ボケ者どもの理想村(ムラビディア)   作:凍傷(ぜろくろ)

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その日、エルフさんは目を付けられた(物理)

【ケース31:ヘェ~~~イボォ~イ! 空を……見たら人が降ってきた。潰れた。血肉がエメラルドスプラッシュった】

 

 ───それはとある渡りの森人の話。

 あるところに森から森へ、マナを活性化させて歩く、自然の隣人たるエルフがおりました。

 彼らは自然を好み、自然から生まれる恵を食み、お返しに魔力で自然を活性化させて歩く、正に自然とともに生きる者でした。

 そんな彼らの元に、妖精(フェアリー)伝いにメッセージが届きました。

 なんでも以前渡した自然の種子から立派な大樹が生まれたので、是非見に来てほしいとのこと。

 

『きみも、その大樹を見たのかい?』

 

 手の平サイズの、羽根が人の姿をした妖精に訊ねてみれば、興奮気味に手をぱたぱたと振って頑張って伝えようとしてくれます。本当に、それは見事な大樹なのだと。

 それは是非とも見てみたい。そう思い、彼は彼らに一言を告げ、まずは自分だけで行ってみることを伝えます。

 旅のお供は妖精のみ。

 しゃらん、しゃらんと木々や木の実や種などで作った装飾杖を揺らしながら、緑色の装衣を着た彼は歩きました。

 歩いて歩いて───やがて、遠くからでも気づけるほどに巨大な、それは見事な大樹を視認するに到り、目を輝かせてしばらく呆然と立っていました。

 

(すごい。これだけ離れていても、緑の香りを感じる)

 

 彼は森人として、久しく忘れていた高揚を感じます。歩くたびに、足が“速く早く”と急ぎたがっているのを感じます。

 ああ、早くあの場に辿り着きたい。種を託した彼は、善き隣人を見つけたのでしょう。祝いの言葉も贈りたいと心から思っていました。

 やがて悪路を越え森林を越え、やってきたのはひとつの村でした。

 

『信じられない……人が棲む村が、こんなにも自然の加護を維持できているだなんて……』

 

 震える体をなんとか律して、一歩、また一歩と歩きます。向かう先は大樹の下。

 彼は昔から世界を旅して回ったから知っています。“人は自然を好まないものだ”と。自然とともに生きるのではなく、自らが棲むには邪魔なものばかりだとばかりに破壊し、その上に自らの理想を敷いて居座るのだ、と。

 だというのに、ここは自然を破壊せず……むしろ自然とともに───いや、これは……などとぶつぶつ言いつつ、人が通るであろう場所以外にはほぼみっしりと生えた草。その横の土に触れ、森人としての力を発動してみました。

 

『……これはっ……! 一度は荒れた大地に、再び自然を呼び戻したのか!? 信じられない!』

 

 森人の呼びかけに応えてくれた土が、懇切丁寧に教えてくださいました。

 “一度は加護を剥がされたんだけどよーォ、人間がーァ、自然の精霊様に気に入られるまで様々な舞いを踊ってーェ、頼んでくれたんだーョ”、と。

 

『……なんと素晴らしい』

 

 自然のためにそれが出来る人間が、まだ居てくれたのか。そう思い、森人の彼は鋭くさせていた目付きを緩めます。

 よく居るのです、村という場所には。自分の理想の神や精霊を無理矢理信仰対象とし、願う通りにしろと勝手な言葉を並べては、罪もない子供を生贄とばかりに殺す者が。

 あんなものは邪なる者への信仰でしかなく、たとえ善である者への願いであっても続けていれば歪んでしまう。聖なる者が生贄有りの願いを一度でも叶えてしまえば、それが供物として受け入れられてしまうのです。ようするに……堕ちます。

 だというのに、この村の者は生贄を捧げるだの自分勝手なものではなく、ただひたすらに村のためにと願いを、舞いを奉納したのだといいます。

 だから剥がされることで崩れた力も戻り、むしろ以前よりも力強くこの地へ根付いているのだとか。

 そんな事実に感心している森人さんの傍を、トコトコと歩く隣人さんがおりました。

 

『ンン……? オオッ、我らガ友! 久しイな!』

『うん? やあ、久しぶりだ、ヌットコ』

 

 コボルトのヌットコさんです。ボケ者どもに大樹の種子を渡したコボルトさんですね。

 

