【ケース26:あれは……あの○○はさ。元の世界の、俺が居た世界の最後の私物だったんだ……(日本製の靴を履き潰しながら)】
燃え盛る炎。見当たらない制服や靴。彼はゴヴォルシャアアアと溜め息を吐き散らかすと、じとりとモブさんを見て言いました。
「……提督。俺の制服は?」
「彰利が見捨てました」
「なんと!? ノ、ノー違う悠介! アタイ───……アタ……あー……見捨てたわ」
見捨てておりました。とても素敵な正直者スピリッツです。
「でも燃やしたのは中井出YO!!」
「そうだ《どーーーん!》」
「つまりどっちもどっちじゃねぇかたわけども!!」
「言っただろう、晦……俺達は仲間だ。俺達は、貴様一人を制服貴族でなんていさせねぇ」
「感動話っぽく言っておいてその実あまりに外道だなおい!!」
「あ、ダーリンこの縄引っ張りゃえーの? 寒かったろーに、ほれほれ香りはアレだけど温まるから焚火ン近くに寄りんしゃい」
「……なんかもうツッコむのも疲れてきた……ああいやいつものことかそれ……」
「あの頃、僕らは知らなかった……!」
「まさかこんな時に、ステイトの“苦労人”の意味が受け止められるなんて……!!」
「ハッキリ言うがお前らの所為だからな!? 頼むから少し目ぇ離しただけで厄介ごと量産するのやめてくれ! な!?」
「おっほっほ大丈夫よぉダーリソ。アタイら別に目ェ離したら要塞になってたり魔物に変身できるようになってたりマシン大砲装備できるようになってたりするわけじゃねーもの」
「OHメイプル?」
「OHメイプル」
「よくわからんが戦力って意味でならそっちの方がまだいいわ!」
「「グムムギギ~~~ッ!!」」
返す言葉もないようでした。ともあれ縄を受け取ると、彼らはそれを引っ張りだします。
「ふんっ! ぬうっ!」
「ぬ~~~むりゃ!!」
「むほ~~~っ!!」
けれど、微塵も動いている気配がありません。草や木などであれば、あの根がメコモコと盛り上がるような感触があってもいいほどの渾身を込めても、まるで手応えがないのです。
「ぬあーっ!
掛け声はふざけていたものの、本気で引っ張っていたトンガリさんとモブさんは早速ギブアップです。縄の形に手が赤くなるほどに本気でやってもダメなのだとくれば、家系の腕力でもレベルアップした腕力でもダメということです。
彼らは再びグウウ~ッと唸ると、仕掛けの線で考え始めました。
で、肝心のモミアゲさんは糸目になって無心で焚火で暖を取っております。きっと疲れたのでしょう……小声で「アタタカイ…モトノセカイノトモシビ…アタタカイ…」と呟いておりました。
「元の世界の灯火……そういやこういう異世界モンだとよく、元の世界の唯一の思い出のものなんだ……とか主人公が言うけどYO? それが壊れたり滅んだりしたときに嘆いている彼or彼女に自分の足元見てみなさいとか言いたくなるよね」
「ああ、靴そのまんまなヤツ、案外居るんだよな……」
「可哀想にのう……靴」
「可哀想になぁ……靴」
靴。元居た世界のものを使っている人は当然ながらいらっしゃいます。けれども手に持つものばかりを元の世界の私物として考える人ばかりで、靴は大体忘れられております。報われません。靴。
「グゥムー、どうする? 彰利行くか? それともこの博光が? 正直潜水とかしたことないし、息が続くかも怪しすぎるけど」
「うんにゃ、ここはアタイが行こう。さっきも言ったけど、中井出とか悠介に任せっぱなしじゃったしね。我ら原中、口ばかりで何もしない&痛い目見ないクソカス野郎は大嫌い。これはYO中井出、アタイが最低最悪のやれやれ主人公にならねーための……試練、じゃぜ?」
「あー、居るよなー、離れた位置で見るばっかりで、口は出すくせに自分は一番最後に行動してやれやれ言うヤツ」
「オウヨ、そうならねーためにもレッツビギンだー!」
「アッ! 待ちたまえ! 準備運動をするのだー!」
「キャアアタイとしたことが! ほいじゃあ……肩~をほ~ぐしって♪ アッキレッス伸~ばし~てっ♪ も~んがもんが♪ ───準備体操終わりィイイイイイイッ!!」
奇妙なダンスののち、彼は走りました。走って走って、そのままの勢いでズヴァーンと跳躍すると、さきほどモミアゲさんがシュノーケルを伸ばしていたあたりの水面へとバッシィイイアと潜りこみました。
(マキマキ~~~ッ、ダーリンが手をこまねいて解決出来ねー難事件! この名探偵が解いてくれr《ドジュウウウウ!》おごわああああーーーっ!!)
