【ケース30:さあいざ
ムラーベィトに戻ったボケ者どもは、早速キノヴォリを開始しました。もちろん聖剣を石碑もどきに安置するためです。
「しっかし、元々のこの村がそげにひでぇ環境だったとはのう……」
「そりゃあ、王様にもらった聖剣を浄化に使うわけだよなぁ……」
「………」
「提督ー? だいじょぶかー?」
オーサさんとの会話を終えて、向かうべきはやはり大樹の頂上でした。オーサさんが語るかつての友とのお話や聖剣のことは、以前双子が話していたので割愛しますが、ともあれ村を浄化してから発展させましょうということで、トンガリさんが死神と一緒に結界の維持を、モミアゲさんがバハムートと結界内に力を溜め、害虫害獣の類があまり寄らないようにし、モブさんが妖精さんらと一緒に、自然の力を結界内に溜めるお仕事を担うことになりました。
「よもや……よもやあれから20レベルが上がっても、こうまで自分に体力がないとは……!」
「モンハンと比べたらアレじゃけど、しゃーあんめーよ。レベルがどんだけ上がっても基礎計算に組み込まれる筋力もスタミナも凡人並みなんだもの。キミはもうちょいどころかハンパ無く体鍛えなさい」
「ウググム~~~ッ」
大樹の途中でぜひーぜひーと息を切らすのはモブさん。筋持久力もなければ、心に弱音を吐かせないための気力もありません。
筋肉……なんと素晴らしい響きでしょう。実際こんな有様では、凡人な自分で居たいから鍛えないだけだい、なんて真実は言い訳にはなりません。ええ真実です。
「鍛えるか。うん。あのー……ほんのちょっぴり鍛えたからって、凡人から逸脱とかないよね?」
「キミが中井出である限りきっとダイジョブYO」
「───だよな!」
「オウヨ!」
「それでいいのか……ああ、けどまあ確かに提督が鍛えるのは賛成だ。急いでる時にてっぺんまですぐに登れない、っていうのも厄介だしなぁ……」
「? 急ぐ時は自殺して、復活先を頂上にすればいいだろ? なに言ってんだよ晦」
「そうだぜダーリソ、ド忘れなんてやァねェ」
「登るよりも死ぬことを真っ先に決めるってどうなんだよ! たっ……確かに泉の中で何回か死んで、便利だな~とか思ったりもしたけどな!? 死ぬことに慣れるなって! いつか元の世界に戻った時、癖で死んだらどうするんだよ!」
「その時は無理矢理にでもスキル持ち帰って復活して“特撮じゃよー!”でイッパツよ」
「わあ、なんか中井出ならやりそうで怖い」
「異世界だから異能力がある。戻ったから異能力が無くなる。……そんな事実はありゃしないんだぜ晦。生まれたものはそう簡単にゃあ無くならん。むしろ呪いの如くついて回るもんさ。創造とか死神とか神の力があるんだぜ? こっちに来たお前らが持ってるもんが、なんで帰っただけでなくなるのさ」
「あ」
「あー……そか。そりゃそうだ。前から普通に持ってるから、そういうのを完全に忘れてた」
「てーかそもそも中井出がおかしいんじゃよね? アタイとダーリンは前から持っとったけど、中井出はこっちに来てから発現。まるでアタイらにゃあ異能力が授けられなかったみてーじゃない」
「洗脳耐性もレベルで受け取ったもんだしなぁ……」
「え? あれ? もしかして僕、そう表記されてないだけで、実はなにかの条件で開花する勇者だったとか?」
「「それだけは絶対に無い。夢見てんなよ
「おおまったくだ、危うく状況のビッグウェイヴに流されてしまうところだった」
彼は自らの雑魚さにとても前向きでした。
そんな彼に、小さな瓶容器を差し出すはモミアゲさん。
「まあ今はそれよりもだ。提督、これ飲んでくれ」
「え? なにこれ。リポビタァン?」
容器にはマスコットキャラのリポくんがビタァンとビンタされているシールが貼ってあります。間違いありません、ツライ時でもビンタが如き刺激を、が売りのリポビタァン・ヘビィDです。とある格闘ゲームとのコラボで発売されたそれには、モヒカンで色黒になったリポくんがビンタされた様子が描かれております。
謳い文句は“闘魂一発”。拳闘前の益良雄がセコンドにビンタをされまくって闘志を上げるが如く、な喩えを持つドリンクです。
