ボケ者どもの理想村(ムラビディア)   作:凍傷(ぜろくろ)

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マラジン ~ ウラビアンヌイト ~

【ケース29:聖剣。日本人で“ひじり・つるぎ”って名前だったらなんてステキ。どっちを名前にするかで性別も変わってきそうじゃあないですか。……ただ学校ではあだ名は避けられなさそうです。立派に素敵に生きればエクスカリバー、怠惰の限りを尽くしていればナマクラーとか呼ばれそうですね。あ、エクスカリパーも有り得そうです】

 

 ごくりと二人が息を飲む中、意思を繋げたモブさんはとほーと溜め息を吐きました。

 

「……剣としての名前は無いんだってさ。ようするに“よくあり(・・・・)の聖剣”だよ。元は本が好きなだけの人間だったらしい。前々から思ってたけどさ、人を生贄にしてよく“聖剣(・・)”が出来るよなぁほんと。で、えーと……前の持ち主とかそれ以前の持ち主は好き勝手に呼んでたけど、自分の名前として受け取れなかったから、名無しの聖剣のまま。武器の固有スキルは浄化と増強。ただし勇者じゃなければ真の力は引き出せない。勇者以外が手にすれば、剣は鈍色に染まり、なにも斬れない鈍ら(なまくら)となる、だって」

「あー……そう来たかー……」

「異世界ってほんに勇者が好きよねェ~イェ。じゃけんども望むところやね。OK中井出、これで野望は達成出来そうYO」

「うむ! これですよ! これでこそ! これだからいいんじゃあないですか!」

「本当に彰利が言ってた通りになったな……伝説の武具なんてものは勇者しか使えない。勇者以外が持てば真の力は発揮されない。……でも」

「ウフフ」

 

 にこりとモブさんは笑いました。笑って、意思を受け取れば受け取るほどに鈍色に染まってゆく剣を見てほっこりします。

 そう、硬いものがないのならば、用意すればいいのです。

 レシピはこうです。

 

 ◆用意するもの

 勇者しか使えない伝説の武具×1

 鈍器スキル×1

 凡人×1(博光)

 

 これだけです。

 これだけで、クズスキルが素晴らしきスキルに早変わり。

 伝説の武具に勝る硬い武具など存在しないでしょう。けれど伝説の武具と来ると何故か剣なのです。実際に例に漏れず剣でしたし。鈍器使いにはくそったれな世界ですね。

 けれどご安心。無いなら用意する。まさにそれです。伝説の武具は勇者しか使えません。勇者以外が触れればなにも斬れないナマクラーに成り下がります。けれどそれでいいのです。

 伝説の武器は硬いです。とても硬いです。それが、勇者以外が触れることでさらに硬くなるのです。最高じゃあないですか。

 

「ご覧ください。晦一等兵に創造してもらった鈍器が、鈍器殴打スキル有りで攻撃力75に対し、この聖剣ナマクラーはなんと攻撃力550。さらにスキル“増強”を使えばじわりじわりと攻撃力が増強されていきます。600……650……ま、まだ上昇している……! とかスカウターあるあるやりたいくらいです。ただし切れ味が可哀想なほどひどいです。」

「特殊能力付きっていうのはいいよな。それ、どっちかっていうと鞘の方のスキルなのか?」

「そうみたい。ただしファーストアクションじゃなきゃ増強は乗っからないみたいで、しかも鞘に納めてる状態じゃないと増強は発動しないとくる」

「つまり抜刀一撃目が強ェェェェと」

「そゆこと。つまり抜刀会心鈍器野郎となりなさい、みたいな感じ」

「すごいな……! て、提督! それを武器に、オーガハントしてレベリングとか───」

「……晦」

 

 友人が聖剣に選ばれた(岩を破壊しただけです)ことに少々気分が高揚しなすったモミアゲさんは、早速ですが試し切り(試し殴り?)を見てみたく思い、モンステウハンティングを提案します。けれどもモブさんは、立派なベルト付きの鞘をショルダーバッグのように肩にかけると、ニコリと優しく微笑み言うのです。

 

「この聖剣、鈍色に染まれば染まるほど重くなるんだ……。でね? ぼぼぼ僕の貧弱一般人的な腕力じゃ、満足に振るうのは難しくて……!!」

「………」

「………」

 