潜りました。潜ったまではよかったのですが、沈み、剣に近づけば近づくほど、肌を焼くような痛みが増していったのです。
(な、なにをこれしき~~~っ!)
ならばその身を焼くような痛みを能力で癒しつつ、なおも潜ります。息苦しくなれば月然力で自分に必要な酸素を精製、きちんと吸って潜水を続行。
何気に万能なトンガリさんは、さっそく剣にドヂュウウと触れて「ギャーアアアアアム!!」触れてる時点で焼けてます。この影や闇や黒や死の気配を問答無用で消しますよって感覚、間違いありません、聖剣です。
(おのれならばこっちが死神の気配で飲み込んでくれる~~~っ!! ゲギョゲギャーーーッ!!)
偉大なる大魔王サタン様の力を借りるつもりで、全力で死神側の能力を解放、ガッシと剣の柄を握って能力を流し込んでいきました。
そう……これは聖と魔の戦い。彼は負ける気はねーとばかりに不敵に笑い、解放を続けました。
……。
……ばしゃり、ばしゃ、どちゃ……
「っと彰利戻ってきたか。ほれ晦ー? いつまでも拗ねとらんと」
「創造出来るからってタダじゃないってわかってくれよな、提督……ほんと頼む」
「いやうん、今回のはほんとごめんなさいでした。よし、それじゃあ気を取り直してぇ、っと」
焚火から離れて、トンガリさんへと近寄ります。
髪から体から水を落とす彼はどうして俯いておりまして、声をかけるとゆっくりと顔を持ち上げて───
「マイネームイズ───オクレ……!」
「「外人になってるーーーっ!!」」
何故だか顔が変わっておりました。
鼻は大きく彫りが深く、目の色も色素が変化したかのように変わり、そういえば濡れている上に太陽光の所為でとか思っていましたが髪の色まで違います。
なんというかジョンです。名づけるなら“ああジョンだ”と思えるようなジョンです。
どれくらいのジョン度かといいますと、ジョン顔と検索すればなんか出てくるような、目を細めているような、けれどどこか厳つさも感じる外人フェイスになっていたのです。
「おぉおおぉぉぉ前なにがななななにがなななな……!?」
「晦落ち着いて! 晦! 晦ー!!」
「ハハハ、ドウモコウモアリマセェン。ワタァシィ……水ン底で聖剣の暗黒化、始めたのでェすがァ……ヘタに能力繋げて触れ続けた所為で、体の内側まで浄化されちゃいましてェ……」
「お前はなにか!? 内側から浄化されたら外人になるのか!? どんな生命体だよそれ!」
「ていうか喋り方がロイド安藤みたいでなんかアレだな」
「アァナタガ信長サマデスカァーーーァッ!?」
「それ違う」
「トニカクアレ、ヤバイデェス……。アレは愚かにも触れたりしたら、黒い部分から浄化されちゃうようなヤバさでェス……」
「だから。お前は黒を浄化されたら外人になるのか」
「晦……今目の前にあるものが事実で現実で彼の中の誠実の形だ」
「真面目に取り組んだら外人になってましたとか訳が分からんのだが」
「うん俺も」
「ワタシモデェス」
「「お前はわかれよ」」
「ナンダトコノヤロー!!」
「落ち着けロイドさん!」
「ロイド違うヨ!!」
ともあれここで喋っていても解決しません。ならばと送り出されることになったモブさんは、モミアゲさんに創造してもらった酸素ボンヴェをよっこらえっちらと背負うと、勇ましくも泉の底へと潜っていきました。
酸素濃度はしっかりと考えられていたようで、彼は濃度中毒を起こすことなく沈んでいったのです。