【ケース27:抜くチガウ。それ砕く言うヨ】
モブさんが沈んでいくのを焚火の傍で見届けつつ、彼らははふぅと一息つきます。
「じゃけんども、中井出でなんとか出来るような案件かね?」
「大丈夫だろ。ほら、提督のスキルで
「あ。アー……な~る。異世界って思っとったけど、案外ここがゲーム世界って可能性もあるわけか。てーかそっちの方が普通か。考えてみりゃ、ステイトオープン言って半透明ウィンドウが出るのが普通なんて、それこそゲーム世界って感じじゃし」
「ていうか、なんなんだお前本当に。さっきまで外人顔だったのに、ゴムアゴムアって謎の音とともに顔面が戻っていってるし」
「体の中で暗黒魔力を精製し続けたら治ってきました。最強」
「………」
つくづく謎の存在でした。一応親友なのに、知らん部分が多すぎるわこいつ……というのが素直な感想です。
「………」
「………」
特にすることもなく、待っている間に燃え尽きそうな焚火に、適当なものを創造しては放り込みます。
トンガリさんは適当な枯れ木や枯れ葉を持ってきては投げ込みますが、同時に適当な森のドーブツを仕留めてきては、捌き、お肉として焼き始めるのでした。
「……暇だなー」
「あー……待つだけっていうのも、こう……なぁ」
「あ。そういやゲーム的な話じゃけど。中井出が覚えた器詠の理力? って、たしかモノの意思を読み取れるんじゃよね?」
「だったよな。泉に沈んだ剣が、どんな意思を持ってるか、っていうのは……ちょっと考えたくない気もする」
「沈めた誰かに相当恨みを持ってるとか?」
「能力が浄化とかだろ? さすがにそれは……って、剣の性能と意思は別か」
「生き物が住めなくなるほどの浄化能力じゃぜ? 案外憎さとかそっち方面で浄化流しとるやも」
「あー……ありそうで怖い」
どうせならばとモブさんの能力と、剣に宿っているかもしれない意思についてを語ります。
どれほど沈んでいたかもわからない剣の意思ですが、果たして……?
「まあ、もし意思疎通出来て、きちんと意思を受け取れたりすることが出来たら、提督なら案外抜けたりするんじゃないか?」
「にしたって、ゲームだったらクソゲーですぞ? だってビッグモンステウ
「んあ……確かに、そうだな、そりゃそうだ。条件厳しすぎて、手に入れさせる気があるのかって話になる」
「どっか別のところに同じくサキュファーか、それとも別の意思系モンステウが居るかでも変わってくるんじゃろうけどね。まあなんにせよ、覚えたスキルに懸けてみるっきゃあねーべョ」
「だな。のんびり待つか」
言って、モミアゲさんは大きな布を用意すると、それを地面に敷いて寝転がりました。トンガリさんも同じものを敷いて、ぐうっと伸びをしながら寝転がります。陽が温かいので敷き布のみですが、風が吹けば寒いと思い、計四枚を創造、焚火で暖を取りつつ布に包まりました。
「改めて思うけど、アタイらどーなるんじゃろーのう」
「さあなー……。どうにかしかならん、としか言いようがないだろ、もう。妹達のことはそりゃあ心配だけど、家に貯蓄がないわけでもないし……いざとなれば羽棠のじいさん頼るだろうし」
「だぁねぇ……」
長いこと水底に潜っていた影響でしょう。二人は体を襲うだるさから、ゆっくりと瞼を下ろし、焚火の温かさも手伝って、息を整えるや眠りこけてしまいました。
長く……じっくりと。
やがて陽も落ちてくる頃になって焚火が消えると、肌寒さから目を覚まします。
「う、むむ……む、むおお……!」
「ん、んー……~……っ……ぁあっ……! あ、あー……寝てたか。って、提督は?」
「んおっと……中井出、はー……おや? おらん? って、出てきた出てきた」
目覚め、辺りを見渡すと、丁度泉から陸へと出てきているモブさんを見つけました。
随分と時間をかけていたようですが、やはりだめだったのでしょうか?
