かなかったようです。あと思ったよりも深いとも。目を開けて潜っていると目が焼けるとも。
「はひょー! はひょー! ささささっむぅうう!! ええい月然力月然力!」
ガタタタタタと震える彼は、すぐに月然力・火で火をつけると、それで暖をとります。
そんな様を呆れた様子で見やりつつ、じゃあ次は俺だなと言ってトランクス王子になるはモミアゲさん。
きちんと準備運動を欠かさないところは、時にぶっきらぼうながらも真面目なモミアゲさんらしいところでした。
「よし、あとは───」
「おー、彰利彰利、こっちにも火をおくれ? 落ち葉とか枝とか集めてきたから」
「おおうナイス中井出!」
「……こういう時の提督って、手ぇ早いよな」
「女にだらしないみたいに聞こえるからやめないか一等兵この野郎」
ほぅ、と息を吐きつつ、自分も冷たさに負けて戻ってきた時のための暖を、と思ったものの、既にモブさんがやっていてくれました。
なので安心して冷たい泉に入る準備をします。もちろん心臓から遠いところからの冷たさになれる方法で。
そうして少しずつ慣れている内に、焚き火は燃え上がり、背中にも少々の熱気が届くほどになりました。“なんだかこういうの、キャンプみたいで少しわくわくする”。知らず、そんなことを考えていたモミアゲさんは、気楽な気持ちのままに泉へと潜るのでした。
───そして、そんな彼を心配そうに見つめ、見送るために泉の傍に寄ったトンガリさん。そんな彼らの後ろで、悲劇は起きました───。
「……ン? なんか不思議な香り。枯れ木とかが燃えたんじゃ、嗅いだりしねーような……中井出? どぎゃんオワァアアーーーッ!?」
嗅ぎ慣れない香りにトンガリさんが振り向いてみれば、なんということでしょう。脱ぎ捨てられたトンガリさんとモミアゲさんの衣服を燃やすモブさんが居たのです───!!
「さ、ともに参りましょう? トォランクス王子ぃ……?」
「中井出ぇええええっ!! てめぇええええーーーっ!!」
パラガス調にトランクス王子を語る彼は、大事な友を得たような素晴らしく満足いく笑顔だったそうです。
「おどき! 今ならまだ完全燃焼しとらんけぇ!」
「させねぇ……! させるもんか! ここはっ……俺の命に替えても通さねぇぇえっ!!」
「おんどりゃそういうことはもっといい場面で言いなさいな!!」
「やだいやだい! みんなでトランクス王子になるんだい! 僕だけトランクス一丁なんてやだー!!」
「だったら不用意に衣服破壊なんかしてんじゃねィェーーーッ!!」
でも取っ組み合って散々暴れている内に身体は温まったので、「まあ悠介に創造してもらえばいいちょー」と開き直ることにして、モブさんと超人プロレスにしけこむことにしました。
ヒロイン視点の時の地の文で、“だが”とか出ると戸惑う瞬間。
一人称が僕の主人公より男らしいなオイとか思っちゃうアレ。筆者もよくやらかしました。
“でも”とか“だけど”の方がヒロインチックだと思います。皆さんも気をつけましょう。読み返している時にまで気づけない場合、このヒロイン口では可愛いこと言いつつ実は内心が雄々しいぞオイとか思われてしまうかもしれません。
◆例
*1
(……友達にはあの人は怖いって教えられたけど、心はとってもやさしいって……そう思うから)
*2
(……友達にはあの人は怖いって教えられたが、心はとってもやさしいって……そう思うから)
……ほら、その、ええっと。なんか下の方が目付きとか鋭そうじゃないですか?
魔王軍幹部とかやってそうですよなんか。友達とかあの人とか怖いとか思うからとかそっちの言葉の方が胡散臭そうに見えるほど魔王軍幹部っぽいじゃないですかたぶん気の所為でしょうけど。