「彰利が言ってたあのー……元気ドリンコ? な感じの飲み物だ。ドーピングみたいなやつ。一時的だろうけど、疲れにくくなると思う」
「……ぼ、僕、苦いのヤだよ?」
「お薬飲めない子供かお前は!!」
元気よくツッコまれた彼は満足そうに笑うと、トバル2の探検モードでプレイヤーがやるように「オウッ……!」と謎の声とともにドリンクを一瞬で飲み切ります。
すると、彼の体に今まで感じたことのないような高揚感が沸き上がり、じっとしていられなくなってきたのでした。
なのでまず力を溜めるポーズ。膝を軽く曲げて、バク転をする直前のような、軽く腕を挙げたポーズで力を溜める。
「あぁぁぁぁあああぁぁぁぁぁ!!」
次に胸の前で手を合わせ指を組み、忍びが印を結ぶような姿勢でさらに力を溜めて───
「んんんんんんんんんんんんん!!」
最後に全てを解放するように姿勢を伸ばして天へと両手を伸ばします。
「うおぉおおおおおおぉぉぉぉーーーっ!!」
それだけ叫んでも発散しきれないエネルギーをならばキノヴォリで発散しましゃうと、彼はすぐさまキノヴォリを再開。抑えきれない衝動を抑えることもなく突き進み、滑り、落ちて、死にました。剣の重さも手伝って、ドーンと素敵な音が鳴りました。
「…………」
「悠介よぅ……中井出に不用意にドーピングなんてさせるもんじゃあねぇよ……?」
「なんで予測できなかったかなぁ……提督に発散しきれない力なんて渡したら、自爆するに違いないなんてちょっと考えればわかることだったのに……」
「いやまあ……うん、ほんにね……。アタイらちょほいとばっかし死ぬことに慣れすぎとるね……。誰が死んでも“あ、死んだ”程度にしか思わなくなるって、“いつか戻ったら”とかそげなことはどうでもヨロシってくらいにおかしいものね……」
「……で、提督は?」
「どうせ復活場所を頂上にしてもう飛んだっしょ。急ぐべ」
「ん、わかった」
二人は、たはっと笑ってキノヴォリを続けます。トンガリさんはその気になれば空だって飛べますし、モミアゲさんだってバハムートの側近の竜を召喚してもらえばひとっ飛びです。が、そうしません。何故って、たとえ面倒だろうが疲れようが、そこに浪漫があるからです。
そう、ロマンを求める心など、そんな“些細”でいいんです。難しいことを浪漫として抱くのは、少年には難しすぎるのですから。
だから───
「提督悪いっ、待たせたかっ!?」
「いやしっかし、やっぱこれって登るだけでもえ~ぇ運動になるわい。中井出ー? きさんも諦めずに何度も挑戦───」
だから。
モブさんが鞘のベルトを外せなくて「おわーーーっ! ベルトが外れーーーんっ!!」と叫びながら、やがて重りでメキョメキョ潰れていく様に、あー……そういやアレ、呪われてたんだっけ……と遠い目をしたそうです。
その悲しそうな顔は、例えるのなら“単純に考えようとした途端にこれだよ”、とでも言うかのようでした。
「ええい外れろ! 外れろというのに! 俺勇者じゃないから問答無用で重たくなるの! お願いだから一度装備外させて!? それで、後で改めて……え? 嘘だ? そういって僕を置いていく気なんでしょ? ……なんでいきなり嘘つかなきゃならないの! いい子だから解放なさい!」
どうやら彼は聖剣に呪われているようでした。聖剣なのに呪い持ちって……とツッコミたい気分ですね。しかしそれも当然の結果です。何故って、元が人間なのに生贄にされて誕生したのですから、呪いのひとつでも使えずしてなにが聖剣かというものです。
「あ、あの!? なんかキミヤンデレ入ってない!? ていうかそんなに寂しかったなら晦一等兵が抜きに行った時、素直に抜けてあげてりゃ……え? 誰かに強引に連れ攫ってほしかった? その方が人間っぽい? あ、あー……確かに手順だとか魔法だとか、勇者じゃなきゃダメなんてものよりは、人っぽい扱いかもだけど……《メキメキメキメキ》」
「提督ー!? メキメキいってる! 俺にも聞こえるほどやばいほど軋んでる! 早く離れろって!」
「そ、そうでしょ!? メキメキだよね! いやぁ僕の異世界話術も立派になったよね! 僕も今メキメキと上達していってるのを実感して《バキゴキ》グラビッ……!!」