 風が吹かない隠し聖堂の筈なのに、どこからか悲しい風が吹きました。

 勇者以外が手にすれば、時間経過とともにより一層に切れ味が落ちる、というものなのですが、それは一層に鈍器向きになることを意味します。

 重く、そして硬くなっていくそれは、鈍器殴打スキルを持つ彼にとっては最高の武器となりましゃう。けれども握るモブさん自身がレベルを20上げたところで弱すぎるため、満足に振るえそうもありません。

 

「のぅ……中井出YO? なしておんどれはそう、喜び一辺倒で終わらせてくれねーの……。もうたまにはほんのちょっぴりでも俺TUEEE味わってもよかったじゃない……」

「ぼ、僕だってたまにはそれっぽいことしてみたいやい! でもどうしようもなかったんだ! マジでどうしようもないじゃんなにこれちくしょう! たまには俺にも夢見させてくれたっていいじゃないか!」

「いやまあ……わかったから泣くなよ……───ん? ……あっ、提督提督っ、増強スキルで提督自身の身体能力とか増強できないのか!? それが使えれば、筋力とかもカバー出来るんじゃないか!?」

「オッ! ダーリンナイスアイドゥェ~~ィャ!! さ、中井出! さ!」

「お、おおとも! スキル増強! この博光の筋力を増強させたまえ~~~っ!!」

 

 そろそろとっても重くなってきた聖剣を鞘ごと構えて、とりあえずは口に出してみます。

 が。

 

「……あ。なんか名前つけてからじゃなきゃ、持ち主に影響のある効果は望めないんだって」

「え? 現在進行形で重く圧し掛かっとんのに?」

「や、これ勇者以外が手に取ったことに対するペナルティだから関係ないみたい」

「キャアひどい! 聖剣ひどい!」

「でも、名前かぁ……提督に名付けさせろって、その剣も無茶言うな……」

「自殺志願者かなんかかね……」

「あ、こいつらも素直にひでぇや。解りきってたことだけど」

「ひでぇっていうか……じゃあ提督、ポンと名付けてみてくれ」

「ウヌ、そうさなぁ。浄化が得意で、“魔”を“羅刹”が如く退ける“人”、みたいなイメージで───」

 

 彼は、手に持つには重すぎる剣を背負い直し、どしん、ずしんと軽く、もとい重く歩きまして、そういうことをやるお方がよくやる“目を閉じながら軽く俯き歩くアレ”をしつつ。親指と軽く曲げた人差し指を当てるのは基本ですね。なんなんでしょうあれ。

 ともあれ、そうした姿勢から顔を持ち上げるとともに、目を開いて言うのです。

 

 

 

「───マラジン、というのはどうだろう」

 

 

 

 ……直後、彼は一気に重くなった剣と鞘に潰されました。

 

「ギャアア助けてえぇええ!! マラジンに! マラジンに潰されるぅううっ!!」

「だっ! ばっ! 意思繋げたままそんな名前つけようとするからだ! なんだよマラジンって!」

「え? ダーリンたら知らんの? マラジンっていうのはね? “千夜いっちゃう物語 マラジン -ウラビアンヌイト-”に登場する───」

「千夜一夜……え? アラ……ん? ウラビ───なに? ナイ……え? 千夜一夜だよな? アラジンでアラビアンナイトじゃないのか!?」

「ちゃうよ? 主人公がマラに重いモン激突させて、“はーーーっ! マラがジンジンするーーーっ!”って言ったのが物語の全て」

「すまん提督、剣の意思の名誉のために改名するか死んでくれ」

「ひ、ひどいこと言われてるのに正当性しか見当たらない! だ、だが俺は名付けてくれれば能力が使えると言われたからやったのだ~~~っ!! さ、先にどんな名前でもと言ったのはき、貴様の方だろうが~~~っ!!」

「あらまあ一理ある。てーかどげな名前でもええとか言っちゃったのネ、中井出相手に。そりゃ剣が悪いわ」

「彰利。お前がもし名前無しで、名付ける権利が提督にしかなかったら?」

「中井出、とりあえず一回潰れとくべ?」

「フフフ……甘いぜ一等兵ども……! お、俺は確かに聞いたんだ~~~っ、名付ければ力を使えると~~~っ! ならば俺が今すべきことは……スキル・“増強”!!」

「アッ! こやつめ意地でもマラジン撤回しねぇ気だ!」

「この人はなんでこういう方向にしか意地を見せないんだろうなぁ……」

 

 ド根性で、己にかかる圧を強引に押しのけるように、無理矢理腕立て伏せような姿勢で大地を押して起き上がるモブさん。

 

「《ビタァーーーン!!》ギョアァアーーーッ!!