「ん───ヌァンーーーッ!? えっ……えちょ、ダーリン!? ダーリン!?」
「っと、どした彰利!? なにか───うおぉおおっ!?」
驚くトンガリさんに促されて驚くモミアゲさんは、ゆっくりと、そして疲れ果てた様相で水から這い上がるモブさんの手に、かの聖剣が握られているのに気づいたのです。
「うおおおお!! すっげぇぜ中井出ぇっ! やっぱあれ!? あのスキルがスゲかったの!?」
「すげぇ! ははっ、すげぇえっ! 提督ー!」
これには散々苦労しても考えても抜くことが出来なかったモミアゲさんもトンガリさんも、諸手を挙げての大絶賛です。
二人は燥ぎながらモブさんへと駆け寄って───……
「………」
「………」
水から揚げられた聖剣の先端にくっつきっぱなしの岩を見て、なんかいろいろ察したそうです。
「? あ、これ? 抜けないから岩の方を砕いてきた。うん、スキルがスゲかった。鈍器殴打スゴイ」
察したと言ってるでしょうが。というかスキルってそっちじゃねぇよとツッコミたいトンガリさんでしたが、それよりもツッコみたい部分が思い浮かんでしまったので、そちらを訊ねることにするのでした。
「いや……中井出ヨォオ? そういうのってフツー……台座とかも壊れンようになってるもんじゃねーの?」
「や、ほら。岩があるだろ? 台座って言っても岩だろ? 同じ材質の岩を掴むだろ? 鈍器殴打が発動するだろ? ほら、台座な岩より強い」
「ワオ単純! でもスゲー納得出来た!」
「でね!? ほらほら見てよこれ! 握ると色が変わるんだ! まさか異世界に色変わりの剣とかあるなんて! すごいよね! 鈍色になっていく! これあれだよね!? 鬼殺隊のあれだよね!? 僕どんな呼吸の素質があるのかな!」
「虫の息じゃね?」
「か細すぎィ!? え!? 僕“虫の息の呼吸……壱の型”とか言って技繰り出すの!? 動いたら死にそうな呼吸法なんだけど!?」
「提督、てーとく」
「え、え? なに?」
「……はぁ。なんかもうせっかく覚えたスキルも使わないで剣持ってきた提督も提督だけど……ああその、なんだ。ほら、あっただろ、スキル。もう一つ」
「エ? ………………あ、器詠の理力? ……え? この剣、意思あるの?」
訊ねられてもすぐに浮かんでこなかった器詠の理力さん。けれどそれも当然です。何故って、自分のような村人な人が持つスキルが、そう都合よく今目の前にある物事に対して有効に働くわけがねー、と日頃から思っていた彼ですから。そもそもの“日頃”には、URしかなかったのも大変影響しているわけでして。
それを言ったら鈍器殴打も覚えたてだったのですが、そもそも剣に意思を通してイベントを起こす、なんて考えは特に浮かばなかったようです。普通は逆ですが。
「え? あ、あるのか~、って言われたら……いや、すまん。正直わからん。そ、そうだよな、普通に彰利と話し合ってたからそういう考えに至ったんであって、普通はそう都合よく剣に意思があるから使おう、とか思わないよなぁ……」
「えーやんえーやん? とりあえず使ってみれ? 中井出」
言われてみればなるほど、ずうっと水底に沈んでいた聖剣。それに意思があるとしたらどんなものなのか。彼は気になり、早速器詠の理力を使ってみました。
「───……」
「どぎゃん? ねぇどぎゃん?」
「───…………なんかね? なにかが宿っている感じはするけど、受け取り切るにはスキルレベルが足りないって」
「なんとまあ。んじゃあちょちょいとスキルレベル上げたって? なんかあるなら気になるでしょーがYO」
「い、いや~……それが……。さっき鈍器使いとURに全て注ぎ込んじゃったもんで、そのー……」
言った途端、悲しい風が吹きました。
「なんというか……提督だなほんと」
「中井出YO……そういうのはもうちょい計画的に……。あ、ほいじゃあスキルレベルはいくつでMAX? それが解りゃあレベリングにも磨きがかかるわいってもんデショ」
「おっとそうか。えー……器詠の理力。スキルレベルは……1/3。ありゃ? 3でMAX?」
「よし! 提督、次のレベルまではいくつだ!?」
「うむ! 5である!」
「あら
「おうとも今すぐレッツゴー! さあいざトランクス王子が参る!」
「ダーリン服用意してお願い!」
「よし提督の分以外用意しよう」
「ゴメンナサイマジでごめんなさい! 俺のもお願いします!」
こうして、トランクス王子は創造された村人の服を手に入れました。
私物である制服は燃えましたが、これで彼らは一層にこの世界に順応していくことでしょう。