「提督ーーーっ!?」
死にました。
そんな彼は即座に復活、空中にて蘇生した彼はしかし、やはり勢いよく落下してきて───
「受けてみさらせこれぞブロッケン・
彼は空中からの落下を、それこそステキな笑顔で受け止めます。そして鋭い勢いのままに剣の柄を石碑もどき……樹碑に叩きつけます。その勢いのままに、ベルトを潜るようにスポッと抜けやしないかと試した結果ですが、服にでも張り付いているかのようにベルトは動かず、ブロッケン・レーラァ奥義の衝撃を一身に受け止めることとなったのです。
その衝撃といったら、試合の決着をつけるほどのツープラトンをくらったにも関わらず、衝撃による悲鳴よりも「ふ、不老不死……ト、トロフィーバ、
「いやなして今ここで死皇帝の真似しとんの……」
「フフフ……1番と6番が持ってかれた……!」
「器用な肋骨の折れ方してるなおい」
「嘘ですごめんなさい……! 肋骨のどれが一番とか僕知らない……!」
肋骨が折れてみると解ることがあります。はじめの一歩のキャラは自分の内部構造に対して詳しすぎると。
苦しむ彼に癒しの月操力を放つトンガリさんは、一応解呪的なものが出来ないかと月操力を試してみるのですが、テコでも動きません。どうなっているのでしょう呪いって。
「提督、説得は出来なさそうか?」
「フッフフ、まあ待つのだ晦一等兵。こういう時にはとても有効な言葉がアルノデス。……ボーイ、お兄さんたくさん動いたから汗かいちゃってね? 身体を拭きたいから服を脱がせておくれでないかい」
そう言いつつ、服ごと剣からすっぽり外そう作戦を開始します。けれども剣のベルトがギュルリとキツく締まると、なんとそこから浄化の波動がファゴォオーーッと放たれ、モブさんの穢れを滅ぼしてゆくではありませんか……!!
「イエイ《パパァアアーーーッ!!》」
輝ける博光の誕生です。
「いやイエイじゃねーべョ!!」
「いやあの……なんかね? 汚れた身体も匂いも全部浄化するから、体を拭く必要なんてないって……」
「………」
「………」
「おかしいなぁ……僕、ただ硬い聖剣が欲しかっただけなのに……」
しかしめげません。口ではそんなことを言いつつ、彼は次なる挑戦へと駆けだしていたのです。
「ややっ!? 中井出!?」
「ピュアピュア~~~ッ! これでダメならばお手上げだーーーっ! だがなーーーっ! この博光を呪いなんぞで縛れると思ったら大間違いよーーーっ!! ヌファラァーーーッ!!」
「「ア、アアーーーッ!!」」
彼は駆け、そして飛びました。遥かなる大樹の外へ。
そして大丈夫だ、問題ないとばかりに落ちる過程でくるくると回って───ベボッチャアと綺麗なザクロと化してみせたのです。
飛び散り方は、それはそれは見事な爆裂四散ともよべるものだったといいます。もはや原型をとどめていないほどの潰れっぷりで、それは剣の重さも手伝っての無惨な飛び散り方でした。
やがて、重い剣がモチャリと肉を押しのけて地面についた頃。
「───フフフ、賭けはこの博光の勝利也……!!」
彼は剣から離れた位置に全裸で復活し、ニコォと笑ったのでした。
そう……死体になっても剣を背負った状態で復活したから呪われたままだったのです。
背負っているという事実が無くなるくらいに爆発四散してしまえば、それは“装備している”どころではありません。でも服の一部として数えられても困るので、心配を消すためにも一応の全裸で復活したのです。
「ワハハハハハ! やった! 勝った! 仕留めた! 貴様はこの博光相手に頭脳戦で負けたのだッツ!!」
嬉しさのあまり、全裸で人を逆上させるダンス(三橋貴志式)を踊る中、なにやらドサリという音を耳にします。
「だ、誰っ!? 誰か居るのですか!?」
何故か、泣いているところを見られたかもしれないご令嬢風に音の発生源を見やる彼は、内心ドキドキのままにソレを発見します。
ソレ……なんかやったら美形な、耳の長い金髪男性を。
あ。あとなんか緑です。全体的に緑な服とか着てます。これもう間違いないです。間違い無くアレです。
「………」
彼は静かに、近い将来自分がモミアゲの美麗な一等兵に殴られる事実を受け入れたといいます。