 

 ……が、増強された圧に潰されました。

 その際に肋骨が砕け折れて心臓とか肺を貫きまくった影響であっさり死んだ彼は、復活した直後に潰れて死にます。

 空中ならば圧などー! と復活条件をいろいろ試してみましたが、空中より勢いよく地面に激突して死亡、剣を外した状態で復活を希望したものの呪われていて外れなくて潰れて死亡、剣が背にあるなら仰向けで復活すればと試してみたら、ベルトまで重くて結局肋骨ごといろいろ砕けて死亡。

 散々試した挙句に、ようやく名前の変更が認められたのでした。

 

  聖剣ネアヴォロンタ

 

 ネアは、生贄になる前の名前。ヴォロンタは“意思”という意味。安直ですが、個人としてようやく認めてもらえた聖剣は、とてもとても嬉しそうでした。

 ……名前のもぎ取り方がもはや拷問の一種ですが。

 

「ボロンタ、ってところのボはやっぱり前に言ってたヴァ行? とかいうやつなのか?」

「つーかね、ダーリン。ヴォロンタって言葉自体が最初からヴォなのYO。だからこれはファンタズィーのヴァ行は関係なくヴォロンタ」

「なるほど。しっかし、生贄かぁ……ほんとろくなことしないよな、そういうそのー……風習っていうのか? が、ある場所って」

「勇者に贈る聖剣が風習で作られたかは知らんけどね。それ言ったら獣の槍だってそーじゃないの。まあそれはともかくじゃよ中井出YO」

「フフフ、大丈夫だ。もう確認済みさ」

「ほほう? ではどぎゃんじゃっとね?」

「……もちろん───男、だったさ!」

「オッケンさあゆこう同士ネアっち! 我らが駆け抜く希望の先に、我と御身と栄えあり!」

「お前らは……。生贄にされたヤツにまで性別求めるなよなぁ……」

 

 モミアゲさんに溜め息を吐かれましたが知りません。

 さあ、聖剣 (鈍器)を手に入れた彼らはいったいどのようなファンタジーライフを送るのか───

 

「まずこれ大樹のてっぺんの石碑もどきに刺して、村浄化するべ」

「オッ、いいねぇ~」

「あ、そか。浄化が出来れば村自体にモンステウが寄り付くこともなくなるし、アンデッドとかが居るなら寄り付かなくなるよな」

「浄化が全体に行き渡るまで襲われ放題っぽいかもだけどね」

「ホホ……目に浮かぶようじゃわい。中井出が襲われる様が」

「あれ? なんか俺だけ襲われてる? まあいいや、それより村だ! 村を育ててゆこう!」

「オウヨ! 大自然に溢れた村にしてくれるぜ~~~っ!!」

「来るかもしれないエルフの対応も、しっかり考えとかないとだもんな」

「ホホ、んなもん中井出が潰れりゃあ一発よ」

「トラウマになるからやめろっつっとろーが!!」

 

 ……現在進行形で不安しかありませんでした。

 




 ルッパッパーラー【-豆知識劇場-】ラーララーラー

「帰れ!」
「なんだとてめぇタイ・ソーのお兄さんこの野郎!」
「いやいいよもうこの内容を見ればさぁあ……。どうせお前アレだろ、マラジンのこととか訊きたいんだろ」
「教えておくれよ回りくどいこと抜きで!」
「グーグル先生にお訊ねなさい!」
「訊ねたけど解らないことがあるんだ! 教えておくれよ! マラジンの名前の起源は解ったけど、じゃあウラビアンヌイトってなに!?」
「……裏ビデオで検索なさい。ヌイトはまあ……ある程度下ネタ知ってれば解るでしょ。ていうか南国アイス知ってりゃ解らない方がおかしい」
「言葉だけで察せたから検索しないでおきます」
「久米田康治氏著:“行け!! 南国アイスホッケー部”は下ネタ大好きなボーイ達には大変オススメです。連載当時の時事ネタや映画などのお話もあるため、ボーイ達には“え? なにそれ”となりそうな感じではあるがンハハハハ気にするなよぅ!」
「まず何よりも絵のギャップに驚くと思う」
「途中から“ああっ女神さまっ”を知って一話を読んでみて驚いたボーイよりは……いやどっちがとかそういう問題じゃないか」
「いろいろあるけどこんな前から名探偵コナンが続いてることが怖い。いったい何人死んだんだ……」
「とりあえずアレです。スットコドッコイは誉め言葉!」
「誉め言葉!」

 ルァー【-豆知識劇場 完-】ラーラーラー

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