『来てくレたのカ、待っテいた。この自然ヲ我らガ友にも見せたカったのダ』

『ああ、見事だね。久ぶりに興奮しているほどだよ』

『ソレはヨかっタ。こコに住まウ隣人は基本、村ニ対して害意ヲ抱かネば自由にしテいい、といっタ不思議な隣人たチだ。存分に見て回ってほシい』

『隣人……人間なんだろう?』

『およソ人間らシからヌ不思議な輩達ダ。だガ、村を良くしヨうと必死なノガよく解ル』

 

 『空回りバかリだがナ』、と続けて、ヌットコさんは笑います。

 森人さんは、いい笑顔になったと嬉しく思いつつ、ヌットコさんに笑いかけます。

 

『迷わズ来れタとイうことハ、オ目当ては大樹だロう? 行っテみるトいイ、近くデ見上げルノもマた格別だゾ』

『ああ、そうしよう。ありがとう、ヌットコ。……ああそうだ、カッカナは元気かい? 訪れるのなら蜜の花の種を持ってきてくれと頼まれていたんだ』

『カッカナならロドリーゴとイう隣人の傍ダ。そコでノレーズブートキャンプ? とヤらで、体ヲ鍛えテイるらしイ』

『のれーず……? う、ううん、よくわからないが、うん、会えるかも解らなそうだ、種子はあなたに渡しておこう』

『オオ、感謝スる』

 

 森人さんは蜜花の種子をヌットコさんに渡すと、逸る気持ちに惹かれるように大樹の傍へと歩いていきます。

 

『汝ノ歩みに幸アレ!』

『汝の歩みに幸あれ』

 

 二人は別れの言葉を告げると歩き出し、ヌットコさんは畑の様子を見に、森人さんは……近寄れば近寄るほどに立派で見事な大樹へ向かって歩みます。

 村といっても随分と建物が少ないな……などと思っていたところに、何故か大樹に巻き込まれるようなかたちで存在する家、家、家。しかもそこで普通に暮らしているようで、これこそ自然とともに在ろうとする者の自然体なのではないか、と森人の彼が感心するほどの世界が目の前にありました。

 住んでいるのは老人ばかりなのに、その歩き方は堂々としたものです。体を曲げている老人などおらず、大樹の上を歩くのにもしっかりとした足取りで、他の家までを歩いたり登ったりしては、ウワッハッハッハと別の村人と笑っているのです。

 

『………』

 

 小さく、“素晴らしい”とこぼれてしまうのも仕方がありません。今まで見てきた人の民とは、過ごし方からして違うと見えたのです。

 いたずらに自然を傷つけるでもなく、むしろ我らが大事な村から生えたものなのだから、村の一部同然だとばかりにやさしい目で木の肌を撫でたりしています。

 

  ───ここに根を下ろしたい

 

 旅を続ける森人は、いつだって腰を下ろす場所を探しています。

 自分が歩き、認め、ここならばと思う場所に根を下ろし、自然を活性化させ、自然とともに朽ちてゆく。それが森人の本懐というものでした。

 長い時を生きる森人は、そうして様々な自然や友や隣人の逝き様を見て、それを地に帰し、やがて自分もその大地へと帰るのです。

 

『ああ、ここだ。ここが、私が見届けたい場所なんだ』

 

 森人は、のんびりとした時の流れを生きる者です。

 けれども好奇心は旺盛なほうで、それが森人としての生き方に覆われているだけなのです。

 それが一度解き放たれてしまえば───ようするに“その地の()を見届けたい”と思ってしまうまで、覆っている我慢という名の自制心を好奇心が破壊するようなことがあれば───森人は、もはやなにをおいてでもその場にある時と己の時を同じくして見届けようと寄り添うのです。

 

(さあ、最初に自分の好奇心を、願いを記す場所はここだ。この大樹の下。私はこの場に至った感動を、想いを、喜びの全てを、記憶に深く鮮明に記そう)

 

 そして願わくば、これより始まるこの村での生活を、ここに居る隣人が受け入れてくださいますよう───

 森人は目立つ。人はその珍しさから、エルフである自分に目をつけることもある。そんなことがあっても、それが嫌な方向ではない目のつけ方ではないよう願おう。

 そう思い、彼は───その場を強く目に焼き付けるため、閉じていた目をスゥ……っと開き、

 

 

  ……どっぱーんと破裂する人間を見て、気絶したのでした。

 

 

 目を付けられる、なんてことを警戒していた彼ですが、まさか眼球が飛んできて頬を殴っていくとは思いもしなかったそうです。

 

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